64 / 65
三章
10:悪魔系・超級ダンジョン3
しおりを挟む
地面から生えているかのように設置されている門。
辺り一面が草原のため、金属で出来たそれは周囲の風景から明らかに浮いている。
しかし、何度もダンジョンに来ている<EAS>にとっては、そういった形状の門は見慣れた物。
ダンジョンによって門がないこともある。
その場合は、目立たないように階段が地面にあるだけだったり、岩などに人がひとり通れるくらいの穴が開いていたりとさまざま。
門を潜り、階段を降りながら朔斗が呟く。
「ふぅ、やっと半分を超えるな」
「次が十六層やね」
彼のひとり言を拾ったのはサリア。
彼女はマップメイカーを片手に持ち、朔斗のすぐ後ろを歩いていた。
階段は頑張れば二人一緒に通れる程度の幅があるが、わざわざ狭い思いをすることはなく、三人が縦に並んで段差を下っていく。
「ここまで六日だから、かなりいいペースじゃないかな?」
後方から聞こえてきた義妹の声に答える朔斗。
「そうだな。基本的に下層のほうが敵が強く、時間がかかるのが一般的だけど、俺たちのパーティーは戦闘時間が他のパーティーに比べると極端に短いから、ここまでの速度と変わらずに攻略していけるはずだ」
「超級は平均クリア日数が二十日間だったよね」
「ああ」
次の階層のマップを頭に詰め込みながら足を動かすサリアを挟み、会話を続ける兄妹。
「入る前に言ったとおり、目標は十五日」
「タイムアタックをしてるわけじゃないのに、私たちのクリア日数は本当に早いよね」
「毎層、階段を一直線に目指してるからこそだな」
「うんうん」
と、そこへサリアが割って入る。
「次の層やけど、階段があるのは北西方向や。途中で方角がズレたらその都度言うで」
「ああ、わかった。っと、そろそろ出口が見えてきたな」
薄暗い階段ゾーンに差し込む光が朔斗たちの視界に入る。
そのまま何事もなく歩き、朔斗がまず最初に十六層へと足を踏み入れたが、それと同時に彼の眉がピクリと動き大声を出す。
「近い! 一時、二時、十時の方向に敵影! 数はそれぞれ三、五、四。距離は二十メートルから三十メートル。二人はそのまま階段ゾーンにいてくれ」
ダンジョン内に現れるモンスターは、階層と階層の繋ぎ目である階段がある所へは侵入できない。
そういった特性を利用し、層の入口や出口までモンスターを釣ってきて、そこで戦うパーティーも存在している。
これは立派な戦術と言えるかもしれないが、あまり推奨されていない。
というよりも、告げ口されてしまえば、迷惑行為としてWEOから厳重注意を受ける可能性すらある。
なぜなら、世界中にダンジョンが多数存在しているので、他のパーティーと狩り場が被ることはそうそうないが、それでもそれは絶対とは言えないし、探索者のボリュームゾーンが挑戦することが多い下級から中級までのダンジョンでは、そこの環境にもよるが、自分たち以外のパーティーを目にする機会が多いのだ。
もしも階段の入口で戦っているとしたら、違うパーティーが次の層へ行く邪魔になるし、階段の出口で戦闘をしていてもそれは同じこと。
とはいえ、今回の<EAS>のような状況――すでに入口付近に敵が陣取っているような場面かつ、その後も継続してその場所で狩り続けなければ問題はない。
「まずは十時方向へ行ってくる!」
剣と盾を構えつつ駆け出す朔斗。
モンスターの居場所はわかっているが、その姿はまだ見えない。
門付近で待っているのが良さそうなものだが、階段のゾーンへと足を踏み入れられないのをモンスターは本能で悟っているため、その場で待機していてもなかなか襲ってこないのだ。
