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第三話
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村の入口である門で注目を集めてしまったアインとティナであったが、その内容は大声をあげただけであったため、門番からあまり騒がないよう注意を受けたもののお咎めは特になく、すぐに宿屋へと向かうことになった。
「うぅ……恥ずかしかったです」
「俺は楽しませてもらったけどな」
「私が原因だから文句言いたくても言えないのが悔しいです」
旅の恥は掻き捨てというが、アインなら当てはまるもののティナはリーナに住んでいる身だ。注目を浴びた事がよほど恥ずかしかったのかしばらく時間が経ったというのに未だ顔を赤くしている。
アインとしては弄りたい気持ちもあるが、今から世話になる身としてはそのまま落ち着くのを待つのが吉だろう。だが、あえてアインは弄りに入った。
「あんな大声出すなんて、そんなに俺を村に招待したかったのか?」
他愛もない気軽に流せる程度の弄りのつもりであったのだろう、特に考えることもなくアインはそれを口にした。普段のティナならこの程度の会話はうまく合わせていた筈だ。だが、それが事実であったならどうだろうか。答えはティナの顔にあった。
「あ……あの、えっと……」
先ほどまでとは比べ物にならないほどに赤い顔と、うまく言葉が出てこない慌てよう。多少慌てるだろう、そう予想していたアインであったがそれは大きく裏切られてしまった。
人からの感情には疎いと自覚があるアインだが、ここまで露骨な態度を取られれば好意を持たれていることはさすがに理解できてしまう。いっそ理解できないほどに朴念仁であったほうが救いがあったかもしれない。
「お~い、大丈夫か? 冗談にそんなに反応するなんてどんだけ初心なんだ?」
場を濁すとでも言えば良いのだろうか。好意に気付いていながら、それを誤魔化し気付いてないように振る舞った。男としては情けない話だが逃げたとも言える。だが、ティナにとってはそのほうがありがたかった。
「あはは、こちらも変に慌ててしまってすいません。でも、アインさんを招待したいのは本当ですよ」
ティナの気持ちは確かに恋心と言えるだろう、本人もそれは自覚している。だがそれを受け入れられているかと言えば否と言わざるをえない。だからこそ核心をついた言葉に思考が停止してしまった。今ティナに必要なのは自分の気持ちと向き合う時間だろう。
その後は互いに無言になってしまったが、それでも宿屋へ向けて足は進んでいる。アインに恋愛経験があればここで何かしらのフォローを入れて会話を続けていただろうが、残念ながら恋愛そのものに興味がなくこの場では流れに身をまかせるしかなかった。
とはいえ、リーナはそこまで大きな村ではないため宿屋まではすぐだった。
「見えてきましたよ。あれがうちの宿屋です」
ティナが指を指す方に視線を向けるとこじんまりとした宿屋、アクアが見えてきた。
既に照れは落ち着いたのだろう、ティナの顔に笑顔が戻っていた。それは家に帰ってこれた喜びも含まれているのか、より柔らかな印象を受ける。
「無事に帰って来れて良かったな」
「はい! アインさんのおかげです、ありがとうございます!」
「どういたしまして。早く中に入って家族に顔見せてやったらどうだ?」
「そうですね。でもその前に一つ良いですか?」
「なんだ?」
「アインさん、いらっしゃいませ!」
「あぁなるほど。じゃあお世話になるとしますか」
互いにクスクスと笑い合うと、少し年季の入った入り口をティナが開ける。すると来客を知らせるベルが鳴り奥から細身の男性が現れた。
「いらっしゃいま……ティナ」
「あ、お父さんただいま。あのね、今日森で」
「ティナァァァ! よく無事に帰ってきてくれた! 帰りが遅いから心配してたんだぞ! 怪我はないか!? 怪我はないかぁぁぁ!!」
「だ……大丈夫だよお父さん。遅くなったのはごめんね、というか恥ずかしいから抱きしめないでよ」
「娘の無事を喜ぶことのどこが恥ずかしいというんだ!」
「抱きしめられることが恥ずかしいの!」
「そんな!? だが離さんぞ! 絶対に離さんぞ!!」
ティナを抱きしめる細身の男性はティナの父親らしい。あまり活動的には見えないが、実際には家族思いの熱さを持っているようだ。もっもと少々いきすぎているのは否めない。
ティナも生きて家族と再会できたのだから嬉しいに決まっている。だが明らかに恥ずかしさが勝っているようだ。そもそも、ティナの帰りが遅くなったとはいえ暗くなる時分というわけでもない。つまりは過剰な心配だということだ。
「ア……アインさん、助けてください」
「俺にも手に負えないな。しばらく抱きしめられてれば満足するだろ」
「いやぁぁ!」
アインに見捨てられたティナの絶叫が小さな宿屋に響く。とはいえその光景は平和と言えば平和だろう。ゴブリンに追い詰められていた時の絶望した色はなくどこか楽しげだ。
