クールな天才美少女への告白の仕方

ウイング神風

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クールな天才美少女への告白の仕方

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「好きです! 俺と付き合ってください」

 愛の告白が渡り廊下に響く春の日。
 頭を丸刈りにした野球部のエース、金森義弘が頭を下げてとある美少女に告白していた。
 美少女は黒いく艶々とした長髪。唇は瑞々しく、綺麗なピンク色。黒い双眸は綺麗な瞳。すんと高い鼻筋は欧州の人を連想させる。整った形した顔は美人と呼べる。肌は初雪を連想させる真っ白な肌色であり。出ているところはちゃんと出ていて、引っ込んでいるところはちゃんと引っ込んでいる素晴らしい体躯をしている少女。身長は僕の目先まである美少女。
 彼女の頭にはベレー帽が乗せていた。
花咲高等学校の一番美人と称されている彼女は天才画家。その名も布虹花《ぬの ななか》だ。虹花は美術部の部長にあたり、幾つの芸術コンクールの賞を受賞している実力の持ち主だ。
 そして虹花はこの僕、渡辺陸の片思いでもある。
 今日は絵のデッサン、部活活動するために高校にやって来たら、愛の告白と遭遇するなんて。思いもしなかった。
 そんな場面を目撃した僕は慌てて身を自動販売機の裏に潜んだ。
 相手はまだ僕の姿に気づいていない。
 その場面の行方を見守るように、息を殺しながら顔の半分だけ自販機の裏から出す。
 ちらっと、2人の姿が映る。
 虹花は告白を聞くと、何の反応もせずただただ手を顎に当てながら考え込む。
 一瞬の沈黙が走る。2人は動き気配するなかったのだ。
 まるで、誰か先に動いた方が負けみたいなゲームをしているようだ。
 そんな緊張感の中。僕はゴクンと唾を飲み込む。
 桜の花弁が僕の花に舞い落ちる、満開の桜の近くで告白するのは絵になる。かなりロマンチックのシーンだ。
 僕も、このような告白方法に憧れる。
 でも、ガリ勉にはロマンチックを思う脳は存在しない。
 僕にあるのは、数学と理科の問題解決するための脳だ。
考えていると、場面は急展開する。
 先行を取ったのは、虹花の方だった。
 虹花は口を開き、沈黙破る。 

「貴方……名前は?」
「か、金森義弘です」
「ごめんなさい。私、貴方のことよく知らないわ。付き合うことはできないわ。それに……私、気になっている異性がいるの」

 撃沈。
 義弘の愛の告白は砕けてしまった。でも、無理もない。
 なぜならば、虹花が撃沈の女王だ。幾度の男を撃沈した実績がある。
 僕の知っているかぎりではもう10人以上は撃沈した。その男子が投資家の息子、サッカー部の部長、生徒会副会長でも撃沈した。そして新たに実績を更新したのが、義弘、野球部のエースだ。
 ……ドンマイ。義弘。
 心の中で義弘のことを思うと、彼は、ぐさっと、膝を床に崩れ落ちると共に泣き崩れる。男の涙は男を強くすると聞いたことがある。
 明日の金森はきっと今日より強くなるのだろう。
 虹花はが励ましの一つもかけることはなく、クールに踵を返す。
 僕は胸を撫で下ろす。なぜならば、この告白が失敗したからだ。
 正直に言うと、僕は虹花に片思いをしている。
 きっかけは、クリスマスの日だ。
 おの花咲高等学校でクリスマスの日に小さなイベントを開催する。プチ学園祭のようんはもの。各部活、各クラスは出し物をする。
 学年成績一位だった僕は、朝から夕方までクラスの出し物の管理していた。やっと解放された時には、疲れ切って、ふ人気のない場所を目指す。
 旧校舎をふらついているところ運命の出会いをした。
 美術室の中、一人の少女が絵画を描いていた。
 黒い髪を風に揺らして、腕は力強く振るう。
 真剣にキャンバスの前に座り、筆を立てている虹花の姿は綺麗だ。あの日、僕は恋を知った。
 綺麗な顔と裏腹に、虹花の顔は色彩で汚れ、手も油絵で汚れていた。
 でも、僕の目には努力する少女は美しく見えた。
 真面目に青春をする虹花に憧れを持ったと思う。
 あの日から僕は虹花の虜になってしまった。
 冬休みを明けた瞬間僕は入部届を握りしめて、美術部に入部することを懇願する。
 それは、彼女と近づくため、美術部に入部したのだ。
 僕は絵を描けない。美術に触れたことがないこの僕が、美術に取り込んだ。腕を磨いている。立体のデッサンを訓練していた。
 そこで、美術の難しさに挫折しそうにもなる。
 まさか、立体描けるようになるのが、三ヶ月間もかかるなんて、自分は美術のセンスがない。
 はあ……

