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6.目的
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「父上おかえりなさい。」
「ドリュー、まだ起きていたのか?」
夜遅くに帰って来た父は、疲れ切った顔をしていた。
「父上にお願いがあるんです。」
「ああ、ケンブル侯爵のことだろう?」
「そうです。
セリーナがとても心配していて。
これは彼女の家の問題ではなく、僕がセリーナと結婚できるかどうかに関わる大事な問題なのです。」
僕は父に何とか動いてもらおうと、熱く訴える。
「ドリューの気持ちはわかっている。
だが、明日、ゆっくり話さないか?
今日は疲れているし、すぐに解決できそうにないんだ。
頭が冴えている時にしっかりと話し合おう。」
「わかりました。
お疲れのところすみません。」
僕はとりあえず、明日相談することにした。
翌日、朝食を済ませた後、早速話し合うことになった。
「父上、お時間いただきありがとうございます。」
父の執務室のソファに座り、僕達は向かい合わせて座った。
「いや、ケンブル侯爵夫妻にも頼まれていることだからな。」
「そうなんですか?」
「ああ、昨日二人とそれぞれ会って来た。
結論から言うと、ケンブル侯爵は毒など盛っていないし、二人共誰かに恨まれる覚えがないそうだ。
だから、今のところ犯人の特定ができない。
やっていないことの証明はとても難しいんだ。
誰が何のためにケンブル侯爵を嵌めたのか。
そのことで、得をする人物は誰か。
毒は手に入れるのも、使うのも簡単ではない。
必ず、目的があるはずなんだ。」
「うーん、ケンブル侯爵の地位を羨んでいた人物でしょうか?
毒にすり替えることができる人は限られています。」
「ケンブル侯爵は仕事では、指図されるのが嫌であれば嫌われている可能性があるとも言っていた。」
「治療院の関係者の可能性が高いですね。
毒は誰しもが手に入れられないし、使い方だってわからない者がほとんどです。」
「すぐに治療院に手を回して、調べさせるよ。」
父上は指示を出しに、執務室を後にした。
僕はとりあえず、父が動いてくれていることを、セリーナに伝える手紙を書いて、使者に託す。
この件が解決しない限り、僕はセリーナと結婚できない。
でも、父上はさすがだ。
僕が頼む前に、すでに色々と動いていて、僕との違いを見せつけられた。
僕はセリーナと結婚したいと思っているけれど、彼女を守ると言う意味では何もできていない。
僕は次期公爵当主として、もっともっと努力しないといけないことを痛感した。
好きな子と結婚して守ると言うのは、ただ相手の子に好きとか言っているだけじゃダメなんだ。
しっかり男として、強くならないといけない。
僕は父に教わっている公爵家の執務をもっと熱を入れていこうと心に決めた。
あれから数十日経過しても、ドリューからの進展があるお手紙が届かない。
お母様はますます痩せてきているけれど、テッドに支えられながら、お父様のいる王宮に向かって祈りを捧げている。
私はじっと待っていられずに、ドリューの邸に向かう決心をした。
「テッド、私、ドリューの邸に行って来るわ。
全然進展がないもの。」
「かしこまりました。
セリーナお嬢様、僕もお供いたします。」
「お母様は?」
「落ち着いていらっしゃるので、一人でもしばらくは大丈夫でしょう。
動き出したい気持ちは、僕も同じです。」
私達はドリューの邸に向かい、クロードおじさまの執務室に通された。
そこには、クロードおじさまと以前とは異なるキリッとした表情のドリューがいた。
ドリューは、今までこんなにキリッとしていたことはない。
どちらかと言うと、甘い雰囲気だった。
何かあったのだろうか?
「クロードおじさま、ドリュー、突然押しかけてしまってすみません。
あれから、どうなったのか心配で来てしまいました。」
「いや、君が来てくれてちょうど良かった。
少し君にも話を聞きたい。」
クロードおじさまは、私とテッドにソファに座るように促した。
「ありがとうございます。」
「早速だが、僕達は治療院の関係者が怪しいと考え、調査を進めていた。
薬を作るのも毒を混入させるのも、専門的な知識や技術がいる。
けれども、結果的に怪しい者はいなかった。
だから、ケンブル侯爵側ではなく、被害にあったデボラ男爵令嬢側から、何かヒントを得られるのではないかと話し合っていたんだ。」
「セリーナ嬢はデボラ男爵令嬢を知っているかい?」
「お友達ではないの。
デボラ男爵令嬢はどうして王宮にいたのかしら?
