万能すぎる創造スキルで異世界を強かに生きる!

緋緋色兼人

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3巻

3-3

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 食事中、彩花と楓にエレノアとマリアが「どうだった?」とか「良かったでしょ?」などと話しかけている。
 アイリとリサも興味があるのか赤面しつつも聞き耳を立て、石動だけは無表情のまま。
 俺は彼女たちの会話が聞こえない振りをしながら、他の客を見回す。やはり獣人族の国だけあって、この宿屋にも獣人族がかなり多い。
 昨日街中で観察した際も獣人族ばかりだった。一〇人中七人が獣人族で、残りが人族、エルフ族、ドワーフ族ってところか。
 隣のテーブルにいる男の声が大きくて、自然とそちらの会話が俺の耳に届く。

「そういえば、あと一か月くらいでミラリオン闘技大会だな」
「ああ、もうそんな時期だったか。楽しみだ。でも闘技大会中は王都の宿屋がめちゃくちゃ混むんだよなぁ」
「確かに大会は楽しいけど、どうせ今年も優勝は決まっているようなもんだろ?」
「だなぁ。ここ数年はずっとあの御方が連覇してるしな」

 これから行く王都・ミラリオンで闘技大会があるのか。連覇ねぇ、強い奴がいるのかな?



《4 特別遊撃騎士団》

 ボルダの街で一泊した後、ミラリオンに向かって出発した。
 馬車は相変わらずフェンリルが牽いているため、全員荷台の中だ。
 フェンリルは頭がいいから、一度地図を見せたらいちいち指示しなくても自分で考えて走ってくれる。
 また、馬車は悪戦苦闘しながら俺が魔改造したことで、今では振動はほぼなくなって快適になり、荷台という名の住宅みたくなってしまっている。
〈時空魔法〉により、荷台の中は五〇メートル平米の広さがあって、スペースが結構余っていた。
 それを見た皆が、移動中はそこで鍛錬したいと言い出した。
 彼女たちの希望を叶えるために作ったのが、『結界君』を改造した『結界君セカンド』という魔道具。命名センスは相変わらずお察しってやつだな。
 結界君セカンドを四隅にセットしてスイッチをオンにすると、結界内外でエネルギーを一切遮断する。俺が本気でやると破壊できちゃうのだけど。
 とにかくこれにより、馬車内に訓練場が完成した。
 俺は現在、アイリがれてくれた紅茶を飲みながら、皆の鍛錬の様子を観察中だ。俺がカップを空けると、いつの間にかアイリがやってきて新しく注いでくれる。
 訓練場にいるのはエレノア、マリア、彩花、楓、リサ。他のメンバーに比べるとまだまだ強さが足りないアイリには、少し離れた所で素振りをさせている。
 五人は結構激しく鍛錬をしているが、結界君セカンドにはダメージ無効なんていう機能はついていないので、やりすぎには絶対に注意するように言いつけてある。また、非常時用のポーションも完備だ。
 皆の様子を見ている最中、俺の二体目の召喚獣であるファフニールがお腹に体当たりしてきて、構ってほしそうに頭をすりつけてくる。
 ファフニールを初めて召喚したときは、その大きさに驚愕きょうがくしたのを思い出す。
 全長およそ二〇メートルはあり、威風堂々としたたたずまいはまさに圧巻の一言だった。
 ファフニールの外見は、大まかに言うと西洋の龍。
 あかい眼は燃えているかのように鮮やかで、どんな生物をも射殺すような圧倒的眼力がある。
 身体の色は以前俺が倒した黒龍よりも黒く、これこそが漆黒といった風情だった。光沢がある鱗は大抵の攻撃を通さないだろう。
 そのままの大きさだと一緒に行動するのに困るので、小さくなってもらった。現在の大きさは全長五〇センチ程であり、そのせいで俺たちの中ではマスコットキャラと化している。つぶらな瞳で見つめられると、女性陣だけではなく俺も撃沈しそうになる。
 元の大きさなら背中に乗ることもできるのだが、そこまで急ぐ旅路ではないし、なにより目立ちすぎる。余程のことがない限りそうすることはなさそうだ。
 ミドリアの街でファフニールに首輪を着けて歩いてみたとき、大体の人が驚愕の表情をしていたことを思い出し、俺は思わず苦笑いする。こんなに可愛いのになぁ、と心の中で呟きながらファフニールの頭を撫でてあげた。