「ん?」
 
 僕は心の中でため息をした後に、一瞬だけ虹花止めがあった気がする。
 やばい、と思って顔を引引っ込む。
 間一髪、少女覗き見をしているとバレるところだった。
 そんな時に、僕はさっきの会話が脳裏に反映される。
 ……さっき、虹花は気になっている言葉を放った。
 それは、とある異性に興味があると。
 それって誰のことなのだろうか? 美術部は確か男性は僕しかいないはず? あるいは卒業してしまった先輩のことかな?

「そこで、何隠れているのかしら?」
「わ!?」

 僕は頭を捻っていると、突然虹花の声で現実に連れ戻される。
 びっくりした。
 まさか、虹花がここに来るとは思わなかった。
 どうやら、僕と虹花呑めが会ったことが不味かった、
 なら、もう隠す必要はない。
 ここは正直にはなさなればいかに。
 ぎゅうと右手で持っているスケッチブックに力を入れた。
 今日こそ、撃沈をして見せる。
 そして、俺はこの学校の頂点に立つのだ。
 つまり、成績によっては東大も行けなくはないのだ。
 そんな熱意を自分の中で燃やすと、僕の背後たちが人間の姿をして街中を歩く。
 さすがは、日本。素晴らしいデザインだ。


「ごめんなさい、布さん」
「私のことは虹花でいいわ。貴方と私の仲じゃない」
「じゃ、じゃあ。虹花さん」
「ええ。それで、さっきの質問に答えられるかしら?」
「質問?」
「何隠れているの?」

 虹花は腕を組み、首を傾げる。唇先は端を上げて、何か楽しそうにする。
 もしかして、僕が告白する場面を見ているのに気づいたのか?
 嘘が下手な僕にとって嘘をつくことは得策ではない。なので、僕は素直に答えることにする。

「こ、告白場面を覗き見していました」
「素直でよろしい。『下手くそ』くん」
「う……」

 僕は凹みながら、自分が手にしているスケッチブックをぎゅうと握る。
 そう。僕は『下手くそ』くんなのだ。
 僕が『下手くそ』くんと呼ばれには理由がある。それは、単に僕は絵が描けないからだ。つい先日、やっと球体をかけるようになっただけだ。
 とは言っても仕方がないだろ? 勉学しか能がない人にいきなり絵を描くなんて、世界が狂っているしか言いようがない。絵を描く世界にいたことがない。
 ついこの三ヶ月前に絵描きに触れたばかりだ。
 なんで、僕は恋に盲目になってしまったのだろうか?
 はあ、と心の中でため息を吐く。

「どれどれ、学園一位の実力を見せて頂戴」
「あ、はい。これです」

 僕は手にしているスケッチブックを虹花に渡す。
 少女はパラパラとページを捲って、僕のデッサン力を鑑賞する。
 何枚の絵は丸い球体しか描いていない。数枚の丸い球体を描く、僕だったのだ。

「まだ基礎がなっていないわ。球体はちゃんとなっているけど、陰はまだできていないわ。遠近法はまあまあね」
「う……ごめんなさい」
「謝らなくいいのよ。貴方が美学に興味を持っただけでいいわ」
「え?」

 僕は虹花の言葉に懸念をしていると、彼女の背後から何かが飛んでくる。
 サッカーボールだ。校庭で練習しているサッカー部のシュートミスでここまで飛んでくる。
 このままでは虹花に直撃してしまう!

