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4巻

4-2

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「こっちにはありがたい話だが、随分と決断が早いじゃないか。お前は結構重要な立場にいるんだろう? そんなにあっさりと口を割っていいのか?」
「俺が帝国に従っているのは、この国が絶対的な強者だからなのさ。俺自身も結構な強さを持っているけど、さらに強者の庇護ひごがあればできることが色々増えるし、なにより楽しいだろう? 今も興味本位で来てみたんだ。今回ばかりは相手が悪かったってだけだ」

 こいつは結構な修羅場しゅらばをくぐってきたみたいで、こうして話している間に精神を立て直したらしい。その証拠に、顔色がすでに普通に戻っていた。
 ロウガはステアニア帝国や皇帝に絶対的な忠誠心があるわけではないという。念のため〈真偽〉スキルで確かめても、その言葉に嘘はない。作ったばかりのスキルだが、いい感じに役立ったな。
 こいつに〈真偽〉スキルが通用したのは幸いだ。こうやってちまちま使っていって、早めにスキルレベルを上げたいところだ。
 ロウガを鑑定したところ、こいつは楓より少し弱いくらいで、〈短剣術〉を得意としていた。過去の楓なら瞬殺されただろうが、現在は俺の〈統率〉が効いているし、装備の違いもあり、楽勝だ。

「お前が答えてくれるなら俺はそれでいい。で、ステアニア帝国がミドガル王国を偵察に行った際、エルフ族の男女一組を奴隷にしたはずだ。その男性は俺の後ろにいる人で、女性のほうの居場所を知りたい。情報はあるか?」

 俺の質問を聞いたロウガは肩をすくめる。

「なんだ、そんなことかい? その女ならついさっきまで帝城の牢獄に入れられていたねぇ。今頃はトラン伯爵の屋敷に向かっている途中だろう」
「伯爵?」
「そうだ。彼の奴隷好きは有名だ。だから陛下が功績のあったトラン伯爵に褒美として女をお与えになられた。そこにいる男はカツヤ・ソラキに与えられたはずだが、敗戦したみたいだし、ソラキはもうこの国に戻ることはなさそうか……」

 俺はロウガの言葉に頷き、さらに問いかける。

「トランの屋敷はどこにある? 聞きたいことはもう一つあるが、まずはトランのところに行くことを優先したい」
「はいはい、わかったよ。まぁ、この程度なら誓約の腕輪も反応しないしな。帝国や皇帝陛下に敵意があるわけでもないからね」

 後半は悪態をつくように言い放つロウガ。
 と、ここでリベロさんが話に割り込んでくる。

「ルイ君! 早く行こう!」

 彼が焦る気持ちは理解できる。レシアさんは俺にとっても大事な人だし、俺は笑顔で頷く。

「よし、すぐにトランの屋敷に向けて出発だ。この際だ、屋根の上を走って最短距離を行こう。ロウガ、最速でトランの屋敷に向かえ! 俺たちはお前に着いていく!」

 ロウガは肩をすくめながら「やれやれ、人遣いが荒いな」と言い残すと、一瞬で屋根に上がって駆けていく。
 このスピードだと、彩花と石動、アイリは少しギリギリになりそうだな。
 そう判断した俺は、即座に【サモンワールド】からフェンリルとファフニールを呼び出した。
 虚空に黒いうずが現れ、中から二匹が出てくる。

「フェンリル! 彩花と石動とアイリを乗せて俺たちに着いてこい! ファフニールは気絶している奴らを目立たない場所に置いてきてから、俺たちと合流だ」
「がるるぅ」

 ファフニールの元気な声を聞いた俺たちは、遠目に小さく見えるロウガを追って駆け出した。


 ◇ ◇ ◇


 俺たちはできる限り屋根に被害を出さないよう走っていき、しばらくしてロウガが立ち止まった。
 辺りを見渡すと、大きくて立派な屋敷が一軒だけ立っており、人通りもまったくない。閑散とした道には砂埃が舞い上がっていた。
 こんなに目立たない場所に屋敷があるのには、トランが奴隷好きってのが関係するのだろうか? 

