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トップを狙え! PVP始めました

第6話 キング対ショーグン

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 エウロペア防衛軍の連中と出会った翌日。その日は何故か闘技場デビューする気になれず、少し悶々としていた。

 ピロピロとTELが鳴り、ヘパイスよりTELと表示されている。

 なんだろう? なんか用事でもあるのかな?

 通話をタップする。

「よーエイジ! 俺の作った武器の調子はどうだ? 」
「うん。問題ないよ」

「ところで、エイジ最近ムカデ団によく出入りしてるみたいだけど」
「うん。なんで知ってんの? 」
「ムカデ団のアジトの近くでよく見かけたから」
「あー」

「ところでさ、ムカデ団のトゥエルブサーティーンって知り合い?」
「うん。知り合いだよ。それがどうしたの?」

「闘技場のランカーだからさ。武器を作ってあげようと思ったんだけど、いつもいないからなんでかなーと思ってさ」

「彼はうどん県民だから1時間しかゲームできないからね。タイミングあったら教えてあげるよ」
「あーそうなの? いやいいよ。自分で連絡とるから」
 そう言ってヘパイスはTELを切った。

 営業活動ってやつか、金を稼ぐのも大変だな……

 その日はダンジョン攻略に少し手こずったということもあり、ムカデの洞窟にはいかずそのままログアウトをした。

 ――次の日

 ログインしてすぐにピロピロと電子音が鳴り、シゲゾーからTELが入る。

「すぐに闘技場に来い! キングとショーグンの直接対決だ!」
 と鼻息荒く興奮気味に話す。

「え? えええ!! ほんとに!?」
「ああ、ほんとだ! 早く来い! 」

 そのまま走って船着き場に向かい、アルカトラズ島行きの船に飛び乗る。

 島に着くと、受付でシゲゾーが待っている。
「まだ始まってない! 観客入り口で受け付けしてこい!」
 シゲゾーに言われるがまま観客入り口の前に立つと、現在試合中の一覧と表示される。

 その中からレート2072:トゥエルブサーティーンVSレート2370:ラッキー・イレブンと表示され準備中と書かれている。

 観客数も787人と表示されており群を抜いて多い。というか他の試合はほぼ0。

 それをタップすると観客席に転移をする。シゲゾーも一緒に転移したのか横にいる。ムカデ団のみんなの姿もちらほらと見える。

 円形になった戦いの場にはまだだれも立っていない。

 すると、円形の舞台の壁の両端が開き、その扉から金色の派手な鎧に大きな盾を持ったショーグンが現れる。

 ショーグンが右手を上げると地鳴りのような歓声があがる。

 反対の方の壁からは黒革の服の背中にムカデの意匠を施した装備を着たキングが現れる。

 するとブーーーー!!! と嵐のようなブーイング巻き起こる。

「俺達は嫌われ者のPK集団だからな……仕方ない……」
 シゲゾーは寂しそうに呟く。

 二人は向き合って対峙をする。するとフォーン!とホーンが鳴った。

 両手で剣を持ち、小気味よく足でリズムを取るキング。それと相対するように大きな盾をドンと構えるショーグン。

「ショーグンはパラディンだ。エイジもショーグンの動きは気をつけてみたほうがいい」
 コクリと頷く。
「そしてあれがキングのパラディン攻略だ」

 シゲゾーがそう言うと、一瞬で間合いを詰めたキングが一気に斬りつけ、そのまま連続で斬り続ける。

 ショーグンはそれをカンカンと盾で受け、右手にもった細身の剣でキングに斬りつける。
 キングもそれを予測していたかのように平然とその攻撃をかわす。

 シゲゾーはそれを見て息を漏らす。
「ふーっ! 流石ショーグン一筋縄ではいかんな。大抵はあのキングのラッシュに対応できなくてそのままやられるんだけどな」
「でも盾上からでもダメージが入るのは大きいね」

 盾で受けると3ないし5のダメージがショーグンに入っている。
「小さなダメージだが、回復する隙を与えない。回復しようとすれば、キングが一気に攻め立てるというわけだ」
「なるほど」

