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ヒステリックに怒る妻が太陽を目指した話
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昔、ある男がこう愚痴を漏らした。
「奥さんがさ、子どもたちにヒステリックに怒るんだよ。怒ると叱るは違うでしょ? 自分が辛いから怒ってるようで本当嫌だ。朝から菓子パンだけとか手抜きでさ。子どものご飯なのにさ」
それを聞いた私は「そうか。ずっと怒鳴られてたらそりゃ嫌だね」と返したと思う。
当時、私は最初の結婚をしていたが、子どもはいなかった。おまけに夫婦ともに朝食をとらない習慣だったので他人事だったのだ。
しかし、必ず朝食をとる人と二度目の結婚をし、二人のイヤイヤ期男児を抱える今はきっと、鬼も逃げ出す迫力の笑みでこう返すだろう。
「嫁に『嫌だな、手抜きだな』と思うそのとき、何をしている? テレビか? ゲームか? 黙って苦い顔をして見ているだけか? なぜ父親であり家族であるあなたが家事育児はしないのか? 子どもを怒らずに叱りたいならあなたがさとせ。共働きなんだから、菓子パンが嫌ならあなたが作れ。何もしないのに不満なのはどこかに『嫁がやるべき』という固定概念があるのではないか? 家族の、父親の、夫の当事者意識を持て」
子どもたちにヒステリックに怒る妻の姿はSOSだと思う。
私の夫は今でこそ毎日の朝食とお弁当を作ってくれるが、朝6時に出勤し夜7時に帰っていた時期は仕事に追われて余裕がなかった。同時に、親兄弟・親戚もいない地でイヤイヤ期の一歳六ヶ月違いの息子二人を抱えた私も鬱だった。
我が家の子どもたちは発達障害で言葉が遅く、何を求めてぐずるのか理解してあげられないことが多い。具合が悪くてベッドから起き上がれなくても、6時間のパートと掃除洗濯、オムツ替えや食事の世話、子どもの歯磨きと入浴、こども園の準備と夕飯の支度、猫の世話はワンオペでこなさなければならなかった。
家事が間に合わないときは罪悪感にかられる。掃除や洗い物すらマメに綺麗にできないなんて申し訳ないと思いながらも、ワンオペ育児の中、帰宅した夫を笑みで迎えるゆとりは持てなかった。それどころか、子どもたちを何時間も寝かしつけて家事もすすまないのに、一人晩酌を始めてのんびりする夫に苛立ってしまい、精神的にギリギリだった。
家族のために丸一日働いて、やっと帰ったのに妻が険しい顔をしていたときの夫の憂いはいかばかりだっただろう。ためこんだストレスを発散して明日のためにゆっくり休みたい気持ちを苛立たれた夫はさぞ窮屈だったに違いない。それもわからないほど、追い込まれた私の想像力もいたわりも死んでいた。
何度も大声を上げて泣いた。気が狂いそうで自分の髪をかきむしった。そしていつしか、私は子どもたちにヒステリックに怒る妻になっていた。
それに気づいたとき、罪悪感と嫌悪感が更に私の首をしめた。理想と現実の隔たりは自分の度量の狭さだと泣いた。
疲れた夫は私がヒステリックに怒るたびに黙ってドアを閉めて部屋にこもるようになった。何も言わずに外に出て行ったこともある。お互い大きなため息を見せつけ合うような日々が続いた。
正直なところ、夫とはその頃から会話どころか目が合うこともなかった。もし彼に新しい恋をするチャンスがあったならよろめいていたかもしれない。家に帰りたくないと結婚を後悔したかもしれない。私の不安定さはひどく、夫婦が『単に一緒に暮らすだけ』の二人に変わっていた。
そんなある日、母の言葉が流れを変えた。
「女は太陽になって家族を照らさなきゃだめよ。にこにこ、穏やかにね。そうしたら家族も輝きます」
その言葉を思い出したとき、今まで夫が太陽になろうと頑張ってくれていたことに気づいた。
家にいない間、家事育児に参加できないかわりに休日は家族のために疲れていても外に連れ出してくれた。アイスや夜食を買ってきていたわってくれた。他にも彼は彼なりにできることをしようとしていた。妻はダイエット中だったけれども。