お茶会があったのかしら?」
「あの日は、僕は王宮内にいたけど、お茶会は開いてなかった。」
「だとしたら、ますますどうしてデボラ男爵令嬢は王宮にいたんだ?」
「もしかして、行儀見習いとかは?」
「行儀見習い?」
「ええ、下位の令嬢は仕事や出会い目的のために、王族の身の回りの世話をするのよ。」
「なるほど、それで彼女は王宮にいたのか?」
「だとしたら誰についていたんだ?」
「令嬢がつくのは王妃かケアリー王女しかいないわ。」
「ケアリー王女か、僕は苦手なんです。
この前のお茶会で、セリーナがいる前で僕と結婚したいって言われて、あり得ないです。
セリーナがいるのに。」
「ドリュー、何故それを早く言わなかった?」
「えっ、父上、それが重要ですか?」
「ケンブル侯爵が罪に問われて得をする者が、やっと一人現れた。」
「えっ、ケアリー王女ですか?」
「そうだ。
最初からドリューは自分で言っていたじゃないか。
ケンブル侯爵が罪に問われたら、セリーナと婚約破棄しなければならないから、それは僕達の問題だと。
婚約破棄したら、ドリューの最有力婚約候補はケアリー王女になる。
ドリューと婚約したくて、彼女が毒を盛った可能性がある。」
「酷い。
そのために一生懸命に働くお父様を犯人に仕立て上げるなんて。」
「だが、それを証明する証拠がない。
ケアリー王女の周りに影を送るか。
だとしても、王宮内は警備が厳しいから、探らせるのは容易ではない。」
「お願いします、クロードおじさま。
私達のせいでお父様が酷い目に遭っているかもしれないなんて、つらいわ。」
「わかったよ、セリーナ嬢。
君達親子はみんな互いに大切な家族を心配し合っているんだね。
僕は君達の絆に当てられてばかりだよ。」
「ドリュー、まだ起きていたのか?」
夜遅くに帰って来た父は、疲れ切った顔をしていた。
「父上にお願いがあるんです。」
「ああ、ケンブル侯爵のことだろう?」
「そうです。
セリーナがとても心配していて。
これは彼女の家の問題ではなく、僕がセリーナと結婚できるかどうかに関わる大事な問題なのです。」
僕は父に何とか動いてもらおうと、熱く訴える。
「ドリューの気持ちはわかっている。
だが、明日、ゆっくり話さないか?
今日は疲れているし、すぐに解決できそうにないんだ。
頭が冴えている時にしっかりと話し合おう。」
「わかりました。
お疲れのところすみません。」
僕はとりあえず、明日相談することにした。
翌日、朝食を済ませた後、早速話し合うことになった。
「父上、お時間いただきありがとうございます。」
父の執務室のソファに座り、僕達は向かい合わせて座った。
「いや、ケンブル侯爵夫妻にも頼まれていることだからな。」
「そうなんですか?」
「ああ、昨日二人とそれぞれ会って来た。
結論から言うと、ケンブル侯爵は毒など盛っていないし、二人共誰かに恨まれる覚えがないそうだ。
だから、今のところ犯人の特定ができない。
やっていないことの証明はとても難しいんだ。
誰が何のためにケンブル侯爵を嵌めたのか。
そのことで、得をする人物は誰か。
毒は手に入れるのも、使うのも簡単ではない。
必ず、目的があるはずなんだ。」
「うーん、ケンブル侯爵の地位を羨んでいた人物でしょうか?
