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二章
8:ブレイバーズ 5
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燦々と照りつける太陽の光。
外出している人は暑さを感じているだろう。
そんな日にもかかわらずクーラーが起動した室内で、カタカタと先ほどまでキーボードを打っていた少年。
彼の名前は土橋良太。
児童養護施設出身の良太は現在ひとり暮らし。
彼はアパートの一室に住んでいて、そこは家賃が八万円の2LDK。
審判の日の影響を受け、復興するまでは東京における地価や家賃が大幅に下がっていたが、今はまた上昇していた。
あまり飾り気のない自室でモニターを睨む良太。
彼がパソコンを使用して見ていたのは、『【2176】WEO東京第三支部公認総合掲示板【99】』だ。
ついさっき一回だけその掲示板に書き込みをしたのだが、思うように流れを誘導できず、現在彼の気持ちは荒くれている。
「はぁ、マジで朔斗がウザすぎる」
心底嫌そうな声を出した良太だったが、今の彼を俊彦や恵子や瑞穂が見ていたのなら、自分らの見間違えだと思っただろう。
なぜなら普段の良太のイメージは、大人しい人というものなのだから。
パーティーメンバー全員が理解できていない彼の内面。
実は……小学生の頃から人の機嫌を取るのが上手だった良太。
そんな彼はある時期以降、友人関係を広く浅くに徹底していた。
小学校を卒業後、少しして良太は俊彦と朔斗を利用し尽くし、さらにいずれ朔斗を自分より下に置いて嘲笑ってやろうと決意した。
「俊彦は単細胞すぎるし、恵子や瑞穂はいつまでも朔斗のことを考えてるっ!」
――どんっ!
思わずキーボードを叩いてしまう良太。
まだまだ新しかったキーボードが、真っ二つに割れてしまう。
「ちっ、なんで朔斗ごときが人気になってんだよ! 動画に出演したり雑誌に載ったり、掲示板で話題になったり……くそが!」
良太は今まで上手に、<ブレイバーズ>の面々を裏でコントロールしていたつもりだった。
しかし、朔斗を追放してからの探索は順調と言えない。
もちろん彼も朔斗の有用性をわかっていた。
その点は俊彦と違うだろう。
だが、朔斗の脱退がここまでパーティーに影響を与えると予測しきれなかったし、まさか【解体EX】なんてふざけたスキルに目覚めるなんて思いもしなかったのだ。
(せっかく中学校に入ってから、俊彦を俺のコマにしてたんだが……昔はもっと上手にやれてた……)
うだつの上がらない探索者だった彼の両親が離婚、そしてお互いが親権を放棄してしまったため、良太が児童養護施設に引き取られたのは四歳の頃だ。
小さな頃から日常的に暴力を受けていた彼が養護施設に入った頃、良太は非常に無口かつ他人を警戒していた。
それが収まってきたのは小学校に入学して朔斗、香奈、俊彦、恵子、瑞穂と出会った時分。
その頃は朔斗が積極的にリーダーシップを取り、子どもたちをまとめていて、良太もそんな彼と少しずつ話すようになっていき、その対象がさらに他の友人たちにも広がっていた。
過去に暴行を受けていたからなのか、彼は人の感情に敏感で、自分が悪く思われないように立ち回っていたのだが、ある時期から自分の気持ちを上手にコントロールできなくなってきていた。
その理由を自覚できたのは、自分が恋心を抱いているのを認めたからだ。
彼が抑えきれなかった想いを告白という形で相手に伝えたが、誰にでも優しく可愛かった少女――伊藤香奈の返事はノーというもの。
初恋を散らした良太だったが、香奈から聞きだした好きな人物が自分も世話になっていて、男女問わずの人気者だった朔斗だったこともあって、なんとか幼い恋心を封印したのだ。
「決定的だったのは、小学校の卒業式……」
昔を思い出しながら呟かれた良太の言葉。
彼は小学校五年生の頃、人生で二回目の恋をした。
その相手は赤根恵子と千堂瑞穂。
小学校の卒業式が終わってから、彼女らを呼び出してふたりへ告白をしたのだが、そこでも良い返事を貰えず。
香奈と違って、誰が好きなのか良太に教えてくれなかった恵子と瑞穂。
中学校に入学する前の春休み――朔斗、俊彦、恵子、瑞穂や、たまに香奈を交えて、数日に一回遊んでいた傷心の良太だったが、振られたこともあり一歩引いて友人たちを観察したことで、彼は確信を得たのだ。
それは――恵子と瑞穂が朔斗の姿を追っている時間が多いというもの。
そして自分が告白した子が朔斗を好きなのだと、彼は理解してしまう。
――またあいつか!