敵が戦闘状態になったのなら、階段近辺まで追いかけてくるが、そうするには魔物が攻撃を開始しなければならない。
朔斗が走って時を移さず、十時方向にいたモンスターに動きが見えた。
艶のある真っ黒な鱗で覆われた身体。
紅く光る瞳が目の前の敵を射抜く。
ゴテゴテとした二対の翼を大きく広げたのなら、自身の身体を隠せるだろう。
そのモンスターの名称はサタン。
すべてのサタンが魔法を使う。
モンスターのすぐ近くの虚空に超高速で描かれる魔法陣。
途端に朔斗の足が鈍る。
「くっ、暗黒魔法か!!」
四つの魔法が重複し、彼の身体を支えきれなくなった地面が沈む。
サタンが使ったのは暗黒魔法の【グラビデ】。
【グラビデ】
系統:特級暗黒魔法。
発動時間:瞬時~。
待機時間:なし。
効果継続時間:瞬時~。
対象:術者が視認して指定した場所や範囲。
効果:重力を操り、負荷をかけたり軽減したりする。
「はぁはぁ……間に合ったか」
四つん這いになってしまった彼が視線を上げれば、落下中の魔石が目に入る。
すぐさま立ち上がりたかった朔斗だったが、激痛に顔が歪んだ彼はバランスを崩してしまう。
「折れたか?」
辛うじて転ばなかった朔斗は痛みを我慢しつつ、腰に差してあったポーションを即座に呷る。
中級回復ポーションでも問題ないかもしれないが、念のために彼は上級治療ポーションを使用した。
そして今度こそ立ち上がり、再び駆ける。
(次は一時の方向。敵は三体だ。二時のほうのモンスターと合流させないようにさっさと始末しなきゃな。【グラビデ】を避けるのは難しいが、その分俺の姿を捉えなきゃ使えない魔法だ)
数秒後、モンスターとの距離が十五メートル程度になったところで、敵の魔法が飛んできた。
(近すぎて回避はきついな)
そう判断した彼は、盾を前面に掲げて飛来する幾本もの氷の槍をガードしていく。
普通の氷であればそこまでの硬度はないが、魔法の氷の場合は込められた魔力が多かったり、術者の練度が高かったりしたら、それに比例して硬くなっていくので注意が必要だ。
もしもやわな盾を装備していたのなら、それごと朔斗の身体を貫いていたかもしれないくらいに威力のある魔法だったが、彼は全身の装備を合計一億円もかけて新調していたため、この程度の魔法であればなんなく防ぐことができた。
そうはいっても、基本的に朔斗の戦闘スタイルは回避に重点を置いているので、現状はモンスターが優位のペースで戦いが進んでいると言えるだろう。
その後もしばらく姿を見せないモンスターが魔法を乱打してきたが、どれも決定打にはならずにいた。
そんな中、焦りを感じ始めていた朔斗。
(このまま二時の方向にいた五体が合流すると非常にまずい。ここは思い切るしかない)
近づけば近づくほど敵の魔法を処理しにくくなるが、そうも言っていられないと断じた彼がモンスターに向かって急接近していく。
敵の魔法は氷を使ったものだけだが、そのペースに衰えを見せない。
ちなみに、これは水魔法のひとつで名称を【アイスランス】と言う。
魔法の系統に氷魔法というものはなく、これはあくまでも水魔法に分類されるのだ。
【アイスランス】
系統:上級水魔法。
発動時間:瞬時~。
待機時間:なし。
効果継続時間:瞬時~。
対象:術者が指定した場所や範囲。
効果:氷で出来た槍を飛ばす。
人間に比べるとモンスターは明らかに魔力が多い。
もしも人間がこれだけ上級魔法を連打していたのなら、ほとんどの探索者はすでに魔力切れを起こしていることだろう。
魔物との距離が縮まり、徐々に処理が追いつかなくなってきた朔斗。
(かなりきつくなってきたが……もう少しで敵の姿を捕捉できるはず!)
