ことわざ人生

くさなぎ秋良

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濡れぬ先こそ露をも厭え

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 『濡れぬ先こそ露をもいとえ』とは、男と女の仲というのはひとたび肉体関係を持つと、あとはずるずると深みにはまってしまうものだということ。また、ひとたび悪事を犯してしまうと、あとはもっとひどい悪事でも平然とやるようになってしまうというたとえ。

 カクヨムに真白タビサさんの『アメリカンおとうたんとの日々』という作品があります。
 アメリカ人のご主人と国際結婚した女性のエッセイなのですが、彼女がアイダホで暮らしていたときのエピソードを読んでびっくり。あまりに田舎すぎて娯楽がなく、近所の人は浮気に走る人が多かったという内容でした。

 そういうものなのかなぁと驚いた刹那、ふと夫の祖母の話を思い出しました。

 夫の祖母は既に他界していて残念ながら私は会えていません。けれど、数多くの伝説を残している女傑らしいです。とてもさっぱりとした性格で、口の悪さと豪快さにかけては天下一。

 夫が小さい頃は共働きの両親の代わりに育児のすべてを彼女がこなしていたそうです。なんでも、『嫁が働き、姑が子育てをする』というのが昔のこの地域の習わしだったんだそうです。
 その結果、姑は夫をお風呂に入れたこともないし、哺乳瓶の適温もわからないし、離乳食も作れないし、夫が寝付きのいい子だったかも知らないし、今でも完全な育児ビギナーです。昔は理容師として朝から晩まで働くのに必死だったのと、ある意味、祖母に育児を取り上げられたようなものかもしれませんね。でも『そういうものだ』と言われたら何も言えなかったのかなぁ。夫の名前を命名したのも、祖父でしたから当時の祖父母の存在は大きかったのでしょう。

 そして祖父を完全に尻にしいていた女傑の祖母は、よく上半身を露出した襦袢姿で庭掃除などをしていたそうで、胸がぺろりと出ていたものだから近所の子どもたちから『マサイ族』というあだ名まで頂戴していたらしい。

 常に祖父を罵倒していた祖母に、小学生だった夫が「そんなにじいちゃんが嫌いなら、どうして子どもを四人も産んだのさ?」と訊いたそうな。
 ランドセルを背負っている年頃のくせにそんなことを訊ねる夫もませていますが、即答された祖母の言葉もすごい。

「しゃあねぇべ! 田舎はな、暗くなったら他にすることねぇんだ!」

 その答えで当時の夫が納得したのかは知らないけれど、彼はゲラゲラ笑いながらそんな思い出話をしてくれました。

 うぅん、時間を持てあますとそっちに走りやすいのは群馬の山奥でもアイダホでも同じだったのか? と苦笑してしまいました。
 男女の仲ってのは「ここが肝心!」ってときがあるものなんですね。

 ちなみに英語で同じ意味のことわざは『One crime is everything ; two, nothing(一つの罪はすべて、二つは平気)』というらしいです。ほえぇ。

 『アメリカンおとうたんとの日々』という作品は、とても素敵なお人柄が滲む朗らかさ。「ふひひ」とひとり笑いながら、読んでいます。
 頼れるのにキュートな旦那さんと、快活な奥様の快いツッコミがくせになりますよ。是非ご一読を。
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