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1.幽閉された王子
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「何故、ここに来た?
私は、幽閉された身だから、一人で大丈夫だ。」
エルベルト様が睨んでいる。
彼の担当の侍女のミレイア・サイツは、用意していた言い訳を、説明する。
「私は、エルベルト様担当から離れた途端に、貴族の男性達に、妻にとせがまれて大変なんです。
私、王子付きになるほど、血筋が良い割に、いらない後ろ盾もないから、面倒もないって、モテすぎて、仕事もやりにくいったらないんですから。
エルベルト様のそばにいた方が、変に男性に狙われなくて、働きやすいんです。
だから、こちらで、働かせてください。」
ここは、スネレン王国の王宮の外れにポツンとある今は使われていない離宮の一室で、エルベルト王子は、療養中の王の暗殺を企てたとの疑いがあるとここに、幽閉されていた。
もちろん、エルベルト王子がそのようなことをするはずもなく、何者かによって嵌められた結果である。
「だが、侍女などと、幽閉された身では、贅沢だ。」
「何言っているんですか?
エルベルト様は、暗殺の企てなどやっていないんですから、侍女の一人ぐらい別にいいじゃないですか。
それとも、やったんですか?」
「私は、暗殺計画など立てていない。」
「そうでしょう。
じゃあ、ここで、働くのは、決まりですね。」
「まあ、一人ぐらいなら、いいだろう。」
エルベルト王子は、掃除が行き届いてない、室内を見渡した。
実際、王子としては、優れているが、掃除などと言う家事に関しては、ほぼ無知で、困り果てていた。
何故今まで、どうやって家事をするのか、学ばなかったのかと、我ながら反省する。
知っていて、人に任せるのと、知らないで任せるのは、雲泥の差である。
「とりあえず、エルベルト様。
体が臭いので、湯浴みの準備をしますね。」
「ああ、わかった。」
ここに、幽閉されてから、少し経つが、エルベルト王子は、湯浴みも着替えもしていなかった。
湯は、どうやって用意したらいいのかわからないし、実際、誰も来ないこの部屋で、必要性も感じなかった。
ミレイアに言われて、今は使われていない浴室で、僅かな量の湯ながら、体を綺麗に洗い、どこからかミレイアの持って来た服に着替えると、エルベルト王子は生き返った気がする。
ここに来てからは、自分の体など、全く構うことなく、自分は何故、誰に嵌められて、何を見落としたからこうなったのかと、日夜問わず考えているばかりであった。
でも、どんなに考えても、理由など浮かばず、深い思考の渦に沈んでいた。
体を綺麗にして、部屋に戻ると、テーブルの上に質素ながら、温かいパンとスープ、サラダが並べられてある。
「座って食べてください。」
部屋の片付けをしていたミレイアは、そう告げると、寝室に向かい、ベッドを整え出した。
温かい食事など、いつぶりだろうか。
もちろん、ここに来て初めてだ。
これまでは、朝夕で、誰かが、部屋の前に置いて行ったものを、ただ食べていた。
冷たく固いパンのみの時もあり、食欲など湧くわけもなかったが、それすら、思考の渦の中にいると、気にならなかった。
今こうして、テーブルを前に座り、食事をして初めて、いかに自分がいつもお腹を空かせ、ふらふらになっていたか、思い至るのであった。
「ミレイアありがとう。
ミレイアがいないと、僕は何もできないようだ。」
「エルベルト様は、あなたしかできないことに、時間を費やして来たのです。
ですから、家事などは、周りの者達に任せればいいのです。」
「いやしかし、ミレイアができて、僕にできないことがあるのは、納得がいかない。」
「ふふ、エルベルト様は、相変わらず、負けず嫌いですね。」
「いや、僕はすでに、何かに負けている。
だからこそ、このような場所にいるんだ。
それが、何かすらわからない。
私は、ダメな王子だよ。」
「エルベルト様は、ダメな王子では、ありません。
今まで、王の代わりに、この国を栄えさせて来たではありませんか?
嫌疑がはれたら、戻れるはずですから、諦めないでください。」
「相変わらずなのはミレイアだよ。
幽閉されてもなお、私を動かそうとけしかけるんだな。」
「もちろんです。
エルベルト様、あなたは、この国に必要です。
そして、私は、どんな時もあなたを信じています。
それだけは、忘れないでください。」
そう言って、ミレイアは、僕に力をくれる。
「わかったよ。
でも、今は、嵌められた愚かな自分を、反省させてくれ。」
ミレイアは、そう言ってくれるが、実際僕を、幽閉しないようにと動いてくれる家臣は、誰もいなかった。
だからこそ、僕はここにいる。
押し黙り、思考を巡らすエルベルト様を、私は静かに見つめている。
彼がここに来てから、痩せ細り、顔の彫りも深くなっている。
でも、とりあえずエルベルト様は、私を追い出すことはやめたようで、ほっとしている。
エルベルト様、私は、何があっても、あなたの味方です。
だから、私をそばにおいて。
私は、あなたが二度と、この離宮から出れなくなったとしても、あなたを支えると誓います。
どんなに、時が経ったとしても、絶対に口にしないし、あなたを困らせるようなことはしないから。
私は、あなたを愛しています。
私は、幽閉された身だから、一人で大丈夫だ。」
エルベルト様が睨んでいる。
彼の担当の侍女のミレイア・サイツは、用意していた言い訳を、説明する。
「私は、エルベルト様担当から離れた途端に、貴族の男性達に、妻にとせがまれて大変なんです。
私、王子付きになるほど、血筋が良い割に、いらない後ろ盾もないから、面倒もないって、モテすぎて、仕事もやりにくいったらないんですから。
エルベルト様のそばにいた方が、変に男性に狙われなくて、働きやすいんです。
だから、こちらで、働かせてください。」
ここは、スネレン王国の王宮の外れにポツンとある今は使われていない離宮の一室で、エルベルト王子は、療養中の王の暗殺を企てたとの疑いがあるとここに、幽閉されていた。
もちろん、エルベルト王子がそのようなことをするはずもなく、何者かによって嵌められた結果である。
「だが、侍女などと、幽閉された身では、贅沢だ。」
「何言っているんですか?
