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第6章 剣聖剥奪

第111話 リブート

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 初めて部屋を出る。窓の外に広がるのは大きな庭でよく手入れがなされている。
「良い庭でしょ。あの庭の手入れもカイト様がなされているのですよ」

 執事が歩きながら庭を眺める俺に話しかけてくる。
「凄いですね。この庭を」
「なんでも自分でやるのが好きなので、我々の仕事まで奪いかねません」
 執事はニコッと笑う。

「そうそう。あなたに渡した薬もカイト様が調合されてものなんですよ」
「あの薬ほんとに良く効きました。まさか3日でこれほどよくなるとは」
「ベルディン家に伝わる秘薬だとか」
「秘薬ですか……」

 廊下を歩いて気づいたことがある。それは貴族の豪邸らしい煌びやかな調度品を目にすることがないということ。

 屋敷は大きく廊下も長い。十王国を代表する名門貴族のベルディン家なのに華やかな雰囲気はなく。殺風景な長い廊下が続く。

 俺が目を丸くしているのを見て執事が話しかけてくる。

「あなたは貴族らしい調度品や肖像画がないことに驚いてらっしゃる?違いますか?」
「ええ……ここには俺が貴族の家で目にしてきたような調度品や威圧感ある肖像画がなく殺風景だ」

「あははは。殺風景ですか」
「あっ!すいません」
 俯いて頭を掻きながら謝る。

「いえ良いんですよ。代々のベルディン家のご当主様は派手なこと嫌うんですよ。『贅沢をするなら領民に施しを』これはベルディン家の家訓とも言っていい。そしてこの家が大きいのは、戦争が起きたときに一人でも領民の保護をするということで、大きなお屋敷になったんです」

 執事は主人を誇らしく思っているのが伝わってくる。

 カイトさんもこんな家で育ったからごく当たり前に領民と農作業にでたりしているんだろうな……

 ふと屋根を見上げるとカイトさんと大工だろうか?手に金槌を持ってる連中が屋根を張り替えてるように見える。

 あれ?俺ってカイトさんに呼ばれたから行ってるんじゃなかったっけ?
 執事も屋根の上のカイトさんを見て頭を抱えて窓を開け叫ぶ。
「カイト様!!何をなされてるんですか!」

 屋根の上で木の板を持ったカイトさんは悪びれもせずに答える。
「何って屋根の修理だけど」
「カイト様がお客様をお連れしろと」
「あー悪い悪い。職人を待たせるわけにいかんからな」

 ……俺は待たせてもいいんだ……

「とにかくすぐにいらして下さい!」
「はい、はい」
 そういうと大工と話しをしハシゴを降りる。

「ほんとに自分で呼んでおいて他のことしてるなんて……すいません」
「い、いえ気にしてないですから」
 そうして客間に通され飾りっけのない武骨な椅子に座る。
「すぐに参られると思います」
 執事はそういうと部屋を後にする。入れ違いにカイトさんが入ってくる。そして俺の向かいに座り、開口一番にこう言った。

「王都は落ちたぞ。3日前に」
「……はい」
「おっ!以外と驚かねーんだな」
「……ええ」

 自分でも驚くほど冷静に事態を受け止めている。

「っま王都からきたんなら大体のことは分かる……か」
「そんなところです」
「おうよ。まああの曲者のセネバが指揮してんだからただでは負けてねーとは思うがな」

「それでは自分は先を急ぎますので」
 そう言って立ち上がろうとすると

「俺がお前を呼んだのはこれが言いたかったんじゃねぇ」
 カイトさんが手に持っているものを広げる。それは古い地図のように見える。

「お前さんペンタグラムに行くんだろ?これはうちの先祖から伝わる地図だ。ご先祖様は昔ペンタグラムに行こうとしたらしくてな」

 俺はその地図を凝視する。

 カイトはその地図を指差ながら説明をする。
「ここが俺たちのいるサウストン。ここから海岸線に沿って真っ直ぐに西へ行きタウレル山脈を越えた当たりにあるらしい」
「タウレル山脈……」

「ああ、ペンタグラムは山に囲まれた場所にある」

「なるほど……助かりました」

「お前まさか歩いて行くつもりか?2週間はかかるぞ?」
 俺は当然というような表情をする。

「仕方ねーなーうちで一番速い馬を貸してやる。それなら1週間で着く」

「え!!いいんですか?」

「いいも悪いもねーだろ?十王国の命運がかかってんだ」
「ありがとうございます!!」

 カイトさんは腕を組み真っ直ぐに俺の瞳をみながらこう言った。
「馬は貸したんだからな、お前が必ず返しにこい。必ずな。来たらサウストンの街を俺とマリーで案内するから約束だぞ!」

 組んでいた腕をほどき俺の前に手を差し出す。

「はい、必ず返しに来ます。必ず」
 とても貴族とは思えない豆だらけの手をしたカイトさんと固い握手を交わす。

 カイトさんとはもっと早く会いたかった。こんな時ではなくゆっくりと話しが出来る時に……

 屋敷を出ると鞍のついた馬が用意されており、俺はそれに跨る。

 馬を用意してくれていた執事さん、カイトさんにマリーの見送りを受け、俺は馬の腹をちょんと蹴り馬を走らせる西へと。
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