――どうして僕じゃダメなんだ!
心の奥底へと封じ込めていた――香奈に振られた際のやるせない気持ちが徐々に蘇り、新しく負った傷に染み込んでいった。
良太の笑顔は徐々に表面へ貼りつけたものとなり、ただでさえ心の中をあまり外に出さなかった彼の本心を、上手に上手に覆い隠すようになっていったのだ。
「朔斗は俺の邪魔ばかりした……」
良太は中学校に入学後すぐに行動を起こした。
単純で自尊心が高く、朔斗に劣等感を感じていた俊彦にあることないことを吹き込み、気に入らない朔斗を上手く利用して、いずれ捨ててやろうと囁き続けたのだ。
もともとジョブに優れた自分が一番目立ちたかった俊彦は、朔斗へと向ける嫌悪感を徐々に大きくしていった。
基本的にあまり深く考えない性格をした俊彦。
直情型の彼をコントロールするのはとても大変だったが、それでも良太は上手に立ち回り、朔斗に対して強い反発心を持たせた俊彦の気持ちを恵子や瑞穂に悟らせなかった。
朔斗をパーティーから追放する少し前から、良太は恵子と瑞穂にも工作を仕掛けていた。
パーティーメンバーとの過去を思い出し、含み笑いを堪えきれない良太。
「くくく、それにしてもあいつらは馬鹿だよなぁ。俺が裏でやってたことに気づきもしなかったんだから」
恵子と瑞穂の気持ちを看破していたと、中学校を卒業する少し前にふたりへと伝えていた良太。
そんな彼が恵子と瑞穂に対して何回も告げた言葉、仕込んだそれは毒となり緩やかに彼女らの心を蝕んだ。
彼が利用したのは純粋だった少女たちの恋心。
小学生の頃は気づかなかったが、中学生になって以降、何度も女生徒に告白されていた朔斗を見ていて恵子と瑞穂は気づいてしまった――朔斗が何を最優先にしているのかを。
いずれ朔斗をパーティーから追い出したいと、冗談半分に俊彦が朔斗以外のパーティーメンバーに伝えたり、恵子や瑞穂が望む未来を夢想したりし始めたのは、暗躍していた良太の働きによるもの。
細心の注意を払いつつ過去の彼は言った。
『恵子と瑞穂が朔斗の恋人になるためには、前提条件としてエリクサーを入手しなきゃダメだよね。でも……もしも、朔斗がそれを諦めざるを得ない状況になったらどうなるだろう? すぐじゃないにせよ、将来的に朔斗の恋人になれるかもしれないよ? 僕は昔君たちが好きだと告白をしたけど、今はふたりに幸せになってほしいし、恵子たちの恋を応援したいんだ。あ、これは今すぐどうこうってことじゃないし、朔斗をパーティーから外したいわけじゃない。そこは勘違いしないでね。ただ、恵子や瑞穂の幸せを考えたら、そういう道もあるのかなって、ふと頭に浮かんだだけだよ』
このセリフやそれに似たことを数回に分け、恵子や瑞穂へと良太は囁いていたのだ。
そういった下地があり、さらにあまり自己主張が強くない彼女らは、直情的でプライドの高い俊彦が朔斗を追放すると宣言したとき、強く反対意見を伝えられなかったし、気持ちのどこかで考えてしまった。
――朔斗がパーティーを外れるのは、私たちと恋人になるために必要なこと。それが実現するのは数年後かもしれないけど、今後さらに危険となるダンジョンへ朔斗が挑戦しなくて済むし、彼なら下級や中級のダンジョンに潜るパーティーで引っ張りだこのはずだから、生活にも困らない。
こうしてさまざまな思惑が交錯した結果、朔斗は<ブレイバーズ>から追放されてしまったのだ。
小さな頃は純粋に仲が良かった朔斗、香奈、俊彦、良太、恵子、瑞穂。
彼らの関係が今のように歪んでしまった原因はいくつもあったのだが、それを一番理解しているのは他ならぬ良太であった。
