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第4章 21代目の剣聖

第87話 予想

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 昼間だというのに騎士団本部は静まり返っており、正門からそのまま道場に向かう。

 道場に近づくとザワザワと人の声が聞こえだす。
「来た。ラグウェルが来た」
「ほんとに来た」
 みな俺の顔を見て思い思いの言葉を口にする。勝負の場所は極秘扱いだったが、どこからか漏れたのだろうこの人だかりだ。

 道場に向かう通路の人だかりが、俺が現れるとザッと左右に分かれる。その真ん中をゆっくりと歩いて行く。
 道場に入る扉の前に騎士団団長がおり、黙って俺の顔を見つめる。
「有能な二人のうち、どちらか一人が欠けてしまうような戦いなど、この国の為にならん……が剣士として命を賭して戦うというのを止める野暮な剣士などいない。全力を出し切ってこい」
 団長の顔を真っ直ぐに見つめ頷く。

 扉が開かれ、中には燕尾服を着たムルジム校長の姿といつものボロボロの外套を羽織ったアルファルドが隅で二人並んでおり、道場の真ん中には真っ白な服を着て正座をし、目の前に剣を置いて瞑想をしているレグルスの姿がある。

 剣聖レグルスはこの1週間、騎士団本部に姿を見せずにいた、少し頬は痩けているが、精悍としており、気力十分という感じを受ける。

 俺が道場に足を踏み入れると外から団長が扉を締め、俺とレグルス、立会人のアルファルドとムルジムの4人になる。

 そして俺がゆっくりとレグルスに対峙する様に立つ。

 そしてレグルスはゆっくりと目を開き剣を手に立ち上がる。
「これを」
 そういって胸につけていた剣をあしらった剣聖の徽章を、アルファルドに向かって投げる。
「確かに受け取った」

 アルファルドはそう言って話を続ける。
「この勝負は第19代剣聖アルファルドと元王専任騎士ムルジムの立ち会いの元行われる」

 俺とレグルスが頷く。
「お前に初めて合った時、俺は剣聖の座を脅かす存在になると直感した」
「ああ、俺もあんたに合った時に絶対に乗り越える相手だと思った」

「それじゃ始めようか」
 レグルスはそう言って剣を目の前で両手で持ち、鞘から剣を抜き鈍色に輝く剣身がその姿を表す。

 その姿を見て俺も腰に携えた剣の柄に手を掛け、そのまま抜く。シリウス鋼の特徴的な虹色の剣身が現れ、そして剣を丹田の前で構える。

 そしてアルファルドが静かに試合開始を告げた。

 ◇◆◇

 ――30分程前

「なあ、どっちが勝つと思う?」
 騎士団本部に向かう道すがらムルジムがアルファルドに尋ねる。

「あーん? それを俺に聞くか? 小僧は俺の弟子だぞ」
「ただの予想だよ。予想」

 アルファルドは少し考える素振りをして
「剣の技術はほぼ互角だろう。反応速度や瞬発力に関しては小僧の方が若い分有利」
「確かに」
「経験値の部分ではレグルスに軍配が上がる」
「そりゃそうだな」
「それらを加味すれば二人の実力は拮抗している」
「ああ、それぐらいは俺でも分かるぞ。伊達に騎士学校で校長してるわけじゃない。元剣聖としてのお前の意見が聞きたい」

 アルファルドは頭を掻きしょうがないなというような表情をみせてこういった。

「勝つのはレグルスだ」

 その答えを聞いてムルジムは驚きの表情を見せる。
「なぜだ?」
「レグルスは剣聖であることに固執していない」
「え?」
「あいつはこの戦いに勝っても剣聖であることを辞めると思う。恐らくこれが最後の戦いだということだ。その覚悟があるものは強い。小僧がそれに勝つには経験があまりに足りない」
「……なんでレグルスが剣聖を辞めるんだ?」
「お前、気づいてないのか? あいつは……」
 アルファルドはそう言って途中で言葉を飲み込む。

 目の前に白い服を纏ったレグルスの姿が見える。
 レグルスは二人を見つけ一礼をし、騎士団本部に入っていく。

 二人はそこで会話を止め、レグルスの後を追うように騎士団本部に入っていった。
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