毒にすり替えることができる人は限られています。」
「ケンブル侯爵は仕事では、指図されるのが嫌であれば嫌われている可能性があるとも言っていた。」
「治療院の関係者の可能性が高いですね。
毒は誰しもが手に入れられないし、使い方だってわからない者がほとんどです。」
「すぐに治療院に手を回して、調べさせるよ。」
父上は指示を出しに、執務室を後にした。
僕はとりあえず、父が動いてくれていることを、セリーナに伝える手紙を書いて、使者に託す。
この件が解決しない限り、僕はセリーナと結婚できない。
でも、父上はさすがだ。
僕が頼む前に、すでに色々と動いていて、僕との違いを見せつけられた。
僕はセリーナと結婚したいと思っているけれど、彼女を守ると言う意味では何もできていない。
僕は次期公爵当主として、もっともっと努力しないといけないことを痛感した。
好きな子と結婚して守ると言うのは、ただ相手の子に好きとか言っているだけじゃダメなんだ。
しっかり男として、強くならないといけない。
僕は父に教わっている公爵家の執務をもっと熱を入れていこうと心に決めた。
あれから数十日経過しても、ドリューからの進展があるお手紙が届かない。
お母様はますます痩せてきているけれど、テッドに支えられながら、お父様のいる王宮に向かって祈りを捧げている。
私はじっと待っていられずに、ドリューの邸に向かう決心をした。
「テッド、私、ドリューの邸に行って来るわ。
全然進展がないもの。」
「かしこまりました。
セリーナお嬢様、僕もお供いたします。」
「お母様は?」
「落ち着いていらっしゃるので、一人でもしばらくは大丈夫でしょう。
動き出したい気持ちは、僕も同じです。」
私達はドリューの邸に向かい、クロードおじさまの執務室に通された。
そこには、クロードおじさまと以前とは異なるキリッとした表情のドリューがいた。
ドリューは、今までこんなにキリッとしていたことはない。
どちらかと言うと、甘い雰囲気だった。
何かあったのだろうか?
「クロードおじさま、ドリュー、突然押しかけてしまってすみません。
あれから、どうなったのか心配で来てしまいました。」
「いや、君が来てくれてちょうど良かった。
少し君にも話を聞きたい。」
クロードおじさまは、私とテッドにソファに座るように促した。
「ありがとうございます。」
「早速だが、僕達は治療院の関係者が怪しいと考え、調査を進めていた。
薬を作るのも毒を混入させるのも、専門的な知識や技術がいる。
けれども、結果的に怪しい者はいなかった。
だから、ケンブル侯爵側ではなく、被害にあったデボラ男爵令嬢側から、何かヒントを得られるのではないかと話し合っていたんだ。」
「セリーナ嬢はデボラ男爵令嬢を知っているかい?」
「お友達ではないの。
デボラ男爵令嬢はどうして王宮にいたのかしら?
お茶会があったのかしら?」
「あの日は、僕は王宮内にいたけど、お茶会は開いてなかった。」
「だとしたら、ますますどうしてデボラ男爵令嬢は王宮にいたんだ?」
「もしかして、行儀見習いとかは?」
「行儀見習い?」
「ええ、下位の令嬢は仕事や出会い目的のために、王族の身の回りの世話をするのよ。」
「なるほど、それで彼女は王宮にいたのか?」
「だとしたら誰についていたんだ?」
「令嬢がつくのは王妃かケアリー王女しかいないわ。」
「ケアリー王女か、僕は苦手なんです。
この前のお茶会で、セリーナがいる前で僕と結婚したいって言われて、あり得ないです。
セリーナがいるのに。」
「ドリュー、何故それを早く言わなかった?」
「えっ、父上、それが重要ですか?」
「ケンブル侯爵が罪に問われて得をする者が、やっと一人現れた。」
「えっ、ケアリー王女ですか?」
「そうだ。
最初からドリューは自分で言っていたじゃないか。
ケンブル侯爵が罪に問われたら、セリーナと婚約破棄しなければならないから、それは僕達の問題だと。
婚約破棄したら、ドリューの最有力婚約候補はケアリー王女になる。
ドリューと婚約したくて、彼女が毒を盛った可能性がある。」
「酷い。
そのために一生懸命に働くお父様を犯人に仕立て上げるなんて。」
「だが、それを証明する証拠がない。
ケアリー王女の周りに影を送るか。
だとしても、王宮内は警備が厳しいから、探らせるのは容易ではない。」
「お願いします、クロードおじさま。
私達のせいでお父様が酷い目に遭っているかもしれないなんて、つらいわ。」
「わかったよ、セリーナ嬢。
君達親子はみんな互いに大切な家族を心配し合っているんだね。
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