エルベルト様は、暗殺の企てなどやっていないんですから、侍女の一人ぐらい別にいいじゃないですか。
それとも、やったんですか?」
「私は、暗殺計画など立てていない。」
「そうでしょう。
じゃあ、ここで、働くのは、決まりですね。」
「まあ、一人ぐらいなら、いいだろう。」
エルベルト王子は、掃除が行き届いてない、室内を見渡した。
実際、王子としては、優れているが、掃除などと言う家事に関しては、ほぼ無知で、困り果てていた。
何故今まで、どうやって家事をするのか、学ばなかったのかと、我ながら反省する。
知っていて、人に任せるのと、知らないで任せるのは、雲泥の差である。
「とりあえず、エルベルト様。
体が臭いので、湯浴みの準備をしますね。」
「ああ、わかった。」
ここに、幽閉されてから、少し経つが、エルベルト王子は、湯浴みも着替えもしていなかった。
湯は、どうやって用意したらいいのかわからないし、実際、誰も来ないこの部屋で、必要性も感じなかった。
ミレイアに言われて、今は使われていない浴室で、僅かな量の湯ながら、体を綺麗に洗い、どこからかミレイアの持って来た服に着替えると、エルベルト王子は生き返った気がする。
ここに来てからは、自分の体など、全く構うことなく、自分は何故、誰に嵌められて、何を見落としたからこうなったのかと、日夜問わず考えているばかりであった。
でも、どんなに考えても、理由など浮かばず、深い思考の渦に沈んでいた。
体を綺麗にして、部屋に戻ると、テーブルの上に質素ながら、温かいパンとスープ、サラダが並べられてある。
「座って食べてください。」
部屋の片付けをしていたミレイアは、そう告げると、寝室に向かい、ベッドを整え出した。
温かい食事など、いつぶりだろうか。
もちろん、ここに来て初めてだ。
これまでは、朝夕で、誰かが、部屋の前に置いて行ったものを、ただ食べていた。
冷たく固いパンのみの時もあり、食欲など湧くわけもなかったが、それすら、思考の渦の中にいると、気にならなかった。
今こうして、テーブルを前に座り、食事をして初めて、いかに自分がいつもお腹を空かせ、ふらふらになっていたか、思い至るのであった。
「ミレイアありがとう。
ミレイアがいないと、僕は何もできないようだ。」
「エルベルト様は、あなたしかできないことに、時間を費やして来たのです。
ですから、家事などは、周りの者達に任せればいいのです。」
「いやしかし、ミレイアができて、僕にできないことがあるのは、納得がいかない。」
「ふふ、エルベルト様は、相変わらず、負けず嫌いですね。」
「いや、僕はすでに、何かに負けている。
だからこそ、このような場所にいるんだ。
それが、何かすらわからない。
私は、ダメな王子だよ。」
「エルベルト様は、ダメな王子では、ありません。
今まで、王の代わりに、この国を栄えさせて来たではありませんか?
嫌疑がはれたら、戻れるはずですから、諦めないでください。」
「相変わらずなのはミレイアだよ。
幽閉されてもなお、私を動かそうとけしかけるんだな。」
「もちろんです。
エルベルト様、あなたは、この国に必要です。
そして、私は、どんな時もあなたを信じています。
それだけは、忘れないでください。」
そう言って、ミレイアは、僕に力をくれる。
「わかったよ。
でも、今は、嵌められた愚かな自分を、反省させてくれ。」
ミレイアは、そう言ってくれるが、実際僕を、幽閉しないようにと動いてくれる家臣は、誰もいなかった。
だからこそ、僕はここにいる。
押し黙り、思考を巡らすエルベルト様を、私は静かに見つめている。
彼がここに来てから、痩せ細り、顔の彫りも深くなっている。
でも、とりあえずエルベルト様は、私を追い出すことはやめたようで、ほっとしている。
エルベルト様、私は、何があっても、あなたの味方です。
だから、私をそばにおいて。
私は、あなたが二度と、この離宮から出れなくなったとしても、あなたを支えると誓います。
どんなに、時が経ったとしても、絶対に口にしないし、あなたを困らせるようなことはしないから。
私は、あなたを愛しています。
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