「危ない!」
「え?」

 僕は自分の力一杯、彼女の方へと飛ぶ。サッカーボールが虹花にあたる直前に、飛び出した。結果、ボールは僕の顔面にクリーンヒットする。

「グフ!」

 どこかのロボット名前を口から漏らし、僕のは星空が見える。歪んだ星空がいくつもが視界に入る。
 どうやら、視界が完全にバクったのだ。
 聞いたことがある。ゴッホの視覚は一般人とは違って、全てのものに波のように見えると。
 もしかして、僕もゴッホの同じ視覚になってしまったのか?
 困惑と混乱していると、虹花の声が耳に届く。

「大丈夫?『下手くそ』くん」
「だ、大丈……」

 ぶ、と言う瞬間に僕の意識は消えた。
 プツン、とテレビの電源が切れたようなに全ての五感がシャットアウトした。何も見えない、聞こえない、感じない。
 やがて、僕の思考は闇の中に落ちた。

***********************************************************************************

「う……う」
 
 朦朧した意識を取り戻すと、僕は見慣れない白い天井が見えた。
 見慣れない白い蛍光灯と白い天井は、潔白感を感じさせた。冴えない頭で必死に考える。ここがどこだろうと。
 柔らかい感触が背中から感じる。
 どうやら、ベッドに横になっているらしい。
 なら、ここは保健室なのだろうか?
 僕の右手には温かさを感じる。目線を右手のところに向けると、とある手が僕の手を握っていた。

「起きた? 『下手くそ』くん」
「あ……?」

 虹花の声で僕は気づく。虹花が僕の右手をぎゅうと握っていることに。
 心配そうに覗き込んでいる彼女の顔は、今でも泣き崩れそうな表情を浮かべている。
 そこで、僕は冴えない思考で状況を理解し、目をぱっと開くと共に起き上がろうとする。
 でも、いきなり起きあがろうとするから、慣れていない頭は重く感じる。なんか、あべこべ感がする。どこが天井でどこか床が一瞬わからなかった。

「わわわ……」
「落ち着いて『下手くそ』くん。貴方は頭を打って気絶したのよ?」

 そこで、やっと思い出す。
 僕は虹花を庇って、ボールを顔面で受け止めて気絶した。
 なんだかすごくカッコ悪いな。顔面でボールを受け止めて、気絶するなんて。もっと、かっこよく受け止めることができたはずだ。
 でも、ガリ勉の僕にその方法しか思いつかない。
 彼女を守る方法にはそれしかなかった。
 僕は再び横になると、徐々に脳の回転が通常になっていく。
そして、僕は弱音を吐く。

「……虹花」
「どうしたの? 『下手くそ』くん」
「僕、虹花が告白されるのを見ていた」
「うん。知っているわ」
「そこで、僕は嫉妬したんだ。虹花が義弘くんと付き合うじゃないかと思って」

 僕は心の思いを虹花に告白する。
 普段な僕ならきっとこんな場面で告白なんてしない。
 でも、頭を打ったせいで心の中に収まることができず、その思いを吐き出したいのかもしれない。
 あるいは、義弘への嫉妬心から生じたかもしれない。
 どちらにせよ、僕はこれ以上自分の思いを隠したくないので、言葉に乗せて彼女に伝えたのだ。

「で、貴方は私にどう返事して欲しいの?」
「僕は、虹花のことが好きだ。僕と付き合って欲しい」

 言ってしまった。
 こんなロマンチックでもない場面で僕は心の思いを伝えてしまったのだ。
 でも、いつも冷たい彼女は首を横に振らず、ただただ優しい目付きで僕を眺める。
 そして、口を開く。

「貴方はどうして、私のことを好きになったのかしら?」
「……きっかけはクリスマスの日。学校の出し物です。僕は美術室で、虹花が絵を描く姿に惚れました」

 一目惚れだと、告白する。
 あの雪が舞い落ちる日。街が真っ白に染め上がるその日。僕は運命の出会いをした。
 その日のことを一度も忘れることもない。僕の魂に焼き付けたあの光景は神秘的だった。

「じゃあ、貴方に試験をしてもらうわ」
「試験ですか?」
「ええ。試験よ。それに合格したら、私は貴方と付き合ってあげるわ」

 妖艶の笑みを浮かべる虹花に僕はドキッとする。
 そして、後悔する。虹花に告白したことに……

***********************************************************************************

 僕たちは保健室から移動して、美術室にやってくる。
 今は春休みで誰も来ていない。旧校舎は僕たちの姿しか見当たらないのだ。校庭からはエイオーエイオーと、サッカー部の練習はまだ続いていた。
 窓の外には桜の花が舞い降りている、幻想郷のような景色が窓の外にあった。
 
「試験とは? なんですか?」
「焦らないの。せっかちはだめよ」

 僕は尋ねると、虹花はふふふと妖艶な笑みを浮かべる。
 そして、僕に鉛筆とスケッチブックを渡す。

「これから、貴方にとあるモノにデッサンをしてもらうわ。そのデッサンがうまくいったら、付き合ってもいいわ」
「本当ですか?」
「ええ。もし、うまく描けたらの話だけど?」

 虹花は首を傾けながら勝利の微笑みを浮かべる。
 まるで、僕はそのものに対してうまく描けないと確信しているようだ。
 下手くその俺に描けるのか?
 いや、できるできないの話じゃない。やるんだ!
 虹花と付き合うために、僕は全力にデッサンに取り掛かるんだ!

「じゃあ、一旦、後ろを向いて」
「あ、はい」

 俺は言われるがまま後ろを向く。
 衣擦れの音がする。ささ、っと俺の背中から小さく響く。
 もしかして、何かの包みからものを出しているのだろうか? 振り向きたい気持ちを抑えながら、俺は唾を飲み込む。
 数分が経過したところだった。

「振り向いていいわ」

 言われたまま、俺は振り向く。
 そして、俺は絶句する。
 なぜならば、俺の目の前には女神が立っていたのだ。綺麗な体躯。丸くて、水風船と思わせる乳房。初雪と思わせる白い肌と育ちがよく、綺麗な体躯はどこかの肖像を思い浮かばせてしまった。
 布虹花が裸体姿で椅子に座って、ポーズをとっていた。

「うわああああああ!?」
「どうしたの? 『下手くそ』くん」
「ふ、服を着てください!」

 俺は慌てて目を瞑り、後ろを向く。
 あんなの直視したら、俺の煩悩が目覚めてしまう。

「こっちを見なさい。渡辺陸」
「はひ」
 
 名前を指名されたため、俺は虹花に言われたまま彼女の方へと振り向く。
 虹花の綺麗な体躯が目に焼き付ける。あまりの綺麗な姿だったからだ僕は呼吸すら忘れる。
 まるで、美術館に飾っている彫刻のように美しかった。ここに美学の集結があった。

「私の裸体の姿をデッサンしなさい」
「え、ええ?」
「一人前の芸術家はこれくらいなんともないわよ? 私を上手く描けたら付き合ってあげてもいいわよ?」
 
 虹花は妖艶の笑みを浮かべなる。
 まるで、やりたくないなら、付き合わないわよ? と言っているようだった。
 どうやら、彼女は服を着る意思はないらしい。
 確かに彼女の言う通りだ。一流の芸術家はこんなものに恥じることはない。人間の体も立派な芸術作品だ。
 僕は観念し、椅子に座る。

「わかりました! 描きます! 描きますよ!」
「それこそ私が見込んだ男よ」

 ヤケクソの僕に対して、虹花はニタリと口角を上げる。
 その笑顔は反則だ。僕の心を知った上でそう言う笑顔を送ってくると、僕は断れない。
 集中して、煩悩を消す。椅子に鎮座した僕は鉛筆を立て、デッサンを描き始める。
 彼女の輪郭を始め、全体を描き出そうとする。

「ねえ、『下手くそ』くん」
「はひ?」
「どうして、私を好きになったのかしら?」

 笑みのまま尋ねてくると僕は本音を語らなくなってしまう。
 僕は自分が隠していた想いを彼女に吐露する。

「きっかけは、クリスマスの日です。旧校舎でふらふらしていたら、あなたが楽しそうに絵画を描いている姿を見て、一目惚れしました。それから、あなたに近づきたくてこの美術部に入部しました」
「絵も描けないのに、よくも度胸はあるわね」
「う……」

 確かにそう言われると反論の余地はない。
 今まで美術に興味がなかった。勉強一筋だったのだ。
 でも、あのクリスマスに出会った日は僕の運命の出会い。忘られないあの聖夜。少女が1人、手を汚しながら創作に打ち込む姿。どれだけ、自分が汚れようと、創作に打ち込む少女が美しかった。

「じゃあ、これから、私は独り言を言います。貴方は何も聞こえなかった」
「え?」

 僕は聞き返すと、虹花は足を組み直す。
 そして、独り言を語り始める。

「自信ではないけど、私、結構見る目があるの。入部した人が私目的なのか、部活目的なのか。大抵な男性は私目的、それもすぐに辞めてしまうわ。そこで、とある男子が入部してきた。一発でわかったわ。彼が私目的で入部したなんて。しかも、絵画のセンスが皆無。この無能はすぐに辞めてしまうと思っていたわ。しかし、この男子は違った。絵の才能はないのに、毎日毎日球体のデッサンに文句を言わずにしていた。球体をろくに描けないのに、飽きずに毎回毎回描いていた。そこで、私は気になって、彼のことを『下手くそ』くんとお呼ぶようにしたわ」

