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11.目覚める
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シアナはたっぷり眠れた充実感と共に、ゆっくりと目を開けた。
周りは明るく、昼間のようだ。
ここは?
どうやら誰かの家のベッドの中にいるようだ。
教会ではないの?
見覚えのない部屋に、不思議に思いながら見回すと、ニコラスが気づいて、声をかける。
「おぅ、起きたか。」
「ニコラス。
私、どうしてここに?」
「もう三日前になるんだが、シアナがいた教会が火事に遭ってな。
それで、ここに俺が連れて来たんだ。」
「えっ、私。」
「ああ、教会に行ってただろ?」
「知ってたの?」
「ああ、シアナには薄々何かあると気づいていたんだが、仲間が怪我して、俺達三人に治癒魔法かけてくれた時があっただろ?
あの時、ぼんやりとしてたけど途切れ途切れに聖女様の顔が見えたからわかったんだ。
髪とか瞳の色が違っても、シアナだってすぐにわかったよ。」
「そうなんだ。
じゃあ、どうして私に言わなかったの?」
「本人が言いたくないのに無理矢理問い詰めても仕方がないだろ?
だから、そのままにしておいたんだ。
時期が来たら、シアナから話してくれるかもしれないし。
火事が起きた時、慌てて教会に行ったら、火の周りが早くて、聖女様を助けることができないと、神父様が言っていたんだ。
だけど、俺は聖女様がシアナだとわかっているから、教会で死にそうになっているのを、放っておくことができなかった。
シアナにとっては、聖女のことをまだ俺に隠していたいとか、色々思うところはあるだろうけど、それはまた別の話だ。
どんな姿であれ結局はシアナなんだから、俺は命がけで助ける。」
「ニコラス、内緒にしていてごめん。」
「謝らなくていい。
俺がしたくてしていることだから。
それに俺なりに一人で抱えこむシアナのことを理解しているつもりだから。
それにしても、ここに連れて来てからも、夜になると髪の色が変わって、不思議な感じだった。」
「私のこと嫌いにならない?」
「そんなわけないだろ。
シアナが倒れそうになるまで聖女として、治癒魔法を使って、人助けしているのはわかっているから。
そもそも、聖女様は俺達の命の恩人だし。
シアナ、本当はもっと早くに俺に頼ってよかったんだよ。
疲れ切っているシアナを、家で世話して、甘やかしてやりたいってずっと思ってたんだから。」
「ニコラス、…。」
私はその言葉を聞いて、目に涙を浮かべる。
「聖女であることを、誰にも知られたらいけないと言われていたし、私自身もニコラスに知られて二人の関係が壊れるのが怖くて、言えなかったの。」
その瞬間、私は涙を流しながら、ニコラスに抱きついた。
「本当はいつもニコラスにそばにいてほしかった。
聖女であることを、ずっと一人で抱え続けるのも不安で仕方なかったの。
体力的にも、精神的にも限界で、治癒魔法を人々のために頑張りたいと思っても、どうして私自身はこんなに不調になりながら、続ける必要があるんだろうって不意に思う時があって。
神父様以外、誰にも相談できないし、一人きりでどうしていいのかわからなかったから。」
「うん、大変だったな。
シアナが自分から言ってくるのを待たないで、そろそろ俺から、知っているって言うべきだったのかな。
もう心配はいらないよ。
俺はシアナのことが好きだから、聖女であるシアナだって、支える覚悟はもうとっくにできていたんだよ。
シアナは勇気を出して、俺に言うだけで良かったんだ。
俺はシアナがどうなったって支えるから、結婚して一緒に住もう。」
「ニコラス、大好き。
もっと早くニコラスを信じて、勇気を出して伝えれば良かった。」
私はニコラスのくれる安心感が嬉しくて、彼に抱かれたまま涙を浮かべる。
「うん、これからはいくらでも俺に頼っていいよ。
食事も作ってやるから、まずは、シアナはたくさん食べてもう少し元気になろうな。」
「うん。」
私は、今まで抱えていた不安から解放されて、ついに一番ほしかったものを手に入れた。
私をいつも見守って、助けてくれるそんな存在。
一人で生きて来た分、これからは共に支え合っていけるという安心感は何よりも欲しかったものだった。
この先ずっと孤独と戦いながら、生きるしかないと思っていた。
けれども、私を見つめるニコラスの目は温かい。
私はこの人を頼っていいのね。
もう一人で寂しい夜を過ごすのを恐れなくていいのね。
この温もりを感じたまま、いつまでもこうしていたい。
「ニコラス、好きよ。」
「俺の方が愛してる。」
「ふふ、負けないわ。」
それから、私達は二人きりで、ひっそりと教会で結婚した。
教会で命を失ったと思われていた私が、実は生きていたと知った時の、神父様達の喜びようは凄まじかった。
ニコラスの家で、すぐに目が覚めていたら良かったのだろうけど、結局は目覚めるのに、三日もかかってしまっていたから、もう私のことは諦めていたそうだ。
その後、聖女としての仕事は新しく造られた教会で、今まで通りに続けているけど、朝になるとニコラスが私を迎えに来る。
そして、私達は手を繋いで、二人の家に帰るのだ。
「今日の食事はなあに?」
「パンと肉を焼いたよ。」
「私の好きな塩バター?」
「うん、よくわかったね。」
「やったあ、早く食べたい。」
聖女でありながらも、ニコラスに守られ、彼の手料理を食べて、二人で穏やかに過ごす生活は、私の人生最大の喜びになった。
完
周りは明るく、昼間のようだ。
ここは?
