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第3章 鴉

第56話 祖人の群れ

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「あひゃっ!!」
 顔に突然冷感を感じた俺は反射的にガバッと飛び起きる。起きると同時に顔から白く冷たい物が落ちた。周囲を見回すと既に起きていたアルクは俺の方を見てニヤニヤとしており、リリカが雪を持って立っているのが見えた。

「遅い!」
 リリカはやや不機嫌そうに俺を睨んでいる。
「…すいません」
「まあま副長、疲れても溜まってるでしょうし」
 アルクがリリカをなだめると
「早く支度をしろ!」
 そういって外の様子を見に行った。

 毛布を畳んだり、出発の支度を寝ぼけた頭で行う。
 アルクが話しかけてくる。
「今度からは自分で起きろよ」
「はい…」
「副長は自分の寝起きが悪いのを棚に上げるから…」

「アルク!!」

 洞窟の外の方からリリカの声が響く。
 アルクがボヤく。
「なんて地獄耳だよ…」
 するとすぐに近くからリリカの声が聞こえた。アルクは蒼い顔をしながらゆっくりと振り返る。リリカはアルクのすぐ後ろに立っており、指をポキポキと鳴らしている。
「誰が地獄耳だって?」
 腰から体を90度曲げ最敬礼をしながら
「すいません!!」
 と必死に謝っていた。

 全員が準備を終えると、馬を曳いてリリカの後に付いていく。今日の天気は昨日とは打って変わって青い空に大きな太陽がでている。それが雪に反射し相当な眩しさがある。
 眩しそうに目を細めて歩いていると、アルクに声を掛けられる。
「晴れたら晴れたで眩しいし、雪が溶けて雪崩の危険がある。気をつけろよ」
「はい…」

 俺たちは切り立った岩山を縫うように数時間程歩いて行く。先頭を行くリリカは最新の注意を払いながら進んでいるようで、昨日までと違い進む速度が遅い。

 リリカが進むのを止め跪き周囲を伺っている。そして立ち上がり、俺たちに来いと合図を出す。リリカが居たところに行くと、岩山が急に開け、大きな平原が現れた。
 どうもそこには数日前まで大勢の人がいたようで、踏み固められた雪に焚き火の後などがある。

 アルクは四つん這いになりその地面の様子を確認している。そしてリリカは歩きながら地面の様子をうかがっている。

 リリカがアルクのもとにやってきて話をしている。
「どう見る?」
「1万5千程でしょうか…どうも北に向かったようですが…」
「ふむ。私の見立てと同じだな」
「どうします?追います?」

 リリカは額に手をやり、少し考えるような素振りをする。
「今から追えば追いつくまで丸1日か…」
「そうですね…寝ずに追えば追いつくでしょう」
「天気も良さそうだな」
「ですね…」
「追うぞ。尻尾を掴む」
「分かりました!」 
 リリカはそう言うと、北へ向けて馬を曳いて歩き出す。

 リリカが離れると俯いてボヤく
「今夜寝ずの行軍か…」
「祖人を追うんですよね?」
「ああ、祖人の群れだ」
「群れって祖人の?」
「そうだよ。連中群れ単位で動いていて今回は大きな群れがこの平原まで来たって報告がはいったからな。連中の動向を探るために俺たちが出向いたってわけ」
「なるほど…」
「その数1万5千ぐらいだな。」

 ゴクリと俺は生唾を飲み込む。
 あの驚異的な身体能力を持つ連中が1万5千も…

「おっビビった?そりゃビビるよなあんなのが1万5千もいるんだからな」
「それって一部なんですよね…他にも群れがあるような言い方でしたし」
「ああ、祖人全体では10万とも15万とも言われてる」
「15万…」
「でもあいつら群れ同士で協力することはないんだ。だからあの壁を超えられることはできない」
「そうなんですね…」
「じゃあ先を急ごう。祖人の群れも見てみたいだろ?」
「確かに見てみたいですね…」

 祖人の足跡を応用に俺たちは寝ずに歩き続けることになった。少しの休憩時間で干し肉を齧り、酒を口に含む。そして温まったら歩き出す。

 そうして夜が明け、リリカが近くにある山を指差す。

 俺たちは2時間程掛けてその山に登る。そして眼下に広がったのは2足歩行の人間のような形をした連中が北へ向けて歩いている姿が見えた。子供をあやしながら歩いているもの、大きな荷物を背負ってやっとの思いで歩いているもの。年老いたものに肩を貸して歩いているもの。

 その光景は人間のそれと全く変わりなく同じものに見えた。




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