 ボルダの街を出発してから一週間。今は草原を移動している。
 周囲には森も見え、結構深いらしく、相当数の木が生い茂っていて少し奥さえも見通せない。
 今日も代わり映えのしないそんな景色を見渡しながら、そろそろ昼食でも食べようかと馬車を止めて、皆で外に出る。
 今日のメニューはコカトリスの焼き鳥。この肉は日本で食べていた焼き鳥に比べてあぶらが多く、脂が口の中にじゅわっとほとばしる。程よい歯ごたえと、そしてなんといっても皮が美味い! これを白いご飯と一緒に食べるのが最高だ。
 白米といえば、初めて彩花と楓に見せたときは、涙腺が決壊したんじゃないかってくらい泣いて喜んでいたっけ。
 皆で雑談しつつ食事を楽しんでいると、遠くから近づいてくる人の気配を感じ取った。
 どうやらそれに一番最初に気が付いたのは俺のようだ。少し様子を窺っていたら、他の皆も気が付いたみたいで一安心。個人差が出るのはスキルの関係上仕方ない。
 それぞれが俺に視線を向けたが、俺が特に気にしていないのを見て問題ないと判断したようで、各自食事を再開した。
 それからしばらくすると、土埃つちぼこりと草を舞い上げながら五台の馬車がやってきた。
 俺たちから二〇メートル程度離れた位置で止まったその馬車からは、次々に男が下車してくる。
 俺たちに視線を寄越し、下品な笑みを浮かべているそいつらは、明らかに盗賊だった。
 そのうちの一人が前に出て、一〇メートル程度離れた位置から口を開く。

「随分といい女が多いな。お前一人でそんな人数はいらないだろう? 俺たちが引き取ってやるから安心するといい!」

 脳みそが腐っていると思われる盗賊を無視したまま、俺はご飯を食べ続ける。
 彩花と楓は嫌悪感丸出しの表情。エレノア、マリア、アイリ、リサ、石動は平然としていて顔色が変わっていない。

「おい!! 聞いてんのか!? お前だよ、お前!! そこにいる銀髪の男!」
「おかしら! 問答してないでやっちまいましょう!」

 この世界はちょっと盗賊が多い気がしないでもない。
 でもそれもしょうがないのかな。地球と違って道がきちんと整備されていないし、車がないため移動速度が遅いから、街周辺以外はなかなかパトロールに手が回らないのだろう。必然、治安が悪くなり盗賊も蔓延はびこる。
 地球出身の彩花、楓、石動の前で盗賊を殺すのは忍びない。石動は〈精神耐性〉を持っているけど、彩花と楓にも早めに取得させたいところだ。
 殺気でも当ててさっさと退散してもらおうと、俺は腰を上げた。
 警戒中の盗賊に近づいていくと、彼らとは別の存在が向かってきていることに俺は気付いた。

「お頭! 俺があの男をやりますから、青髪の女は俺に一番に下せぇ」
「ちっ、しょうがねぇな。お前はこの『パープル盗賊団』の中でも有望株だしなぁ。だがそう何回も我儘わがままは聞けねーぞ?」
「ありがとうございます!! 俺は一生お頭についていきますから!!」

 盗賊の一人に目を付けられたアイリは、嫌悪感を丸出しにして男をにらんでいる。
 改めて盗賊を見回す。全部で四〇人といったところ。八割が獣人族で、残り二割は人族か。
 本来の姿のフェンリルとファフニールを見たら逃げ出しそうなものだけど、二匹は現在、馬車の裏でオークの肉に夢中になっていて、盗賊の視界に入っていない。
 アイリを狙っている盗賊が、一人で足を進めてきた。が、そろそろ盗賊たちにもあの音が聞こえてくるだろう。こちらもアイリと石動以外はもう気が付いているみたいだ。
 安っぽそうな剣を構えた盗賊は、とうとうこちらに接近中の団体に気が付いたようで、ざわざわしている他の盗賊共々振り返る。
 直後、盗賊たちの後ろに、騎士団風の団体が勢い良く到着した。ここはミラリオンまでもう少し距離があるんだが、この辺までパトロールしているのか?
 それにしても、騎士団とは思わなかったな。俺が〈探知〉した限りでは、人数が多く、移動速度からして馬と予想していたので、さらなる盗賊かと思っていた。
 それならまとめて追い払おうと待っていたんだが……目論見もくろみが外れてしまったな。んー、でもある意味これはこれで結果オーライか?
 パープル盗賊団は騎士団を見て焦り始め、我先に逃げ出そうと馬車に乗ろうとする。

「おい! もっと早く乗りやがれ!! あれはファーミラン王国の特別遊撃騎士団だ! さっさとずらかるぞ!!」
「逃げろー!」
「待ってくれー!」

 複数の馬の足音に混じり、盗賊たちの怒号が草原に響く。
 俺がソレに気が付いたのは、盗賊たちが全員乗り終わり、馬車が動き出した瞬間だった。
 騎士団の先頭の馬に乗っている身なりのいい男から、かなり大きな魔力の高まりを感じる。

