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第2章 騎士学校

第47話 父の思い

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「師匠!ありがとうございます!!」
 パックは控室戻るなり、開口一番俺に礼を言う。
 俺はパックに笑いかけ
「緊張しすぎ」
「師匠があれをしてなければ、今頃負けてました」
「おかげで審判に怒られたけどなー」
「すいません」
 頭を掻きながらペコリとパックは頭を下げる。

「おうおう1回戦勝って喜べる連中が羨ましいわ」
 イヴァンが俺達に聞こえるような大声で嫌味を言う。

「無視しよう」
 シャウラがそう言うとパックと俺は頷く。
「俺なんか優勝して当たり前だからなー」
「そうだぞイヴァン連覇して騎士学校で新入生代表になるんだからな。それがお前に課せられた使命だからな」
「分かってますよ。父上。俺があんな雑魚に負けるはずがないでしょう」
 周囲に聞こえるようにライコフ一家は話を続けている。

 ライコフ一家の自慢話にうんざりしながら、隣りにいるシャウラに話しかける。
「そういやマーフは貴賓席にいたな」
「うん。マーフさんの家は有力貴族で剣聖を多く排出している家系だから、剣術大会とかには貴賓としてよく呼ばれてるんだ」
「そうか…用事ってこのことだったんだな」
 パックも話に入ってくる。
「あのおねーちゃんあんな格好したら凄く綺麗だね」
「今度本人にあったら言ってやれよ。喜ぶぞ」
「それは師匠から言ってあげたほうがいいと思うんだけどなー」
 パックは含みのあるような言い方でシャウラの方を見て、シャウラも頷いている。

「なんで俺がそんなこと言わないといけないんだよ」
 腕を組み渋い表情で首を横に振りながらパックが話す
「師匠は女心がわかってないなー」
 シャウラも頷いている。

 そうして1時間程が経つと2回戦のため呼ばれる。

 会場に向かう通路でパックと話をする。
「もう大丈夫だな」
「はい。全然緊張してないです」
「それなら大丈夫だな」

 ドンとパックは突かれ、壁にぶつかりそうになる。
 パックは突かれた方をみて声を荒げる。
「イヴァン!」
「すまんすまん小さすぎて見えなかったわ。運で勝ったやつはいいよな」
「運じゃない。俺の実力だ」
「はい、はい。誰がどう見てもお前が強いとは思わないから」

 俺はイヴァンの方をみて話しかける。
「パックが運で勝ったと思ってるならおまえさん決勝でパックに負けるよ」

 一瞬イヴァンはきょとんとした顔をし呆れかえったというような表情で口を開いた。
「パックが決勝?お前の師匠はほんっっとに見る目がないんだな。まあお前の師匠にはお似合いか、ギャハハハ」
 腹を抱えて笑い出した。

 パックは拳を握り怒りを露わにし
「俺の悪口はいくら言ってもいい。でも俺の師匠の悪口は許さねぇ。決勝で待ってろ!!」
「お前も決勝に上がれると思ってるの?んなわけないだろ」
 イヴァンは肩で風を切りながら俺達の前から去っていった。

 パックは怒りで静かに震えている。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫です」
 パックは真剣な表情で俺を見た。

 2回戦が始まる。

 審判の開始の合図とともに1回戦のときと同様にパックが剣を振りかぶり一直線に突っ込む。しかしその顔は1回戦のときとは違い冷静に見える。

 シャウラが心配そうに聞いてくる。
「またやってるけど…」
「表情は落ち着いてる。何か考えがあるっぽいな」

 パックの最初の一撃はあっさりとかわされ、相手がカウンターを放ってくる。それをパックは紙一重でかわしたあと、反撃に転じ、相手の頭をポコンと剣で叩いた。

「勝負あり!」
 審判がパックの勝ちを宣言する。

 パックに駆け寄り声を掛ける。
「やるじゃないか、最初の一撃はわざとだろ?」
「はい!待ってて振ってくれないかもしれない。それだったら相手の攻撃を誘うにはどうしたらいいかって考えたんです」

 俺はパックの頭を脇挟み
「やるじゃねーかよ。ほんとにもう教えることなんもねーぞ」
「いてて、師匠痛いって」
 俺達はじゃれ合いながら控室戻っていった。

 パックはその後、順当に勝ち上がり、決勝戦を迎える事になった。

 決勝の相手はイヴァン・ライコフ。

 控室にパックの父親がやってきてパックの前に立ち話し掛ける。
「パック…決勝進出おめでとう。お前がここまで強くなったとはお父さん誇らしいよ」
「父ちゃん…ありがとう。俺、優勝するよ」
「あ、ああそれなんだが…」

 父親は俯きながらポツリポツリと話し出す。
「すまない…本当にすまない…パック…決勝は負けてくれ…」
「え…」
 パックは呆然とした表情になり、俺とシャウラもその言葉を聞いて唖然とする。
 父親は俯いたまま続ける。
「御当主様が約束してくれたんだ…決勝でお前が負けたら私をまた庭師として雇ってくれるって…」

 俺は怒りに震え、パックの父親を怒鳴りつけ
「あんた、本当に父親か!パックがどんな辛い思いしてきたかわかってんのか!あんたが庭師に戻れればそれでいいのか!パックの思いはどうなるんだ!!」
 拳を握り詰め寄ろうとする。それを見たシャウラは慌てて俺を止める。
「ラグウェル落ち着いて!」
「離せシャウラ!!」

 明るい声でパックが俺に話しかけてくる。
「師匠、俺のためにありがとう…でももういいよ」
 そして父親の方を向いて
「わかったよ。父ちゃん…父ちゃんが庭師に戻れるなら…あの格好いい父ちゃんにもどってくれるなら俺は負けるよ」

 係り員がやってきて
「パック選手時間です」
 晴れ晴れとした表情でパックは答える。
「はい!」

 そうしてパックは控室を出る。

 俺は父親に話しかける。
「あんたはそれでいいのかよ…自分の息子をだしに使われて、あいつらの言いなりになって」
「あんた達に俺の気持ちがわかるのか!2年だ2年間も仕事が無かったんだ…またライコフ家の仕事をさせてもらえれば他の仕事も戻ってくる…そうなれば」

「パックは格好いいあんたが好きだってさ…今のあんたは…もう何言ってもしょうがないか…」
父親は俯いたまま、床に涙をこぼしている。

「シャウラ行こう。パックの格好いいところ見に行こう」
俺とシャウラはパックの後を追いかけるように控室を後にした。






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