どうやら誰かの家のベッドの中にいるようだ。
教会ではないの?
見覚えのない部屋に、不思議に思いながら見回すと、ニコラスが気づいて、声をかける。
「おぅ、起きたか。」
「ニコラス。
私、どうしてここに?」
「もう三日前になるんだが、シアナがいた教会が火事に遭ってな。
それで、ここに俺が連れて来たんだ。」
「えっ、私。」
「ああ、教会に行ってただろ?」
「知ってたの?」
「ああ、シアナには薄々何かあると気づいていたんだが、仲間が怪我して、俺達三人に治癒魔法かけてくれた時があっただろ?
あの時、ぼんやりとしてたけど途切れ途切れに聖女様の顔が見えたからわかったんだ。
髪とか瞳の色が違っても、シアナだってすぐにわかったよ。」
「そうなんだ。
じゃあ、どうして私に言わなかったの?」
「本人が言いたくないのに無理矢理問い詰めても仕方がないだろ?
だから、そのままにしておいたんだ。
時期が来たら、シアナから話してくれるかもしれないし。
火事が起きた時、慌てて教会に行ったら、火の周りが早くて、聖女様を助けることができないと、神父様が言っていたんだ。
だけど、俺は聖女様がシアナだとわかっているから、教会で死にそうになっているのを、放っておくことができなかった。
シアナにとっては、聖女のことをまだ俺に隠していたいとか、色々思うところはあるだろうけど、それはまた別の話だ。
どんな姿であれ結局はシアナなんだから、俺は命がけで助ける。」
「ニコラス、内緒にしていてごめん。」
「謝らなくていい。
俺がしたくてしていることだから。
それに俺なりに一人で抱えこむシアナのことを理解しているつもりだから。
それにしても、ここに連れて来てからも、夜になると髪の色が変わって、不思議な感じだった。」
「私のこと嫌いにならない?」
「そんなわけないだろ。
シアナが倒れそうになるまで聖女として、治癒魔法を使って、人助けしているのはわかっているから。
そもそも、聖女様は俺達の命の恩人だし。
シアナ、本当はもっと早くに俺に頼ってよかったんだよ。
疲れ切っているシアナを、家で世話して、甘やかしてやりたいってずっと思ってたんだから。」
「ニコラス、…。」
私はその言葉を聞いて、目に涙を浮かべる。
「聖女であることを、誰にも知られたらいけないと言われていたし、私自身もニコラスに知られて二人の関係が壊れるのが怖くて、言えなかったの。」
その瞬間、私は涙を流しながら、ニコラスに抱きついた。
「本当はいつもニコラスにそばにいてほしかった。
聖女であることを、ずっと一人で抱え続けるのも不安で仕方なかったの。
体力的にも、精神的にも限界で、治癒魔法を人々のために頑張りたいと思っても、どうして私自身はこんなに不調になりながら、続ける必要があるんだろうって不意に思う時があって。
神父様以外、誰にも相談できないし、一人きりでどうしていいのかわからなかったから。」
「うん、大変だったな。
シアナが自分から言ってくるのを待たないで、そろそろ俺から、知っているって言うべきだったのかな。
もう心配はいらないよ。
俺はシアナのことが好きだから、聖女であるシアナだって、支える覚悟はもうとっくにできていたんだよ。
シアナは勇気を出して、俺に言うだけで良かったんだ。
俺はシアナがどうなったって支えるから、結婚して一緒に住もう。」
「ニコラス、大好き。
もっと早くニコラスを信じて、勇気を出して伝えれば良かった。」
私はニコラスのくれる安心感が嬉しくて、彼に抱かれたまま涙を浮かべる。
「うん、これからはいくらでも俺に頼っていいよ。
食事も作ってやるから、まずは、シアナはたくさん食べてもう少し元気になろうな。」
「うん。」
私は、今まで抱えていた不安から解放されて、ついに一番ほしかったものを手に入れた。
私をいつも見守って、助けてくれるそんな存在。
一人で生きて来た分、これからは共に支え合っていけるという安心感は何よりも欲しかったものだった。
この先ずっと孤独と戦いながら、生きるしかないと思っていた。
けれども、私を見つめるニコラスの目は温かい。
私はこの人を頼っていいのね。
もう一人で寂しい夜を過ごすのを恐れなくていいのね。
この温もりを感じたまま、いつまでもこうしていたい。
「ニコラス、好きよ。」
「俺の方が愛してる。」
「ふふ、負けないわ。」
それから、私達は二人きりで、ひっそりと教会で結婚した。
教会で命を失ったと思われていた私が、実は生きていたと知った時の、神父様達の喜びようは凄まじかった。
ニコラスの家で、すぐに目が覚めていたら良かったのだろうけど、結局は目覚めるのに、三日もかかってしまっていたから、もう私のことは諦めていたそうだ。
その後、聖女としての仕事は新しく造られた教会で、今まで通りに続けているけど、朝になるとニコラスが私を迎えに来る。
そして、私達は手を繋いで、二人の家に帰るのだ。
「今日の食事はなあに?」
「パンと肉を焼いたよ。」
「私の好きな塩バター?」
「うん、よくわかったね。」
「やったあ、早く食べたい。」
聖女でありながらも、ニコラスに守られ、彼の手料理を食べて、二人で穏やかに過ごす生活は、私の人生最大の喜びになった。
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