「ここがトランの屋敷か?」

 俺たちから少し離れた場所にいるロウガに確認してみる。

「そうだ。ここに来る途中で伯爵の馬車を二台見かけたから、本人はまだ屋敷に到着していないとみて間違いない。そうそう、彼は奴隷と一緒の馬車に乗らないことで有名だから、その女が道中に何かされるってことはないはず。最初に言われた通り屋敷まで来たけど、街中で襲うのとどっちが良かった?」

 そう言い終えたロウガは、どこか嗜虐的しぎゃくてきに見える笑みを浮かべている。こいつは有能なんだろうけど、掴みどころがなさすぎるな。
 それに相当打算的な人物だと思う。そんな性格を考えると、やはり自分の命がかかっていると思えばこその行動か。
 こいつは今のところ嘘は言っていないし、これならレシアさんの貞操はまだ無事だろう。

「ああ。確実にここに来るのであれば問題ない」

 どうやって救出するかな。正面から迎え撃つか……もしくは、屋敷を占拠しておくか?
 少し考えて、俺は結論を出す。

「屋敷にいる面子が俺たちにかなうとは思えないが、到着したトランに挟撃されるのも面倒だ。俺がここに残って様子を見ておくから、誰かに屋敷を占拠しておいてもらいたい。リベロさんとロウガは俺と一緒にいてくれ。さて、誰が屋敷に行く?」
「そういうことなら任せて! さっさと制圧してくるね」

 一番に立候補した楓が屋敷に駆けていき、続けてアイリと石動も反応する。

「ルイ様! 私も行ってきます!」
「私も行く」

 いつの間にか俺の足元に来ていたフェンリルの頭を撫でながら、俺は二人の返事を了承する。
 アイリと石動は俺に頷き返すと、屋敷に向かった。
 楓が無茶をしないか少し心配だ。戦争では結構暴れたみたいだしなぁ。

「ね、ねぇ、類、私も行ってくるね。楓がやりすぎないか心配だから」

 そんな俺の不安を読み取ったのか、彩花がそう言い残し、三人を追いかけていった。
 エレノアとマリアは落ち着いた顔でトランの屋敷を眺めている。リベロさんは少し不安気だ。

「リベロさん、レシアさんは必ず助け出す。だから安心してほしい」
「あ、ああ。すまない。ありがとう。ルイ君に心配をかけてしまったようだね」

 リベロさんの返答に、俺は首を横に振った。



《2 レシア救出に向けて》

 少しして――屋敷のほうから騒音が届き、外塀が崩れ落ちた。屋敷と外塀を同時に破壊とか……
 終いには悲鳴が聞こえてくる。

「なかなか暴れてるようだね。トラン伯爵は奴隷をイジメるのが好きでねぇ。人に言えないようなこともしていたからこんな辺鄙へんぴな場所に屋敷を立てたんだと思うけど、今回はそれが仇になったね。これだけ目立てば、本来なら警備隊や他の貴族が来てもおかしくなかったよ」

 ロウガの言葉に顔がるのを感じつつ、俺は苦笑を漏らす。
 屋敷のことは任せたのだから、彼女たちを信用しよう。目の前の光景の変化に少し戸惑いながらも、俺はそう考えた。
 リベロさんは口をパクパクさせていたが、エレノアとマリアは至って普通の顔のままだ。
 それから一〇分程度が経過した後、トランの屋敷は全壊していた。
 さすがにここまでになるとは思わなった俺は、天をあおいでため息をつく。
 どうしてこうなった……占拠と全壊はまったく違うだろう……屋敷の中で待っていて、帰ってきたトランに「ここはもう占拠したぞ」って言う予定だったんだけどな。

「はぁ」

 エレノアとマリアも苦笑いしている。

「これからどうするの?」

 マリアに言われて考える。こうなると、辛うじて残っている外塀の陰に隠れていて、隙を見てレシアさんを救出するのが一番か。
 隠れなくてもいいかもしれないけど、今の彼女の状態がわからないし、少しでも時間が稼げるなら稼ぐべきだ。

「ご主人様、ため息はダメなのです!」
「はは、そうだな。とりあえず彩花たちの戻りを待って、それから行動しよう」

 俺がそうエレノアに答えるのとほぼ同時に、楓、石動、アイリが駆け足で戻ってきた。

「類君、ごめんね……全壊させる予定はなかったんだけどさ……」
「ごめんなさい」
「すみません。私もです……」

 楓、石動、アイリはそれぞればつが悪そうな顔で謝罪してきた。
 俺としてもどうしてこうなったのか気になったので、話の続きを促す。

「実はあの屋敷で地下室を見つけたの。そしてそこには、四肢が欠損して胴体を鎖で繋がれたまま放置されている獣人族やエルフ族の死体が六人分あったわ。全員隷属の首輪をしていたから、奴隷で間違いないわね」

