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妊娠編
妊娠性湿疹と安楽椅子皮膚科医
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初めての妊娠がわかってから五ヶ月ほどした頃でした。
両腕に痒みがあり、気がつけばぽつぽつと赤い湿疹が出来ていたのです。それがどんどん強い痒みを伴い、あっという間に広がっていきました。
腕全体に広がった時点で産婦人科にて相談すると、妊娠性の湿疹だと言われました。薬が処方され、そのときはおさまったのです。
ところが、出産する直前にまた再発し、今度は腕どころかお腹を中心に全身に出てきました。しかも、産後はもっとひどくなったのです。首から下の全身に水疱瘡のように広がっていました。
三時間、四時間おきの授乳による寝不足と疲労に加え、耐え難い痒みが本当に辛かったです。しかも、赤いぽつぽつが全身にあるのを見るのは気持ちの良いものではありません。ただでさえ妊娠線が出来てたるんだお腹に哀しくなるのに……と、落ち込みました。医師に診てもらうのすら恥ずかしく思えました。
我慢するのも大変な強い痒さなのですが、掻けば掻くほど広がります。掻かないようにしても、寝ている間に掻くこともあるようでした。乾燥や服の擦れで痒くなることもありましたが、お風呂上がりや夜間はひどく苦しかったです。
ネットで調べたところ、妊娠性の湿疹というのは数種類あるんだそうです。一度かかると、次の妊娠でもなるという情報もありましたが、その通り、二度目の妊娠では、妊娠36週にはいってから腹部に湿疹が出てきました。相変わらずものすごく痒かったです。
最初の産後すぐ、出産した総合病院で皮膚科にかかったのですが、とても若い医師でなんとも頼りない。どうも症状がわかりかねたらしく、隣の診察室の先輩医師を呼び出し、そっちの先生が説明する始末。
なんのためか知らないけれど写真まで撮られたのですが、軟膏は少ししかくれませんでした。軟膏がなくなってまた処方してもらいたくても、待ち時間のかかる総合病院には行きたくないし、赤ちゃんだって一ヶ月検診が終わるまでは外出させられない……。
そう考え、思い切って赤ちゃんを姑に預けて個人病院の皮膚科を受診しました。
その皮膚科は50代くらいの女性の医師が院長です。とてもゴージャスな美人で、緩やかに巻いた髪を垂らし、どこぞの女社長かと思うようなエレガントなブラウスとスカート姿に白衣を羽織っています。そしてとても上品な口調で「どうぞ、おかけになって」と患者に椅子をすすめる姿は『マダム』と呼びたくなるほどセレブっぽい。それもそのはず、彼女は皮膚科の院長であるだけではなく、別の大病院の院長夫人でもあるんだとか。
濃い色のデスクに腰を下ろし、患部を診るのですが、これが本当に見るだけなのです。パッと目を走らせて、まるで事件を見通した安楽椅子探偵のように「あぁ、これはこういうものだから、これを処方しますね。さぁ、処置しますから」と即座に病状を説明してくれます。
そして、流れ作業のように患者は隣のスペースで看護師さんらしき方に軟膏を塗ってもらったりして、すぐ会計に。
この皮膚科、診察がいったん始まるとものすごく順番が来るのが早いのです。先生は決して手も触れず、見ただけで症状を見抜き、看護師や助手がテキパキと処置をし、会計もとてもスムーズ。とても合理的で見ていて面白かったですね。しかも、先生のきっぱりとした話し方で安心できるのですよ。
姑などは「あそこの先生は絶対さわりもしないし、何もしない」と不満げでしたが、そう思うのはあまりに診断が早いのと、見るは見るでもまじまじと見るわけではなく、デスク越しにパッと見るくらいに感じるからだと思います。
妊娠性湿疹のときも、お腹を見ただけで「あぁ」と微笑みます。
「これは妊娠すると起こりやすくなるの。痒いでしょう? すぐ処置しましょうね」
先生の言葉は、それだけ。あとは看護師に何かを指示すると、すぐ隣にある処置室に誘導されて、医薬品を塗り、ミイラのように包帯を巻かれました。
こればかりは受け取り方次第ですが、息子の背中に湿疹が出来て行ったとき、安楽椅子皮膚科医は詳しい病名は言わなかったものの「大丈夫よ、お母さん。これは赤ちゃんによくあることなの。全然心配いらない。大丈夫」ときっぱりと口にしました。そのとき、『あぁ、この人は母親の不安を取り除くのが上手だなぁ』と妙に感心しましたっけ。
