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10.教会の火事
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体調はすっかり良くなり、ニコラス達討伐隊三人は、治療院を無事に退院した。
隊長の指示で、しばらく休養をとることになり、ニコラス達三人は、お互いの無事を祝って、食堂で食事をしている。
身体が回復したアークはすこぶる調子が良いらしく、ゴクゴクとエールを飲み干す。
「いや、二人共ありがとな。
今回はさすがにもう無理だと思ってたから、目覚めた時、ここは天国で、治療院のおばちゃんを天使様だと思ったよ。」
「はは。
俺なんて、神父様にお姫様抱っこされてた時に意識を取り戻したからな。
うっかり、恋に落ちる所だったぜ。
その点ニコラスは、目覚めて最初に見たのが、付き合っている彼女だろ?
羨ましい限りだぜ。」
「まぁな。
心の中では全力で彼女に抱きついていたよ。
体はすぐには動かなかったけれど。
それにしても、俺達、街中の噂になってたらしいな。
美談にされてるけど、実際の俺達はぼろぼろだったよな。
服も汚れてヨレヨレだし、汗臭いし、血だらけで倒れて、泥だらけ。」
「見られたもんじゃないよな。
それを聖女様が治して、体も綺麗にしてくれたそうで、何より彼女の姿を覚えてないのが悲しいよな。
絶世の美女って話なのに。」
「まぁな。」
三人は、お互いに讃え合い、さらにエールを飲み干す。
夜中、飲み明かし、夜明け頃に外からざわめきが聞こえた。
「どうしたんだ?」
食堂に入って来た男に尋ねる。
「昼間に聖女様に会いたいと教会にやって来て、夜しか治療ができないと知り、逆恨みした男が、教会に火を放ったらしい。
教会は今、すごい勢いで燃えているんだ。」
「聖女様は?」
「それがまだ、助け出されているところを見た者はいないらしい。
あの火の勢いなら、もう手遅れかもな。」
ニコラスは、一瞬で青ざめると、シアナが心配で二人を残して、駆け出した。
シアナは、まだ、教会にいるはずだ。
誰が何と言おうと、俺は君を諦めない。
必ず助け出すからな。
たどり着いた教会の前には、神父達が立っていて、心配そうに煙と共に勢いよく火が燃えるのを見て佇んでいる。
「聖女様は?」
「聖女様の部屋は奥だから、火の周りが早くて、我々も助けにいけませんでした。
彼女は深く眠っていて、火事に気付かず逃げ遅れたのでしょう。」
神父様は涙を浮かべて、言葉を搾り出す。
聖女様を助けたいのに、もはや教会に近づくことは誰にもできなかった。
ニコラスは迷わずバケツに入っている水を頭からかぶり、壊れた窓から、教会の中に飛び込んだ。
周りにいた神父達は慌てて、ニコラスを止めようとしたが、間に合わず、火に包まれた教会の中に消える彼を、見送るしかできない。
ニコラスは、燃える教会の中を、必死に奥の部屋に向かって突き進んで行く。
だが、奥へ行けば行くほど、煙も火の勢いも激しく、身体は焼けるように熱くてシアナのいる部屋がどこにあるのか全くわからない。
ニコラスは、煙にむせながら奥を目指すが、しだいに意識は朦朧として、足取りもおぼつかなくなり、膝をつき、しだいに悪い予感が頭をよぎる。
シアナ、君はこの建物のどこにいるんだ。
闇雲に進んでも、視界が狭まる一方だった。
もし、このまま生を終えるとしても、せめてシアナのそばまでは何としてでも行きたい。
その思いだけで、必死に意識を保つ。
ニコラスはふらふらになりながらも、歩みを止める気は全くなかった。
もし、最後にシアナと共にいれたなら、俺は自分の人生に悔いを残さず、生を終えることができるだろう。
俺には、教会の中にまだシアナがいるとわかっているのに、救出しようとせずに見守るなんて絶対にできない。
