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1.婚約破棄
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エミリアは、舞踏会のホールで、婚約者であるオースティン・セリノと、テレーザが二人で仲が良さそうに、話しているのを見つけた。
友人達から離れ、オースティンとダンスをしようと探していたので、彼に声をかけようとするが、後ろからの令嬢達の話し声に、足が止まる。
「オースティン様とテレーザ様は悲劇のカップルなんですって。
エミリア様が侯爵令嬢だから権力を使って、愛し合う二人を引き裂いて、オースティン様と婚約したんですって。
この二人の間に割り込むなんて、普通はできないわ。」
「どうりで。
エミリア様より、テレーザ様といるオースティン様の方が表情が生き生きしてると思ったわ。」
令嬢達は私がここにいるとは知らずに、噂話をしている。
最近あちらこちらで、社交会の令嬢達がその噂を囁き合っているのは、私もとっくに知っている。
噂によると、私はいつの間にか、愛し合う二人を引き裂く、悪役令嬢になっているようだった。
婚約するまで、オースティン様とテレーザさんが愛し合っているなんて、私は知らなかった。
だから、お父様に誰と結婚したい?って聞かれた時に、以前より、ほのかな恋心を抱いているオースティン様を望んだ。
オースティン様はスラリと背が高く、輝く金髪と碧眼で、その容姿は女性なら、誰もが一度は憧れるタイプの男性である。
けれども、爵位は男爵で、明らかに彼にとって、私は逆玉の輿。
だから、喜んで結婚してくれると思っていた。
何故なら私には大きな領地がある。
幼い頃、子供達を集めたお茶会で、
「僕は将来、お父様の領地を立派に治めるのが夢なんだ。」
「君のところの領地は小さいから、治めるのも楽そうだね。」
「大きさじゃないやい。
どれだけ心を込めるかだって、お父様が言ってたもん。」
たまたま近くにいたオースティン様と少年達の会話を聞いた時、お家の領地を守ろうとする素敵な男の子だなと思った。
水色の瞳をキラキラさせて、夢を語っている。
私の周りには、将来のことを語る男の子がいなかったから。
それからは、オースティン様を見かけると、自然と話しかけるようになっていた。
オースティン様は、私が聞けばいつでも、夢見る将来のことを話してくれて、いつしか私は、彼のことを好きになっていた。
しかし、彼のお父様の領地はこの後、お父様が事業に失敗したことで奪われ、それを引き継いだ彼は名ばかりの男爵になっていた。
だから、思ったのだ。
オースティン様が、私と結婚して領地を治めてくれたら、我が侯爵家も栄えるし、オースティン様も領地が手に入ると。
私はオースティン様のことが好きだし、彼だって、子供の頃から、お話ししていたのだから、私のことを嫌いではないはずだと。
二人は支えあって、生きていけると。
オースティン様が、婚約を承諾してくれたと、お父様から聞いた時、嬉しくて、叫びたいくらいだった。
だが、その後流れた噂で、私はすべてが崩れていくようなショックを受けた。
それからと言うもの、私とオースティン様の二人の会話はぎこちない。
そして、私の邸の庭園で、お茶を飲みながら話す婚約中の二人の会話は、彼を責めるものになっていた。
「オースティン様、噂では、オースティン様はテレーザさんのことが好きだと、みなさんおっしゃっているけれど、本当かしら?」
「いや、そんなことはないよ。
僕はテレーザのことは友人だと思っているけど、好きなわけではない。
僕が好きなのは君だよ。」
「そう言ってくれるのは、嬉しいわ。
他に好きな方はいないと言ってくれていたからこそ、婚約したはずなのに、オースティン様のせいで、私は悪役令嬢と呼ばれているのよ。
とても、気分が悪いわ。」
「申し訳ない。
僕もテレーザのことは違うと、周りに言っているんだが。」
そう話し合い、一度は納得した。
なのに、再び舞踏会に行き、私が友人達と話すために、オースティン様のそばを離れると、彼とテレーザさんは、ダンスを踊っていた。
オースティン様は、こうして、私と一緒に舞踏会に来ているのに、どうして、私が少しでも離れると、テレーザさんとダンスをするの?
やっぱり、私にはテレーザさんとは、何もないと言うけれど、本当は彼女のことが好きなのね。
だって、見ている全員が、オースティン様はテレーザさんを好きだと思っているわ。
ダンスまで踊るなら、私もそう思うもの。
きっとこの状況で、オースティン様と結婚しても、彼は、テレーザさんのことを私に認めないまま、このように公然と浮気するつもりなのでしょう。
オースティン様は私とは契約結婚して、テレーザさんとは、結婚した後もこのまま交際を続ける。
それを、オースティン様は、狙っているかもしれないけれど、私は彼に恋心を持っているだけに、そんなの認められない。
私はそんな結婚の形は我慢できそうもない。
これ以上、彼を責めるよりは、綺麗に終わりたい。
だから、私達別れましょう。
そうして、私はお父様を通じて、一方的に婚約を破棄した。
どうして、私を好きになってくれないの?
