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第2章 騎士学校

第20話 21代目の剣聖?

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 あの女と会った次の日。
 朝、普通に登校すると門の前に馬車が止まっている。まあどこぞの貴族が来たのだろう程度に気にも止めず、学校内に入って行く。

 教室の席に着き、シャウラと雑談をしながら教師のロンドが入ってくるのを待つ。時計塔の鐘が鳴りガラガラと教室の戸が開く。ロンドと一緒に俺達と同じ青い制服で少し胸の膨らんだ赤い髪の人間が入ってきた。そしてその人間は教壇で正面を向く。

「あ!」
 俺は自然と声が出ていた。昨日図書館であった男の格好をしたお嬢様と言われていた女性がその場にいたのだ。
「おー昨日の図書館の」
 その女性はそういってニッコリ微笑んだ。

「なんだお前ら知り合いか?」
 ロンドが尋ねてくる。
 俺はブンブンと首を横にふる。
「まあいいか、それじゃ紹介する」
 そういってロンドは女性の名前を言う。
「この子はマーフ・アリステル、今日からお前らと一緒に勉強することになった」
 教室がガヤガヤと騒がしくなる。

「そうだろ前回の編入すら前代未聞だってのに、また編入生しかも女。こっちもおかしくなるわ」
 そういってロンドは困ったような表情をする。
 ロンドのボヤキは続く。
「まあ剣聖様のご推薦じゃ校長も断り切れなかったみたいだしな、俺が反対したところでな」

 ん?剣聖?ということはあの男の推薦ということか…

 マーフという女が口を開く。
「先生、自己紹介しても?」
「ああ、そうだった忘れてた。それじゃどうぞ」
「今日から皆さんと一緒に勉強することになった。21代目剣聖マーフ・アリステルです。あと私が女だからとか甘く見ないでくださいね。あなた達よりは強いから」
 マーフは大見得を切り、得意げな顔をしている。
「こらこら、君はまだ剣聖ではないだろう」
 ロンドが苦笑しながら突っ込んでいる。
「でも将来必ずなるなら今からそう言っても差し障りないでしょう」
 マーフの顔は当然といった表情である。

 シャウラがこっちをみて苦笑いをしている。
「凄い人が来たね」
「昨日図書館にいた女だ」
「え?あれが…」
「まさか編入してくるとは…」

 教室内は騒然としている。
 ロンドは少し怒ったような表情で口を開く
「静かに!」
 しかしその声は生徒たちのガヤガヤとした声にかき消される。

 ドンッ!!

 ロンドが机を叩くと教室内はシーンと静まり返る。
「まあ、皆が動揺するのも分かる。私も動揺している。まあ仕方ないと思って諦めてくれ。それじゃ空いていてる席は…とシャウラの横が空いてるな。じゃああそこへ座ってくれ」
 ロンドが指した場所はシャウラの左隣、俺はシャウラ右隣に座っているつまり同じ列に座ることになる。
 マーフは席にやってきてシャウラに
「よろしくねー」
 とニコっと笑顔で話しかける。
 シャウラは頭をかきながら耳を真っ赤にさせ照れているように見える。
「よろしく」
 といって右手を差し出し握手をしていた。

 そうして授業が始まる。
 始まって5分で例の魔物が俺に襲い掛かる。もう戦うことはしない。いつものことだそのまま瞳を閉じかけたときチラッとマーフの姿が目に入った。

 マーフはピンっと背筋を伸ばしまっすぐと黒板の方を向き真剣に授業を受けているように見える。
 俺は負けるのか?この女に…ダメだ!俺は負けない!とじかけていた目を強引に開く。

 どうだ?俺は起きているぞ!お前にだけは絶対に負けない!!剣聖には負けない!!!