すると、一つだけ燃えていない部屋が煙の間から微かに見えて、ニコラスは、無理矢理ドアをこじ開け、中に飛び込む。
すると、ベッドの中で静かに寝息を立てながらシアナが眠っていた。
まるで、周りには結界が張ってあるかのように、シアナの周りだけ煙も火の手も温度上昇も無い。
ベッドで寝ているシアナを急いでかかえあげると、ニコラスは煙の隙間をぬって、家へ向かって走り出した。
シアナを抱えている内に、今まで煙で朦朧としていた頭が急にスッキリして、風に押されるように軽々と走ることができて、気づいた時ニコラスは、家の前にいた。
ニコラスは、そっと自分のベッドにシアナを寝かせて、シアナの眠る姿を見つめる。
改めてよく見ると、朝が近いためシアナは元の姿に戻っている。
そして、全く目を覚まさず、静かに寝息を立てている。
火事があったのに、起きないんだな。
シアナは一見慎重に見えるけれど、本当に危なっかしい。
俺がそばにいて、守ってやらないと。
それとは別に、ニコラスは聖女の加護を目の当たりにして驚いてもいた。
あのまま寝かせていたら、おそらく聖女の加護で、シアナの部屋だけは火事から守られたのだろう。
だけど、シアナが聖女だということは、街の人々に隠しきれなかっただろう。
建物の中で、あの部屋だけ火事から守られて無事だったのだから、あの部屋から出るシアナをみたら、そのことはすぐに知れ渡ってしまう。
シアナは聖女の加護を使っているせいか、その後一日たっても、中々目を覚まさないで、夜になると眠ったまま聖女の姿に変化していた。
目は閉じているためわからないが、髪の色が白金に変わり輝いている。
こうなることを、シアナは隠したくてニコラスの家に決して泊まろうとしなかったのは理解できる。
もし、これを何も知らずに目の当たりにしたら、誰しもが驚くに違いない。
今、知っている自分ですら、少し動揺してしまうぐらいだから。
ニコラスは不思議に思いながらも、美しいその髪をかわいいと思いながら、そっと撫でていた。
シアナ、目を覚ましたら、しっかりと話し合おう。
もう、二人に隠し事はいらない。
隊長の指示で、しばらく休養をとることになり、ニコラス達三人は、お互いの無事を祝って、食堂で食事をしている。
身体が回復したアークはすこぶる調子が良いらしく、ゴクゴクとエールを飲み干す。
「いや、二人共ありがとな。
今回はさすがにもう無理だと思ってたから、目覚めた時、ここは天国で、治療院のおばちゃんを天使様だと思ったよ。」
「はは。
俺なんて、神父様にお姫様抱っこされてた時に意識を取り戻したからな。
うっかり、恋に落ちる所だったぜ。
その点ニコラスは、目覚めて最初に見たのが、付き合っている彼女だろ?
羨ましい限りだぜ。」
「まぁな。
心の中では全力で彼女に抱きついていたよ。
体はすぐには動かなかったけれど。
それにしても、俺達、街中の噂になってたらしいな。
美談にされてるけど、実際の俺達はぼろぼろだったよな。
服も汚れてヨレヨレだし、汗臭いし、血だらけで倒れて、泥だらけ。」
「見られたもんじゃないよな。
それを聖女様が治して、体も綺麗にしてくれたそうで、何より彼女の姿を覚えてないのが悲しいよな。
絶世の美女って話なのに。」
「まぁな。」
三人は、お互いに讃え合い、さらにエールを飲み干す。
夜中、飲み明かし、夜明け頃に外からざわめきが聞こえた。
「どうしたんだ?」
食堂に入って来た男に尋ねる。
「昼間に聖女様に会いたいと教会にやって来て、夜しか治療ができないと知り、逆恨みした男が、教会に火を放ったらしい。
教会は今、すごい勢いで燃えているんだ。」
「聖女様は?」
「それがまだ、助け出されているところを見た者はいないらしい。
あの火の勢いなら、もう手遅れかもな。」
ニコラスは、一瞬で青ざめると、シアナが心配で二人を残して、駆け出した。
シアナは、まだ、教会にいるはずだ。
誰が何と言おうと、俺は君を諦めない。