と、問い詰めたくなる前に。
これで愛するもの同士、お幸せにね。
私はあなたを諦める。
これ以上、あなたのそばにいると、私は惨めになるから。
そう思って身を引いたつもりだったのに、その後、何故かオースティンは騎士となり、隣国との境を守る砦に旅立った。
そこは、生きて帰れない。
そんな噂の、激戦地だった。
友人達から離れ、オースティンとダンスをしようと探していたので、彼に声をかけようとするが、後ろからの令嬢達の話し声に、足が止まる。
「オースティン様とテレーザ様は悲劇のカップルなんですって。
エミリア様が侯爵令嬢だから権力を使って、愛し合う二人を引き裂いて、オースティン様と婚約したんですって。
この二人の間に割り込むなんて、普通はできないわ。」
「どうりで。
エミリア様より、テレーザ様といるオースティン様の方が表情が生き生きしてると思ったわ。」
令嬢達は私がここにいるとは知らずに、噂話をしている。
最近あちらこちらで、社交会の令嬢達がその噂を囁き合っているのは、私もとっくに知っている。
噂によると、私はいつの間にか、愛し合う二人を引き裂く、悪役令嬢になっているようだった。
婚約するまで、オースティン様とテレーザさんが愛し合っているなんて、私は知らなかった。
だから、お父様に誰と結婚したい?って聞かれた時に、以前より、ほのかな恋心を抱いているオースティン様を望んだ。
オースティン様はスラリと背が高く、輝く金髪と碧眼で、その容姿は女性なら、誰もが一度は憧れるタイプの男性である。
けれども、爵位は男爵で、明らかに彼にとって、私は逆玉の輿。
だから、喜んで結婚してくれると思っていた。
何故なら私には大きな領地がある。
幼い頃、子供達を集めたお茶会で、
「僕は将来、お父様の領地を立派に治めるのが夢なんだ。」
「君のところの領地は小さいから、治めるのも楽そうだね。」
「大きさじゃないやい。
どれだけ心を込めるかだって、お父様が言ってたもん。」
たまたま近くにいたオースティン様と少年達の会話を聞いた時、お家の領地を守ろうとする素敵な男の子だなと思った。
水色の瞳をキラキラさせて、夢を語っている。
私の周りには、将来のことを語る男の子がいなかったから。
それからは、オースティン様を見かけると、自然と話しかけるようになっていた。
オースティン様は、私が聞けばいつでも、夢見る将来のことを話してくれて、いつしか私は、彼のことを好きになっていた。
しかし、彼のお父様の領地はこの後、お父様が事業に失敗したことで奪われ、それを引き継いだ彼は名ばかりの男爵になっていた。
だから、思ったのだ。
オースティン様が、私と結婚して領地を治めてくれたら、我が侯爵家も栄えるし、オースティン様も領地が手に入ると。
私はオースティン様のことが好きだし、彼だって、子供の頃から、お話ししていたのだから、私のことを嫌いではないはずだと。
二人は支えあって、生きていけると。
オースティン様が、婚約を承諾してくれたと、お父様から聞いた時、嬉しくて、叫びたいくらいだった。
だが、その後流れた噂で、私はすべてが崩れていくようなショックを受けた。
それからと言うもの、私とオースティン様の二人の会話はぎこちない。
そして、私の邸の庭園で、お茶を飲みながら話す婚約中の二人の会話は、彼を責めるものになっていた。
「オースティン様、噂では、オースティン様はテレーザさんのことが好きだと、みなさんおっしゃっているけれど、本当かしら?」
「いや、そんなことはないよ。
僕はテレーザのことは友人だと思っているけど、好きなわけではない。
僕が好きなのは君だよ。」
「そう言ってくれるのは、嬉しいわ。
他に好きな方はいないと言ってくれていたからこそ、婚約したはずなのに、オースティン様のせいで、私は悪役令嬢と呼ばれているのよ。
とても、気分が悪いわ。」
「申し訳ない。
僕もテレーザのことは違うと、周りに言っているんだが。」
そう話し合い、一度は納得した。
なのに、再び舞踏会に行き、私が友人達と話すために、オースティン様のそばを離れると、彼とテレーザさんは、ダンスを踊っていた。
オースティン様は、こうして、私と一緒に舞踏会に来ているのに、どうして、私が少しでも離れると、テレーザさんとダンスをするの?
やっぱり、私にはテレーザさんとは、何もないと言うけれど、本当は彼女のことが好きなのね。
だって、見ている全員が、オースティン様はテレーザさんを好きだと思っているわ。
ダンスまで踊るなら、私もそう思うもの。
きっとこの状況で、オースティン様と結婚しても、彼は、テレーザさんのことを私に認めないまま、このように公然と浮気するつもりなのでしょう。
オースティン様は私とは契約結婚して、テレーザさんとは、結婚した後もこのまま交際を続ける。
それを、オースティン様は、狙っているかもしれないけれど、私は彼に恋心を持っているだけに、そんなの認められない。
私はそんな結婚の形は我慢できそうもない。
これ以上、彼を責めるよりは、綺麗に終わりたい。
だから、私達別れましょう。
そうして、私はお父様を通じて、一方的に婚約を破棄した。
どうして、私を好きになってくれないの?
と、問い詰めたくなる前に。
これで愛するもの同士、お幸せにね。
私はあなたを諦める。
これ以上、あなたのそばにいると、私は惨めになるから。
そう思って身を引いたつもりだったのに、その後、何故かオースティンは騎士となり、隣国との境を守る砦に旅立った。
そこは、生きて帰れない。
そんな噂の、激戦地だった。
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