 報告してくれている楓は拳を強く握りしめており、手から血が滴っている。

「地下室には、拷問具と思われる器材も沢山ありました。私たちが到着したとき、ちょうどこの屋敷の使用人や護衛らしき人たちがその死体を片付けている最中でした」

 アイリがそう補足してから、また楓が報告を続ける。

「類君、ごめんなさい。私、どうしても怒りを抑えることができなかった。死んでいた奴隷たちの中には、まだ一〇歳くらいの子もいたの……皆、苦痛に歪んだ顔をしていたわ……」
「あの伯爵は奴隷を甚振いたぶるのが趣味だからねぇ。地下室がそうなってたのは当然かなぁ」

 ロウガの軽薄な物言いが気に入らなかったのか、楓は思いっきり彼に殺気をぶつける。

「おっと、ごめんごめん。言い過ぎた。カエデ・ヤシマ、そんなに怒らないでくれよ。怖い怖い。俺は事実を述べただけなんだからさぁ」
「言い方ってものがあるでしょ! 本当にステアニア帝国は腐ってるわ!」

 今にも襲い掛かりそうな勢いで楓は言う。

「この国は人族至上主義、かつ、弱肉強食を体現している国だからねぇ。帝国がここまで大きくなったのも、ひとえに強者ゆえのことだしさ」

 ロウガが言うように、ステアニア帝国がここまで大きくなった発端は、容赦なく妖精族を狩り尽くしたからだ。だから、この国には妖精女王ティターニアが囚われているかもしれない。
 しかし、トランはどうしようもないな。年端もいかない子どもたちさえ残虐に殺すのか。
 そういえば、楓のブレーキ役をしてくれると思った彩花はどこだ?

「彩花はどうした?」
「あの子は今お墓を作っているわ。〈土魔法〉で穴を掘って埋葬するくらいの簡素なものだけどね。手伝いはいらないから先に類君に報告してきてって言われたの。『多分、屋敷が崩壊したのを心配してるだろうから』だって」
「確かに……彩花は冷静なところもあるな」

 それにしても、まさかそんなことがあったとは。悲しそうな顔をしている楓に、俺はさらに問う。

「それで、地下室でかち合った屋敷の人間はどうした?」
「もちろん潰したわよ? だってしょうがないじゃない……」
「そうか……まぁ、仕方ないな。そいつらは無理やりトランに従わせられていた可能性もあるが……それでもな……」

 やり切れない気持ちになっていたところ、ロウガが口を挟む。

「あー、ステアニア帝国の市民の中には、奴隷の獣人族やエルフ族に対してあわれみの心を持つ者も、極々少数ながらいることはいるけどさ。残念ながら貴族の関係者にそんな人たちは皆無だね。むしろ率先して甚振る奴らが多いかなぁ。まぁ、伯爵の趣味の妨げにならない程度にだと思うけど。本格的にやったらトラン伯爵から罰せられるからねぇ。『人の趣味を取るな』って」

 国の主義と言えばそれまでだが……あまりの非道ぶりにやるせなさを覚えてしまう。
 しかし、俺が見も知らぬ相手に対してこんな気持ちになるなんてな……
 暗い雰囲気の中、マリアが手を叩いて全員の注目を集めてから口を開く。

「ところで、そろそろ移動したほうがいいと思うよ。もうすぐトランが来るんじゃない?」
「そうだな。彩花と合流して、トランが来るのを隠れて待とう」

 作戦と言える程上等な考えではないが、俺は全員にそう伝えた。


 屋敷の敷地内に入って少し歩くと、目を閉じて両手を合わせ、祈っている彩花の姿を発見した。

「彩花……黙祷を邪魔して悪いが、そろそろ隠れよう。トランたちを一網打尽にしないとな」

 俺は決意を込めて彩花に伝える。レシアさんを救助した後、トランは放置してもいいかなと思っていたけど、こうなってはもう無理だ。
 殺されてしまった奴隷たちと縁もゆかりない俺にトランをどうこうする権利はないし、傲慢ごうまんだとは思うけど……
 俺は、俺の顔色を窺っているリベロさんに告げる。

「安心してください。レシアさんは絶対に助け出しますから。そして、トランたちは――」

 俺はそこで一度言葉を句切り、皆の顔を見回してから低い声で言う。

「――皆殺しだ」

 結局俺たちも、俺たちの邪魔になる奴らや、許せない奴らを殺している。だから自分たちが正義だとか、相手が悪だとかは思わないし、思ってはいけないと思う。
 それでも……それを呑み込んででも、先に進む決意をしたんだ……リサが消えたあの日に……

