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第3章 鴉
第58話 混血児その2
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「明るくていい人ですねハンクさんって」
俺はアリンに話しかける。
「ごめんなさい…兄さんったら飲みすぎて、迷惑じゃなかったですか?」
「いえ、とんでもない!凄く楽しいです」
「兄さんは人が好きだから…」
そういったアリンの右目は凄く寂しそうに見えた。
ハンクが戻ってきてまた飲み始め、アルクに絡んだりバルジ、リリカに絡んだりしている。俺は少し暑くなり、夜風に当たるため外にでる。
外はすっかり真っ暗で、大きな月に照らされた銀世界が広がっている。外は外で異常な程の寒さで
「寒っ」
火照った体がどんどん冷たくなっているのを感じる。
納屋の方に目をやると、アリンがヤギの世話をしているのが見えた。
側に行き声を掛ける。
「手伝いましょうか?」
「そんなお客様に手伝っていただくなんて」
「ご飯もご馳走になったしこれぐらいさせてください」
ヤギの餌かごに餌を入れたりとアリンの手伝いをする。
「あなた騎士なのに慣れてますね」
「懐かしいですねー」
十王国に来る以前、世界の果てに居た頃に家畜の世話などもしていたことあった。テキパキと仕事を終わらせ納屋で一息つく。
「まだ飲んでるんですかね兄さん達は」
家の中でワイワイと騒いでいる声が聞こえてくる。
「そういえば副長に救われたって」
「はい…私たちを救ってくれたのがリリカさんでした」
でも…待てよ…副長は祖人を憎んでいる。それなのに何故?この人達を助けたのか…
「私たちの父は壁を超えてきた祖人でした。傷を負っていた父はなんとか母が住む家にたどり着いた…普通なら祖人はすぐに殺します。でも母は看病をした」
「それで君たち兄妹が生まれたと…」
「はい…5年前のことです。父と母は既に亡くし、私たち兄妹は顔を隠し、ウィンタールの街外れでひっそりと暮らしていました。しかし…あるときに私たちが住んでいるが街の人に見つかり、家に火を放たれて…」
「まさか…」
「その時に受けた火傷がこれです」
アリンはそう言って髪をかきあげ左目の火傷の跡を見せる。
「死に物狂いで逃げた私たちに街の人達は寄ってたかって…」
ボソリと俺は呟く…
「そんな…ただ静かに暮らしていただけなのに…」
「ええ…私たちはただ静かに暮らしたかっただけ…それなのに」
やりきれない気持ちでいっぱいになり、申し訳なさでアリンの顔を直視することができなかった。
アリンの声が急に明るくなり
「その時に街にやってきていたリリカさんが私達を救ってくれたんです。祖人としても人間としても生きていけない私たちに、この場所…居場所を作ってくれました」
「だから副長に救われたと…」
「はい!あの人は私たちにとって命の恩人なんです」
すっとアリンは立ち上がり、
「それじゃ私は行きますね。そろそろ酔った兄さんの介抱をしないと」
そう言ってニコッと俺に笑いかけアリンは家に戻っていった。
彼らにそんな過去があるとは…しかしなぜ副長は彼らを救ったのだ?祖人を全滅させるという目的をもっていると言っていたが…
そんな疑念を持ちつつ家に戻ると、男3人が酔いつぶれ倒れ込み、アリンがハンクを起こし寝室へ連れて行っている。
「こいつらはここでいい」
一緒に飲んでいた筈なのに、全く変わりのない姿のリリカがそこにありアリンに話しかけていた。
「わかりました。それじゃおやすみなさい」
ハンクに肩を貸しペコリと頭を下げるとアリンは奥の寝室へ行った。
「アリンさんから聞きました」
全くシラフにみえるリリカに俺は話しかけた。
「そうか…あの子達は絶望していたからな人間に」
「そうでしょうね…でもあなたが救った」
「人間を助けるのは騎士として当たり前だ」
「でもあなたは祖人を滅ぼしたいと…」
「ああ、我らの敵、祖人はひとり残さず滅ぼす」
「でも彼らは…」
真っ黒な瞳で真っ直ぐに俺を見つめリリカは少し悔しさを滲ませて話す。
「外見が祖人だったら祖人だというのか?私たちは祖人と戦うという命令のもと戦っているのだ。彼らは祖人ではない人間だ。本来ならこんなところで暮らすことすらおかしい…私の力不足で壁の向こう側での生活を余儀なくされている…」
俺はその答えを聞いたときに胸の中のわだかまりがスッと無くなったような気がした。