彼がそう思ったのも束の間。
ついに【アイスランス】が朔斗を捉えてしまう。
「ぐあああああ!!」
血を飛び散らせながら宙を舞う剣を握ったままの右腕。
それはぼとりと草原に落ち、青々とした草を鮮やかな赤色に染めていく。
ダンジョンへの侵入者が挙げた絶叫を好機と感じ取ったモンスターが、翼を動かしながら宙へ移動した。
その姿は先ほど朔斗が倒した魔物とまったく同じ。
もしもフルプレートアーマーなどを朔斗が装備していたのなら、今回のような事故は起きなかったはず。
しかし、基本は敵からの攻撃は回避するという戦闘スタイルの彼にとって、関節部分に柔軟性がなく、さらにかなり重いフルプレートアーマーはどうしても合わないのである。
今回、彼が身につけていたのはランクの高いドラゴンの鱗や革をベースとし、所々にオリハルコンで補強した防具。
前腕や上腕をすっぽりと包み込み、多くの攻撃を防げる構造になっているが、肘や肩が可動しやすいように、その部分は覆われていない。
肩の関節部分は上からの攻撃を防げるようにしているが、前方や後方からの攻撃にはどうしても弱い。
サタンが虚空に現れると同時に左手に持っていた盾を放り投げ、左手で肩から噴き出る血を抑え込む。
ギリっと音がするほど歯を食いしばり、気が遠くなりそうな激痛を堪えた朔斗が、五体のサタンに【解体EX】を即座に叩き込む。
モンスターが五つの魔石に変化したのを視界に収めた彼は、地面に転がる自身の右腕の側まで移動する。
「ぐううぅ……いってぇぇぇ……」
言葉にできない苦痛を感じつつ、腰から超級治療ポーションを取り出し、蓋を開けて一気に飲み干す。
そして彼は左手で右腕を拾い、それを元あった場所へくっつける。
「ぎぎぎぃぃ……ががぁぁ」
二時の方向にいたモンスターに動きがないことにもきちんと意識を向けつつ、そのまま少し待つ朔斗。
そうして十秒も経たないうちに痛みが引いていき、怪我をする前と同じように右腕が彼の身体の一部と化す。
「はぁ、これだけ血が付着しちゃったら、恵梨香やサリアにバレちゃうな……」
軽く頭を振った彼は右腕をぐるぐると回したり、手のひらを開いたり閉じたりして腕の調子を確かめる。
「よし、問題ないな。んー、敵はまだ動かないか」
少し思案した彼が再びひとり言を漏らす。
「スルーしたいところだが、後方から襲撃されても厄介だし、倒しにいくか」
朔斗は地面から剣と盾を拾い上げ、残り五体となったこの近辺にいるモンスターの討伐に向かうのだった。
辺り一面が草原のため、金属で出来たそれは周囲の風景から明らかに浮いている。
しかし、何度もダンジョンに来ている<EAS>にとっては、そういった形状の門は見慣れた物。
ダンジョンによって門がないこともある。
その場合は、目立たないように階段が地面にあるだけだったり、岩などに人がひとり通れるくらいの穴が開いていたりとさまざま。
門を潜り、階段を降りながら朔斗が呟く。
「ふぅ、やっと半分を超えるな」
「次が十六層やね」
彼のひとり言を拾ったのはサリア。
彼女はマップメイカーを片手に持ち、朔斗のすぐ後ろを歩いていた。
階段は頑張れば二人一緒に通れる程度の幅があるが、わざわざ狭い思いをすることはなく、三人が縦に並んで段差を下っていく。
「ここまで六日だから、かなりいいペースじゃないかな?」
後方から聞こえてきた義妹の声に答える朔斗。
「そうだな。基本的に下層のほうが敵が強く、時間がかかるのが一般的だけど、俺たちのパーティーは戦闘時間が他のパーティーに比べると極端に短いから、ここまでの速度と変わらずに攻略していけるはずだ」
「超級は平均クリア日数が二十日間だったよね」
「ああ」
次の階層のマップを頭に詰め込みながら足を動かすサリアを挟み、会話を続ける兄妹。
「入る前に言ったとおり、目標は十五日」
「タイムアタックをしてるわけじゃないのに、私たちのクリア日数は本当に早いよね」
「毎層、階段を一直線に目指してるからこそだな」
「うんうん」
と、そこへサリアが割って入る。
「次の層やけど、階段があるのは北西方向や。途中で方角がズレたらその都度言うで」
