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二章
3:トロール・上級ダンジョン動画配信2
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自分の目の中に入ってきた情報は、自身の知識で答えを得られないと判断した啓介が、そうそうに思考を放棄して朔斗へと声をかける。
「今のは何をしたんだい?」
朔斗が振り返ると、引き攣った表情の啓介が見えた。
まだ二十歳と若く、多くの女性に好まれるような優しさを感じさせる顔立ちなのに、もったいないなと朔斗が内心思いつつも彼の問いに答える。
「今のは俺が持つスキル――【解体EX】によるものだ」
「【解体】のことは事前に情報として知っていたけど、【解体EX】?」
朔斗を知らない人でも、さすがに唯一無二のジョブ『解体師』のことは知識としてある人が多い。
パーティー、企業、軍隊、公的機関などの人事権を持つ者なら『解体師』と黒瀬朔斗の名前が一致している人物が多いだろう。
しかしそれがただの探索者だったり、探索者にはなっていないがそれ関係のニュースやコラムや動画を趣味として見る人だったりの場合、『解体師』のジョブ名ばかりが先行していて、黒瀬朔斗の名前は有名ではない。
表情をふっと緩めた朔斗が啓介に言う。
「【解体】と違って、【解体EX】は生きているモンスターも解体できる。『解体師』のジョブランクが神級にランクアップして、スキルが進化した結果だよ」
普段遣いの言葉でいいと、啓介が事前に<EAS>のメンバーへ申し伝えていたこともあり、気負いなく普通の口調で話す朔斗。
カメラの前なので緊張しそうなものだが、ダンジョン内の張り詰めた気持ちがそれを上書きしていた。
被写体であるのを気にしているようだと、ダンジョンの危険に対処しきれないのだ。
「そうなのか……それがあれば上級ダンジョンでもまったく問題ない?」
「ああ」
「それは安心だ。絶対に安全だって会社から念を押されていたけど、それでもサポート系ジョブ三人と一緒だとな……どうしても半信半疑だったのさ」
軽快に笑う啓介。
生配信ではコメント欄が恐ろしい速度で流れていた。
名無しの視聴者:【解体EX】とかあああ
名無しの視聴者:聞いたことないスキルだ
名無しの視聴者:初出?
名無しの視聴者:だと思う
名無しの視聴者:今までそんなスキルは聞いた覚えがない
名無しの視聴者:初耳
名無しの視聴者:やばない?
名無しの視聴者:朔斗きゅん、結婚できます!
名無しの視聴者:私も
名無しの視聴者:私が
名無しの視聴者:私だ
名無しの視聴者:私こそ
名無しの視聴者:お前らうるさいw
名無しの視聴者:婚活パーティーにでも行ってろと
名無しの視聴者:朔斗は俺が育てた
名無しの視聴者:誰だしお前
名無しの視聴者:うざw
名無しの視聴者:どうでもいいいい
名無しの視聴者:それより検証しようぜ
名無しの視聴者:だな
名無しの視聴者:そうそう
名無しの視聴者:【解体EX】で生きたモンスターを解体可能
名無しの視聴者:魔法じゃないから、魔法防御力が高い敵にも有効?
名無しの視聴者:そうぽい
名無しの視聴者:攻撃力無限大?
名無しの視聴者:どうなんだろう?
名無しの視聴者:しかし、三十メートルは離れていた敵を一網打尽か……
名無しの視聴者:恐ろしい
名無しの視聴者:強すぎじゃん
名無しの視聴者:これ要はあれでしょ
名無しの視聴者:何
名無しの視聴者:『解体師』が敵を薙ぎ払い、『ギャンブラー』がレアボスのポップ率を上げ、『大道具師』が報酬箱の中身の質をアップ
名無しの視聴者:無駄がない
名無しの視聴者:いや、レアボスはそこまで出ないから無駄じゃ?
名無しの視聴者:どうだろうか
名無しの視聴者:レアボス出現率アップが小、中、大、特大のどれかにもよる
名無しの視聴者:サリアって子はどれなんだろう?
名無しの視聴者:さあ、知らない
名無しの視聴者:たしかに出現したレアボスも倒せるなら、『ギャンブラー』がいたほうが収益性が上がるかも?
名無しの視聴者:不確定要素にかけるよりも、人数をひとり減らしたほうがひとり当たりの収入が増えるんじゃない?