「少し酔ったな。喋りすぎたそれじゃ私は向こうで寝るからな、こいつらに毛布でも掛けてやれ」
リリカはそういって立ち上がり、奥の部屋に消えていった。
あの冷酷そうに見える彼女が何故、アルクやバルジに慕われ、女性でありながらその若さで鴉の副長にまで登り詰めたのか少しだけ分かった気がした。
俺はアリンに話しかける。
「ごめんなさい…兄さんったら飲みすぎて、迷惑じゃなかったですか?」
「いえ、とんでもない!凄く楽しいです」
「兄さんは人が好きだから…」
そういったアリンの右目は凄く寂しそうに見えた。
ハンクが戻ってきてまた飲み始め、アルクに絡んだりバルジ、リリカに絡んだりしている。俺は少し暑くなり、夜風に当たるため外にでる。
外はすっかり真っ暗で、大きな月に照らされた銀世界が広がっている。外は外で異常な程の寒さで
「寒っ」
火照った体がどんどん冷たくなっているのを感じる。
納屋の方に目をやると、アリンがヤギの世話をしているのが見えた。
側に行き声を掛ける。
「手伝いましょうか?」
「そんなお客様に手伝っていただくなんて」
「ご飯もご馳走になったしこれぐらいさせてください」
ヤギの餌かごに餌を入れたりとアリンの手伝いをする。
「あなた騎士なのに慣れてますね」
「懐かしいですねー」
十王国に来る以前、世界の果てに居た頃に家畜の世話などもしていたことあった。テキパキと仕事を終わらせ納屋で一息つく。
「まだ飲んでるんですかね兄さん達は」
家の中でワイワイと騒いでいる声が聞こえてくる。
「そういえば副長に救われたって」
「はい…私たちを救ってくれたのがリリカさんでした」
でも…待てよ…副長は祖人を憎んでいる。それなのに何故?この人達を助けたのか…
「私たちの父は壁を超えてきた祖人でした。傷を負っていた父はなんとか母が住む家にたどり着いた…普通なら祖人はすぐに殺します。でも母は看病をした」
「それで君たち兄妹が生まれたと…」
「はい…5年前のことです。父と母は既に亡くし、私たち兄妹は顔を隠し、ウィンタールの街外れでひっそりと暮らしていました。しかし…あるときに私たちが住んでいるが街の人に見つかり、家に火を放たれて…」
「まさか…」
「その時に受けた火傷がこれです」
アリンはそう言って髪をかきあげ左目の火傷の跡を見せる。
「死に物狂いで逃げた私たちに街の人達は寄ってたかって…」
ボソリと俺は呟く…
「そんな…ただ静かに暮らしていただけなのに…」
「ええ…私たちはただ静かに暮らしたかっただけ…それなのに」
やりきれない気持ちでいっぱいになり、申し訳なさでアリンの顔を直視することができなかった。
アリンの声が急に明るくなり
「その時に街にやってきていたリリカさんが私達を救ってくれたんです。祖人としても人間としても生きていけない私たちに、この場所…居場所を作ってくれました」
「だから副長に救われたと…」
「はい!あの人は私たちにとって命の恩人なんです」
すっとアリンは立ち上がり、
「それじゃ私は行きますね。そろそろ酔った兄さんの介抱をしないと」
そう言ってニコッと俺に笑いかけアリンは家に戻っていった。
彼らにそんな過去があるとは…しかしなぜ副長は彼らを救ったのだ?祖人を全滅させるという目的をもっていると言っていたが…
そんな疑念を持ちつつ家に戻ると、男3人が酔いつぶれ倒れ込み、アリンがハンクを起こし寝室へ連れて行っている。
「こいつらはここでいい」
一緒に飲んでいた筈なのに、全く変わりのない姿のリリカがそこにありアリンに話しかけていた。
「わかりました。それじゃおやすみなさい」
ハンクに肩を貸しペコリと頭を下げるとアリンは奥の寝室へ行った。
「アリンさんから聞きました」
全くシラフにみえるリリカに俺は話しかけた。
「そうか…あの子達は絶望していたからな人間に」
「そうでしょうね…でもあなたが救った」
「人間を助けるのは騎士として当たり前だ」
「でもあなたは祖人を滅ぼしたいと…」
「ああ、我らの敵、祖人はひとり残さず滅ぼす」
「でも彼らは…」
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リリカはそういって立ち上がり、奥の部屋に消えていった。
あの冷酷そうに見える彼女が何故、アルクやバルジに慕われ、女性でありながらその若さで鴉の副長にまで登り詰めたのか少しだけ分かった気がした。
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