動画や雑誌、そして掲示板でも名前が出て有名になりつつある朔斗は、自分こそが裏で<ブレイバーズ>をコントロールした結果、何も気づかずに昔からの友人から拒絶され、追放された馬鹿な男なんだと自身の自尊心を満足させる良太。
「しっかし、助かるわけもない伊藤のためにエリクサーとか……あいつもアホだよな」
大嫌いな朔斗への蔑みを口にした彼は一度大きな深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。
そこからの良太は一転、朔斗への嫌悪感を消して呟く。
「うーん、とりあえず無事に成功していた朔斗追放計画だったが……これから計画を立て直さなきゃな。あいつを見下したり貶めたりすのはもっとあとでいい。利用し尽くせるだけし尽くす!」
目下の目標として、良太はお金を稼ぎつつ探索者のランクを上げたかったが、現在はそれが上手く回っておらず、何かを変える必要があると考えていた。
(納得できないしイラつくが……朔斗のジョブランクが神級に至ったのは、僕たちと決別してからのはず。一緒に行った最後のダンジョン、潜る前に全員の能力は確認済みだった。あいつのスキル進化がもっと早かったら、ここで頭を悩ます必要もなかったんだが)
濁った瞳を虚空に向けた良太が思いつくままに言葉を発した。
「朔斗は気に食わないし、いずれどん底に沈めてやりたいが、まずは僕の利益が最優先。伏見を外して朔斗を再加入させたいけど、人の女を奪うのが趣味だから、俊彦は伏見のことをある意味気に入っているんだよなぁ。あの女を簡単に切れなさそうな以上、ダンジョン内で伏見をモンスターに処理させるか? そうしなきゃ枠が空かないだろうし。朔斗を再加入させようとした場合、俊彦は納得しなさそうだが、そこは上手く言いくるめればいいかな」
昔から<ブレイバーズ>を裏で操っていたという自負心がある良太は、今後を見据えて予定を立てていく。
(単細胞の俊彦はまだしも、恵子と瑞穂は朔斗の現状に関する情報を今回の休暇で得ているかもしれない)
そのような良太の考えは当たっていて、朔斗を脱退させたことが正しかったのかどうか頭を悩ませ続けていた恵子と瑞穂だったが、想い人が出演したケースケチャンネルの動画を何回も再生し、なんとか気持ちを向上させようとしているのだった。
外出している人は暑さを感じているだろう。
そんな日にもかかわらずクーラーが起動した室内で、カタカタと先ほどまでキーボードを打っていた少年。
彼の名前は土橋良太。
児童養護施設出身の良太は現在ひとり暮らし。
彼はアパートの一室に住んでいて、そこは家賃が八万円の2LDK。
審判の日の影響を受け、復興するまでは東京における地価や家賃が大幅に下がっていたが、今はまた上昇していた。
あまり飾り気のない自室でモニターを睨む良太。
彼がパソコンを使用して見ていたのは、『【2176】WEO東京第三支部公認総合掲示板【99】』だ。
ついさっき一回だけその掲示板に書き込みをしたのだが、思うように流れを誘導できず、現在彼の気持ちは荒くれている。
「はぁ、マジで朔斗がウザすぎる」
心底嫌そうな声を出した良太だったが、今の彼を俊彦や恵子や瑞穂が見ていたのなら、自分らの見間違えだと思っただろう。
なぜなら普段の良太のイメージは、大人しい人というものなのだから。
パーティーメンバー全員が理解できていない彼の内面。
実は……小学生の頃から人の機嫌を取るのが上手だった良太。
そんな彼はある時期以降、友人関係を広く浅くに徹底していた。
小学校を卒業後、少しして良太は俊彦と朔斗を利用し尽くし、さらにいずれ朔斗を自分より下に置いて嘲笑ってやろうと決意した。
「俊彦は単細胞すぎるし、恵子や瑞穂はいつまでも朔斗のことを考えてるっ!」
――どんっ!
