滋味礼讃【料理編】

くさなぎ秋良

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ふろふき大根

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 今回のお題は『ふろふき大根』です。

 この料理を知ったのは実際の食卓ではなく、文学の世界でした。『きつねの窓』などで知られる児童文学作家、安房直子さんの作品にふろふき大根が登場するのです。題名はそのまま『ふろふき大根のゆうべ』といいます。

 峠にて奥さんと小さな茶屋を営む男性が、ある日、一匹のいのししに出会います。そのいのししは、これからあちこちの山のいのししが集まってふろふき大根を味わう『ふろふき大根のゆうべ』のために味噌を買いにいくところでした。その男性もそこに招待されることになり……というお話。

 透き通るような大根から真っ白い湯気がのぼり、味噌の旨みが口の中に今にも溶け出すよう。
 お味噌も、くるみ味噌なんて魅力的なものをかけて頬張ってましたね。他はうろ覚えだけれど、ごまやゆずも出てきたかな?
 冬の寒い空気にたちのぼる白い湯気の奥にあるもの。想像すると、とても素敵ですね。いのししがほっかむりをして集まってくるというのも面白い光景です。

 夏の暑いときでも、あまり冷房のきいたところに長くいると、こういうものを食べたくなります。体の芯からあたたまりそうなやつを。本当は寒い時期にはふはふいいながら口にふくんで、熱燗なんぞきゅっと流しこむのがよろしいのでしょうが。

 映画に出てくる食べ物も魅力的ですが、文学に出てくると文字だけですから、また空想がおおいに膨らみますね。鼻先を湿らす湯気や、ほろっと箸で切れる大根の柔らかさまで目に浮かぶようです。「いいなぁ、食べてみたいなぁ」という憧れを抱いたものを実際に食べてみると、登場人物の気持ちにもっと寄り添えた気がしたり、逆にこんなものかとがっかりしたり。こういう形の料理との出会いも面白いと思います。

 このエッセイでも映画や文学、漫画に出てくる食べ物を多く取り上げていきたいと思います。

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