安楽椅子皮膚科医は気前よく大きなチューブ入りの薬を三本ほどくれたのですが、一本使い切ったあたりで湿疹は消えていきました。妊娠線が目立たなくなっていった頃と同じ時期でした。
両腕に痒みがあり、気がつけばぽつぽつと赤い湿疹が出来ていたのです。それがどんどん強い痒みを伴い、あっという間に広がっていきました。
腕全体に広がった時点で産婦人科にて相談すると、妊娠性の湿疹だと言われました。薬が処方され、そのときはおさまったのです。
ところが、出産する直前にまた再発し、今度は腕どころかお腹を中心に全身に出てきました。しかも、産後はもっとひどくなったのです。首から下の全身に水疱瘡のように広がっていました。
三時間、四時間おきの授乳による寝不足と疲労に加え、耐え難い痒みが本当に辛かったです。しかも、赤いぽつぽつが全身にあるのを見るのは気持ちの良いものではありません。ただでさえ妊娠線が出来てたるんだお腹に哀しくなるのに……と、落ち込みました。医師に診てもらうのすら恥ずかしく思えました。
我慢するのも大変な強い痒さなのですが、掻けば掻くほど広がります。掻かないようにしても、寝ている間に掻くこともあるようでした。乾燥や服の擦れで痒くなることもありましたが、お風呂上がりや夜間はひどく苦しかったです。
ネットで調べたところ、妊娠性の湿疹というのは数種類あるんだそうです。一度かかると、次の妊娠でもなるという情報もありましたが、その通り、二度目の妊娠では、妊娠36週にはいってから腹部に湿疹が出てきました。相変わらずものすごく痒かったです。
最初の産後すぐ、出産した総合病院で皮膚科にかかったのですが、とても若い医師でなんとも頼りない。どうも症状がわかりかねたらしく、隣の診察室の先輩医師を呼び出し、そっちの先生が説明する始末。
なんのためか知らないけれど写真まで撮られたのですが、軟膏は少ししかくれませんでした。軟膏がなくなってまた処方してもらいたくても、待ち時間のかかる総合病院には行きたくないし、赤ちゃんだって一ヶ月検診が終わるまでは外出させられない……。
そう考え、思い切って赤ちゃんを姑に預けて個人病院の皮膚科を受診しました。
その皮膚科は50代くらいの女性の医師が院長です。とてもゴージャスな美人で、緩やかに巻いた髪を垂らし、どこぞの女社長かと思うようなエレガントなブラウスとスカート姿に白衣を羽織っています。そしてとても上品な口調で「どうぞ、おかけになって」と患者に椅子をすすめる姿は『マダム』と呼びたくなるほどセレブっぽい。それもそのはず、彼女は皮膚科の院長であるだけではなく、別の大病院の院長夫人でもあるんだとか。
濃い色のデスクに腰を下ろし、患部を診るのですが、これが本当に見るだけなのです。パッと目を走らせて、まるで事件を見通した安楽椅子探偵のように「あぁ、これはこういうものだから、これを処方しますね。さぁ、処置しますから」と即座に病状を説明してくれます。
そして、流れ作業のように患者は隣のスペースで看護師さんらしき方に軟膏を塗ってもらったりして、すぐ会計に。
この皮膚科、診察がいったん始まるとものすごく順番が来るのが早いのです。先生は決して手も触れず、見ただけで症状を見抜き、看護師や助手がテキパキと処置をし、会計もとてもスムーズ。とても合理的で見ていて面白かったですね。しかも、先生のきっぱりとした話し方で安心できるのですよ。
姑などは「あそこの先生は絶対さわりもしないし、何もしない」と不満げでしたが、そう思うのはあまりに診断が早いのと、見るは見るでもまじまじと見るわけではなく、デスク越しにパッと見るくらいに感じるからだと思います。
妊娠性湿疹のときも、お腹を見ただけで「あぁ」と微笑みます。
「これは妊娠すると起こりやすくなるの。痒いでしょう? すぐ処置しましょうね」
先生の言葉は、それだけ。あとは看護師に何かを指示すると、すぐ隣にある処置室に誘導されて、医薬品を塗り、ミイラのように包帯を巻かれました。
こればかりは受け取り方次第ですが、息子の背中に湿疹が出来て行ったとき、安楽椅子皮膚科医は詳しい病名は言わなかったものの「大丈夫よ、お母さん。これは赤ちゃんによくあることなの。全然心配いらない。大丈夫」ときっぱりと口にしました。そのとき、『あぁ、この人は母親の不安を取り除くのが上手だなぁ』と妙に感心しましたっけ。
安楽椅子皮膚科医は気前よく大きなチューブ入りの薬を三本ほどくれたのですが、一本使い切ったあたりで湿疹は消えていきました。妊娠線が目立たなくなっていった頃と同じ時期でした。
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