業火ごうかきたれ、今こそ顕現けんげんせよ! 業火にまみれ燃え尽きよ! 【ヘルバーニング】!」

 発動された魔法は盗賊に向かっていく。着弾の寸前、俺は彩花と楓の元に一瞬で移動し、二人を抱きしめてその視界をさえぎる。

「あちいいぃぃ!!」
「いきなり魔法撃ちやがってえええ!」
「俺の身体が燃えてる……燃えてる……」
「くそおおお、パープル盗賊団に入ってまだ三日だってのに……」

 身なりのいい男が放った【ヘルバーニング】の威力や制御は見事の一言。盗賊だけを標的としていて俺たちに被害はない。
 人の焼ける嫌な臭いが鼻につく。盗賊団は燃え盛る馬車から脱出しながらも身をがしている。
 盗賊だから殺されてもしょうがないのだろうが、問答無用で魔法を撃ち込むとは。
 人質とかがいたらどうしたんだろな? まぁ、これは俺が考えることでもないか。
 盗賊たちはまさにに阿鼻叫喚あびきょうかん。俺は彩花と楓を抱きかかえながらその頭を撫でる。
【ヘルバーニング】のせいで辺り一面が轟々ごうごう燃え盛るのを見ていると、俺と少し離れた位置にいるエレノアたちがなにやら騒ぎ始めた。

「チキュウって所から来たアヤアヤとカエカエは人の死を見るのが辛いのはわかるけど、ずるいよー」
「そうなのです!! 私もご主人様に甘えたいのです!」
「まぁまぁ、二人はまだ〈精神耐性〉もないのだからしょうがないでしょ? でも本当は私だって撫でてほしいわ……羨ましい……」
「お二人ともいつも甘えているじゃないですか? それにしてもルイ様がアヤカ様とカエデ様の側に行かれるのは本当に早かったですね」

 緊張感がない発言が多かったので、俺は聞こえなかったことにして、皆を手招きで呼び寄せた。
 魔法を放った身なりのいい男を先頭に、騎士団の奴らがこっちに向かってきているから、その前に集合しておきたい。
 彼らと話す前に、身なりのいい男に〈鑑定〉を使ったが、弾かれてしまう。
 前にマリアを追ってきたエルフのタイラたちを鑑定した際も違和感があったが、それでもあのときは〈鑑定〉自体は成功した。
 強い〈隠蔽〉の効果がある魔道具でも使っているのか? もしくは〈隠蔽〉のスキルレベルが10なのかもしれないな。
 とはいえ〈鑑定〉が効かないのはその一人だけで、他の奴らには問題なく通じた。
 その結果判明したのは、盗賊が言っていた通り、こいつらはファーミラン王国の特別遊撃騎士団だってことだ。
 身なりのいい男が近くまで来て足を止め、俺に視線を合わせて口を開いた。

「やあ、君たち無事だったかい? 特に見目麗みめうるわしいお嬢様方は怖くなかったかな? あんなに大人数の盗賊に囲まれて怖かったかもしれないね。あいつらには制裁を加えたからもう安心だよ。それで、君たちの名前を教えてくれないかな?」

 こいつが一番偉いのだろう。他の騎士団員は俺たちを警戒しながらも、その後ろに控えている。
 男が身に着けているのは、輝かんばかりの白金の軽鎧。目つきが鋭く、顔立ちは非常に整っている。髪はプラチナブロンドで、くせ毛なのかゆるくウェーブがかかっている。
 なにより目を惹くのが――彼の頭の上にある猫のような耳だった。それはこの人物が獣人族であることを明確に表している。
 しかし、こいつはさっき魔法を使っていた。そうなると、こいつはきっと〈先祖返り〉のスキル所持者なのだろう。つまり生まれは……
 まぁ、俺たちに害をなさないならその辺はどうでもいい。果たしてどうなることか。
 女性陣は俺に目を向けている。ここは任せる、ということだろう。

「こちらの名前を聞きたいのなら、まず自分の名前を名乗ったらどうだ?」
「貴様ぁ! 誰に口を利いていると思っているのだ!! その口を使えなくしてやるぞ!」

 俺の言葉が気にさわったのか、先頭の男のすぐ後ろに控えていた騎士が怒声を上げた。

「カイン、短気は良くない。確かに僕も軽くイラっとはしたけどねぇ。僕くらいの度量があれば流すこともできる。まぁ、いいだろう。僕の名前はキース・フォン・ファーミラン。よろしく頼むよ」