「よし、あそこの塀の下に潜もう」

 ロウガも含めて、全員で移動を開始。ロウガのことは、フェンリルが警戒してくれているから安心だ。何か変な動きを見せれば、〈重力魔法〉で一気に押し潰してくれるだろう。


 数分後、土埃を上げながら二台の馬車がやってきた。箱型の馬車にはゴテゴテした派手な装飾がしてあり、如何にも悪趣味な感じだ。
 御者が屋敷の異変に気が付いたのだろう、何かを叫んでいる。
 馬車の扉がスライドして開き、でっぷりした男が顔を出す。そいつも何かを叫び、それと同時に馬車がスピードを上げた。
 崩れ切った外塀の近くに到着した馬車は、急激に速度を落とし、二台並んで停車する。
 先頭の馬車から降りてきたでっぷりした男は、すっかり狼狽ろうばいしていた。まさに悪徳貴族といった風貌で、ジョージのほうがまだマシだった。
 俺は振り向くことなく、後方にいるロウガに問う。

「ロウガ、あれがトランで間違いないか?」
「ああ。あれは間違いなくトラン伯爵だ。間違いようがないよねぇ。あの体型はさ?」

 声量を落としての回答を聞いた俺は、ロウガに注意をしておく。

「わかった。この期に及んでお前が何かするとは思わないが、余計な真似はしてくれるなよ……もしそうした場合は、どうなるかわかるだろう?」
「おお、怖い、怖い。わかってるって。俺も命は惜しいからねぇ」

 ロウガは両手を上げて降参のポーズを取る。
 そんな言い合いをしている最中、後ろのほうの馬車から、隷属の首輪を装着させられた一人のエルフ女性が降りてきた。
 俺は即座に、彼女に〈鑑定〉をかける。ってかトランにもそうすればよかったか。
 エルフ女性がまさにレシアさんだとわかった俺は、リベロさんに目を向ける。
 彼は目に薄らと涙を浮かべながらレシアさんを見つめていて、今にも飛び出していきたそうだ。
 そんなリベロさんの様子を見た際、アイリも俺の視界に入ったのだが、彼女は何かを思案中のような素振りを見せている。
 この屋敷に来たときから何かを考えていたみたいだったが……何かあるのか? だが、何かあるにしてももう時間がない。アイリのことは後回しだ。
 俺は再びトランたちに目を向け、戦力分析を試みる。
 二台の馬車を囲むようにしている馬に乗った護衛が三〇人。彼らを〈鑑定〉したところ、全員が中堅のAランク冒険者程度の実力があるとわかった。トランは結構いい護衛を雇っているな。
 まぁ、所詮Aランク――と言いつつ、俺もAランクだが。
 レシアさんのすぐ近くにも護衛が六人。まとめて魔法で潰すと彼女に返り血がかかる恐れがあるし、あそこまで密集していると【ワープ】を使っても間に割り込めない。

「なぜ私の屋敷がなくなっているのだ! おい! お前ら! どういうことだ!」

 トランのわめごえを無視し、俺は皆に作戦を伝える。

「マリア、ちょっとトランの気を逸らしてきてくれるか?」
「いいよー! 行ってくるねー」

 マリアが一気に駆け出したのを見送り、俺は説明を続ける。

「万が一はないと思うが、皆も油断しないでレシアさんから目を離すな」

 皆が頷いたのを確認し、マリアの様子を窺う。
 マリアはトランから一〇メートル程離れた所に躍り出て、口を開く。

「やぁやぁ、そこのおデブタちゃん! ブタならブタらしく四足歩行をしなきゃダメじゃないか!! 二足歩行なんて生意気だよ! あ、ところで僕の言葉はわかるかな? 理解できているならきっと新種のブタだねー」

 さすがあおって注目を集めるのが得意なマリアだ。
 そのままマリアは問答無用で魔法を放つ。それは弱めの【ダウンバースト】で、トランを押し潰さない程度に威力が抑えられている。

「そうそう、そんな感じ!! いいね、それで四足歩行だね! ほらほら、歩いてブヒブヒ鳴いてみてよ!」
「な、なんだ、お前は誰だ!? これは複合魔法か!? ぐううぅぅ」
「『ぐううぅぅ』じゃなくて、ブヒイイィィだよ! やり直し!!」

