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終章 復讐の果て

第37話 証文

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 帝国劇場その歴史は古く、ガレオンでも最大級の大きさを誇り、その収容人数も500人を超える。

 私は侍従の格好をし、劇場に向かう。
 劇場の象徴でもある石灰岩でできた白い大きな柱が4本劇場の正面にそびえている。

 その柱を通って中に入ると、チケットのもぎりをしている従業員がいる、私は侍従の恰好をしているためだろうか、そのまま中に通される。

 劇場内は以前に来た時と変わらず、出入り口に赤い絨毯が敷かれ、その奥に観音開きの木製で金の装飾がされた重厚な扉がある。
 今は扉は開放されており、出入りは自由になっている。

 私は劇場の中に入る。
 舞台は一番奥にあり、1階の客席より一段と高い場所にある。
 客席は階段のように配置されており、2階の客席の真ん中が貴賓席になっている。

 私は2階の一番後ろに立ち全体が見渡せる位置に陣取る。

 舞台はまだ暗赤色の重厚な幕が下ろされており、観客たちはおしゃべりをしたりと幕が上がるまでのひと時を楽しんでいる。

 客席のほとんどが埋まったころ、劇場内の空気が変わる、騎士たちを先頭に皇帝陛下と、ソルフィン国王が劇場に到着され、貴賓席に着かれる。
 それを観客たちはたちが上がり、拍手をし歓迎し迎えている。
 皇帝陛下が席の前で手を挙げると、拍手はやみ陛下の着席に合わせ、みなが着席をし、ざわざわと騒がしくなる。


 幕の前にナレーターの女性が立つと、客席は一気に静寂に包まれる。
 開幕の口上を述べ始める。
「ザナビル王宮…」
 そうして幕が上がる。
 役者たちがそれぞれの役に扮し、舞台の上を所狭しと動きまわっている。

 この劇はフロイトの謀反から国を取り戻すまでのソルフィン王の復讐劇である。

 ーー決闘裁判やフロイトを倒したのはすべてソルフィン王とされ、私は存在していないことになっている、まあ脚色というやつで、別に文句をいうつもりなどはさらさらないのだが…。

 後ろから客席の動きを注意してみる、いまのところ気にかかるようなものはいない…

 舞台は中盤の山場である円卓裁判に移る。

 ソルフィン王が玉座に座り、王であると宣言をしたところで、いったん幕が下ろされ休憩となる。
 この劇は全部で3時間の長丁場であるため、途中で休憩をはさむことがよくある。

 ソルフィン王は若干苦笑いというか、照れ笑いというか微妙な表情で観劇をされている。
 まあ自分が主役の物語を、自分でみるというのはどういう感覚なのだろう?
 やはり照れ臭いものなのだろうか…
 まあ私は一切でていないので気にすることはないのだが…

 休憩が終わり、幕の前にナレーターの女性が立つ

 客席のほうを見ると、1階に気になる人物が座っている。
 確か休憩前にはいなかったはず…
 その後ろ姿は、あの蜃気楼の老人に酷似している。

 近くにいって確かめるべきか、今朝の市場のようにただの勘違いか…
 奴は一瞬だけこちらを振り返った。

 間違いない!奴だ!あの蜃気楼の老人だ。

 しかし舞台の幕は上がっている、今目立つことはできない、とりあえず1階に行き奴の動きを近くで監視しよう。
 私は老人の動きに注意をしながら、1階部分に移動する。

 舞台ではフロイトの反乱が始まっており、兵士役のものたちが右へ左へと動きまわっている、その迫力で観客たちは息をのみ舞台に集中している。

 老人も特に動きはなく、舞台に集中をしている。
 グレンさんが犠牲になり、ソルフィン王がポルトへ亡命をするシーンが流れる。

 ここからは決闘裁判、フロイトとの最終決着までノンストップで流れもっとも舞台が盛り上がりをみせるところだ。

 舞台では決闘裁判まえのヨルドとの修行が始まろうとしてる、その時に老人は立ち上がり動き出した、私は後を追う。
 老人は杖をついては一旦、外にでて、トイレに向かっているよう。
 私もそのまま、後を追い胸に仕込んだナイフに手をかけ、トイレの扉を開く。

 やられた、目を放したつもりはなかったそれなのに老人は私の目の前から消えている、もちろんトイレには出入りできるような窓など存在していない。

 ーーどこだ!
 焦る気持ちで振り返ると目の前に見失った老人が立っている。
 老人はニヤリと嫌な笑顔を浮かべ
「ほほほ、探し物はわしかのトイレに来たというような感じではないの」
「お前の計画を止めにきた、お前にはすべて洗いざらい話してもらう」
「わしを止める?ほほほ」
「ああ、止めて見せる」
「ここじゃ目立つからの外へでも行くか」
「ああ」
 私と老人は劇場の外へ出る。
 あたりはすっかりと夜のとばりがおり、劇場の明かりがまぶしい。