しかし私は自分の首に絡みつく真綿をひきちぎろうともがくばかりで、さびしさをこじらせた。隣に寄り添ったり、夫の人肌を感じながら眠ることのない孤独感を埋めたいのに、彼はきっともう気持ちがさめていると思った。自分より他の人と過ごすほうが気楽で好きなのだと惨めさに気が狂いそうだった。
ちょうどその頃、ある出来事があって「お互い家族を優先させよう」と夫と話をした。
私が限界を迎えているときにドアをしめられて絶望感しかなかったと言うと、彼は「君がヒステリックになって自分が進みでる雰囲気ではなかった」と答えた。
直後、とっさに「助けてほしいの。頼りにしてるから」と声を振り絞っていた。
そのとき、私はずっとこれを言いたくて、でも疲れている彼に言えないジレンマを抱えていたのだと気がついた。「言わなきゃわからない」とよく聞くが、言うのも勇気がいるものだ。
それ以来、夫も私も変わったように思う。夫は得意な朝食とお弁当作りをかってでてくれ、私は怒鳴ることがなくなった。
子どもたちのために太陽であり続けようと誓った。のびのびと安心しきって過ごせる場所が私のそばであるように。
太陽の光は子どもたちの笑顔を照らし、同時に私と夫のエゴや固定概念という影も浮き彫りにした。夫の独身時代にしみついた価値観を私はどうしても容認できない。今では私と夫の間には不毛な砂漠がよこたわっていると感じている。太陽は必ずしも穏やかな日差しだけではないということだ。
ちなみに私に愚痴をこぼした男は妻のSOSを見逃し、離婚した。彼の妻が心境を打ち明けたときには、その手に離婚届があったそうだ。よく聞けば、彼女からのSOSはもっと前からあった。でも夫から見るとそれは些細でとりとめもないことだったらしい。
相手を輝かせるのは自分であり、相手を不満に思うなら自分もまた不満を抱かれている。夫婦とは合わせ鏡なのかもしれない。
さて、私と夫を隔てた砂漠が緑化することはあるのか、神のみぞ知るである。
「奥さんがさ、子どもたちにヒステリックに怒るんだよ。怒ると叱るは違うでしょ? 自分が辛いから怒ってるようで本当嫌だ。朝から菓子パンだけとか手抜きでさ。子どものご飯なのにさ」
それを聞いた私は「そうか。ずっと怒鳴られてたらそりゃ嫌だね」と返したと思う。
当時、私は最初の結婚をしていたが、子どもはいなかった。おまけに夫婦ともに朝食をとらない習慣だったので他人事だったのだ。
しかし、必ず朝食をとる人と二度目の結婚をし、二人のイヤイヤ期男児を抱える今はきっと、鬼も逃げ出す迫力の笑みでこう返すだろう。
「嫁に『嫌だな、手抜きだな』と思うそのとき、何をしている? テレビか? ゲームか? 黙って苦い顔をして見ているだけか? なぜ父親であり家族であるあなたが家事育児はしないのか? 子どもを怒らずに叱りたいならあなたがさとせ。共働きなんだから、菓子パンが嫌ならあなたが作れ。何もしないのに不満なのはどこかに『嫁がやるべき』という固定概念があるのではないか? 家族の、父親の、夫の当事者意識を持て」
子どもたちにヒステリックに怒る妻の姿はSOSだと思う。
私の夫は今でこそ毎日の朝食とお弁当を作ってくれるが、朝6時に出勤し夜7時に帰っていた時期は仕事に追われて余裕がなかった。同時に、親兄弟・親戚もいない地でイヤイヤ期の一歳六ヶ月違いの息子二人を抱えた私も鬱だった。
我が家の子どもたちは発達障害で言葉が遅く、何を求めてぐずるのか理解してあげられないことが多い。具合が悪くてベッドから起き上がれなくても、6時間のパートと掃除洗濯、オムツ替えや食事の世話、子どもの歯磨きと入浴、こども園の準備と夕飯の支度、猫の世話はワンオペでこなさなければならなかった。