名無しの視聴者:皆忘れてるな、サリアさんは特殊探索者
名無しの視聴者:あー、それなら支出が抑えられるのか
名無しの視聴者:天才
名無しの視聴者:まあパーティー編成の話はいいとして、【解体EX】が反則すぎる件
名無しの視聴者:黒瀬朔斗はいずれSSSランクになるでしょ
名無しの視聴者:マジそれ
名無しの視聴者:ケースケチャンネルからSSSランクの探索者が出るなんて!
名無しの視聴者:気が早いぞ
いつも以上に書き込まれるコメントを流し読みしながら、啓介はようやく平常心を取り戻してきたのを自覚する。
近くにモンスターの影はなかったが、警戒を緩めていなかった<EAS>のメンバー。
リーダーの朔斗が啓介に話しかける。
「先に進んでいいか?」
「おっけーだ」
恵梨香とサリアに視線で合図をした朔斗は、まず先ほど倒したトロールの素材の元へと向かう。
骨、肉、皮などを【ディメンションボックス】に収納し、彼らはさらに足を進めていく。
しばらく歩き、ひとつの影を発見した。
距離は四十メートル程度。
恐らくトロールだと判断した朔斗が言う。
「あっちはまだ気づいていない。今回は【解体EX】をすぐに使わないで、少し戦ってみたい。恵梨香とサリアはまだ手が出ないと思うから、見学しててくれ」
「うん。早く強くなりたいな」
「おっけーや」
悔しそうな恵梨香に普段どおりのサリア。
サリアは戦闘に参加しなくてもいいという条件で<EAS>に雇われているが、今となってはモンスターとある程度戦って、もう少し朔斗らの役に立ちたいと内心考えていた。
もちろん今のままでは実力がついていっていないので、それを口に出すことはない。
ダンジョンをクリアすればするほど、身体能力の上昇が見込まれるので、いずれはと考えていた。
ちなみに身体能力には魔力も含まれる。
自身に迫る脅威を察知したトロールが、大きな足音を立てながら四人へ迫ってくる。
新しい防具に身を包んだ朔斗が右手に片手剣、左手に盾を持ってトロールとの間合いを詰めていく。
お互いの距離が一気に縮まり、一発触発の状態へと移行。
トロールは上半身を軽く捻じらせて右腕を思い切り引き、それを高速で撃ち出す。
「ウガアアァァ!」
朔斗が敵からの攻撃に反応を示し、右にステップを踏む。
瞬間、空気を切り裂く音が彼の耳に入ってきた。
(もっと身体能力を上げれば……今の攻撃を盾で受け止めたら、きっと吹き飛ばされるだろうな)
トロールは巨漢なだけあってパワーがある。
その巨躯から繰り出される攻撃を一身に受け止めるには、まだまだ朔斗の能力は足りないと言える。
回避されても気にせず、何度も腕を振るうトロール。
朔斗は細やかにステップを繰り返して、すべての攻撃をかわす。
(そろそろ反撃するか)
ミスリルで出来た剣を巧妙に操り、カウンターでトロールに切り傷を与えていく。
しかし、敵は【再生】のスキルを所持しているので、小さな傷であればゆっくりとだが回復していってしまう。
「ここだ!」
気合一閃。
朔斗の攻撃はトロールの右腕を切り落とす。
「ガアアアアアア!」
トロールは苦痛の叫び声を上げ、目の前の敵に怯んでしまう。
それを見逃す朔斗ではなく、トロールへ一気に肉迫した彼は心臓がある位置へとミスリルソードを突き立てた。
「ガガガアアアア!」
野太く長い断末魔の悲鳴がダンジョン内にこだまする。
「ふう」
剣についた血を払い、鞘に納めた彼は死体に【解体EX】を使用して、【ディメンションボックス】にそれらを入れた。
「かっこ良かったよ!」
「やるぅ」
朔斗へ駆け寄りながら恵梨香とサリアが賞賛の声を上げていた。
その様子をカメラで撮影している啓介。
女性ふたりの声に喜びを感じる朔斗だったが、こんなところで満足していてはダメだと自身を奮い起こすのを忘れない。
(うーん……正直なところ自分の身を守ってもらうためにも、恵梨香には早めに戦力になってほしい……当然それはサリアもだ。戦闘をしなくていいといっても、自衛は絶対に必要だから。そのためには、上位のダンジョンをとにかく何回もクリアする必要があるか。だが焦りも禁物……難しいな)
ボス部屋の奥――報酬箱や魔法陣がある部屋に設置されているモノリスに触れた際、身体能力が上がるのは周知の事実だが、その上昇率はダンジョンのランクに比例して大きくなる。
しかし、一回や二回クリアした程度では、自覚するほど能力が上昇しない。
どの程度上がれば体感できるのかというのも、人によって感覚が違うため、未だに地球では上昇率の解明がなされていない。