「ああ、わかった。っと、そろそろ出口が見えてきたな」
薄暗い階段ゾーンに差し込む光が朔斗たちの視界に入る。
そのまま何事もなく歩き、朔斗がまず最初に十六層へと足を踏み入れたが、それと同時に彼の眉がピクリと動き大声を出す。
「近い! 一時、二時、十時の方向に敵影! 数はそれぞれ三、五、四。距離は二十メートルから三十メートル。二人はそのまま階段ゾーンにいてくれ」
ダンジョン内に現れるモンスターは、階層と階層の繋ぎ目である階段がある所へは侵入できない。
そういった特性を利用し、層の入口や出口までモンスターを釣ってきて、そこで戦うパーティーも存在している。
これは立派な戦術と言えるかもしれないが、あまり推奨されていない。
というよりも、告げ口されてしまえば、迷惑行為としてWEOから厳重注意を受ける可能性すらある。
なぜなら、世界中にダンジョンが多数存在しているので、他のパーティーと狩り場が被ることはそうそうないが、それでもそれは絶対とは言えないし、探索者のボリュームゾーンが挑戦することが多い下級から中級までのダンジョンでは、そこの環境にもよるが、自分たち以外のパーティーを目にする機会が多いのだ。
もしも階段の入口で戦っているとしたら、違うパーティーが次の層へ行く邪魔になるし、階段の出口で戦闘をしていてもそれは同じこと。
とはいえ、今回の<EAS>のような状況――すでに入口付近に敵が陣取っているような場面かつ、その後も継続してその場所で狩り続けなければ問題はない。
「まずは十時方向へ行ってくる!」
剣と盾を構えつつ駆け出す朔斗。
モンスターの居場所はわかっているが、その姿はまだ見えない。
門付近で待っているのが良さそうなものだが、階段のゾーンへと足を踏み入れられないのをモンスターは本能で悟っているため、その場で待機していてもなかなか襲ってこないのだ。
敵が戦闘状態になったのなら、階段近辺まで追いかけてくるが、そうするには魔物が攻撃を開始しなければならない。
朔斗が走って時を移さず、十時方向にいたモンスターに動きが見えた。
艶のある真っ黒な鱗で覆われた身体。
紅く光る瞳が目の前の敵を射抜く。
ゴテゴテとした二対の翼を大きく広げたのなら、自身の身体を隠せるだろう。
そのモンスターの名称はサタン。
すべてのサタンが魔法を使う。
モンスターのすぐ近くの虚空に超高速で描かれる魔法陣。
途端に朔斗の足が鈍る。
「くっ、暗黒魔法か!!」
四つの魔法が重複し、彼の身体を支えきれなくなった地面が沈む。
サタンが使ったのは暗黒魔法の【グラビデ】。
【グラビデ】
系統:特級暗黒魔法。
発動時間:瞬時~。
待機時間:なし。
効果継続時間:瞬時~。
対象:術者が視認して指定した場所や範囲。
効果:重力を操り、負荷をかけたり軽減したりする。
「はぁはぁ……間に合ったか」
四つん這いになってしまった彼が視線を上げれば、落下中の魔石が目に入る。
すぐさま立ち上がりたかった朔斗だったが、激痛に顔が歪んだ彼はバランスを崩してしまう。
「折れたか?」
辛うじて転ばなかった朔斗は痛みを我慢しつつ、腰に差してあったポーションを即座に呷る。
中級回復ポーションでも問題ないかもしれないが、念のために彼は上級治療ポーションを使用した。
そして今度こそ立ち上がり、再び駆ける。
(次は一時の方向。敵は三体だ。二時のほうのモンスターと合流させないようにさっさと始末しなきゃな。【グラビデ】を避けるのは難しいが、その分俺の姿を捉えなきゃ使えない魔法だ)
数秒後、モンスターとの距離が十五メートル程度になったところで、敵の魔法が飛んできた。
(近すぎて回避はきついな)
そう判断した彼は、盾を前面に掲げて飛来する幾本もの氷の槍をガードしていく。
普通の氷であればそこまでの硬度はないが、魔法の氷の場合は込められた魔力が多かったり、術者の練度が高かったりしたら、それに比例して硬くなっていくので注意が必要だ。
もしもやわな盾を装備していたのなら、それごと朔斗の身体を貫いていたかもしれないくらいに威力のある魔法だったが、彼は全身の装備を合計一億円もかけて新調していたため、この程度の魔法であればなんなく防ぐことができた。
