上 下
2 / 6
第一章「勇者と異界の少女」

第一話「女子高生剣士」前

しおりを挟む



「で、魔王が現れて竜バイエを復活させたと?」

 ちょっと、いや...

 誰もが思う、かなり可笑しな格好のした女剣士がカウンター席に座り、皿を洗っている食堂の親父に色々聞きだしていた。

 ラオックル大陸から海をわたり数千キロ離れた場所にコリアン大陸という。
 その大陸の南に位置にして人間の国と言われているガルシア国の王都から十数キロ離れた小さな街の食堂、『ガバル食堂』店主の名前を店の名前にする程、自己顕示欲の強そうなお店だか出される料理は素朴で親しみやすい味だった。

 そして、ここの店主はどんな相手もきさくな対応が出来る人であった。

「ああ、そうさ嬢ちゃん」

 後ろに束ねてある藍黒の長い髪に黒い瞳、適度に日焼けした健康な肌、年は10代位であろうか? 食堂の親父から見てもその少女は幼い顔をしている。

「それで勇者は復活したバイエと魔王を退治に向ったんだと」

 食堂の主人ガバルは手を休めることなく洗った食器を拭きながら話を続けていく。

「あくまで噂なんだけどな、まぁ、魔王が表れて被害が出たとか王都からバイエの討伐依頼のはなしとか聞いたこともねぇ、どうせ、その『全盲の吟遊詩人』盛り話だよ。」

「全盲の吟遊詩人?」

「なんだ、知らねえのか?」

 ガバルは食器を洗い終え腰に巻いたエプロンで手をぬぐい本棚に向かい子供向けの童話の本を本棚に引き出し、少女の料理が並べられた左に置く。
 少女は、飲食を辞めて本の最初の頁を開くと丁寧に整えられた短い黒髪に両目を包帯に巻かれボロボロの白いロープを身を包み片手に弦のついた見慣れない楽器を左手で持ち、右手には、身長ほどの長い杖を携えてたってる男の挿し絵が載っていた。

「この絵の主が『全盲の吟遊詩人』様だぜ、バイエと勇者の戦いを近くで観てその姿を英雄譚として広めたっつう…」

 少女は、どこか見覚えのある挿し絵の人物にに思わず飲んでいた水を吹き出しそうになり咳き込む

「ブフォ!ゴホッゴホッ!」

「おいおい!大丈夫か嬢ちゃん?」

「う、うん、大丈夫、ありがとう」

 背中を擦ってもらい何とか気持ちを落ち着かせる。

「ふーん、全盲の癖に勇者の姿を見たんだーへー…。うん、盛り話に聴こえてもそれは、しょうがないね…。」

 まるで何かを悟った目で頁をパラパラとめくり棒読みのようなしゃべり方をする少女

「まぁ、娯楽としての噺なら子供向けにいいとは、思うな!」
「う…、うん、そうだね。」

 そんな少女の心情を知らずか豪快に笑う店主に少し苦笑いをし相槌をうつ。

「魔王が何処にいるかなんて聞いても、おっちゃんわかんないよね?」

「まぁ噂だからな、そんな事聞いてどうしようってんだい?」


 最後のソーセージを口に運び、皿の上の物を何も残らないよう、全てたいらげた。


「んー? ちょっと、魔王を捜ししにね」
「そのいるかどうかも分かんねぇ魔王見付けてどうすんだい」
「その『全盲の吟遊詩人』に魔王を退治してもらうつもり!」

少女はさっきまで座っていた椅子から離れ、伸びをして、スカートから食事代の勘定を取り出し、机の上に置いた。


「いろいろ聞けて楽しかったよ、ありがとね」


 そう言いながら店の扉に手に掛け、外へ出て行った。


「はは…、魔王捜しねぇ…」


 隣町にお買い物でもいくかのような口調で言った少女に、食堂の主人も思わず笑った。



「全く、見た目どおりの変わった子だ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ツギハギの家族

夜霞
ファンタジー
母親に「捨てられた」者がいた。 仲間に「捨てられた」者がいた。 そして、国に「捨てられた」者がいた。 バラバラだった「3人」が、家族という「ひとり」になった。 そんなお話ーー。 ※他サイトに掲載しています ※表紙はぱくたそ様よりお借りしています

当然のチート能力でS級の美少女達と堅実なスローライフを送ります~俺に噛みつく勇者さんは落ちぶれていくようです

たこやき
ファンタジー
役に立たない会社員として振る舞っている男、角倉滝。 ブラック企業勤めなため、いくら働いても給料があがらないため貯金もない。 そんな折、目の前に女学生が男に背中を刺されようとする事件を目の当たりにする。 長滝は普通に女学生を助けたが、 油断していた所を男に刺されてしまい、意識を失いかけてしまう。 俺の人生は歯車が噛み合えばもっと上手くいっただろうにと、 嘆いた次の瞬間、世界が暗転し異世界に飛び立った。 二度目の人生は今度こそ上手くやろう、そうスローライフで! ※カクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました

璃音
ファンタジー
 主人公の音無 優はごく普通の高校生だった。ある日を境に優の人生が大きく変わることになる。なんと、優たちのクラスが異世界召喚されたのだ。だが、何故か優だけか違う場所にいた。その場所はなんと神界だった。優は神界で少しの間修行をすることに決めその後にクラスのみんなと合流することにした。 果たして優は地球ではない世界でどのように生きていくのか!?  これは、主人公の優が人間を辞め召喚された世界で出会う人達と問題を解決しつつ自由気ままに生活して行くお話。  

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

選ばれたのはケモナーでした

竹端景
ファンタジー
 魔法やスキルが当たり前に使われる世界。その世界でも異質な才能は神と同格であった。  この世で一番目にするものはなんだろうか?文字?人?動物?いや、それらを構成している『円』と『線』に気づいている人はどのくらいいるだろうか。  円と線の神から、彼が管理する星へと転生することになった一つの魂。記憶はないが、知識と、神に匹敵する一つの号を掲げて、世界を一つの言葉に染め上げる。 『みんなまとめてフルモッフ』 これは、ケモナーな神(見た目棒人間)と知識とかなり天然な少年の物語。  神と同格なケモナーが色んな人と仲良く、やりたいことをやっていくお話。 ※ほぼ毎日、更新しています。ちらりとのぞいてみてください。

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

動物大好きな子が動物と遊んでいたらいつの間にか最強に!!!!

常光 なる
ファンタジー
これは生き物大好きの一ノ瀬夜月(いちのせ ないと)が有名なVRMMOゲーム Shine stay Onlineというゲームで 色々な生き物と触れて和気あいあいとする ほのぼの系ストーリー のはずが夜月はいつの間にか有名なプレーヤーになっていく…………

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...