家事が間に合わないときは罪悪感にかられる。掃除や洗い物すらマメに綺麗にできないなんて申し訳ないと思いながらも、ワンオペ育児の中、帰宅した夫を笑みで迎えるゆとりは持てなかった。それどころか、子どもたちを何時間も寝かしつけて家事もすすまないのに、一人晩酌を始めてのんびりする夫に苛立ってしまい、精神的にギリギリだった。
家族のために丸一日働いて、やっと帰ったのに妻が険しい顔をしていたときの夫の憂いはいかばかりだっただろう。ためこんだストレスを発散して明日のためにゆっくり休みたい気持ちを苛立たれた夫はさぞ窮屈だったに違いない。それもわからないほど、追い込まれた私の想像力もいたわりも死んでいた。
何度も大声を上げて泣いた。気が狂いそうで自分の髪をかきむしった。そしていつしか、私は子どもたちにヒステリックに怒る妻になっていた。
それに気づいたとき、罪悪感と嫌悪感が更に私の首をしめた。理想と現実の隔たりは自分の度量の狭さだと泣いた。
疲れた夫は私がヒステリックに怒るたびに黙ってドアを閉めて部屋にこもるようになった。何も言わずに外に出て行ったこともある。お互い大きなため息を見せつけ合うような日々が続いた。
正直なところ、夫とはその頃から会話どころか目が合うこともなかった。もし彼に新しい恋をするチャンスがあったならよろめいていたかもしれない。家に帰りたくないと結婚を後悔したかもしれない。私の不安定さはひどく、夫婦が『単に一緒に暮らすだけ』の二人に変わっていた。
そんなある日、母の言葉が流れを変えた。
「女は太陽になって家族を照らさなきゃだめよ。にこにこ、穏やかにね。そうしたら家族も輝きます」
その言葉を思い出したとき、今まで夫が太陽になろうと頑張ってくれていたことに気づいた。
家にいない間、家事育児に参加できないかわりに休日は家族のために疲れていても外に連れ出してくれた。アイスや夜食を買ってきていたわってくれた。他にも彼は彼なりにできることをしようとしていた。妻はダイエット中だったけれども。
しかし私は自分の首に絡みつく真綿をひきちぎろうともがくばかりで、さびしさをこじらせた。隣に寄り添ったり、夫の人肌を感じながら眠ることのない孤独感を埋めたいのに、彼はきっともう気持ちがさめていると思った。自分より他の人と過ごすほうが気楽で好きなのだと惨めさに気が狂いそうだった。
ちょうどその頃、ある出来事があって「お互い家族を優先させよう」と夫と話をした。
私が限界を迎えているときにドアをしめられて絶望感しかなかったと言うと、彼は「君がヒステリックになって自分が進みでる雰囲気ではなかった」と答えた。
直後、とっさに「助けてほしいの。頼りにしてるから」と声を振り絞っていた。
そのとき、私はずっとこれを言いたくて、でも疲れている彼に言えないジレンマを抱えていたのだと気がついた。「言わなきゃわからない」とよく聞くが、言うのも勇気がいるものだ。
それ以来、夫も私も変わったように思う。夫は得意な朝食とお弁当作りをかってでてくれ、私は怒鳴ることがなくなった。
子どもたちのために太陽であり続けようと誓った。のびのびと安心しきって過ごせる場所が私のそばであるように。
太陽の光は子どもたちの笑顔を照らし、同時に私と夫のエゴや固定概念という影も浮き彫りにした。夫の独身時代にしみついた価値観を私はどうしても容認できない。今では私と夫の間には不毛な砂漠がよこたわっていると感じている。太陽は必ずしも穏やかな日差しだけではないということだ。
ちなみに私に愚痴をこぼした男は妻のSOSを見逃し、離婚した。彼の妻が心境を打ち明けたときには、その手に離婚届があったそうだ。よく聞けば、彼女からのSOSはもっと前からあった。でも夫から見るとそれは些細でとりとめもないことだったらしい。
相手を輝かせるのは自分であり、相手を不満に思うなら自分もまた不満を抱かれている。夫婦とは合わせ鏡なのかもしれない。
さて、私と夫を隔てた砂漠が緑化することはあるのか、神のみぞ知るである。
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