無双の解体師

緋緋色兼人

文字の大きさ
上 下
4 / 65
一章

4:覚醒

しおりを挟む
 今までずっと一緒にパーティーを組んできた仲間が、オーガ・上級ダンジョンから脱出していった魔法陣のほうに視線を向けていた朔斗は力が抜けてしまい、地面に膝をついた。
 彼は無意識に顔を天井に向けてから、目をつぶり言葉を漏らす。

「これからどうすればいいんだ……今からリスタートをして果たして間に合うのか?」

 予期もせぬ追放。
 それも駆け出し探索者だった頃から供にやってきた仲間から。

(解体作業員としてだったり、【ディメンションボックス】を使ったポーターとしてだったりとして、どこかの企業に就職をしたら間違いなく高給取りになれるが……そんなんじゃエリクサーを手に入れるなんて夢のまた夢。どこかのパーティーに入るにしても、探索者ランクが高いパーティーであれば高品質のアイテムボックスを持っているだろうし、解体はそれこそ余りある財力で他者へ依頼するよな)

 朔斗は中学校を卒業するにあたって、自分の目的を果たすためにはどのような進路を取ればいいのか何度も何度も考えたし、それらをシミュレーションしてきた。
 その結果、彼が選択したのは友人たちと一緒に探索者デビューをし、ずっと一緒に行動をしてきた仲間たちと上を目指すことだった。
 自分の目的を達成するためには、そうすることが遠回りのようで近道だと思ったからだ。

 探索者に登録できるのは、最速でも中学校を卒業してからとなっている。
 現在の地球で探索者の資格を持っているのは一億人はいるだろう。
 探索者はそれまで残してきた功績によってランク分けをされていて、それはSSS、SS、S、A、B、C、D、E、F、Gの十段階だ。
 登録者の中で一番多いのはDランクとなっており、さらにそれ以下の者と合わせたのが探索者全体の75%を占める。

 Cランクもそこそこの人数がいるのだが、そこから上がっていくことは難しい。
 そしてランクが低い者はアイテムボックスを所持している可能性がほとんどなく、ランクが低ければ低いほど収入が少ないといった背景から、朔斗の能力に対する需要は非常に高かった。
 彼が人気だったのは、狩った獲物を無制限に持ち帰ることができ、解体にかかる時間も費用も節約できるからだ。

 朔斗がいるだけでダンジョンから戻る度に収入が相当増加し、ダンジョン内で行う解体の時間が大幅に削減できる。
 解体時間が短いというより、ほぼ皆無であるため解体する際に安全を確保する必要もなくなる。
 それはメンバーの体力や精神の消耗を少なくすることに直結するし、ダンジョン内で過ごす時間が減ることは食料の節約にもなり、街への帰還も早くなるといった利点も見逃せない点だろう。

 それがどれだけ凄いのかというと、朔斗が中学校を卒業したときには、彼の能力を知った多くの探索者から勧誘があり、彼を巡って大規模なスカウト合戦が起きたほどだ。
 しかし、そうした者たちと組んでも、上にいけばいくほど自身を疎ましくなるだろうという考えが朔斗にはあったので、それならせっかく誘ってくれている友人たちと一から探索者を始めることにしたのだ。

「はっ、昔懸念したことが最悪の形で当たっちまったか。こんなことがよりにもよって信頼していた仲間によって引き起こされるとはな……」

 先ほどの出来事を心の中で消化しきれない朔斗が自嘲気味に呟く。
 こうなってしまった以上、今後どうするのかを考えなければいけないのに、どうしても今すぐには気持ちを切り替えられなかったのだ。
 とはいえ、いつまでも落ち込んでいられるほど彼は暇ではない。

(あいつらに裏切られたショックを引きずったままじゃいられないし、いつまでもこんな所にいても仕方ないか)

 そう考えた朔斗は両手で思いっきり自身の頬を叩く。
 そしてダンジョン内に響く乾いた音。

 パーティーをいつまで組むという明確な契約をしていなかったとはいえ、彼らと朔斗は友人同士であり、パーティーを結成したときやそれからしばらくの間、俊彦たちは『ずっと一緒にやっていければいいよな』と朔斗に伝えていたので、世間一般的な意見としては朔斗が裏切られたと考える者が大多数だろう。

