親子誕生

くさなぎ秋良

文字の大きさ
上 下
18 / 36
はじめての出産編

待機

しおりを挟む
 分娩が終わった直後、傍に夫と姑が駆けつけてくれました。
 開口一番「吉○家の牛丼食べたい。あ、いや、やっぱり○スのシェイク、珈琲味」と言った私をぽかんと呆気にとられて見ていた二人の顔を忘れられません。

 よくドラマなどの出産シーンで「おめでとうございます。赤ちゃんですよ」なんて赤ん坊を差し出される風景がありますよね。私も一瞬だけ腕に赤ちゃんを乗せてもらえました。
 けれど、子どもはすぐに身体を綺麗にしたり処置されます。私はそのままの姿勢で胎盤を取り出して、裂傷などを縫い、2時間、分娩台の上でそのまま過ごしました。赤ちゃんは綺麗にされたあと、コット(新生児用のキャリーベッド)に寝かせられて隣に置かれます。

 息子はあくびを連発、白目気味で寝ておりました。白目気味で寝るのって、私もなんです。しょっぱなから変なところで自分のDNAを感じて苦笑しました。タオルケットや袖を唇にちゅぱちゅぱあててうっとりしているところも同じですね。

 顔はふよふよしてて、薄紫がかって、こんな大きい存在が自分の中から出てきたのかと思うと不思議な感覚。
 他人の赤ちゃんを見たときは、今まで「小さい」としか思わなかったんですけれど、自分の子どものときは何故か「大きい」と初めて感じました。
 息子は実際に頭がものすごく大きかったせいもあります。まるでドラゴンボールのナメック星人みたいだなと笑いを堪えておりました。
 そのとき、名前の候補がいくつかあったのですが、その中で『賢い』という意味合いを持つ名前に決めたのは、頭が大きかったからです。

 息子の気配を隣に感じる中、命を産むというのに、死にそうになるというのも不思議なものだと、分娩室の天井のシミを見ながら思いました。
 なんだか、あぁ、自分はこのために産まれたんだなという気がしたのです。今まで『自分はなんのために生きるか』なんていちいち考えたことはありませんでした。けれど、自然とそう思えたんです。それは、『母』という自分を精神世界に産み落とした瞬間だったんだと思います。

 そんな中、隣の分娩室に二十歳そこそこの女性が入ってきました。

「痛い~! もうやだぁ! なんでこんなに痛いの?」

 叫び方も若い。口調も若い。なんだか暴れているようで、おさえつける看護師さんたちはもはや「痛くて当たり前なの!」などと、自分の娘を叱り飛ばす勢いで声をかけている。過ぎ去ったばかりの陣痛が思い出されて、身震いしました。
 けれどその彼女、たった十数分で産み落としました。それも若さゆえ? いいえ、個人差です。けれど、体力のあるなしは関係しているのかもと、苦笑してしまったのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

精神科病棟への強制入院

えみ
エッセイ・ノンフィクション
私は双極性障害持ちです。躁鬱の波が激しくジェットコースターみたいな人生を送っています。そんな私が体験した地獄のような体験を書いていきたいと思います。よろしくお願いします。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...