 カインと呼ばれた奴は、キースと名乗った身なりのいい男にさとされて口をつぐんだ。
 キースはニヤニヤとしている。こいつは明らかにモテそうだし、自信があるのだろう。
 それにしても、盗賊たちはまだ燃えているのだが、こいつら全員そちらにはすでに興味がないようだ。
 まだ俺の胸に顔を沈めている彩花と楓を抱きしめたまま、俺は口を開いた。

「名前くらいは教えてやってもいいか。俺はルイだ。俺の右側にいる黒髪の子が楓、左の子が彩花。彩花の隣にいるエルフがマリアで、さらにその横にいるエルフがリサだ。楓の横にいる子がエレノアで、その横がアイリ。アイリの横にいるのが石動だ。ところで、盗賊たちはまだ燃えているが、放っておいていいのか?」
「ああ、あれは気にしなくてもいい。僕たちはパープル盗賊団を討伐するために、わざわざミラリオンから来たんだ。あいつらによる被害がかなり広がっていたからね。盗賊は連れて帰っても死刑だから、ここで燃やし尽くしたほうが後々の処理が楽なのさ。アジトにあるお金とかも、すでに別働隊が接収しているだろうしね」
「ふーん、そうか。俺はそちらに興味はないから、これで話は終わりにしたいところだ」

 聞いておいてなんだが、盗賊の処理などどうでもいい。でもこいつ、ペラペラしゃべり過ぎだろ。

「そうかい? 僕は君たちに興味があるんだけどね。ルイ、君は強そうだし……それはともかくとして、僕は君の周りにいる見目麗しいお嬢様方と仲良くなりたいな。それに三人が黒髪だというのにも興味がある。僕の立場だと色々な情報を得ることができるんだけど……数か月前からステアニア帝国で黒髪の人を見掛けるらしいんだよね。僕は今この瞬間まで黒髪の人を見たことはなかったから、興味が出るのは当然だと思わない?」



《5 キース・フォン・ファーミランとの出会い》

 キースの目は俺たちを見定めているようだった。
 俺以外に対しては、瞳の奥に色欲が見て取れる。とはいえ、それは全員可愛いからしょうがないとも言える。だからってそれを許すわけがないけどな。

「とりあえずその品定めするような視線を向けるのをやめてくれるか? ハッキリ言って不愉快だ。エレノア、マリア、彩花、楓は俺の恋人だし、アイリ、リサ、石動は俺たちの仲間だ」
「これはこれは失敬、あまりの可憐かれんさにどうしてもね。男だったらしょうがないだろう? それにしても皆可愛いのに、見る目がないのが嘆かわしい」

 大袈裟おおげさに天を仰ぐ仕草をしたキースに対し、眉間にしわを寄せたマリアが食ってかかる。

「はぁ? あんた馬鹿なの? ルイルイは魅力的過ぎるんだけど!!」
「ご主人様は最高なのです!」
「そうよ!! 類は優しい、格好いい、強いの三拍子が揃ってるんだから!」
「類君の魅力はね! 目に見えるところから見えないところまで色々あっ――」
「お前らもういい……それ以上は恥ずかしいからやめてくれ……」

 エレノア、彩花、楓も続いて誉めてくれるのは嬉しいけど、こんなところだと俺が恥ずかし過ぎるので、途中で遮ってやめさせた。
 気を取り直した俺は、再び口を開く。

「それと、黒髪だから興味があるって言ってたけど、こっちは誰もお前には興味がないからな? もう話すことはないし、去っていいぞ」
「ふふ、あはははは、ははははは」

 キースがいきなり笑い出した。頭がおかしくなったのか?

「いい! いいよ! 僕にそんな口が利けるなんて! よっぽど自分に自信があるのかな? まぁ、今日はここまでにしておくよ。本当は今この場でお嬢さん方の目を覚ましてあげたいけど、今日の用事はパープル盗賊団の殲滅せんめつだったしね」

 なんというか……キースは自信のかたまりだな。でも俺も人のことは言えないかな?

