いつか彼女を手に入れる日まで〜after story〜

月山 歩

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4.疑惑

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 セリーナはドリューとのデートから戻り邸に着くと、玄関ホールで待っていたテッドに急かされるようにお母様の元へ向かった。

 今までそんなことは無かったので、テッドの後を慌てて追い、お母様の居室へと足を運んだ。

 室内に入ると、ソファに座っているお母様が涙を流しているのを見て驚く。

 お母様の顔色は真っ白で、やつれているように見える。

 朝、ドリューとのデートに向かう前に会った時は、笑顔で笑っていたのに。

「お母様どうしたの?」

 普段は明るく元気な彼女が、こんなにも泣いている姿を見るのは初めてだった。

 テッドがその周りをオロオロと動き回っている。

「カミーユが、カミーユが、王宮の牢に入れられたの。」

「えっ、お母様?
 どうしてそんなことに?」

 私は驚き、お母様の横に座り、抱きしめて、泣き止むのを静かに待つ。

 しばらくして、やっとお母様は話し始める。

「私にもよくわからないの。
 どうやら王宮で、デボラ男爵令嬢が頭が痛いからと、医師からもらった薬草を飲んだらしいの。

 そしたら、急に意識を失って、今も目を覚まさないそうで、その薬を調合したのがカミーユだから、彼が毒を盛ったと言われて王宮で大騒ぎになったそうなの。

 治療院で働いていたカミーユを、近衛兵達が連れて行ったと、助手の方が慌ててみえて教えてくれたわ。

 カミーユが調合していた薬草は、私も以前飲んだことがあるごく一般的な薬草よ。

 だから、カミーユが調合を間違えるとは思えない。

 もし、それに毒が混ざっていたとしたら、誰かがわざと混入したんだわ。

 カミーユが誰かの罠にはまったのかもしれない。

 私はどうしたら、いいの?」

 お母様は虚空を見つめ泣き続けるが、私にはどうしたら良いのかわからない。

「お母様、お父様は今どうしているのかしら?」

「多分、近衛兵からの尋問を受けているか、地下牢に連れて行かれるかしていると思うけれど、私には詳しくはわからないわ。

 可哀想なカミーユ。

 今まで沢山の患者達を助けてきたのに、今日だって、そのために働いていたのよ。

 それなのに、毒を盛っただなんて。
 酷すぎるわ。

 牢では、満足な暖炉も食べ物もないだろうから、きっとつらい思いをしているはずだわ。」

 私の質問は、より一層お母様を不安にさせたようで、お母様は一方的に話し続けると、とうとう意識を失ってしまった。

「テッド、どうしよう。
 お母様まで、倒れてしまったわ。」

「大丈夫です。
 脈はあるようですから。
 ひどくショックを受けて、耐えられなかったのでしょう。

 とりあえず、僕がシャノン様を寝室にお運びします。

 それから、セリーナお嬢様、エバンス公爵様に助けを求められたらいかがでしょうか?」

「クロードおじさまに?」

「はい、エバンス公爵様はこの王国では、かなり大きな権力をお持ちです。
 必ずシャノン様の力になってくれるはずです。」

「どうしてそう思うの?」

「エバンス公爵様にとって、シャノン様は大切な方だからです。」

「そう言えば、お母様が以前、クロードおじさまと幼馴染だったと言っているのをきいたわ。

 それなら、助けてくれるかも。

 とりあえずドリューに相談してみるわ。
 クロードおじさまは忙しいと聞いているし。」

「はい、僕からもくれぐれもよろしくお願いします。」

「ええ。」

 私はすぐにドリューにお手紙を書いて、助けを求めた。

 ドリューならきっと力になってくれるはずだと信じて。





 セリーナとのデートの後、ドリューが浮かれた気分のまま勉学に勤しんでいると、彼女から早速手紙が届いた。

 僕は嬉しくなり、すぐにそのピンク色の手紙を開ける。

 デートの後、セリーナからこうして手紙をもらうのは初めてだった。

 きっと「好き」だとか甘い言葉が書いてあるに違いないと、僕は楽しみに手紙を開いた。

 すると、セリーナにしては、滲んだ汚い殴り書きで、「お父様が毒を飲ませたと疑われて、近衛兵に連れて行かれたから助けて。」と言うものだった。

 浮かれていた気分は一瞬で冷め、それどころか、ただごとではない事態が起きたと一瞬にして気づいた。

 おそらく、セリーナはこの手紙を泣きながら慌てて書いたのだろう。

 それほどこの事態が深刻だと言うことだ。

 もし、ケンブル侯爵が本当に犯人と言うことになってしまったら、彼は罪人となり、処刑されるか牢に一生閉じ込められる可能性がある。

 もちろん貴族籍も剥奪され、そうなると僕とセリーナは婚約破棄せざるを得なくなる。

 考えるだけで、ドリューの心は重くなった。

 そんなことになれば、セリーナだけでなく、僕の幸せだって、永遠に失われてしまうじゃないか。

 僕は思わず青ざめた。

 急いで父上の執務室に行って父を探すが、執事によると、まだ王宮に出仕したままで、邸に戻っていないと言う。

 「くそっ、こんな時に…。」

 仕方なく、僕はセリーナに父上が戻り次第、この問題を相談することと、彼女を慰める手紙を書いて、すぐに使いの者に頼んで送らせた。

 僕は今までセリーナと結婚できないかもしれない未来など考えたこともなく、多少周りが干渉をして来ても、僕達は婚約しているから大丈夫だとたかを括っていた。

 それが今は、あっという間に人生最大のピンチを迎え、いかに僕達の婚約が遺言と言う力に守られていたかを知った。

 今はそれでさえも、僕達を守るとは言い切れなかった。
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