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第3章 鴉

第76話 決着は一瞬

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 なぜ俺は奴の術中に嵌るように鎖を腕に巻いたのか。イゴソの性格から考えても不利になったからといって逃げるような奴ではない。そんな奴であれば祖人には認められない。俺もこの戦い負けるようなことになれば、逃げることはできない。

 つまり俺とイゴソ二人とも背水の陣で望むことになる。そう、この鎖は俺とイゴソの心を縛る物なのだ。もはや逃げ場はない。どっちかが死ぬまでやり合う。この鎖はそんな意志表示でもあるのだ。 

 俺は目を閉じ、意識を集中する。

 周囲は祖人と騎士達がいるはずなのだが、それらは感じられなくなる。そしてイゴソの息遣い、そして鎖を伝わって感じる心臓の鼓動のみになる。

 すっと目を開く。

「おおおおおおおおお!!!」
 イゴソが大きく手を広げ雄叫びをあげる。

 ビンビンと空気の振動とともにイゴソの殺気が伝わってくる。

 来る!奴から仕掛けてくる!

 イゴソがニヤっと笑った瞬間。

 え?

 左手を思いっきり引っ張られ体勢を崩す。その足を踏ん張った瞬間に体全体で殺気の圧力を感じる。
 イゴソが間合いを瞬時に詰めてきたのだ。

 斧を振りかぶり、真っ直ぐに俺に振り下ろす。

 まずい、この体勢でかわすことは無理だ!
 祖人の力を考えれば、この斧の一撃を受けることは無謀だ。しかも相手はイゴソ、その筋力は普通の祖人よりも強いはず。それは鎖を引っ張られ体勢を崩したこともからも明白だ。

 そう無謀なのだ、だからこそイゴソは鎖を使って俺の体勢を崩しそこに最高の一撃を打ち込む。おそらくこの一撃はイゴソの全てを掛けた一撃といっていい。

 だからこそおれはこの一撃を受け止めきって、イゴソを倒してみせる。そして十王国を守ってみせる!

 ガキーーーン!!

 石と鉄がぶつかり大粒の雫が空から降り落ちてくるなか、激しい火花が飛んだ。

「くっ!」

 いままでに感じたことのないほどの衝撃を体全体で受け止める。

 やはりイゴソはこの一撃に掛けていたのだろう。普通なら受け止められた瞬間に二の太刀、三の太刀を考える。しかし奴はこのまま受け止めた剣ごとふりぬこうとそのまま押さえつける。

 ほんの数秒、十数秒の力と力の勝負。

 両腕の筋肉が今までに無いほど膨れ上がり、プルプルと斧を止める剣が震える。イゴソが前のめりになり丸太のような腕が更に大きくなり力を斧に伝える。

 頭の中は全ての力を剣に集中させる。体中の全ての力を剣に乗せる。
 それでもだ、それでもイゴソの力は俺の力をも上回り、徐々に力負けし斧が顔に近づいてくる。

 その時だった。勝負は一瞬、そして呆気なく決まる。

 ふっと力が抜けた。そうイゴソはぬかるんだ土に足を滑らせたのだ。彼もまた雨の中で戦うの初めてなのだ、もし雨の中で戦うという経験があればこの瞬間は訪れず、俺は力負けしこのまま叩き斬られていた。

 イゴソが体勢を崩したその瞬間を逃さず、俺は斧を弾き飛ばしそのまま剣を振り下ろす。イゴソがフッと笑ったような表情みせ、そしてそのまま左肩から袈裟斬りをした。

「あははははは」

 イゴソは笑っていた。そして片膝をつき口から血を吐いてそのまま仰向けに倒れ込んだ。

「はぁはぁ…」
 腕の筋肉が痙攣しそのまま手をだらりと下げる。そして俺はイゴソの屍の前に立ち、そのまま首を斬る。そして髪をもち周囲に高らかに宣言をした。

「イゴソを討った!!イゴソを討ったぞ!!!」
 そしてリリカに前もって聞いていた、祖人の言葉で高らかに叫ぶ! そうすると祖人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。

 ◇◆◇

 リリカはロレンツォを探す。
 その姿を確認したときには、イゴソの隣にいたロレンツォ

 この戦争の全ての元凶。200名の鴉の元同胞を殺した裏切り者。
 憎しみしか無い。目の前に現れれば八つ裂きにでもしても足りない。

 逃がすわけにはいかない。もしここで取り逃がせば第2第3のイゴソが現れその度に血が流れる。

 しかしリリカの前に現れるのは祖人のみ、その祖人を斬る。斬る。

 リリカに焦りの表情が見える。
「ロレンツォはどこだ!」
 側にいた騎士たちは、一様に首を横に振る。


 そんなときにラグウェルの声が響く。

「イゴソを討った!!討ったぞ!!!」
 そして祖人の言葉で叫ぶのが聞こえる。
「ふっよくやった。ラグウェル今度は私の番だ!」

 手はず通りに騎士達も祖人の言葉でイゴソの死を叫ぶ。
 祖人達の間に動揺が走り戦意を無くした祖人達は戦うことをやめる。

 しかしロレンツォの姿は見当たらない。

「いない…なぜ奴がいない。イゴソの隣に居たはずだ…なのになぜ」
 そんなとき騎士の格好をした人間が一人通りかかる。

 その騎士の太ももにナイフを投げる。足にナイフ刺したまま、走ろうとするがその場で転び泥まみれになる。
 ゆっくりと歩いてその騎士に近づき剣で兜を外す。
「見つけたぞ、ロレンツォ!」
「な、なぜだ、なぜ俺と分かった…」

「歩き方だ。鴉の癖がでたな。ぬかるんだ地面を歩くのは雪の上を歩くのに似ている。騎士は雪の上を歩いたことがないからな。癖はすぐには抜けない」
「あははは…そんな違いがあるとはな…なあリリカ。俺と組まねぇか?俺がいれば又再起ができる。そうなれば十王国も思いのままだ」
「誰に口をきいてる」

「お前もあんな腐った国の王になんて忠誠を誓うのは馬鹿らしくないか?今回の奇襲は見事だった。しかしお前がいなければ北部平原で俺達を少数の兵力で迎え撃つつもりだったんだろう?」
「ああ、そうだな…」
「そうだろう?だから俺と組んで祖人の国を誕生させよう!知っているぞお前にも祖人の血が流れていることを」

 リリカはロレンツォを縄で縛り、近く騎士に声を掛ける。
「こいつを連行しろ」
「ちょ、ちょっと待てリリカ!悪いようにはしないだから!!」
 リリカは首ふっと横にし合図を出す。

「おい!リリカ!!こんな腐った国になんの恩義があるんだ!!」
 リリカから預けられた騎士が縄を引く。
「うるせーぞクソ野郎が!」











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