「あらあら、お父さんったらはしゃいじゃって」
おそらく母親だろう、ティナをそのまま大人にしたような女性がエプロン姿で出てきた。調理中だったのだろうが表の騒がしさが気になったようだ。
「あ、お母さんただいま。お父さんを何とかして!」
「ええ、お帰りなさい。この状態のお父さんは私でもどうにもならないかなぁ。諦めてしばらくそのままでいてあげて?」
「いやぁぁ!」
再度ティナの絶叫が響く。女性はやはり母親らしいが、アインに続いて見捨てられるとは憐れとしか言いようがない。もはや観念したのか静かになるティナだが、とりあえずは帰りが遅くなった理由を両親に伝え始めた。その中でアインについて説明する時に目が輝いているのがティナの素直さを表している。
やがて、説明が終わると父親は魔物に襲われながらも無事帰宅したことに感動し号泣、更に強くティナを抱きしめ始めた。これはもう末期症状だな、と口から魂が抜けかけているティナを遠い目で見ていたアインに母親が近づいてきた。
「アインさん、この度は娘を助けていただいてありがとうございます。」
「気にしないで下さい。それよりもその娘さんが今にも死にそうなんですが良いんですか?」
「ふふふ、愛情表現と思ってください。心配してた分、普段より暴走してるみたいですけど……」
「はぁ、随分激しい愛情表現ですね」
「それだけ嬉しいってことですよ。さっきまでティナを探しに行くって暴れて大変だったんです」
「今も大暴れしているような……」
「とりあえずあの二人は置いておきましょう。本日はこちらに宿泊予定と娘から聞きました。是非宿泊料を無料にさせてください」
「そこまでしていただいて良いんですか?」
「娘の命を救っていただいのですからこれぐらいは当然です。それにお金もあまりお持ちではないと聞きましたが……」
「恥ずかしながら……ではお言葉に甘えさせていただきます」
「ふふふ、では決定ですね。そういえばまだ自己紹介していませんでしたね。フィーネと申します。夫はマイト、ご覧の通り暑苦しい男です。そういうところが可愛いんですけどね」
「客の前で惚気ないでください……」
フィーネはマイトの事を考えているのか両手を顔に当て体をくねりながら照れている。その表情は非常にティナに似ていた。いや、ティナがフィーネに似ているのだろう。マイトに似なくてよかったと心から思うアインであった。
そんな失礼な事を考えていたアインであったが、ふと突き刺さるような視線に気付く。
「なんかすごい見られてるからそろそろ助けてあげたらどうです?」
「ふふふ、そうですね」
視線の主はジト目で二人を見つめているティナであった。今の興奮しているマイトに近づく勇気がないアインは全てをフィーネに任せるのであった。
「うぅ……恥ずかしかったです」
「俺は楽しませてもらったけどな」
「私が原因だから文句言いたくても言えないのが悔しいです」
旅の恥は掻き捨てというが、アインなら当てはまるもののティナはリーナに住んでいる身だ。注目を浴びた事がよほど恥ずかしかったのかしばらく時間が経ったというのに未だ顔を赤くしている。
アインとしては弄りたい気持ちもあるが、今から世話になる身としてはそのまま落ち着くのを待つのが吉だろう。だが、あえてアインは弄りに入った。
「あんな大声出すなんて、そんなに俺を村に招待したかったのか?」
他愛もない気軽に流せる程度の弄りのつもりであったのだろう、特に考えることもなくアインはそれを口にした。普段のティナならこの程度の会話はうまく合わせていた筈だ。だが、それが事実であったならどうだろうか。答えはティナの顔にあった。
「あ……あの、えっと……」
先ほどまでとは比べ物にならないほどに赤い顔と、うまく言葉が出てこない慌てよう。多少慌てるだろう、そう予想していたアインであったがそれは大きく裏切られてしまった。
人からの感情には疎いと自覚があるアインだが、ここまで露骨な態度を取られれば好意を持たれていることはさすがに理解できてしまう。いっそ理解できないほどに朴念仁であったほうが救いがあったかもしれない。
「お~い、大丈夫か? 冗談にそんなに反応するなんてどんだけ初心なんだ?」
場を濁すとでも言えば良いのだろうか。好意に気付いていながら、それを誤魔化し気付いてないように振る舞った。男としては情けない話だが逃げたとも言える。だが、ティナにとってはそのほうがありがたかった。
「あはは、こちらも変に慌ててしまってすいません。でも、アインさんを招待したいのは本当ですよ」
ティナの気持ちは確かに恋心と言えるだろう、本人もそれは自覚している。だがそれを受け入れられているかと言えば否と言わざるをえない。だからこそ核心をついた言葉に思考が停止してしまった。今ティナに必要なのは自分の気持ちと向き合う時間だろう。
その後は互いに無言になってしまったが、それでも宿屋へ向けて足は進んでいる。アインに恋愛経験があればここで何かしらのフォローを入れて会話を続けていただろうが、残念ながら恋愛そのものに興味がなくこの場では流れに身をまかせるしかなかった。