(宇野さんの動画に出演するペースも考えなきゃな。その辺は一回出てから検討するって伝えてあるし、今ここで判断しなくていいか)
パーティーによって頻度は違うが、ケースケチャンネルにレギュラーとして出演している探索者が、数パーティー存在してる。
そのため彼は、<EAS>にのみ自身のリソースを割くことはできないし、朔斗も自分たちの探索をすべて生配信するつもりもなければ、望んでもいない。
もちろん配信したことによるメリットは計り知れないし、その点はきちんと理解している。
華々しい活躍や、それがほぼ確実に見込まれているパーティーであれば、宣伝になるからと自社の武具や雑貨品などを提供してくれるスポンサーだったり、コマーシャルに起用したいと提案してくる企業だったりが出てくる可能性もあるし、なにより動画の再生数によってギャラが発生する。
その辺はケースケチャンネルではなく、自前でチャンネルを持って活動すれば金額が一気に跳ね上がるのだが、それをすると何かあった際に動きにくくなってしまうのと、時間の消費も激しい。
エリクサーを入手するまでは、権力、財力、人脈が特に必要なのだが、それでもしがらみはできる限り少ないほうがいいのだ。
Dチューバーは儲かるとはいえ、いきなり数十億円が稼げて、エリクサーを速攻で入手できるはずもないというのが朔斗の見立て。
それならまずはとにかくダンジョンを周回して実力を上げ、報酬箱の中身に期待したほうがいい。
モンスターを蹴散らしつつ、そのようなことを戦闘以外の時間に考えていた朔斗。
このダンジョンは上級であるにもかかわらず、珍しく地図が売っていたので、それを恵梨香に持たせて、行き先を指示してもらっている。
出回っているマップが少ない上級ダンジョンにおいて、それが売っている所は人気があるのだ。
そういった背景もあり、道中では他の探索者パーティー数組とすれ違っていた四人。
(他にもこのダンジョンに来ている探索者がいるからか、モンスターとの遭遇率が低いな。これはさっさとクリアしたほうがいいだろう)
そう考えた朔斗はその内容を指示として、パーティーメンバーや啓介に伝え、それをこのダンジョン内において<EAS>の行動指針とした。
特にトラブルもなく他のパーティーをやり過ごしていた彼らは、夜になったので安全な場所を見つけた後、野営の準備に取りかかるのだった。
「今のは何をしたんだい?」
朔斗が振り返ると、引き攣った表情の啓介が見えた。
まだ二十歳と若く、多くの女性に好まれるような優しさを感じさせる顔立ちなのに、もったいないなと朔斗が内心思いつつも彼の問いに答える。
「今のは俺が持つスキル――【解体EX】によるものだ」
「【解体】のことは事前に情報として知っていたけど、【解体EX】?」
朔斗を知らない人でも、さすがに唯一無二のジョブ『解体師』のことは知識としてある人が多い。
パーティー、企業、軍隊、公的機関などの人事権を持つ者なら『解体師』と黒瀬朔斗の名前が一致している人物が多いだろう。
しかしそれがただの探索者だったり、探索者にはなっていないがそれ関係のニュースやコラムや動画を趣味として見る人だったりの場合、『解体師』のジョブ名ばかりが先行していて、黒瀬朔斗の名前は有名ではない。
表情をふっと緩めた朔斗が啓介に言う。
「【解体】と違って、【解体EX】は生きているモンスターも解体できる。『解体師』のジョブランクが神級にランクアップして、スキルが進化した結果だよ」
普段遣いの言葉でいいと、啓介が事前に<EAS>のメンバーへ申し伝えていたこともあり、気負いなく普通の口調で話す朔斗。
カメラの前なので緊張しそうなものだが、ダンジョン内の張り詰めた気持ちがそれを上書きしていた。
被写体であるのを気にしているようだと、ダンジョンの危険に対処しきれないのだ。
「そうなのか……それがあれば上級ダンジョンでもまったく問題ない?」
「ああ」
「それは安心だ。絶対に安全だって会社から念を押されていたけど、それでもサポート系ジョブ三人と一緒だとな……どうしても半信半疑だったのさ」
軽快に笑う啓介。
生配信ではコメント欄が恐ろしい速度で流れていた。
名無しの視聴者:【解体EX】とかあああ
名無しの視聴者:聞いたことないスキルだ
名無しの視聴者:初出?
名無しの視聴者:だと思う
名無しの視聴者:今までそんなスキルは聞いた覚えがない
名無しの視聴者:初耳
名無しの視聴者:やばない?
