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10.一緒になる
しおりを挟む「ドリュー、あなたのおかげでお父様が帰って来たわ。
ありがとう。」
「僕だけの力ではないよ。
父上の力があったんだ。」
「それでも、クロードおじさまが動いてくれたのはドリューのためだから。」
ドリューは、セリーナの邸を訪れていた。
ケンブル侯爵を治療院に送った後、彼を父に託して、その足でセリーナの元に向かったのだ。
僕がケアリー王女とは何も起こらず潔白であることを、セリーナにわかってもらうことが何より先決だ。
だから、二人きりで話したいとセリーナの居室に来ている。
セリーナが、僕の潔白を納得してくれる様子を見るまでは、安心できない。
「王宮にいても、いつもセリーナのことばかり考えていたよ。」
「ありがとう。
ドリューがケアリー王女を始め、たくさんの美しい令嬢に囲まれていたら、そちらに気を取られるのではないかと、心配していたの。
だって、甘い言葉をケアリー王女にも囁いて、情報を得るために仲良くなろうとしたんでしょ?」
「確かに、嘘をついて近づいたのは、その通りだよ。
でも、それだけだよ。
彼女とは、手も握っていないし、抱き合ってもいないんだ。
テッドがそれを証明してくれるよ。」
「まぁ、そうなの?
やっぱりドリューの護衛として、テッドがついていたのね。」
「そうだよ。
だから、安心していいんだ。
それに、セリーナ以外の女性のことを僕が何とも思わないのは、君も見てきているから、信じてくれるよね。」
「そうなんだけれど、二人がこんなに離れていると感じたのは、初めてでさみしかったの。」
「セリーナ、僕は離れていても君だけがずっと好きだよ。」
ドリューがケアリー王女を訪ねていたのは、療養前にお別れを言うためと、情報操作されているため、二人の婚約に特に影響は無いはずだ。
ケンブル侯爵の疑いがはれて、ドリューとセリーナの婚約も元通りになり、二人にとってこの婚約が、当たり前ではなく、二人の思いが詰まったものであると、再認識したい。
「僕達は元通りということでいいよね。
僕は今回の出来事で、君と結婚できないかもしれないと思った瞬間、自分の中にどんなことでもできる力が湧いてくることに気づいたんだ。
これからも、何度でもこの婚約を守るために戦ってみせる。」
「ドリュー、あなたが急激に頼りがいのある強い男性に見えて、不安もあったけど、さらに好きになったわ。」
「セリーナ、嬉しい、口にキスしてもいい?」
「いいわよ。」
二人はこの時、初めてキスをした。
ドリューはセリーナを撫でたり、抱きしめたりしても、口へのキスだけは我慢してきたのだ。
初めてのキスとドリューの抱擁に、セリーナは嬉しくて泣き出した。
「どうしたの?」
「だって、私本当は、この前会った時、このままドリューがケアリー王女と結婚することになったら、私一人で生きていかないといけないと思っていたの。
だって、私もドリュー以外好きにならないから。
一人で生きていくとしても、信じていれば、ドリューは時々助けてくれるかもしれないって思いながら。」
「ごめんね。
セリーナにつらい思いをさせて。
でも、忘れないで、前にも言ったように僕の心がセリーナにあるのは何があっても変わらないよ。」
「ありがとう。
それでも、私が不安を抱えた時は、そのたびにドリューの気持ちを伝えてほしいの。」
「わかった。
セリーナを愛してる。」
それから一年後、成人を迎えたドリューとセリーナは、教会で結婚式を挙げた。
ドリューに優しく見つめられたセリーナは輝くような笑顔を浮かべ、その姿に周りの人々も心から幸せな気持ちになった。
そして、ドリューとセリーナがこの日結婚できたことは、二人にとってだけでなく、双方の親にとっても格別な喜びだった。
特にクロードは、式では平静を装っていたけれど、ドリューを通して、ケンブル家と繋がれたことを、心の中で祖父に報告していた。
お祖父様、僕達はやっとドリューを通して、愛する女性を手に入れることができました。
エバンス家の男は、愛するオーティス家の女性と結ばれたいと願っても結ばれず、今はケンブル家となり、ようやくここまで辿り着いたのです。
これまで、お祖父様と僕が努力して来たことは、無駄ではなかった。
懸念していた通り、ドリューの前にも大きな困難が立ち塞がりましたが、なんとか親子の力で乗り越えました。
僕達エバンス家の男の恋に、試練はつきものですね。
これからもどうか僕達を見守りください。
クロードの心は初めて凪を感じた。
さらに一年後、ドリューとセリーナの間に赤子が生まれたから、ケンブル侯爵家に来てほしいと知らせを受け、クロードは邸に訪れた。
赤子がもう少し大きくなるまで、シャノンの助けを借りて子育てするために、一時的にドリュー夫婦は、ケンブル侯爵家でお世話になっている。
子供部屋に入ると、ドリューしかおらず、赤子は彼が抱っこしていたが、しばらくするとセリーナに呼ばれて、クロードに赤子を手渡すと、その場を離れた。
部屋に一人赤子と共に残されたクロードは、産まれたばかりの孫を抱いているうちに、知らずに涙が溢れ、泣いていた。
可愛い女の子で、クロードの腕の中ですやすやと眠っている。
小さな手、柔らかな身体。
僕達の孫はこんなに可愛い。
なんて愛おしいのだろう。
僕が長年抱いていていた願いがやっと叶った。
ドリューが結婚できたことももちろん嬉しかったけれど、この子を抱くために、僕はずっと心に鎧を纏い、強さを身につけて、生きて来たとも言える。
僕はやっとお祖父様との約束の先にあるこの子を抱いている。
クロードが赤子に夢中になっていると、いつの間にかシャノンが来て、赤子の髪を触って微笑んだ。
「クロード、とっても可愛い女の子ね。
私達おじいちゃん、おばあちゃんになってしまったのね。」
「…。」
僕は泣き顔を見られたくなくて、慌てて顔を背ける。
「もうクロードったら、相変わらず泣き虫ね。」
…遅かった。
「うん。
僕の子とシャノンの子からできた孫なんだよ。
やっと二人は一緒になったんだ。
涙が出るほど嬉しいに決まってる。」
「ふふ、その言い方、昔のままね。
じゃあ、私達はあの頃のように、この子と一緒にたくさん遊んであげましょ?
かくれんぼする時は、私は足が悪いから、私が隠れる場所をクロードが探すのよ。
時間さえあれば、私だってまだまだできるんだから。」
そう言って笑うシャノンこそ、昔のままだ。
彼女は元々活発で、僕の前で姉のように振る舞っていた。
僕はまた、あの頃のように彼女と遊べるのか?
僕がずっと欲しかったものそのものだ。
「僕がシャノンの隠れる場所を探すのか。
以前とは逆だね。
もう身体が大きいから、隠れる場所もあんまりなくて、シャノンの隠れる場所を探しているうちに、僕は捕まってしまうんだろうね。」
「ふふ、そうかもね。」
「でも、きっと楽しいよ。」
「そうね、きっと楽しいわ。」
完
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