とはいえ、リーナはそこまで大きな村ではないため宿屋まではすぐだった。
「見えてきましたよ。あれがうちの宿屋です」
ティナが指を指す方に視線を向けるとこじんまりとした宿屋、アクアが見えてきた。
既に照れは落ち着いたのだろう、ティナの顔に笑顔が戻っていた。それは家に帰ってこれた喜びも含まれているのか、より柔らかな印象を受ける。
「無事に帰って来れて良かったな」
「はい! アインさんのおかげです、ありがとうございます!」
「どういたしまして。早く中に入って家族に顔見せてやったらどうだ?」
「そうですね。でもその前に一つ良いですか?」
「なんだ?」
「アインさん、いらっしゃいませ!」
「あぁなるほど。じゃあお世話になるとしますか」
互いにクスクスと笑い合うと、少し年季の入った入り口をティナが開ける。すると来客を知らせるベルが鳴り奥から細身の男性が現れた。
「いらっしゃいま……ティナ」
「あ、お父さんただいま。あのね、今日森で」
「ティナァァァ! よく無事に帰ってきてくれた! 帰りが遅いから心配してたんだぞ! 怪我はないか!? 怪我はないかぁぁぁ!!」
「だ……大丈夫だよお父さん。遅くなったのはごめんね、というか恥ずかしいから抱きしめないでよ」
「娘の無事を喜ぶことのどこが恥ずかしいというんだ!」
「抱きしめられることが恥ずかしいの!」
「そんな!? だが離さんぞ! 絶対に離さんぞ!!」
ティナを抱きしめる細身の男性はティナの父親らしい。あまり活動的には見えないが、実際には家族思いの熱さを持っているようだ。もっもと少々いきすぎているのは否めない。
ティナも生きて家族と再会できたのだから嬉しいに決まっている。だが明らかに恥ずかしさが勝っているようだ。そもそも、ティナの帰りが遅くなったとはいえ暗くなる時分というわけでもない。つまりは過剰な心配だということだ。
「ア……アインさん、助けてください」
「俺にも手に負えないな。しばらく抱きしめられてれば満足するだろ」
「いやぁぁ!」
アインに見捨てられたティナの絶叫が小さな宿屋に響く。とはいえその光景は平和と言えば平和だろう。ゴブリンに追い詰められていた時の絶望した色はなくどこか楽しげだ。
「あらあら、お父さんったらはしゃいじゃって」
おそらく母親だろう、ティナをそのまま大人にしたような女性がエプロン姿で出てきた。調理中だったのだろうが表の騒がしさが気になったようだ。
「あ、お母さんただいま。お父さんを何とかして!」
「ええ、お帰りなさい。この状態のお父さんは私でもどうにもならないかなぁ。諦めてしばらくそのままでいてあげて?」
「いやぁぁ!」
再度ティナの絶叫が響く。女性はやはり母親らしいが、アインに続いて見捨てられるとは憐れとしか言いようがない。もはや観念したのか静かになるティナだが、とりあえずは帰りが遅くなった理由を両親に伝え始めた。その中でアインについて説明する時に目が輝いているのがティナの素直さを表している。
やがて、説明が終わると父親は魔物に襲われながらも無事帰宅したことに感動し号泣、更に強くティナを抱きしめ始めた。これはもう末期症状だな、と口から魂が抜けかけているティナを遠い目で見ていたアインに母親が近づいてきた。
「アインさん、この度は娘を助けていただいてありがとうございます。」
「気にしないで下さい。それよりもその娘さんが今にも死にそうなんですが良いんですか?」
「ふふふ、愛情表現と思ってください。心配してた分、普段より暴走してるみたいですけど……」
「はぁ、随分激しい愛情表現ですね」
「それだけ嬉しいってことですよ。さっきまでティナを探しに行くって暴れて大変だったんです」
「今も大暴れしているような……」
「とりあえずあの二人は置いておきましょう。本日はこちらに宿泊予定と娘から聞きました。是非宿泊料を無料にさせてください」
「そこまでしていただいて良いんですか?」
「娘の命を救っていただいのですからこれぐらいは当然です。それにお金もあまりお持ちではないと聞きましたが……」
「恥ずかしながら……ではお言葉に甘えさせていただきます」
「ふふふ、では決定ですね。そういえばまだ自己紹介していませんでしたね。フィーネと申します。夫はマイト、ご覧の通り暑苦しい男です。そういうところが可愛いんですけどね」
「客の前で惚気ないでください……」
フィーネはマイトの事を考えているのか両手を顔に当て体をくねりながら照れている。その表情は非常にティナに似ていた。いや、ティナがフィーネに似ているのだろう。マイトに似なくてよかったと心から思うアインであった。
そんな失礼な事を考えていたアインであったが、ふと突き刺さるような視線に気付く。
「なんかすごい見られてるからそろそろ助けてあげたらどうです?」
「ふふふ、そうですね」
視線の主はジト目で二人を見つめているティナであった。今の興奮しているマイトに近づく勇気がないアインは全てをフィーネに任せるのであった。
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