そうはいっても、基本的に朔斗の戦闘スタイルは回避に重点を置いているので、現状はモンスターが優位のペースで戦いが進んでいると言えるだろう。
その後もしばらく姿を見せないモンスターが魔法を乱打してきたが、どれも決定打にはならずにいた。
そんな中、焦りを感じ始めていた朔斗。
(このまま二時の方向にいた五体が合流すると非常にまずい。ここは思い切るしかない)
近づけば近づくほど敵の魔法を処理しにくくなるが、そうも言っていられないと断じた彼がモンスターに向かって急接近していく。
敵の魔法は氷を使ったものだけだが、そのペースに衰えを見せない。
ちなみに、これは水魔法のひとつで名称を【アイスランス】と言う。
魔法の系統に氷魔法というものはなく、これはあくまでも水魔法に分類されるのだ。
【アイスランス】
系統:上級水魔法。
発動時間:瞬時~。
待機時間:なし。
効果継続時間:瞬時~。
対象:術者が指定した場所や範囲。
効果:氷で出来た槍を飛ばす。
人間に比べるとモンスターは明らかに魔力が多い。
もしも人間がこれだけ上級魔法を連打していたのなら、ほとんどの探索者はすでに魔力切れを起こしていることだろう。
魔物との距離が縮まり、徐々に処理が追いつかなくなってきた朔斗。
(かなりきつくなってきたが……もう少しで敵の姿を捕捉できるはず!)
彼がそう思ったのも束の間。
ついに【アイスランス】が朔斗を捉えてしまう。
「ぐあああああ!!」
血を飛び散らせながら宙を舞う剣を握ったままの右腕。
それはぼとりと草原に落ち、青々とした草を鮮やかな赤色に染めていく。
ダンジョンへの侵入者が挙げた絶叫を好機と感じ取ったモンスターが、翼を動かしながら宙へ移動した。
その姿は先ほど朔斗が倒した魔物とまったく同じ。
もしもフルプレートアーマーなどを朔斗が装備していたのなら、今回のような事故は起きなかったはず。
しかし、基本は敵からの攻撃は回避するという戦闘スタイルの彼にとって、関節部分に柔軟性がなく、さらにかなり重いフルプレートアーマーはどうしても合わないのである。
今回、彼が身につけていたのはランクの高いドラゴンの鱗や革をベースとし、所々にオリハルコンで補強した防具。
前腕や上腕をすっぽりと包み込み、多くの攻撃を防げる構造になっているが、肘や肩が可動しやすいように、その部分は覆われていない。
肩の関節部分は上からの攻撃を防げるようにしているが、前方や後方からの攻撃にはどうしても弱い。
サタンが虚空に現れると同時に左手に持っていた盾を放り投げ、左手で肩から噴き出る血を抑え込む。
ギリっと音がするほど歯を食いしばり、気が遠くなりそうな激痛を堪えた朔斗が、五体のサタンに【解体EX】を即座に叩き込む。
モンスターが五つの魔石に変化したのを視界に収めた彼は、地面に転がる自身の右腕の側まで移動する。
「ぐううぅ……いってぇぇぇ……」
言葉にできない苦痛を感じつつ、腰から超級治療ポーションを取り出し、蓋を開けて一気に飲み干す。
そして彼は左手で右腕を拾い、それを元あった場所へくっつける。
「ぎぎぎぃぃ……ががぁぁ」
二時の方向にいたモンスターに動きがないことにもきちんと意識を向けつつ、そのまま少し待つ朔斗。
そうして十秒も経たないうちに痛みが引いていき、怪我をする前と同じように右腕が彼の身体の一部と化す。
「はぁ、これだけ血が付着しちゃったら、恵梨香やサリアにバレちゃうな……」
軽く頭を振った彼は右腕をぐるぐると回したり、手のひらを開いたり閉じたりして腕の調子を確かめる。
「よし、問題ないな。んー、敵はまだ動かないか」
少し思案した彼が再びひとり言を漏らす。
「スルーしたいところだが、後方から襲撃されても厄介だし、倒しにいくか」
朔斗は地面から剣と盾を拾い上げ、残り五体となったこの近辺にいるモンスターの討伐に向かうのだった。
0
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる