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第5章 魔法の国のスピカ

第96話 導く者

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「リゲル様にお話があるのだが、構わないかね?」
 アビゲイル・ノーマンと門を挟んで会話をする。

「父は鬱ぎ込んでまして……どなたともお会いにならないと思いますが……」
「私、アビゲイル・ノーマンが例の件で来たとお伝え下さい」
「わかりました少々お待ちを……」

 私は自室に籠もる父の元に向かう。

 コンコンと扉をノックし話しかける。

「お父様、アビゲイル・ノーマンが例の件で話があるとお見えになっていますが会いますか?」
 扉すーっと開き、ベッドで横になる、頬が痩せこけて目がうつろな父の姿。

 私自身も父と会うのは母が亡くなって以来で、その変わり果てた姿に少し驚く。
「分かった……会おう。応接室へ」
「わかりました。お通しします」

 フラフラと立ち上がった父。すかさず木の人形が父の脇を支える。
 私はアビゲイルの元に向かい、屋敷の応接室へ案内する。

 父はもう座っている。
「フェルトさんの葬儀以来ですね」
 アビゲイルが父に話しかけると父は特に返事もせずに黙っている。

「失礼します」
 私が部屋を後にしようとすると
「スピカさん、君にも関係する話だ聞いて言って欲しいんだが……いいですか?リゲル様?」
 アビゲイルがそう言うと父は黙って頷く。

「担当直入にいいます。十王国への進軍の許可を……あとはあなただけだ」

 十王国に進軍? いったいこの人は何を言ってるんだろう……

「死文病……今この国で猛威を奮っています。貴方もそれを身を以て体験したはずだ。その原因は10年前から始まった龍脈の乱れ……このペンタグラムを庇護していた龍脈が消えかけている。その龍脈の乱れを発見したのも貴方だ。幸い十王国の龍脈は昔のペンタグラムと同じように安定している」

 父は静かに話し出す。

「800年前、我々の先祖はここペンタグラムを離れ世界にその覇を唱えようとした。結果は惨憺たるものだった、魔力を用い圧倒し世界をほぼ手中に収めかけた時、原因不明の奇病が流行り魔力を失い滅びかけた」
「ええ……それは子供でも知っています。しかしその原因もほぼ判明している。在外ペンタグラム人の帰還を進めたもそれの調査のためだ」
「根絶やしにするのか?十王国の民を……」
「出て行けと警告はします。それに応じなければ……」

 父は目を閉じ何かを考えているように見える。

「私は反対だ……十王国に攻め入るなど……」

 冷静そうに見えるアビゲイルはカッと目を開き応接室の机を叩く。

「穏健派、穏健派と言われる貴方でも国民を犠牲するのはいかがなものか!! このままではペンタグラム人は死に絶える!! あなたが始祖の五家のせいでだ!!」

 父は何も言わずじっとアビゲイルの顔を見ている。

「すいません。取り乱しました……国の重要事項に関しては宰相の権限はなく、始祖の五家の合議制で決めるという取り決め、貴方は反対すると私や他の四家の者はそう思っていました。そこで私達四家はスピカ・アルタイルを導く者として迎えることを決めました」

 え?今なんて?私が導く者?

 それまでは静かに聞いていた父は急に立ち上がり
「帰れ!!!お前らはスピカまで私達から奪うつもりか!!!」
 激昂しアビゲイルを怒鳴りつける。

 これ程に感情を露わにする父は見たことが無かった。

 父は手を叩き、木の人形を呼びだす。
「アビゲイル様はお帰りだ!」
「分かりました……スピカさんの件、我々は本気ですよ」
 父にそう言い残し去り際に私の方を向き告げた。
「君は導く者として生まれた。在り方を考えて欲しい」

 ◇◆◇

 アルタイル邸の広い庭を木偶人形と一緒に歩き、門をくぐるアビゲイル。

 門の外には目つきの鋭い男が立っており、アビゲイルを見かけるなり話しかけてくる。
「その顔は駄目でしたね」
「ああ、想定通りだよ」
「計画は予定通りに?」
「ああ二年で頼む」
「分かりました二年もあれば十分です」
 そう言うとその目つき鋭い男はアビゲイルの元を離れる。

「リゲル、あの様子だと先は短いな。計画は前倒しにする必要もあるかもしれんな」
 アビゲイルはそう一人呟くと、ニヤッと口元を歪めた。
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