 思惑通りにマリアの毒舌が炸裂。しかし、まさか四足歩行させるためだけに【ダウンバースト】を放つとは思わなかった……
 トランの護衛たちが呆けている様子を見た俺は、今がチャンスだと一気呵成いっきかせいに出る。
 一瞬でレシアさんの近くにいた護衛の前までたどり着き、拳を振り抜いて全員の頬を殴打。
 彼らの首は一八〇度回転してしまったのですぐに死ぬだろうが、出血はさせないで済んだ。首が千切れないように力加減が上手くいき、俺は内心自画自賛する。
 六人の護衛を一気にほふった俺は、レシアさんの肩を掴んで――

「【ワープ】!」

 マリアの後方へと一緒に転移。レシアさんは突然の出来事に動揺しつつも口を開く。

「な、な、何? 今のはもしかして転移魔法? え? え? あ、あなたは誰? あの口が悪いエルフの子は仲間?」

 パニック状態のレシアさんに答えるより先に、俺は魔法を唱える。

「【リリース】」

 レシアさんに装着されていた隷属の首輪が外れ、リベロさんが叫びながら駆け寄ってきた。

「レシア! レシアーー!! 無事だったか?」
「え!? リベロ? あなたなの? これは一体どういうこと? どうしてここにあなたが?」
「助けに来たんだ! 何かされなかったか?」
「本当に? 夢じゃないのね……隷属の首輪が外れたのはなぜ? 一体何がどうなってるのよ! ええ、私は何もされてないわ!!」

 リサの両親がお互いを抱擁ほうようし合う。レシアさんは絶賛混乱中のようだが、徐々に状況を噛み砕きつつあるのか、目に涙を浮かべている。
 二人が再会できて良かった。リサ……リサの両親は無事だったよ。
 そんな風に感傷に浸っていると、仲間が暴れているのに気が付いた。見た限り、任せていて問題ないと判断した俺は、レシアさんに話しかける。

「レシアさん。俺はルイ、リサの恋人です」

 リベロさんから離れたレシアさんは、俺に向き直って口を開く。

「リサに恋人がいたの? あの子は生きているのね? もしかしたらダラスで起きた謎の爆発に巻き込まれたんじゃないかって心配してたのよ」
「い、いや……レシア……聞いてくれ――」

 リベロさんが俺をフォローしてくれようとしているのを察した俺は、彼に話したときのように、リサの状況を正直にレシアさんに伝えることにする。

「すみません。リサは今いない。とある事情で封印されてしまって、助けられるのか、再び会えるのか不明で……全部俺の責任なんだ……」

 言い終わると同時に頭を下げようとしたが、それはリベロさんによって阻止された。
 放心した様子のレシアさんだったが、徐々に落ち着きを取り戻し、また口を開く。

「そう。そうなのね……今の様子を見ると、リベロは事情を知ってそうね。私にも教えてもらえるかしら?」
「ああ。ここでは落ち着いて話せないから、後でルイ君から聞いた話を全部伝える。リサからルイ君に宛てた手紙の内容も教えていいよね? ルイ君」
「ああ。これからリベロさんたちを希望する場所に送る。俺たちにはまだ帝国ですることがあるから、また戻ってくる」

 リベロさんは俺に頷き、レシアさんも微笑ほほえんだ。

「あなたはルイというのね。事情を聞くまでなんとも言えないし、なんて言えばいいかもわからない。だけど、リベロの様子を見る限り、あなたは信用できる人だと思うわ。そしてあなたは私を救ってくれた。多分、リベロのことも救ってくれたんでしょ? 本当にありがとう」

 頭を下げてきたレシアさんに、俺は慌てて返事をする。

「あ、頭を上げて! 俺は……当然のことをしただけだから! リサの両親は俺にとっても大事な存在だ」

 自分の言葉に気恥ずかしさを感じた俺は、咄嗟とっさに二人から視線を逸らす。
 チラッと横目で二人の様子を窺うと、二人とも温かい目で俺を見ていた。
 場所は悪いが、優しい空気に包まれているのを感じる。それに、さっきまでうるさかった周囲が静かになってきた。

「成敗! なのです!」
「ルイルイ、あと残ってるのはこのブタだけだよー! こいつはどうする?」
「類! こいつらは絶対に許せなかったから、私も暴れちゃった……」
「類君! こっちは粗方あらかた終わったよー!」
「終わった」

 そんなエレノア、マリア、彩花、楓、石動の声が順番に聞こえた後――

「ああああぁぁぁ!!」

 アイリの絶叫が響き渡った。



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