思わずキーボードを叩いてしまう良太。
まだまだ新しかったキーボードが、真っ二つに割れてしまう。
「ちっ、なんで朔斗ごときが人気になってんだよ! 動画に出演したり雑誌に載ったり、掲示板で話題になったり……くそが!」
良太は今まで上手に、<ブレイバーズ>の面々を裏でコントロールしていたつもりだった。
しかし、朔斗を追放してからの探索は順調と言えない。
もちろん彼も朔斗の有用性をわかっていた。
その点は俊彦と違うだろう。
だが、朔斗の脱退がここまでパーティーに影響を与えると予測しきれなかったし、まさか【解体EX】なんてふざけたスキルに目覚めるなんて思いもしなかったのだ。
(せっかく中学校に入ってから、俊彦を俺のコマにしてたんだが……昔はもっと上手にやれてた……)
うだつの上がらない探索者だった彼の両親が離婚、そしてお互いが親権を放棄してしまったため、良太が児童養護施設に引き取られたのは四歳の頃だ。
小さな頃から日常的に暴力を受けていた彼が養護施設に入った頃、良太は非常に無口かつ他人を警戒していた。
それが収まってきたのは小学校に入学して朔斗、香奈、俊彦、恵子、瑞穂と出会った時分。
その頃は朔斗が積極的にリーダーシップを取り、子どもたちをまとめていて、良太もそんな彼と少しずつ話すようになっていき、その対象がさらに他の友人たちにも広がっていた。
過去に暴行を受けていたからなのか、彼は人の感情に敏感で、自分が悪く思われないように立ち回っていたのだが、ある時期から自分の気持ちを上手にコントロールできなくなってきていた。
その理由を自覚できたのは、自分が恋心を抱いているのを認めたからだ。
彼が抑えきれなかった想いを告白という形で相手に伝えたが、誰にでも優しく可愛かった少女――伊藤香奈の返事はノーというもの。
初恋を散らした良太だったが、香奈から聞きだした好きな人物が自分も世話になっていて、男女問わずの人気者だった朔斗だったこともあって、なんとか幼い恋心を封印したのだ。
「決定的だったのは、小学校の卒業式……」
昔を思い出しながら呟かれた良太の言葉。
彼は小学校五年生の頃、人生で二回目の恋をした。
その相手は赤根恵子と千堂瑞穂。
小学校の卒業式が終わってから、彼女らを呼び出してふたりへ告白をしたのだが、そこでも良い返事を貰えず。
香奈と違って、誰が好きなのか良太に教えてくれなかった恵子と瑞穂。
中学校に入学する前の春休み――朔斗、俊彦、恵子、瑞穂や、たまに香奈を交えて、数日に一回遊んでいた傷心の良太だったが、振られたこともあり一歩引いて友人たちを観察したことで、彼は確信を得たのだ。
それは――恵子と瑞穂が朔斗の姿を追っている時間が多いというもの。
そして自分が告白した子が朔斗を好きなのだと、彼は理解してしまう。
――またあいつか!
――どうして僕じゃダメなんだ!
心の奥底へと封じ込めていた――香奈に振られた際のやるせない気持ちが徐々に蘇り、新しく負った傷に染み込んでいった。
良太の笑顔は徐々に表面へ貼りつけたものとなり、ただでさえ心の中をあまり外に出さなかった彼の本心を、上手に上手に覆い隠すようになっていったのだ。
「朔斗は俺の邪魔ばかりした……」
良太は中学校に入学後すぐに行動を起こした。
単純で自尊心が高く、朔斗に劣等感を感じていた俊彦にあることないことを吹き込み、気に入らない朔斗を上手く利用して、いずれ捨ててやろうと囁き続けたのだ。
もともとジョブに優れた自分が一番目立ちたかった俊彦は、朔斗へと向ける嫌悪感を徐々に大きくしていった。
基本的にあまり深く考えない性格をした俊彦。
直情型の彼をコントロールするのはとても大変だったが、それでも良太は上手に立ち回り、朔斗に対して強い反発心を持たせた俊彦の気持ちを恵子や瑞穂に悟らせなかった。
朔斗をパーティーから追放する少し前から、良太は恵子と瑞穂にも工作を仕掛けていた。
パーティーメンバーとの過去を思い出し、含み笑いを堪えきれない良太。
「くくく、それにしてもあいつらは馬鹿だよなぁ。俺が裏でやってたことに気づきもしなかったんだから」
恵子と瑞穂の気持ちを看破していたと、中学校を卒業する少し前にふたりへと伝えていた良太。
そんな彼が恵子と瑞穂に対して何回も告げた言葉、仕込んだそれは毒となり緩やかに彼女らの心を蝕んだ。
彼が利用したのは純粋だった少女たちの恋心。
