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第1章 追放からの

第13話 ざまあみろ

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 暫くすると麻袋から出され、猿轡は外されたが身体に巻かれた縄はそのままの状態。

 馬車の荷台には僕とワイズマンのみで、運転席にはリリムとエニシが座っている。

 ワイズマンが得意げに僕に話し掛けてくる。

「俺たちが受注したクエストは双頭のオーク退治だ。このクエストは星付きのクエストだからな。俺たちの復活には相応しいと言う訳だ。攻略後にベリルの街に戻った俺達は高らかに復活を宣言する」

 聞いたことがある双頭のオーク。豚の頭に人間の身体を持つオーク、その頭が二つあるのが双頭のオークだ。その力はオークよりも強いためオークは鉄ランクのモンスターであるが双頭のオークは星付きの銅ランクレアモンスターとされている。

「僕達なら勝てるよ」
 そう言うとワイズマンは
「ふん、自分のおかげとでも言いたそうだな」
 と嫌味を込めて答える。

 ……僕が居ないと勝てない癖に……

 ボソッと呟きかけて僕はその言葉を飲み込む。

 ワイズマンは荷台から外を覗いて呟く。
「もうそろそろ着くな」
 馬車が止まり、僕は後ろ手にされた手以外の縄が外される

 馬車から降りると目の前には木枠で囲まれた洞窟のようなものがある。
「ここは使われてない坑道だ。ここがオークの巣になり、双頭のオークが住み着いたと言う訳だ」

 僕は黙って頷く。

 ワイズマン、リリム、僕、エニシの順でその坑道の中に入って行く。僕の後ろ歩くエニシの手にはナイフが握られている。

 僕が逃げようとしたりすれば容赦なく刺すつもりなんだろう……

 坑道の中は思ったよりは暗くなく、灯りが無くても進むことができる。作業をする為に光苔という発光をする苔を壁に塗りつけているおかげだ。

 暫く進むとブヒーーー! という豚の鳴き声が聞こえてくる。

 現れたのは手に棍棒を持つ普通のオーク。人間の二回りほどの身体の大きさをしている。

「肩慣らしにこいつから始末するか」
 ワイズマンが斧でオークに斬り付ける。

 オークはそれを棍棒で受け止める。並の人間より力が強いオークにワイズマンの力は引けを取らない。

 チラッとこちらを見るワイズマン。

 リリムを見ると杖の上には大きな火球。

 ワイズマンは虚をついてオークから離れるとその大きな火球が襲う。

 火球に包まれブヒーーー!! と大きな声を上げ苦しそうに暴れているオークに斧でワイズマンがとどめをさす。

 ワイズマンとリリムはハイタッチをしてワイズマンが感慨深そうに呟く。

「戻ってきてるな……いつもの力が……」
「ええ、そうね。これが私達の本来の力よね」
 リリムもワイズマンと同様に感慨深そうに答える。

 そんな二人にエニシが話し掛ける。
「さ、行きましょう今の私達なら双頭のオークも楽勝です」

 暫く奥に進むとオークが再び現れる、それを倒して、数匹のオークを倒すのを繰り返すと坑道が広くなる場所にでる。

 その中央に頭が二つあるオークの姿がある。座っているがその背中はオークよりもひと回り程大きく感じる。
 そしてこちらに背を向けてムシャムシャと何かを食べている所為か、こちらに気付く様子はない。

「やるぞ」
 ワイズマンの合図でそれぞれ配置に付く。僕はエニシのすぐ脇に居るように言われそれに従う。

 ワイズマンが斧を振り返って力を貯めているのが見える。

 そして振り下ろすとゴーっと言う空気を切る音が聞こえ座っている双頭のオークの背中に当たり、前のめりになる。

 双頭のオークがギロリとこちらを向いて立ち上がろうとすると、間合いを詰めていたワイズマンが一気に斬りかかる。

 側に置いていた棍棒でそれを受け止める双頭のオーク。

 一方のリリムは、その周囲に鋭い氷柱を沢山出現させている。

 ワイズマンが一旦離れた瞬間、その氷柱が双頭のオークを襲う。その氷柱は双頭のオークの外皮を破り出血をさせる。

 虚を突いたとはいえ星付きレアモンスターを圧倒する二人。

 ワイズマンが再び斬り込む。それを棍棒で受け止めた双頭のオーク。鍔迫り合いのような形となり、流石に力比べでは劣勢になるワイズマン、そこにエニシの杖が輝く。

 エニシの杖が光ると、それまで力負けしていたワイズマンは押し戻し、双頭のオークを上回る力で圧倒をする。

 そしてワイズマン、リリム、エニシの連携で、双頭のオークを追い詰める。

 観念したのか地面に座り込む傷だらけの双頭のオーク、勝利を確信したワイズマンは誇らしげな顔をして双頭のオークの首に向かって斧を振りかぶる。

「これが本当の俺達だ!」
 そう高らかに宣言するワイズマン。

 ……今だ……今しかない、奴らを絶頂からどん底に落とすには今だ!!

 僕は叫んだ。
「僕は、お前らの仲間じゃない!! 僕のパーティはアンコロールだ!!」

 そしてあの時と同じように無理矢理、仲間にさせられた時の同じように心の底から念ずる。

 は?というような顔して隣にいるエニシがこちらを向く。

 斧は真っ直ぐにそのまま振り下ろされる……がその斧ではその斧持ち主の力では太い双頭のオークの首を斬り落とすことはできない。

 まるで岩でも叩いたかのように斧は弾き飛ばされる。

 ニヤッと双頭のオークが笑ったような顔をして立ち上がる。

「そ、そんな……」
 ワイズマンは目の前で起こったことが飲み込めないのか棒立ち状態となる。

 そこに双頭のオークの棍棒がワイズマンの身体を捉える、ワイズマンは吹っ飛んで自分達の近くの壁に当たるが致命傷ではないようで起き上がる。

「おまえ!!」
 エニシは僕の胸倉を掴み、顔面を殴りつけながらこう叫んだ。

「取り消せ! 今の言葉取り消せ! 俺やお前も死ぬんだぞ!! 早くパーティに戻ったと言え!!」

 そこに身体から血を流したワイズマンか現れて、僕を睨みつけ叫ぶ。

「お前の所為だ! 全部お前の!!」

 僕はワイズマンを睨み返す。

「ざまあみろ!! これは僕の気持ちを弄んだお前らの罰だ! 」

 エニシは僕にナイフを突きつけると
「取り消せ!! 取り消さないとお前をここで殺す!」
 と喚き散らかす。

「あはははは、僕を殺す?殺して解決するの?まあ何されようがお前らの仲間になることあり得ないけどな」
僕の言葉にワイズマンが叫ぶ。
「俺達に力を貸さないとお前も死ぬぞ!!」

「別にいいさ。お前らを道連れにできるなら本望だ! 」


 僕がそう言うと同時に少し離れた場所にいたリリムが叫ぶ。
「お願い! ブッザス! 私達を仲間だと思って!! ブッザス」
 リリムはその声から泣き叫びながら半狂乱していることが分かる。

「すまないがそれはできない」
 僕は小声でそう呟く。すると女性特有の金切声が聞こえる。

「た、たすけてーー!!ぎゃああああ」
 その叫び声は坑道をこだました。

 一方のワイズマンはボロボロと涙を流しながら僕に縋りつくと
「お願いだ! ブッザス! お願いだ! 助けてくれ!! お願いだ!」
 哀願をする。

僕がそれを無視すると、今度は土下座をしながら
「この通りだ!頼むブッザス!! もうお前しか俺達を助けられない!! 」
と頭を地面に擦りつける。

 ズンズンと双頭のオークが迫って来る音が聞こえる。

 ズンと腹部に衝撃を感じ暖かいものが溢れてくる感覚を覚える。

 腹部に刺さっていたのナイフ。

 土下座するワイズマン押しのけ、エニシが僕のお腹にナイフを突き立てたのだ。

「取り消せぇ!取り消せぇ!取り消せぇ!取り消せぇ!」
 と一心不乱に喚きながら僕のお腹にナイフをグサグサと突き立てるとそのナイフを持って、双頭のオークの元に走り出す。

「俺はブッザスの仲間ぁぁぁ」
 と叫びながら……そしてゴキュっと言う音がし、エニシの首は捻れその場に倒れ込む。

 僕は徐々に意識が次第に薄らぎ始め、痛みすら感じなくなり、その場に倒れこむ。

 薄れゆく意識のなかで、ワイズマンは土下座したまま、首根っこを双頭のオークに掴まれ地面に何度も叩きつけられている姿が見えた。

 双頭のオークの手が僕に伸びようとした時、僕の視界は完全に暗闇に閉ざされようとしていた。

 その瞬間に何者かが軽快に走って来る音が聞こえ、僕の視界は完全に闇に閉ざされた。音も全く聞こえなくなった。

 闇の中に光を感じる……その光が身体の中に入っていく。
 すると身体の奥底から暖かさを感じる。

 ここは何処だろう? 天国って所かな……

「おき……ださい……」
 遠くからニーナの声が聞こえた気がする。

「おきて……ください……」

 また聞こえた……

「起きて下さい!!」
 今度ははっきりと聞こえた!

 僕が目を開くと心配そうで涙目のニーナの顔がそこにある。そしてニーナは安堵の表情となり
「おかえりなさい。ブッザスさん」
 と声を掛けてくれる。

 僕は
「ただいま」
 と返事をした。

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