6 / 50
愛すべきを愛せないなら風呂につかれ
しおりを挟む
現在、くさなぎは1歳9ヶ月の長男と生後4ヶ月の次男を一人で風呂に入れなければならない日々を過ごしている。夫の帰りは遅いのだ。
子どもたちの世話がひと段落し、いざ自分が風呂に入る番になっても、なんだか泣いている気がして落ち着かない。シャワーの音が泣き声に聞こえるのだ。
そのせいか、心にゆとりがないと感じることが増えた。毎日の禊ぎ、つまりリセットがうまくされていないようなのだ。
そういうとき、くさなぎが決して観てはいけないのは寅さんである。
ご存じ、国民的人気映画『男はつらいよ』の主人公だ。明朗でまっすぐな人柄であり、多くの日本国民から愛されているといえよう。映画を観たことがなくても寅さんだけは知っている人も多いかもしれない。
しかし、彼女はこの愛すべき男を素直に愛せない。むしろ生理的に受け付けない。なにせ本当に身近にいたら嫌である。家族や親戚なら尚更である。
思えば、『サザエさん』もアニメや漫画だと気にならないのに、映画やドラマなど実写化すると一気に鼻につく。寅さんと同じく、サザエさんも愛すべきキャラクターだが、実際に身近にいたら困るタイプである。
しかし、何故に実写だと嫌なのか。
それは人間が演じることでリアリティが増すからだと思っている。『本当にいたら嫌だ』という拒否反応が濃くなり、許容範囲を超えてしまうのだ。
寅さんとサザエさんは天真爛漫といえば聞こえは良いのだが、自己中心的でがさつで騒々しく、なにせ面倒にしか思えない。特に寅さんは様々なコンプレックス丸出しなのが幼稚にも見える。
しかし、寅さんのような不器用な人でもいきいきと暮らせる居場所があったのが、あの時代の良さだ。サザエさんでも同じことがいえるだろう。
みんな少しずつ譲り合って他者を受け入れる心のゆとりがあった。どんなにお騒がせな人にでも良さを見出すことができた。そこには人間のあたたかさがあったのだ。
むしろ、一見すると迷惑な人たちだからこそ、愛すべきなのだろう。
彼らははっきり言ってしまえば人騒がせである。しかし、だからこそ離れるとやたら静かで寂しくなる。次第に気になって、あの騒々しいまでの賑やかさが恋しくなる。両作品ともその塩梅が絶妙なのだ。
愛すべきを愛せない。しかし、無関心でもいられないし、実のところ心にゆとりがあるときは「仕方のない人だねぇ」と苦笑いを浮かべつつ寅さんを観てしまうのだ。
くさなぎに脳内から話しかけてみよう。ほんの数分でもいいから湯船に鬱憤を溶かしてみたらどうだい、と。またたびにとろける猫のように、身も心も放り出す瞬間があってもいいのだ。
さて、今宵はここらで風呂を出よう。
猫が湯ざめをする前に。
子どもたちの世話がひと段落し、いざ自分が風呂に入る番になっても、なんだか泣いている気がして落ち着かない。シャワーの音が泣き声に聞こえるのだ。
そのせいか、心にゆとりがないと感じることが増えた。毎日の禊ぎ、つまりリセットがうまくされていないようなのだ。
そういうとき、くさなぎが決して観てはいけないのは寅さんである。
ご存じ、国民的人気映画『男はつらいよ』の主人公だ。明朗でまっすぐな人柄であり、多くの日本国民から愛されているといえよう。映画を観たことがなくても寅さんだけは知っている人も多いかもしれない。
しかし、彼女はこの愛すべき男を素直に愛せない。むしろ生理的に受け付けない。なにせ本当に身近にいたら嫌である。家族や親戚なら尚更である。
思えば、『サザエさん』もアニメや漫画だと気にならないのに、映画やドラマなど実写化すると一気に鼻につく。寅さんと同じく、サザエさんも愛すべきキャラクターだが、実際に身近にいたら困るタイプである。
しかし、何故に実写だと嫌なのか。
それは人間が演じることでリアリティが増すからだと思っている。『本当にいたら嫌だ』という拒否反応が濃くなり、許容範囲を超えてしまうのだ。
寅さんとサザエさんは天真爛漫といえば聞こえは良いのだが、自己中心的でがさつで騒々しく、なにせ面倒にしか思えない。特に寅さんは様々なコンプレックス丸出しなのが幼稚にも見える。
しかし、寅さんのような不器用な人でもいきいきと暮らせる居場所があったのが、あの時代の良さだ。サザエさんでも同じことがいえるだろう。
みんな少しずつ譲り合って他者を受け入れる心のゆとりがあった。どんなにお騒がせな人にでも良さを見出すことができた。そこには人間のあたたかさがあったのだ。
むしろ、一見すると迷惑な人たちだからこそ、愛すべきなのだろう。
彼らははっきり言ってしまえば人騒がせである。しかし、だからこそ離れるとやたら静かで寂しくなる。次第に気になって、あの騒々しいまでの賑やかさが恋しくなる。両作品ともその塩梅が絶妙なのだ。
愛すべきを愛せない。しかし、無関心でもいられないし、実のところ心にゆとりがあるときは「仕方のない人だねぇ」と苦笑いを浮かべつつ寅さんを観てしまうのだ。
くさなぎに脳内から話しかけてみよう。ほんの数分でもいいから湯船に鬱憤を溶かしてみたらどうだい、と。またたびにとろける猫のように、身も心も放り出す瞬間があってもいいのだ。
さて、今宵はここらで風呂を出よう。
猫が湯ざめをする前に。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
Web小説のあれやこれ
水無月礼人
エッセイ・ノンフィクション
沢山の小説投稿サイトが存在しますが、作品をバズらせるには自分と相性が良いサイトへ投稿する必要が有ります。
筆者目線ではありますが、いくつかのサイトで活動して感じた良い所・悪い所をまとめてみました。サイト選びの参考になることができたら幸いです。
※【エブリスタ】でも公開しています。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる