彼にも内緒の月の聖女様

月山 歩

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9.聖女様の正体

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 ニコラスが目を覚ますと、そこは教会の隣にある治療院のベッドの上だった。

 ベッドの横には、シアナが心配そうに付き添ってくれている。

「大丈夫?」

「ああ、なんとかな。」

「とても心配したわ。」

「ああ、ごめん。
 でも、シアナの方こそ顔色が悪いよ。
 大丈夫か?」

「まあ、お互い様ね。」

 そう言って、むしろ俺より顔が青白いシアナは、弱々しく微笑んだ。

「俺の仲間は?」

「あっちのベッドで休んでいるわ。」

「助かったのか?」

「ええ、ニコラス達のおかげよ。」

「良かった。
 ところで、シアナはどうして俺がここにいるって知っているんだ?」

 シアナは一瞬言い淀む。

「噂で聞いて、知ったの。」

「噂?」

「そうよ。
 今この街でニコラス達のことを知らない人はいないわ。」

「仲間を助けた英雄だって。」

「そうなんだ?

 もしかして、俺、聖女様の治癒魔法を受けたのか?」

「うん、そうみたい。」

「そうか。
 記憶が途切れ途切れだ。

 でも、それならもったいないことをしたな。
 聖女様はすごい美人だって噂なのに、全然覚えてないよ。」

「えー、何それ、嫉妬する。
 ニコラスのことを本気で心配して損した。
 だったら、私もう帰る。」

 怒って頬を膨らませるシアナは、少しだけ顔色を取り戻す。

「ごめん、ごめん、今のは嘘だから。
 許して。」

「もう、今回だけよ。」

「付き添ってくれてありがとう。
 俺はもう大丈夫だから、シアナは帰ってゆっくり休んで。」

「わかったわ。
 じゃあ、また来るね。」

「うん、ありがとう。」

 シアナはゆっくりと立ち上がり、ふらふらと帰って行った。

 シアナの後ろ姿を見ながら、ニコラスは確信を得る。

 シアナが聖女様だったんだな。
 最初は意識を失っていたから、わからなかった。

 でも、治癒魔法を受けているうちに、意識は混濁しながらも、少しずつ回復していき、瞳の色も髪の色も違ったけれど、俺にはわかる。
 聖女様がシアナだと。

 何故、シアナが聖女様なのかもわからないし、シアナに内緒にされていたことも納得している訳じゃない。

 だけど、これでシアナのすべての辻褄が合った。

 何故、若いシアナがこんなにも疲れ易く、時々心配になるほど、顔色が悪い時があったのか。

 何故、最近、彼女との距離は縮まったと感じるのに、夜、俺の家に泊まることを頑なに拒むのか。

 今日、特に具合が悪そうなのは、瀕死の俺達を明け方まで、治癒魔法を使って治していたからだ。

 アークは命が危険な状態だったし、俺達だって、意識を失うほどに衰弱していた。

 それをシアナは、聖女の力で治したのだろう。

 俺は知らなかった。
 聖女の仕事がこんなにも過酷であり、シアナがそれから逃げることなく、たった一人で背負っていたなんて。

 もし、シアナが一言つらいと言ってくれたら、俺は全力で支えるのに。

 だけど、シアナはずっと一人で生きて来たから、元々人に頼ることが苦手なのだろう。

 でも、シアナ、いつか教えてやるよ。
 俺の本気を。
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