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第1章 世界の果てと老騎士

第8話 決戦ー前編ー

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 『覚者』この世に強い恨みを持つものが、覚者として生者の森に現れるという。いつも同じ場所にいるわけではなく、世界の果てに点在している生者の森を転々としている。その移動方法などはわかっていないが、長時間戦うことはせず、奴が有利でも時間がくれば去り、こちらが追い詰めると隙をみてその姿を消す。

 岩がゴツゴツと転がっている荒涼とした赤茶けた大地の先に濃い緑色の森が現れる。あれが俺達が目指す東の果ての森。そこに必ず覚者が現れるわけではないが、ある程度の規則性があるようで、アルファルドが予測を立ててその場所に向かう。だいたい空振りのことが多いのだが、アテにするものもないのでアルファルドを頼りにしている。

「今回はいるかな」
「どうかな、この森は久しぶりだし、亡者の数も多いはずおそらくいるとおもうが」
「そっか…」

 俺はあの話を聞いて、覚者に遭遇するべきではない…どっちにしてもアルファルドが救われる話ではないのではないか…そういう考えが脳裏をよぎる。ならば、せめてあの覚者は俺の手で…

 緑色の苔にびっしりと覆われた木々が鬱蒼と生える巨大な森。俺達はそこに足を踏み入れる、枝や葉が太陽の光を遮り薄暗く、生者の森の独特な空気の澱みがあり、地面はうっすらとしめった落ち葉が蓄積しており、森に立ち入るものを拒んでいるかのようである。

 一歩森に足を踏み入れると、同じような景色がずっと続き、方向感覚が分からなくなる。

 俺は方位磁石を取り出す。その針はくるくると回り一定の場所にとどまらない。
 この東の森は磁石が役に立たない、アルファルドは空を見上げている。

 木々の枝葉が覆い茂りなかなか太陽の位置がつかめないが、それでもアルファルドには分かるらしく、ずんずんと置くへ入っていくため、素直にアルファルドの後をついて行く。

 アルファルドは歩みをとめ呟く。
「妙だな…」
「うん、気配がないね」
 森にはいったらすぐにでも感じる気配、今日はそれが感じられない。つまりこの森には亡者の気配がないのだ。
「この規模で亡者の気配がない…ということは」

 アルファルドは少し興奮気味に呟く。
「近くにいるな」
 そして俺に指示を出す。
「小僧、馬を結わえておけ」
「わかった」
 俺が近くの木に馬の手綱と結びつける。

 それが終わると、アルファルドと俺は剣を構え周囲に注意をしながら一歩ずつ森の奥を目指す。
 5分ほど森の奥に進んでいくと、木が少なり、太陽を遮る枝葉が無くなり丸い太陽が目に入ってくる、目の前には胸の高さほどの草が生えた草むらが現れる。

 その場所に既視感を覚える。
 そうか、俺がはじめて覚者と遭遇した場所に似ているのだ、あの時はアルファルドに待っていろといわれたけど、待ちきれなくなって、アルファルドの後をおいかけたんだっけか…
 アルファルドはそれを叱ることはなかったな…

 草むらをかき分けて、数十歩ほど進むと草むらが途切れる。
 綺麗な円を描くように草の背が低くなり、円の中心で一匹の亡者がよろめき倒れた。

 それを見たアルファルドの表情が引きつる。
「くるぞ!!」
 俺達の反対側から、全身鈍い鉄色に輝く甲冑姿の奴が現れ、手から黒い煤のようなものを出し亡者の体を包む。その煤が無くなると亡者は跡形もなく消えていた。

 俺の心臓が高鳴る。こいつとアルファルドと戦わせちゃだめだ、俺がこいつを倒す!!

 そう思った瞬間、俺は体が勝手に動き、すこし濡れた土を蹴り覚者との間合いを詰めていた。
 アルファルドが俺に叫ぶ
「小僧だめだ!!」
 もう止まれない、俺は右手に持った剣を振りかぶりそのまま覚者を斬り付ける。

 奴はすっと身を引き、俺の攻撃をかわす。

 かわされた瞬間、振り返りながら横に薙ぐように斬り付ける。それを奴は自分の身長ほどの長剣でうけとめる。
 キーーーーン!!
 金属と金属がぶつかる音が森に響く。

 奴はとんでもない馬鹿力で受け止めた剣を弾く。
 弾かれた俺は右手が上がり胴体ががら空きになる。
 そこに奴は剣を振り下ろす。

 だめだ、かわせない!!間に合わない!!
 俺が諦めかけたその時、キーーーン!!という金属音がした。

 アルファルドの剣が見えた。

 間一髪アルファルドが奴の剣を受けてくれたのだ
「小僧先走るな!」
「ごめん…」
 アルファルドは真っ直ぐに覚者を見つめ呟く。
「森に入る前に変なことをいったからなそのせいか…小僧いつもの感じでやれ」
「…うん」
 アルファルドは奴の剣を上に弾く、そして俺達は後ろにとび間合いを取る。

 いつも通り…俺がある程度戦えるようになってからは、2人で覚者と戦っている。初めはアルファルドがある程度指示を出すのでその通りに動いていたのだが、最近ではその指示を先読みして動けるようになってきている。
 アルファルドが動く。
 俺もそれに合わせて、奴の右側から斬りかかる。当然のようにアルファルドも俺と同じタイミングで左から斬りかかる。


 剣を頭の上で横にしそれを平然と受け、弾き返す。

 俺達はそのまま後ろに跳び下がり、地面に着地したその瞬間、アルファルドが飛び込み突きを繰り出す。
 覚者は上体を反らし、それをかわしながら、長剣を振りその剣先がアルファルドの体をかすめる。ボロ布の外套を切り裂き、下に着込んだ鎖帷子も切れて血が噴き出すの見えた。

 一方、俺は高く飛び上がり、上体を反らしている覚者に剣を振りおろす。

 奴はそのまま体を起こし、俺の剣は奴の背中をかすめる。
 そしてクルリと俺のほうを向いて、右手の長剣を振り回す。

 金属と金属がぶつかり合う高い音が鳴り響く。

 両手に持った剣でその振り回された剣を受け止めたのだが、そのあまりにも強い力のため足に力をいれて踏ん張る、こうでもしないと、後ろに吹っ飛ばされかねない。
 そのまま、鍔迫り合いの形になるが、力の差が顕著で押し負けそうになる。
 腹に衝撃を受け、力が抜ける。奴は膝で俺の腹を蹴り上げたのだ、そのまま倒れそうになる俺の首を掴む、薄れゆく意識のなかで奴が剣を構えているのだけがみえた。







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