 ……それって僕のこと?
 僕は思わず声に出そうとする。けど、虹花は人差し指を自分の唇に当てる。
 どうやら、僕に喋る権限はない。大人しくデッサンをすることにした。

「彼、学年一位なのに。絵画のセンスがないなんて、カエル化だわ。おもしろおかしくって彼をいじりたくなるわ。まさか、ガリ勉が鉛筆を振るうなんて、滑稽だわ」

 う……確かに、僕には鉛筆で絵を描くなんて似合わない。鉛筆と言えば因数分解、微分積分するのか、僕の得意分野だ。
 こうしているのは、僕の得意分野ではない。

「でも、そんなところが好きよ」
「……え?」

 僕は紙から目線を離れて、彼女の方へと向ける。
 すると、虹花はふふふ、と妖艶な笑いをする。
 それが本気なのか、嘘なのか、僕にはわからない。
 彼女は僕のことを好きなのか? あるいはただの揶揄いなのか、判断することができなかった。
 落ち着け、相手は撃沈の女王だ。彼女は誰にも好きにならない。
 もちろん、僕にも好意を寄せていないはずだ。彼女が言う好きは単なる好奇心だけで、愛しているの好きではない。
 なので、僕は集中して虹花の裸体姿をデッサンする。
 時間がどれだけ経過したのかわからない。
 沈黙の中、僕は集中して描き上げる。
 やがて……

「出来た……」

 一枚の絵が出来上がった。
 これは僕の渾身の一枚のデッサンの絵だ。自慢作でもある。
 
「見せて頂戴」

 虹花はタオルで自分の周りを隠すと、僕の方に寄ってくる。
 僕は描いた作品を彼女に見せる。
 自慢作だ。さあ、これなら及第点を得られるのだろう! この三ヶ月間、僕は球体だけ描いたのではない。色んなものに手を出して描いている。家にある果物を描いたのだ。だから、今回の作品もよく描けた気がする。
 虹花は渋い顔をしながら、じっと僕が描いた絵を観察する。

「……………へのへのもへじじゃない」
「え?」

 開口の言葉は予想以上なものだった。
 それで終わるかと思いきや、虹花は険しい表情で次々と指摘する。 

「ここの輪郭、違うわ。ここの遠近法ができていない。ここの陰、顔の輪郭。乳房の形。本当に形を測って描いたの? これじゃあ落書きじゃない。はい。全部だめ。これでは、貴方と付き合うことはできないわ」

 ……全没だった。
 ううう。自慢作だったのに。
 かなり息込み、煩悩を消して描いたのに、まさか全部ダメなんて。これはかなりショックだ。立ち直れない。
 義弘の気持ちがわかった気がした。
 彼が抱いた失恋はこんな痛みがするんだ。
 胸が押し潰されそうな、この儚い気持ちが崩れる痛みは涙が出そうになる。
 僕は胸の痛みを感じ、膝を崩れ落ちている際に虹花は着替え終わる。
着替え終わった虹花は僕の横を素通りし扉の方へと行く。
 
「また、今度ね」
「え?」
「……今度、うまく私を描けたら、付き合ってあげるわ」

 それだけを言うと、虹花は廊下の方へと歩き出す。
 僕はそれを聞くと、虹花の後を追う。
 扉を出ると、彼女の背中にこう叫ぶ。

「僕、きっと上手くなるから! そのときはび僕と付き合ってください!」

 廊下に一人咆哮をする。
 しかし、虹花は振り向くことなく、前と進んでいく。やがて、その姿は廊下から消える。
 僕は一人だけ、美術室に取り残されたのだ。 
 ……次だ。次。
 僕は腕を磨いて、虹花の裸体姿をうまく描くんだ。遠近法の手法技術を取得し、綺麗な彼女を一枚の絵に収めるんだ。
 僕は、虹花と付き合うまではこの恋を諦めない。
 恋に盲目になっても、諦めることはない。
 僕の戦いは、これからだ!
 
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