「ところで君たちはこれからどこへ行くんだい? 今の時期だとミラリオンに向かっているって予想できるけど。ちなみに僕たちファーミラン王国の特別遊撃騎士団には、たとえ相手が他国の者であっても、冒険者であっても、行き先を尋ねる権利があるよ」

 ここはファーミラン王国の領地だし、領地内にいる人物に騎士団が行き先を聞くことは、確かに問題ないとされているな。

「ミラリオンに行く予定だ」

 しかめっ面の俺が言った言葉を聞いたキースは、にやりと笑う。
 この男はミラリオンで俺たちを捜すんじゃないか? そんなことを考えていると、俺から視線を外して女性陣を一通り見た後でキースが口を開いた。

「またいつかどこかで会ったときは、よろしくね?」

 女性陣からの返事はない。しょうがないから俺が返事をしておこう。

「俺はもう会いたくないけどな」

 それでもキースはめげずに話しかけてくる。

「そう? まぁ、とりあえずこの場はもういいかな。楽しみは後に取っておくことにするよ。カイン、出発するよ」
「はっ!」

 カインや他の騎士団員は、俺を親のかたきを見るような憎悪に満ちた目で見ていた。
 そしてキースも、なんでもないように振舞っていたが、瞳の奥に隠したただれた欲望はお見通しだ。
 燃え尽きたパープル盗賊団を放置したまま、特別遊撃騎士団の連中は去っていった。掃除していけよ……まぁ、いい。
 俺たちは食事の途中だったけど、ほとんど食べ終えていたので、あとは馬車の中で食べよう。
 ミラリオンと逆方向に馬を走らせたキースたちから視線を切った俺は、馬車に乗り込んだ。


 ボルダの街を出発してから二週間でミラリオンに到着した。あの後の道中はフェンリルの速度を普通の馬車と同じくらいにさせたので、思ったより時間がかかってしまった。
 というのは、急いで移動するより、荷台の中で鍛錬をさせたほうが有意義だし、もう少し皆にスキルを譲渡してからレベルを上げたかった、というのもある。そうはいっても、スキルを譲渡するには各個人、一回につき一〇日の制限があるので、まだまだ時間が必要だが。
 街の門に並ぶ行列でしばらく待ち、俺たちはミラリオンの中に入った。
 この街はかなり栄えているが、規模も外壁もスタラバヤに到底及ばない。スタラバヤはこの世界の最大国家ステアニア帝国の首都であり、世界一大きな都市だから、当然とも言える。
 きょろきょろと周りを見ながら、彩花が俺に話しかけてきた。

「この街はスタラバヤに比べたら小さいけど、楽しそうにしている人が多い気がする。スタラバヤは奴隷がたくさんいてどうしても目に入ってきて、私と楓は気分が落ち込んじゃったから……でもこの国はあのことがあるからなぁ」

 後半呟くように言っていた言葉は、間違いなく〈先祖返り〉に対してだろう。
 奴隷の扱いが酷かったスタラバヤのことを思い出したのか、彩花と楓の表情に少しかげりが見えたので、俺は話題を変える。

「こうやって世界中を見て回るのは楽しいけど、いつかはどこかに拠点を構えたいって考えてる。そのための旅でもあるから、皆思ったことはどんどん俺に言ってくれよ。大きい屋敷を買って、いずれ俺たちの子どもが生まれたら、全員幸せに楽しく暮らしたいな」
「「「「うん!」」」」

 四人の恋人たちは満面の笑みを浮かべながら返事をしてくれたが、アイリとリサは少し暗い表情で、石動は無表情だ。
 アイリとリサについては、俺に好意を持ってくれているのは薄々感じている。でも、今すぐにどうこうするつもりはない。二人と合流してからの様子を見ていた限りだと、待たせていても他の奴を好きになることはないと思う。誠心誠意、俺に向き合ってくれていると感じる。
 石動とはまだまだ交流が薄いから、機会を作ってもっと話しかけたい。

「アイリはメイドとして、リサは冒険者の仲間として頼りにしているから、よろしく頼む」
「「はい!!」」
「石動もよろしく頼むな?」
「……うん」

 石動は相変わらず表情の変化がとぼしいな。まぁ、いい。
 まず宿屋をとろうと移動し、門番に聞いた【獣たちの安らぎ】という高級宿に迷うことなくたどり着けた。
 建物の外観はログハウス調になっており、入口付近にさまざまな花が植えてある。庭も広そうだし、良さそうな宿だな。
 全員で中に入った後、アイリが受付カウンターにいる猫耳の綺麗な女の子に向かっていった。こういう雑事は現在アイリの仕事になっている。『メイドなので私がやります』という彼女の言葉に甘えている感じだ。なのでアイリに任せて少し待ってから、部屋に移動する。
 部屋は俺、エレノア、マリアで一つ。彩花、楓、石動で一つ。アイリとリサで一つだ。
 彩花と楓も俺と同じ部屋がいいって言っていたけど、できれば石動と交流してほしいので、なんとか頼み込んだ。
 夕食後、彩花が女子会をしたいと言い出したのでこころよく了承。一人で寝るのは久し振りだなと考えながら、俺はまぶたを閉じた。


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