「いってぇ。わかっちゃいたけど夢じゃないよなぁ。はぁ……」

 ひとまず帰宅してから今後のことを考えようと、友人たちの裏切りを無理やり頭の片隅へ追いやる。
 そうして朔斗はゆっくりと立ち上がり、この部屋に設置されているモノリスへと近づいていく。
 十メートル程度歩き、朔斗は眼前にあるモノリスに右手を添える。
 こうすることによって、そのダンジョンでの行動が経験値となって自身に吸収されていくのだ。

 ダンジョンをクリアした際には、経験値にボーナスが付与されてそれがひときわ大きくなる。
 もちろんわざわざダンジョンをクリアしなくても、WEOにあるモノリスを利用することでそれまでに積み重ねた経験値を自身に吸収させることが可能だ。

 現在の地球において経験値を入手するのは非常に大事なことになっている。
 なぜならそれによってジョブのランクが上がったり、身体能力が多少なりとも上昇していったりするからだ。

 朔斗の右手が感じる冷たい感触。
 モノリスが淡い光を放つ。

「ん? ランクが上がったか」

 朔斗が言葉を発するのと同時にモノリスに文字が浮かび上がってくる。
 そこへ視線を移す朔斗。

 名前:黒瀬朔斗
 ジョブ:解体師
 ジョブランク:神級
 スキル:解体EX・ディメンションボックス・取得ジョブ経験値特大アップ・下級水魔法
 ダンジョンクリア回数:最下級20、下級70、中級60、上級1
 備考:解体師のランクが超級から神級にランクアップしたことによって、【解体】が【解体EX】に進化しました。

「【解体EX】?」

 自身の魂に刻まれたスキルが進化したことを感じ取った朔斗の脳内に、そのスキルの情報が巡る。

「は? え? これは……マジか……」

 そのスキルの詳細、そしてそれを自身が手に入れた事実は俊彦たちの裏切り以上に予期せぬ出来事。
 あまりに衝撃すぎて朔斗は呆けてしまう。
 数秒後、彼の乾いた笑い声がダンジョン内に響き渡る。

「はは、ははは、あーはっはっは……」

 しばらく歓喜の声で包まれた室内に再び訪れる静寂。
 視線を脱出用の魔法陣に向けた朔斗が足を動かす。

(俺にはいくつかの未来がある。ひとつめは、今からあいつらを追いかけていって再び一緒に上を目指していく。俺の新しい能力を示せば俊彦たちは決して俺を拒まないはず。しかし、俺はすでにあいつらを信用できない)

 今後どのようにして目的へ向かって進むべきかを考えながら、徐々に魔法陣へと近づく朔斗。

(なんだかんだであの四人は才能があった。なんといっても優れたジョブを持っていたからな。あれくらいのジョブを持っている新人が四人いれば、そこに加わってまた一から探索者をしてもいいが、そんなに上手くいかないだろうし、拘ることもないか)

 ふたつめの案まで考えた朔斗は軽く首を横に振る。
 俊彦、良太、恵子、瑞穂くらいに評価が高いジョブを持って、それらの者が仲の良い友人同士で、さらに全員でパーティーを結成するということはそうそうあることではない。

 とはいえ、確かに彼ら四人の平均値は高いが圧倒的な才能の持ち主とまではいかないので、もっと凄まじい能力を持ったジョブの持ち主がひとりパーティーに所属しているだけで、全員が均等に一定以上優れたパーティーよりも総合力が高いことは多々あるため、絶対的な指標とまではいかない。

(逆に探索者ランクが高い者の中に加わるのはどうだ? 今の俺なら重宝されるはず……いや、逆にもったいないか……うーん、ソロでいくか? だけどそれもなぁ。そんなにすぐに決められることじゃないか)

 さまざまな思考を巡らせた朔斗は、魔法陣の手前までたどり着く。

「これ以上は帰ってから考えるか」

 少し前までの落ち込んでいた朔斗の顔は、現在晴れやかなものになっている。
 俊彦たちに裏切られたことによって感じていた絶望は希望へと変移していた。
 無意識に伸びた背筋、自然と浮かぶ笑み。
 そんな朔斗は魔法陣の中へと一歩踏み出したのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

処理中です...