 ロンドの声の合間に時折、スースーという寝息のような音が聞こえてくる。
 この俺が戦っているというのに誰だ!絶対に起こしてやる。
 そう思い周囲を見回すとみんな真面目に授業を受けているように見える。しかしこの寝息は極めて近くから聞こえてくる…

 俺はまさかシャウラが?そんなバカなと思い隣を見る。いやシャウラは真面目に授業を受けている。もう一度シャウラの隣にいるマーフの姿を見る。
 俺が見たときと同じ姿勢。背筋をピンと伸ばしその視線は黒板の方を…ってあれ目を閉じている?そして微妙に首がコクリコクリと動いているように見える。

 こいつ…寝てやがる…ならここで起きている自分の…勝…

 気がつくと時計塔の鐘がなっている。
 マーフを見ると奴も今起きましたというような表情で周囲をキョロキョロとしている。
 っち午前中の座学は引き分けということだな…しかし午後の授業になれば…

 昼休みマーフはどこかに消えていった。
 俺とシャウラはいつものように中庭で昼食を終え、青々とした芝生の上で寝そべっている。
「変な女だあのマーフってやつ」
「うん、でもアリステル家は有名な貴族の一つだよ」
「ふーん、でもなんでそんな貴族のご令嬢様が騎士学校にいるんだよ」
「そんなこと僕に聞かれてもわかんないよ。でもあの剣聖様の推薦ってことだから相当強いんじゃないかな」
「大口叩くだけ実力があるのかねぇ午後からあいつの本当の実力がわかるな」
「穏便にしてよねただでさえラグウェルは目立ってんだから」
「なんにもしないよ。動きみたら大体の強さはわかるでしょ」
「そうだねぇ…しかし午前中の授業寝ている二人に囲まれている僕の気持ちもかんがえてよね」
「魔物には勝てない…たとえ俺でも…」

 そして午後の授業が始まる。
 俺達はいつものように講堂に集合する。

 ちらっとマーフの方をみると俺達と同じ運動をする格好をしているのだが、制服を着ている時よりも胸の膨らみが目立つ。目が合うとこっちみんなといような表情でプイッとあっちを向いた。

 授業はエグルストンがいないので午後の授業もロンドが担当をしている。そのロンドが講堂に現れ、ロンドを中心に円になって集まる。
「今日はアリステルさんの実力もみたいから、基礎訓練から始めようか」

 全員が等間隔になり、板張りの床に伏せる。
「それじゃ腕立て伏せはじめ!」
 ロンドの合図で俺達は腕立て伏せを始めた。

「1」
「はい」
「2」
「はい」

 いつものようにリズミカルに腕立て伏せをしていく。そして
「5」
 と言った時、女性特有の高い声で
「あーもう無理ぃぃぃぃ」
 という声がし声の方を向く。

 腕をプルプルと震わせたマーフの姿があり、そのまま床に突っ伏したのである。

 それをみた俺の頭に?の文字が浮かぶ。いや俺だけではない教師を含む全員の頭に?が浮かんだはずである。

 その後の腹筋や背筋などの筋力系のトレーニングのすべて惨憺たる結果となった。

 こいつ本当に剣聖が推薦したのか?そうか剣聖の目は節穴だったんだな。俺の中でそう結論づけた。マーフ・アリステルはただの口だけの女と。

 ちょうどそのとき閉めていたはずの講堂の扉が開く。生徒たちの視線がそこに集まる。そこにいたのは20代剣聖レグルス・フェルトと校長が立っている。

 全員がその姿をみて直立不動となる。
 レグルスはそのまま講堂に入ってきてマーフに話しかける。
「どうだいマーフ。騎士学校に推薦してみたが」
「みーんな大したことないわね。誰も私に勝負してこないもの」
「そりゃ女性に勝負は挑みにくいからね」

 レグルスはこちらをむいて
「そうだ、ラグウェル君なら彼女も満足するだろうから勝負を受けてあげてくれないか?」
「俺は別にいいですよ」
「それじゃマーフ、彼と勝負をしてみてくれ」

 マーフは明らかに不満顔で
「私の相手をできるのはレグルスぐらいなのに」
「まあ、ラグウェル君に勝てたら私が相手をしますよ」
 レグルスがそう言うとマーフの顔は明るくなり
「わかったわ、それじゃちゃちゃっとやりましょうそこの冴えないあんた」
 と自信にあふれるような顔でいった。
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