名無しの視聴者:朔斗きゅん、結婚できます!
名無しの視聴者:私も
名無しの視聴者:私が
名無しの視聴者:私だ
名無しの視聴者:私こそ
名無しの視聴者:お前らうるさいw
名無しの視聴者:婚活パーティーにでも行ってろと
名無しの視聴者:朔斗は俺が育てた
名無しの視聴者:誰だしお前
名無しの視聴者:うざw
名無しの視聴者:どうでもいいいい
名無しの視聴者:それより検証しようぜ
名無しの視聴者:だな
名無しの視聴者:そうそう
名無しの視聴者:【解体EX】で生きたモンスターを解体可能
名無しの視聴者:魔法じゃないから、魔法防御力が高い敵にも有効?
名無しの視聴者:そうぽい
名無しの視聴者:攻撃力無限大?
名無しの視聴者:どうなんだろう?
名無しの視聴者:しかし、三十メートルは離れていた敵を一網打尽か……
名無しの視聴者:恐ろしい
名無しの視聴者:強すぎじゃん
名無しの視聴者:これ要はあれでしょ
名無しの視聴者:何
名無しの視聴者:『解体師』が敵を薙ぎ払い、『ギャンブラー』がレアボスのポップ率を上げ、『大道具師』が報酬箱の中身の質をアップ
名無しの視聴者:無駄がない
名無しの視聴者:いや、レアボスはそこまで出ないから無駄じゃ?
名無しの視聴者:どうだろうか
名無しの視聴者:レアボス出現率アップが小、中、大、特大のどれかにもよる
名無しの視聴者:サリアって子はどれなんだろう?
名無しの視聴者:さあ、知らない
名無しの視聴者:たしかに出現したレアボスも倒せるなら、『ギャンブラー』がいたほうが収益性が上がるかも?
名無しの視聴者:不確定要素にかけるよりも、人数をひとり減らしたほうがひとり当たりの収入が増えるんじゃない?
名無しの視聴者:皆忘れてるな、サリアさんは特殊探索者
名無しの視聴者:あー、それなら支出が抑えられるのか
名無しの視聴者:天才
名無しの視聴者:まあパーティー編成の話はいいとして、【解体EX】が反則すぎる件
名無しの視聴者:黒瀬朔斗はいずれSSSランクになるでしょ
名無しの視聴者:マジそれ
名無しの視聴者:ケースケチャンネルからSSSランクの探索者が出るなんて!
名無しの視聴者:気が早いぞ
いつも以上に書き込まれるコメントを流し読みしながら、啓介はようやく平常心を取り戻してきたのを自覚する。
近くにモンスターの影はなかったが、警戒を緩めていなかった<EAS>のメンバー。
リーダーの朔斗が啓介に話しかける。
「先に進んでいいか?」
「おっけーだ」
恵梨香とサリアに視線で合図をした朔斗は、まず先ほど倒したトロールの素材の元へと向かう。
骨、肉、皮などを【ディメンションボックス】に収納し、彼らはさらに足を進めていく。
しばらく歩き、ひとつの影を発見した。
距離は四十メートル程度。
恐らくトロールだと判断した朔斗が言う。
「あっちはまだ気づいていない。今回は【解体EX】をすぐに使わないで、少し戦ってみたい。恵梨香とサリアはまだ手が出ないと思うから、見学しててくれ」
「うん。早く強くなりたいな」
「おっけーや」
悔しそうな恵梨香に普段どおりのサリア。
サリアは戦闘に参加しなくてもいいという条件で<EAS>に雇われているが、今となってはモンスターとある程度戦って、もう少し朔斗らの役に立ちたいと内心考えていた。
もちろん今のままでは実力がついていっていないので、それを口に出すことはない。
ダンジョンをクリアすればするほど、身体能力の上昇が見込まれるので、いずれはと考えていた。
ちなみに身体能力には魔力も含まれる。
自身に迫る脅威を察知したトロールが、大きな足音を立てながら四人へ迫ってくる。
新しい防具に身を包んだ朔斗が右手に片手剣、左手に盾を持ってトロールとの間合いを詰めていく。
お互いの距離が一気に縮まり、一発触発の状態へと移行。
トロールは上半身を軽く捻じらせて右腕を思い切り引き、それを高速で撃ち出す。
「ウガアアァァ!」
朔斗が敵からの攻撃に反応を示し、右にステップを踏む。
瞬間、空気を切り裂く音が彼の耳に入ってきた。
(もっと身体能力を上げれば……今の攻撃を盾で受け止めたら、きっと吹き飛ばされるだろうな)
トロールは巨漢なだけあってパワーがある。
その巨躯から繰り出される攻撃を一身に受け止めるには、まだまだ朔斗の能力は足りないと言える。
回避されても気にせず、何度も腕を振るうトロール。