必ず助け出すからな。
たどり着いた教会の前には、神父達が立っていて、心配そうに煙と共に勢いよく火が燃えるのを見て佇んでいる。
「聖女様は?」
「聖女様の部屋は奥だから、火の周りが早くて、我々も助けにいけませんでした。
彼女は深く眠っていて、火事に気付かず逃げ遅れたのでしょう。」
神父様は涙を浮かべて、言葉を搾り出す。
聖女様を助けたいのに、もはや教会に近づくことは誰にもできなかった。
ニコラスは迷わずバケツに入っている水を頭からかぶり、壊れた窓から、教会の中に飛び込んだ。
周りにいた神父達は慌てて、ニコラスを止めようとしたが、間に合わず、火に包まれた教会の中に消える彼を、見送るしかできない。
ニコラスは、燃える教会の中を、必死に奥の部屋に向かって突き進んで行く。
だが、奥へ行けば行くほど、煙も火の勢いも激しく、身体は焼けるように熱くてシアナのいる部屋がどこにあるのか全くわからない。
ニコラスは、煙にむせながら奥を目指すが、しだいに意識は朦朧として、足取りもおぼつかなくなり、膝をつき、しだいに悪い予感が頭をよぎる。
シアナ、君はこの建物のどこにいるんだ。
闇雲に進んでも、視界が狭まる一方だった。
もし、このまま生を終えるとしても、せめてシアナのそばまでは何としてでも行きたい。
その思いだけで、必死に意識を保つ。
ニコラスはふらふらになりながらも、歩みを止める気は全くなかった。
もし、最後にシアナと共にいれたなら、俺は自分の人生に悔いを残さず、生を終えることができるだろう。
俺には、教会の中にまだシアナがいるとわかっているのに、救出しようとせずに見守るなんて絶対にできない。
すると、一つだけ燃えていない部屋が煙の間から微かに見えて、ニコラスは、無理矢理ドアをこじ開け、中に飛び込む。
すると、ベッドの中で静かに寝息を立てながらシアナが眠っていた。
まるで、周りには結界が張ってあるかのように、シアナの周りだけ煙も火の手も温度上昇も無い。
ベッドで寝ているシアナを急いでかかえあげると、ニコラスは煙の隙間をぬって、家へ向かって走り出した。
シアナを抱えている内に、今まで煙で朦朧としていた頭が急にスッキリして、風に押されるように軽々と走ることができて、気づいた時ニコラスは、家の前にいた。
ニコラスは、そっと自分のベッドにシアナを寝かせて、シアナの眠る姿を見つめる。
改めてよく見ると、朝が近いためシアナは元の姿に戻っている。
そして、全く目を覚まさず、静かに寝息を立てている。
火事があったのに、起きないんだな。
シアナは一見慎重に見えるけれど、本当に危なっかしい。
俺がそばにいて、守ってやらないと。
それとは別に、ニコラスは聖女の加護を目の当たりにして驚いてもいた。
あのまま寝かせていたら、おそらく聖女の加護で、シアナの部屋だけは火事から守られたのだろう。
だけど、シアナが聖女だということは、街の人々に隠しきれなかっただろう。
建物の中で、あの部屋だけ火事から守られて無事だったのだから、あの部屋から出るシアナをみたら、そのことはすぐに知れ渡ってしまう。
シアナは聖女の加護を使っているせいか、その後一日たっても、中々目を覚まさないで、夜になると眠ったまま聖女の姿に変化していた。
目は閉じているためわからないが、髪の色が白金に変わり輝いている。
こうなることを、シアナは隠したくてニコラスの家に決して泊まろうとしなかったのは理解できる。
もし、これを何も知らずに目の当たりにしたら、誰しもが驚くに違いない。
今、知っている自分ですら、少し動揺してしまうぐらいだから。
ニコラスは不思議に思いながらも、美しいその髪をかわいいと思いながら、そっと撫でていた。
シアナ、目を覚ましたら、しっかりと話し合おう。
もう、二人に隠し事はいらない。
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