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第23話 見廻り任務

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 ――その夜

 相部屋のデュークが仕事を終えて帰ってくる。
「ご愁傷様です」
 俺の顔をみるなりデュークはそういった。

「まさかのアレジオさんですか……」
「うん。でもなんとかなりそうです」

 明るい表情でデュークが話し掛けてくる。
「聞きましたよ。道場の件と剣聖に怒られた件。ほんとざまぁですよ。性格悪いって有名ですしね」
 それを聞いて俺はすまし顔でデュークに語りかける。

「俺の才能は騎士という器では収まらないのかも知れない」

「そんなセリフ、ウェブさんしか言えませんよ。流石、副団長とアレジオの入団試験を突破しただけのことはありますね!」

「まあ俺からは才能が溢れてるからどんなに目が悪くてもこの才能は見逃せないんですよ」

「そっかぁ……凄いですウェブさん」

 デュークはそう言ったあと表情を変え神妙な面持ちで話しを続ける。
「でも、あのアレジオが簡単に引き下がるとは思えないので注意してくださいね」

「大丈夫ですよ。返り討ちしてやりますから」

 ――翌日

 騎士団本部に行くとイライラ腕を組んでイライラした様子のアレジオの姿がある。俺を見かけるとキッと睨んで怒ったような口ぶりで話しかけてくる。

「遅い! 新人は教育係より早く騎士団本部にやってこなくてはならない!! そんなことも知らんのか!」

 あんたが教えてくれてない所為だよと心の中で思いつつとりあえず謝っておく。

「すいません……」

「まあいい。今日は騎士の仕事の一つである街の治安維持の為の見廻りだ」
「はい」

 ということでアレジオと一緒に騎士団本部の受付でアレジオが紙を受け取ってそれを見て舌打ちをしている。

「っち今日はよりにもよってゴミ溜めか……」
 そう呟いた。

 ということでアレジオに付いて行くと庶民の台所、王都のクーン市場にやってくる。人々が行き交い活気に溢れた市場だ。

 王都の市場ということもあって古今東西の様々な物が集まってきている。

「俺、ここに来るの初めてです。すごい人ですね」
 アレジオにそう言うとアレジオは口元をハンカチーフで覆っている。

「臭い……臭い……庶民どもが臭い……ほんとにここゴミ溜めだな……」
 そう呟いている。

 臭い? 俺の嗅覚は(特)で強化されてるはずだけどなんにも臭わないけど……

「そうですか? 俺、結構鼻が利く方ですけど全然臭いませんけど?」
 俺がそう言うと腐ったものでもみるような目で俺を見る。

「これは本物の貴族である俺にしか臭わない物だ。お前のような庶民あがりの騎士には分からない」

「そうですか。それは大変ですね……」

「ああ。本物貴族というものは実に大変なものなのだ」

 すると一人の少年? がタッタッタッと走ってきてドンとアレジオに当たる。

 俺は動体視力(特)に強化された目は、その少年がアレジオの胸ポケットから何かを盗ったのを見逃さない。

 アレジオは激昂し「おい。この糞ガキ!! 誰にぶつかってるのか分かるのか!! アレジオ・ファフナーだぞ! ここで叩き斬ってやる!!」と叫ぶ。

 その少年は「騎士さんごめんなさーい」とふざけた感じでいうと走って逃げていく。

「追え! ウェブ! 貴族に対する不敬罪で叩き斬ってこい」

「は、はい……」
 ということでその少年を走って追いかける。

 というか、アレジオ自分の財布がすられたことも気がついてないんだろうな……あの様子じゃ。

 当然俺の速さで追いつけないものは無く、数分で路地裏に少年を追い詰める。その少年の年の頃は15,6といったところで耳に掛かる程の長さの茶色の髪で生意気そうな顔をしている。ボロ布の服にズボン。その身なりからして貧民街の住人であることが分かる。

 金に困ってスリをする子供達が多いというのは聞いたことがある。

「ハァハァハァハァ……はえぇぇなあんちゃん……」
 少年は観念をしたのか息を切らしながら話しかけてくる。

「まあな。俺は素早さSだ。あとその手に持ってる物、返してくれない? あいつには落としてたってことにするからさ」

 少年の手には革製の重そうな巾着袋が握られている。

「……それはできない。あんたら貴族は俺っち達から搾り取った金で贅沢をしてる。俺っち達は今日食うものにも困ってるってのにさ!」

「まあ。俺は貴族じゃないけどな」

「へっへーん。俺っちだって金持ってるやつの臭いぐらいわからぁ!! だからあんたからはスラなかったってだけ」

「なるほど。俺は貧乏臭いと……」
 まあ確かに俺は財布に入れる金がないからそんなものもってないし、毎日雑草を食べる日々。そりゃ貧乏くさくもなる。第一まだ給料貰ってない。

「確かに、毎日雑草食ってるからな。そりゃ貧乏臭くもなるわな……」

「雑草……あんちゃん馬鹿なの?」

「馬鹿じゃねぇーよ」
 そう言って路地裏に生えている草をむしって口の中に放り込む。

 少年はその姿を見てゲラゲラと腹を抱えて大笑いをする。
「俺たち貧民でさえ、そんな草はくわねーよ」

「そうか? 結構美味いけど?」

「あんちゃん面白いね。俺っちの負けだわ。俺っちの名前は貧民街のクトリフ、これでも貧民街じゃ名は通ってる。あんちゃんの名前は?」
「俺か?ウェブだ。ウェブ・ステイ」

「ほら財布返してやるよ」
 革でできた高そうな袋できた財布を放り投げる。

「ありがとよ。クトリフ。なんか困ったことがあったら相談に乗ってやるから」

「っていうか大丈夫なのかよ。あの騎士俺を殺せって叫んでなかった?」

「大丈夫。大丈夫。見失ったっていっておくし、財布拾いましたっていったらどうせ真っ赤な顔するから」

「ふーん。色々あるんだね」

「まあな」


 クトリフと別れ、アレジオのところに戻る。

「すいません。取り逃がしました……」

「なんだと!! くそ使えないクズだな。お前は!! このことは本部に帰ったら報告するからな!!」

「すいません。それとこれ落ちてましたんで……」

 アレジオという名前の入った革製の巾着袋をアレジオに見せる。

 それを見せると顔を真っ赤にさせ奪い取る。
「糞が!! 中身が全部石に変わってやがる!!」

「え……まさかさっきの少年にスラれた?」

「……そんなことがあるわけなかろうが!! 騎士であるこの俺が財布をスラれるなど! これは俺が財布を落としたのだ! そうだった! 貴重な石を購入したばかりで財布の中にいれておったの忘れていた」

 俺はホッとした表情を作ってアレジオに話しかける。
「そうですよね。騎士たるものがスラれる様な隙をみせる訳がありません。アレジオ様ともあろう騎士がそのようなことをあるわけありませんよね。疑ってしまってすいません……」

「そ、そうだな……」
 アレジオはそう言うと足早に歩いていった。

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