 私は老人の案内に従う。
 たどりつたところは、街灯はあるものの、人通りがなくさびしい感じを受ける路地裏。
「ほほほ、ここまでくればみつからんか」
 そういって老人はさっと飛び上がり、クナイを私に投げつけてくる。
 私は手に持ったナイフでそのクナイをはじく。

「さすがやりおるわ、これならどうじゃ」
 老人の杖から東方のカタナという剣がでてきて、片方にのみ刃のついた剣で斬りかかってくる。
 私はそれもナイフで受け止め、老人の体に蹴りを入れる。

 その蹴りに手ごたえはなく、空を切ったことが分かる。
 空中に舞い上がった老人は空からまたクナイを扇状に投げてくる。

 そのクナイは鼻先をかすめる。

「なかなかやりおるのぉおぬし」
「俺は千年に一人の逸材と言われた男だ」
「ほほほ、じゃあわしは二千年に一人の逸材じゃな」
 老人はそういって杖のカタナでまた斬りかかってくる。

 それをよけると今度は手首を切り返し、そのまま横に薙いでくる。
 それをナイフで受け止める。

 この老人を生きて捕らえるのは無理か…


 私はナイフを捨て、その場に落ちてある木の棒をひろう。
「おやおや、降参ですか?」
「いや、お前に勝つ秘策だ」
「秘策ですか…」

 棒を水平に構え目を閉じ集中をする。
 そしていつもと同じ様に、相手の動きが手に取るようにわかり始める。

 老人は懐に左手を入れ、何かを取り出し投げつけてくる。
「これならどうじゃ!!」
 そのまま飛び上がり、刀で切り付けてくる。
 周囲に爆音と閃光が広がる
 老人が投げたものは東方に伝わる火薬と呼ばれるもので、音と光を発する、並の剣士であればこの音に驚き動きが鈍る。

 しかし今の私は集中力を極限まで高めている状態そのようなもので誤魔化すことはできない。
 刀が右の頬をかすめていく、私はそのまま棒を振りぬく。

 捉えた、手ごたえがあった。

 目を開くと老人が腹を抑え、悶絶している。
「はぁはぁ、まさかここまでとはおぬしの勝ちじゃ…」
「命が惜しければ、知っていることを話してもらおう」
「わかった、わかった、命だけは助けてくれ」

 私は老人の体を縛りあげ話を聞く。
「あの男…エイル・ノーベルから仕事の依頼を受けたのは半年前のことじゃ…」
「やはりエイルが…」
「ザナビルの王様が来るから暗殺を頼むと」
「ああ、その証拠はあるのか」
「もちろん、証文がある、我々暗殺稼業というものは依頼人は信用しておらんのでな、前金と後金、後金をもらうときにその証文と引き換えになっておる」

 その証文が手に入れば、あいつを絶望の淵に追い詰めることができる!!

「その証文はいったいどこに?」
「わしの知っておる場所じゃ、わしが死ねばその証文は自動的に皇帝陛下のもとに送られるようになっておる」
「なぜ、皇帝陛下に?」
「この計画が露見したら一番まずいのは皇帝陛下じゃろ?」
「確かに…」
「おまえさんエイル・ノーベルに恨みでもあるのか?」
「ああ、だからその証文が必要だ」
「わかった、じゃあわしの命とその証文が引き換えじゃ」
「その場所に一緒にいくということか」
「そうじゃ」

 しかし、この老人ぺらぺらとよく秘密を話すな…所詮は金で雇われた暗殺者ということか…

 私はこの老人と一緒にその場所に向かう。
 普通の一軒屋の屋根裏に上がる、そこには籠がおいてあり中には足に手紙をつけた伝書バトがいる。
「ここじゃここ、ここには鳩のえさが3日分置いてある、えさが空になれば、この籠がひらき鳩がその証文を届けるという寸法じゃな」
「じいさんがエサをやれなくなると、籠開くということか」
「そうじゃ、さあこれが証文じゃ」
「本物か?」
「もちろん、確認してくれ」
 私は鳩の足についた証文を外し、中身を確認する。

 ーーソルフィン王の暗殺を依頼する。エイル・ノーベル
 エイルの字でそう書かれており、血判まで押されている。

つ、ついに手に入ったエイルを追い詰め絶望の淵に落とすものが!

「どうじゃ、本物じゃろ?」
「じいさん感謝する」
「じゃったらわしを開放してくれ」
「ああ」
 私は部屋の隅にナイフを投げ、その場を後にした。

 後はこの証文をエイルに叩きつける、最終決戦だ。
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