親子誕生

くさなぎ秋良

文字の大きさ
上 下
17 / 36
はじめての出産編

分娩室にて

しおりを挟む
 陣痛室ではいきみを逃がさなければなりませんでしたが、分娩室に行くと今度は逆に思いっきりいきまなければなりません。分娩台の上で脚を観音開きにしていきみます。
 陣痛室での『いきみを逃がす』というのは、痛みに力を入れたくなるのを受け流す感覚です。ところがいざ『いきむ』となると、これまた体力が削られるのです。

 いきむたびに、全身の毛穴がぶわっと開くようでした。3ヶ月溜まった便秘を一気に押しだそうと踏ん張っている感覚にも似ていました。しかもその波が問答無用で寄せては返すのです。
 いきむときはちょっと下の方、つまりへその辺りを見て、下に押し出す感じをイメージします。

 分娩室に最初は夫も入って来ましたが、先日からの夜勤の疲れで途中でリタイアした模様。気がつけば隣にいやしねぇ!
 おまけに病院側もその日は私を含めて5件ほどの出産があり、てんやわんやで人手不足でした。

 分娩室で過ごすこと、3時間。
 最後は体力がなくなり、水分をとる気力もなくなりました。
 そこで陣痛も弱くなってきたというので、陣痛促進剤を点滴しました。分娩台の上で脚をご開帳しながら同意書にサインしました。今のご時世、なんにでも同意書が必要なのは知っていますが、もっと前に「もし必要なときは」とサインしておくべきだったんじゃないかと、自分の間抜けな格好を見ながら思ったものです。

 促進剤を打つと、踏ん張る力はないのに、容赦なく陣痛の波がやってきます。ベテラン助産師さんが「横を向いてごらん」と言うのでやってみたら、すぐににゅうっと何かが動く感触が! さすがベテラン!

「な、なんか出た!」

 そう思ってからのいきみがすごく辛く、「じゃあ、取り上げる準備しますね」なんて呑気に言ってる助産師さんに『早くぅ!』と心の中で悲鳴をあげておりました。
 その助産師さん、準備が終わるまで、なんと出てくるものを押さえてるじゃありませんか。せっかく出てるのに何するんじゃと思いましたが、よくわからないけど、まぁ、色々都合があるんでしょう。

 その段階になるともう最後ですから、別室で休んでいた夫もまた分娩室に戻されました。でも、彼はもともと「俺は立ち会わない」と言っていたのです。
 分娩台の上から「結局、立ち会ってんじゃん」と言うと、「しょ、しょうがないだろ!」と一言。まぁ、あとには引けない状況ですよね。
 そうしているうちに私は足などにカバーをまかれ、すそを切って血みどろ。直視できない夫。見なければ立ち会いの意味がないと心の中でつっこむ妻。

 やがて、最後のいきみから、「力を抜いて!」の号令。腕をツタンカーメンのようにクロスさせられ、「深呼吸!」を命じられました。
 その瞬間、生ぬるいぐちょぐちょした感触があり、そこに助産師さんが手をつっこんで、更にぐにょぐにょと何かをしています。『うわぁ、気持ち悪い、早くして』と思った途端、薄紫色をした塊がにょっと取り出されました。それが我が子でした。
 赤ちゃんって、仰向けの母親ときちんと顔を合わせるように出てくるメカニズムなんだそうです。

 生まれてすぐ、思わず隣の夫を見たのですが、彼が顔を真っ赤にして泣いているじゃありませんか。一方のドライな妻はそんな彼に驚きました。
 いくら徹夜で眠いとはいえ、陣痛室で苦しむ妻の隣で爆睡していたり、腰をさするようお願いしても携帯電話片手にやる気のない手つきだったのは水に流してやろうと思いました。……流しきれてないからエッセイに書いたけど。

 こうして、私の初めての出産は無事終わったのです。いやぁ、長かった。初産でしたし、高齢出産だし、体重が増えすぎていたし……と、今思えばお産が長引く原因がたくさんあったのは、反省しています。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とよとも
エッセイ・ノンフィクション
約50年生きて、自分の人生を振り返ると10歳頃から40歳過ぎまでハチャメチャだった。 18歳の時にヤクザとして生きる事を選び、殺されそうになった過去も当然ある。 7年間程ポン中として狂っていたがロングに行くことになり、出所してからは興味を持たなくなったがやはり後遺症はある。 10代の頃の出来事、少年院や刑務所での思い出を交えながら、ヤクザをやめてサラリーマンとして生きている自分を綴った。

〈完結〉2022年四度目の北海道チャリ旅行は体重増加でママチャリに泣く泣く別れを告げ「ミヤタのフリーダム・タフ」で行くことにしたのだ。

江戸川ばた散歩
エッセイ・ノンフィクション
一回目は2019年「50女がママチャリで北海道を回ってみた」。 二回目は2020年「続・50女がママチャリで北海道を回ってみた~2020ソーシャルディスタンスな基本現地レポ」。 三回目は2021年「続々・50女がママチャリで北海道を回ってきた・道南やめてオロロン逆襲のちにスポークが折れてじたばたした話。」 この三回目でとうとうママチャリなり通学用自転車では積載荷重に無理があることが判ってしまった筆者。 そこで今回は国産メーカーのミヤタ自転車の「フリーダム・タフ」でスポーツ自転車デビュー。 勝手が全く変わってくるママチャリ旅との違い含めて今年も行くぞレポでございます。

閉鎖病棟より、愛をこめて。

雨季日向
エッセイ・ノンフィクション
うつ病になり、東京で叶えた夢を捨て、地元で『精神科の閉鎖病棟』に入院することになった “私” 。そこは嘘のようなあり得ないことが日常的に起こる、変だけど優しい世界だった。 実体験をもとにした、精神疾患の重篤な患者が入院する閉鎖病棟の実情。 入院生活で経験したトンデモナイ3ヶ月を綴り、精神疾患を抱える人たちや、精神科・心療内科にかかることへの視線が少しでも優しくなってほしいと願うノンフィクション。

Message from ×××

星海はるか
エッセイ・ノンフィクション
私の経験的詩です。 明るいこと書けないかも知れませんがよろしくお願いいたします。

ポケっこの独り言

ポケっこ
エッセイ・ノンフィクション
ポケっこです。 ここでは日常の不満とかを書くだけのものです。しょーもないですね。 俺の思ってることをそのまま書いたものです。 気まぐれ更新ですが、是非どうぞ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...