 キングは一気に攻め立てているが、ショーグンはそれを事も無げにいなしている。そしてショーグンの攻撃を剣で受けるキング。

「ふー危な……」
 俺とシゲゾーは安堵をする。

 キングから5のダメージ表記が飛び出ている。その時のキングの表情はしまったというような表情に見える。

 なんでだろ? キングの方が与ダメージは多いハズだし、優位に進めているようにすら見える。

 シゲゾーはその表情に気がついていないようで、
「イケる! 勝てる! キング頑張れ!! 俺達ムカデ団の実力をみせてやれーーーー!! 」
 と叫んでいる。

 この前、言われてたのよっぽど悔しかったんだろうな……
 シゲゾーを生暖かい目でちらっとみると、急に顔が青ざめている。

 すぐに舞台に目を向けると、ショーグンの体から緑の文字で30という数字が飛び出ている。
「ま、まさか……」
 慌ててショーグンの装備を見てみると、武器:キングスレイヤー(付加能力:攻撃時、HP徐々に回復(大)自身に付与)製作者ヘパイスと銘が記されている。

 そしてショーグンはダン! とキングに盾を向け地面に盾を付ける。

 それは完全に防ぎきるという意思表示にすら思える程強固な構え。

 そして膠着状態のまま15分ほどが経過する。

「まずい……」
 シゲゾーが呟く。

「どうした?」
「タイムリミットだ……」
「あ……シゲゾー……キングのタイムリミットまではあと何分だ?」
「キングはいつも学校が終わってからログインするから16:30前後にログインする……そして今が17:15……」

「あと15分しかない……」
「まさか……ショーグンはキングのタイムリミットを知っている?」

 シゲゾーの言う通り、あの長期戦はキングのタイムリミット知っているから取っているとしか思えない。

 それにあの武器だ。攻撃力を犠牲にしてまで回復能力を優先している……まるで長期戦を持ち込むかのような付加能力……まてよ……

 俺はふと昨日のヘパイスのTELを思い出す。そしてショーグンの持っている武器は……ヘパイス製!!

 ま、まさか……

「シ、シゲゾー……す、すまない……ショーグンはキングがうどん県民だって知っている……」
「なんだと! なんでだ!!」

「昨日、ヘパイスからTELが着たんだ……キングの武器を作りたいけど会えないかなって……その時俺……ポロリと言っちゃった……」

 シゲゾーは苦虫を潰したような顔をして
「エイジ、お前がキングに最初あったとき、キングがうどん県民だって、俺が言わなかった意味分かるか? それ自体がPvPだと弱点に成り得るからな……」

 俺は俯いて
「ごめん……」
 とただ謝るしかなかった。

 するとシゲゾーはパーンと俺の背中を叩いて
「大丈夫だ! エイジ顔を上げろ! 俺達のキングだ! キングを信じよう!」
 そう言って前を向く。

 そして膠着状態のまま残り1分を迎える。

 俺は祈るような気持ちでキングの姿を目で追う。

 キングは防御を捨てた破れかぶれのラッシュでショーグンを攻撃する。そしてそのラッシュを防ぎきったショーグンの口元はニヤリと笑っているかのように見え攻撃に転じようとした時、ブスンとキングの姿が消えた。

 そうタイムリミットを迎えたのだ……

 観客たちは何が起こったのか分からず、シーンと静まり返っている。

 兜を外したショーグンが大声で話す。

「これがムカデだ!!! 負けそうになったら回線を切る!! そんな最低な奴らがムカデなのだ!! 俺は絶対にそんな卑怯な連中には負けない!! 絶対にだ!!!」

 ショーグンがそう言うと観客のボルテージは一気に上がり、地鳴りのような歓声。そして
「ショーッグッン! ショーッグッン! ショーッグッン! ショーッグッン!」
 とショーグンコールが巻き起こる。

 シゲゾーはそれを尻目に悔しそうに呟く。
「やられた……連中は始めからこれが狙いだったんだ……大衆の面前で回線切り……最悪だ……まだ普通に戦って負けたほうがマシだったかもしれない……」

「回線切りってそんなに悪いことなのか?……」
「そうかエイジは知らないか……オンラインゲームじゃ負けそうになって、回線切りは最悪の行為の一つだ……闘技場は回線切りをしても負けはつくがな……」

「……そうなんだ……俺の所為だ……」
「エイジの所為じゃないよ。俺達が弱かったんだ。ただそれだけだ」
 シゲゾーはポツリとそう言った。 

 俺は両手の拳に力を入れ、肩を震わせる。

 クソ! クソ!! クソ!!! 俺を騙したヘパイス、そんな卑怯な真似にでたショーグンにも腹が立つ……でもただただ足を引っ張っただけの自分に一番、腹が立つ!!!

 俺は頭に血が登って何も考えられないという訳ではない。凄く冷静な怒りが俺を支配している。そしてシゲゾーに静かに話しかける。

「シゲゾー……ショーグンと戦うにはいくつ勝てばいい?」
「お前……まさか……」
「ああ、ムカデを背負ってショーグンをぶっ潰す! 」

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