朔斗は細やかにステップを繰り返して、すべての攻撃をかわす。
(そろそろ反撃するか)
ミスリルで出来た剣を巧妙に操り、カウンターでトロールに切り傷を与えていく。
しかし、敵は【再生】のスキルを所持しているので、小さな傷であればゆっくりとだが回復していってしまう。
「ここだ!」
気合一閃。
朔斗の攻撃はトロールの右腕を切り落とす。
「ガアアアアアア!」
トロールは苦痛の叫び声を上げ、目の前の敵に怯んでしまう。
それを見逃す朔斗ではなく、トロールへ一気に肉迫した彼は心臓がある位置へとミスリルソードを突き立てた。
「ガガガアアアア!」
野太く長い断末魔の悲鳴がダンジョン内にこだまする。
「ふう」
剣についた血を払い、鞘に納めた彼は死体に【解体EX】を使用して、【ディメンションボックス】にそれらを入れた。
「かっこ良かったよ!」
「やるぅ」
朔斗へ駆け寄りながら恵梨香とサリアが賞賛の声を上げていた。
その様子をカメラで撮影している啓介。
女性ふたりの声に喜びを感じる朔斗だったが、こんなところで満足していてはダメだと自身を奮い起こすのを忘れない。
(うーん……正直なところ自分の身を守ってもらうためにも、恵梨香には早めに戦力になってほしい……当然それはサリアもだ。戦闘をしなくていいといっても、自衛は絶対に必要だから。そのためには、上位のダンジョンをとにかく何回もクリアする必要があるか。だが焦りも禁物……難しいな)
ボス部屋の奥――報酬箱や魔法陣がある部屋に設置されているモノリスに触れた際、身体能力が上がるのは周知の事実だが、その上昇率はダンジョンのランクに比例して大きくなる。
しかし、一回や二回クリアした程度では、自覚するほど能力が上昇しない。
どの程度上がれば体感できるのかというのも、人によって感覚が違うため、未だに地球では上昇率の解明がなされていない。
(宇野さんの動画に出演するペースも考えなきゃな。その辺は一回出てから検討するって伝えてあるし、今ここで判断しなくていいか)
パーティーによって頻度は違うが、ケースケチャンネルにレギュラーとして出演している探索者が、数パーティー存在してる。
そのため彼は、<EAS>にのみ自身のリソースを割くことはできないし、朔斗も自分たちの探索をすべて生配信するつもりもなければ、望んでもいない。
もちろん配信したことによるメリットは計り知れないし、その点はきちんと理解している。
華々しい活躍や、それがほぼ確実に見込まれているパーティーであれば、宣伝になるからと自社の武具や雑貨品などを提供してくれるスポンサーだったり、コマーシャルに起用したいと提案してくる企業だったりが出てくる可能性もあるし、なにより動画の再生数によってギャラが発生する。
その辺はケースケチャンネルではなく、自前でチャンネルを持って活動すれば金額が一気に跳ね上がるのだが、それをすると何かあった際に動きにくくなってしまうのと、時間の消費も激しい。
エリクサーを入手するまでは、権力、財力、人脈が特に必要なのだが、それでもしがらみはできる限り少ないほうがいいのだ。
Dチューバーは儲かるとはいえ、いきなり数十億円が稼げて、エリクサーを速攻で入手できるはずもないというのが朔斗の見立て。
それならまずはとにかくダンジョンを周回して実力を上げ、報酬箱の中身に期待したほうがいい。
モンスターを蹴散らしつつ、そのようなことを戦闘以外の時間に考えていた朔斗。
このダンジョンは上級であるにもかかわらず、珍しく地図が売っていたので、それを恵梨香に持たせて、行き先を指示してもらっている。
出回っているマップが少ない上級ダンジョンにおいて、それが売っている所は人気があるのだ。
そういった背景もあり、道中では他の探索者パーティー数組とすれ違っていた四人。
(他にもこのダンジョンに来ている探索者がいるからか、モンスターとの遭遇率が低いな。これはさっさとクリアしたほうがいいだろう)
そう考えた朔斗はその内容を指示として、パーティーメンバーや啓介に伝え、それをこのダンジョン内において<EAS>の行動指針とした。
特にトラブルもなく他のパーティーをやり過ごしていた彼らは、夜になったので安全な場所を見つけた後、野営の準備に取りかかるのだった。
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