ことわざ人生

身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ

　『身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ』とは、捨て身になってはじめて、活路を見出し、事を成し遂げることができるということ。

　溺れかけたとき、思い切って体を水にゆだねると体が浮き上がり、浅瀬に立つこともあるという意味からなんだそうです。
　『サイボーグ009』の名台詞「あとは勇気だけだ！」が思い浮かぶけど、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版：破』では、マリの台詞にもこの言葉がありましたね。
　もがけばもがくほど深みにはまって溺れるので、飛び込む勇気のあとは、身をゆだねるだけの気丈さと冷静さも必要なようです。

　今までの人生振り返ってみれば、それほど捨て身になったことって思い浮かばない。そもそも捨て身になっている人を見る機会もあまりないんじゃないかと思えてしまいます。強いて言えば記入済みの離婚届を前夫に突きつけたときくらいかと……。

　しかし、大の飛行機嫌いの夫が飛行機に乗ったときの姿は、それに近いものがあった気がします。

　本来なら結婚前に私の北海道の実家に挨拶に行きたかった夫。でも、どうしても飛行機に乗るのが怖くてふんぎりがつかず、そうこうするうちに私がぽんと飛んでいって結婚してしまいました。

　さすがに入籍してしまったら、もう逃げられない。
　そこで夫は『身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ』とばかりに、飛行機に乗り込んだわけです。

　空港では一言も話さず、瞑想するかのように瞳を閉じながら心を無にして座席に着く夫。何を話しかけても口を開けず。
　そして機体ごと体が宙に浮いた瞬間、きつく目をとじたまま「うわわわわ」と声を漏らしておりました。
　フライト中もずっと目を閉じておけばいいのに、窓の外を覗いては「うわわわ」とまた声を漏らす。見なきゃいいじゃないと思うんですが、つい見てしまうらしい。

　どうして彼がこうまで飛行機嫌いになってしまったかというと、子どもの頃に『日本航空123便墜落事故』のニュースをリアルタイムで観て、すっかりトラウマになってしまったそうなのです。
　テレビの画面に速報が入り、レーダーから機体が消えたと字幕が流れ、そうこうするうちに事故が明らかになっていったそうです。墜落現場は群馬県でしたから、尚更ショックだったらしいですね。
　震災のときもそうでしたが、報道の在り方と、受信する側の心の在り方を考えさせられました。
　夫は映画好きですが、この事故を題材とした『クライマーズ・ハイ』の台詞が心に突き刺さるそうです。ちなみにこの映画のロケ地となった旧『前橋ビル』の解体が2016年6月に決まり、夫は感慨深そうでした。