婚約破棄を、あなたのために

月山 歩

文字の大きさ
上 下
10 / 12

10.周りの評判

しおりを挟む
「エミリア様、新しいドレスがどんどん仕上がって来ています。

 最近ではオースティン様と仲が良ろしくて、皆もとっても喜んでますよ。」

 クローネは嬉しそうだ。
 今は私と侍女達で、邸の各部屋のクッションなどを縫っている。

「ええ、オースティン様の変化には本当に驚いたわ。」

「はい、でもこれで、この前のサネルマ様のようなオースティン様に近づこうとする方もいなくなるでしょうね。」

「そうね。
 確かに効果は抜群ね。」

 オースティン様の思惑通り、その後、恐ろしい勢いで、二人が仲が良いと言う噂が、領地中に駆け巡っている。

 それに、今までと違って、一緒にドレスを作ったり、夜会に参加した時のオースティン様は終始私を離さず、その宣言通りに動いている。

 あの時、オースティン様は最初から、こうしたかったと話していた。

 それは最初の婚約の頃から、こうしたかったと言う意味で、私は始めの婚約中を通しても、オースティン様の本音を初めて知った気がしていた。

 もし、最初の婚約で、今のオースティン様のようだったら、私はオースティン様が、他には好きな人はいないと言っていたことを信じただろう。

 だとしたら、オースティン様は本当に最初から私のことを大切に思ってくれていたことになる。

 私は噂を鵜呑みにして、すごい間違いをしてしまったのだろうか?

 以前、婚約していた時、オースティン様が舞踏会で私と離れると、テレーザさんと話したり、ダンスを踊っていたことは、本当だ。

 でも、それ以外の時は、愛し合う二人の噂は常にあったものの、オースティン様は私をむげにせずに、夜会でもエスコートしてくれていた。

 それを私は勝手に、私と契約結婚するために、二人でいる時は、私のことを好きなどと言って、オースティン様は取り繕っていると思っていた。

 これまでを振り返ると、私は今更、青ざめる思いだった。

 一回目の婚約の時、私はオースティン様にこれ以上、問い詰めたり、口論したりが嫌で、一方的に婚約破棄したことは確かなのだから。

 そして、オースティン様の言う通り一切の話し合いを拒んだ。

 間違いに気づいた私は、今のオースティン様のやり方を、受け入れることにした。

 こうしていれば、オースティン様は満足なのだろうし、私だってやっと本当に愛される実感が湧いて来て、オースティン様を信じれるようになって来た。

 クッションを縫う手は、オースティン様とのことを考えると、止まりがちだった。

「私、以前はオースティン様の言葉を信じられず、彼を拒否してしまったの。

 だから、彼は今、私に気持ちが伝わるように、行動で教えてくれようとしているんだわ。」

「そうでしたか。

 こちらに来てからしばらくは、私共もオースティン様のエミリア様に対するお気持ちはわかりませんでした。

 だから、エミリア様もそう思われて、当然です。

 私なんて、最初エミリア様を蔑ろにするオースティン様を睨んでしまいましたし。」

「ふふ、そんなこともあったわね。

 クローネにそう言われると、オースティン様の思いを勘違いしてしまうのは、私だけじゃないって安心できるわ。

 今ちょうど、起きてしまったことの大半は、私のせいかなぁと思っていたところだったから。」

「エミリア様は、間違っていませんよ。
 私がエミリア様の立場でも同じように思います。」

「ありがとう。
 私こちらに来て、クローネと出会えて、とても良かったって思っているのよ。」

「こちらこそ、ありがとうございます。

 オースティン様は以前の王と違って、ここを住みやすいいい街にしてくれましたし、エミリア様は貴族様とは思えないほど、私どもに良くしてくれますし、今、最大の問題だったお二人の仲も解決されて、お二人の結婚式を待つばかりなのが、嬉しくて仕方ありません。」

「ありがとう。
 私も今は結婚式が楽しみなの。」

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

【完結】私の婚約者はもう死んだので

miniko
恋愛
「私の事は死んだものと思ってくれ」 結婚式が約一ヵ月後に迫った、ある日の事。 そう書き置きを残して、幼い頃からの婚約者は私の前から姿を消した。 彼の弟の婚約者を連れて・・・・・・。 これは、身勝手な駆け落ちに振り回されて婚姻を結ばざるを得なかった男女が、すれ違いながらも心を繋いでいく物語。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしていません。本編より先に読む場合はご注意下さい。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

処理中です...