小学生の頃は気づかなかったが、中学生になって以降、何度も女生徒に告白されていた朔斗を見ていて恵子と瑞穂は気づいてしまった――朔斗が何を最優先にしているのかを。
いずれ朔斗をパーティーから追い出したいと、冗談半分に俊彦が朔斗以外のパーティーメンバーに伝えたり、恵子や瑞穂が望む未来を夢想したりし始めたのは、暗躍していた良太の働きによるもの。
細心の注意を払いつつ過去の彼は言った。
『恵子と瑞穂が朔斗の恋人になるためには、前提条件としてエリクサーを入手しなきゃダメだよね。でも……もしも、朔斗がそれを諦めざるを得ない状況になったらどうなるだろう? すぐじゃないにせよ、将来的に朔斗の恋人になれるかもしれないよ? 僕は昔君たちが好きだと告白をしたけど、今はふたりに幸せになってほしいし、恵子たちの恋を応援したいんだ。あ、これは今すぐどうこうってことじゃないし、朔斗をパーティーから外したいわけじゃない。そこは勘違いしないでね。ただ、恵子や瑞穂の幸せを考えたら、そういう道もあるのかなって、ふと頭に浮かんだだけだよ』
このセリフやそれに似たことを数回に分け、恵子や瑞穂へと良太は囁いていたのだ。
そういった下地があり、さらにあまり自己主張が強くない彼女らは、直情的でプライドの高い俊彦が朔斗を追放すると宣言したとき、強く反対意見を伝えられなかったし、気持ちのどこかで考えてしまった。
――朔斗がパーティーを外れるのは、私たちと恋人になるために必要なこと。それが実現するのは数年後かもしれないけど、今後さらに危険となるダンジョンへ朔斗が挑戦しなくて済むし、彼なら下級や中級のダンジョンに潜るパーティーで引っ張りだこのはずだから、生活にも困らない。
こうしてさまざまな思惑が交錯した結果、朔斗は<ブレイバーズ>から追放されてしまったのだ。
小さな頃は純粋に仲が良かった朔斗、香奈、俊彦、良太、恵子、瑞穂。
彼らの関係が今のように歪んでしまった原因はいくつもあったのだが、それを一番理解しているのは他ならぬ良太であった。
動画や雑誌、そして掲示板でも名前が出て有名になりつつある朔斗は、自分こそが裏で<ブレイバーズ>をコントロールした結果、何も気づかずに昔からの友人から拒絶され、追放された馬鹿な男なんだと自身の自尊心を満足させる良太。
「しっかし、助かるわけもない伊藤のためにエリクサーとか……あいつもアホだよな」
大嫌いな朔斗への蔑みを口にした彼は一度大きな深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。
そこからの良太は一転、朔斗への嫌悪感を消して呟く。
「うーん、とりあえず無事に成功していた朔斗追放計画だったが……これから計画を立て直さなきゃな。あいつを見下したり貶めたりすのはもっとあとでいい。利用し尽くせるだけし尽くす!」
目下の目標として、良太はお金を稼ぎつつ探索者のランクを上げたかったが、現在はそれが上手く回っておらず、何かを変える必要があると考えていた。
(納得できないしイラつくが……朔斗のジョブランクが神級に至ったのは、僕たちと決別してからのはず。一緒に行った最後のダンジョン、潜る前に全員の能力は確認済みだった。あいつのスキル進化がもっと早かったら、ここで頭を悩ます必要もなかったんだが)
濁った瞳を虚空に向けた良太が思いつくままに言葉を発した。
「朔斗は気に食わないし、いずれどん底に沈めてやりたいが、まずは僕の利益が最優先。伏見を外して朔斗を再加入させたいけど、人の女を奪うのが趣味だから、俊彦は伏見のことをある意味気に入っているんだよなぁ。あの女を簡単に切れなさそうな以上、ダンジョン内で伏見をモンスターに処理させるか? そうしなきゃ枠が空かないだろうし。朔斗を再加入させようとした場合、俊彦は納得しなさそうだが、そこは上手く言いくるめればいいかな」
昔から<ブレイバーズ>を裏で操っていたという自負心がある良太は、今後を見据えて予定を立てていく。
(単細胞の俊彦はまだしも、恵子と瑞穂は朔斗の現状に関する情報を今回の休暇で得ているかもしれない)
そのような良太の考えは当たっていて、朔斗を脱退させたことが正しかったのかどうか頭を悩ませ続けていた恵子と瑞穂だったが、想い人が出演したケースケチャンネルの動画を何回も再生し、なんとか気持ちを向上させようとしているのだった。
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