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2巻
2-3
しおりを挟む「タイラ……貴方……そう……なのね……」
俺の眼を見たコーネリアは、俺のマリア姫様への想いに気が付いたようだ。
「わかったわ。タイラの案でいきましょう。リューもいいわね?」
「今の雰囲気のタイラに逆らえるはずもないな。了解だ。俺もあの人族は気に入らないしな」
マリア姫様、待っていてください。
今こそあなたの本当の結婚相手がゴミから助けだして、目を覚まさせてあげます。
そうして俺たちはマリア姫様たちの追跡を始めた。
《2 マリアの決別と決意》
俺――ルイはミドリアの街を適当にぶらついていた。もちろんエレノアとマリアも一緒だ。
二人が甘い物を食べたいというので、最初は単に甘味処に行こうとしたが、今日はAランクになったお祝いをしようと思い直す。
「〈異世界物品トレード〉で大きめのホールケーキを丸ごと用意するから、夜にでも食べよう」
俺の提案に、二人はすぐさま歓喜の声を上げる。
「本当なのです!? またあれを食べさせてくれるのです!? 今度は一人で食べすぎないように注意するのです!」
「すっごく楽しみだなぁ。あれは王城でも食べたことがない美味しさでやばかった! エレエレ、今回は本当に頼むよ? 前回はほとんど一人で食べちゃったよね……」
「うぅぅ、本当にごめんなのです……今回は我を失わないように気を付けるのです……」
二人に初めて地球のケーキを食べさせたのは、Bランクになったときだった。二人とも、涙を流しながら食べていたな。
そんな二人の会話を聞きながら、俺は取り寄せるケーキについて思考を巡らせる。
二人が好きそうな、生クリームたっぷりイチゴが沢山載っていて、さらにスポンジとスポンジの間にもカットイチゴと生クリームが大量に入ったやつにしよう。俺もそれが食べたいし。
〈異世界物品トレード〉は凄く便利だが、一二〇時間に一回という使用制限の関係上、いつでもどこでもホイホイ美味しい物を出せるわけでもない。
一番多く取り寄せているのは、やはり調味料関係だ。あれは種類が多いからしょうがない。
箱詰めとかで一度に大量に取り寄せられたらいいのに、一包装単位でしかダメなのが悔やまれる。
〈異世界物品トレード〉といえば、男の浪漫として拳銃を取り寄せたのを思いだす。
もちろん人を撃ったことはないけど、魔物との戦闘では普通に使えたし、倒すこともできた。
だけどゴーレムやある程度以上の上位種は、表面が硬くてなかなか貫けない。そういった事情から、拳銃はめちゃくちゃ強い!というわけでもなかった。
あと、費用対効果が悪すぎなのだ。その理由はなんといっても弾丸の確保がきついことにある。弾丸は一箱単位で取り寄せられるけど、それもすぐ尽きてしまうしな。
敵は魔法や武器で倒して、貴重な〈異世界物品トレード〉は食や寝具関係に使ったほうがいい。
以前はこちらの世界で作ったり買ったりしたベッドと布団を使っていたけど、今は地球産のふかふかな羽毛布団がある。
あれ? さっきまでケーキのことを考えていたはずなのに、思考が逸れまくったな。
んー、これからどうするか?と今日の予定を再び考え始めたとき――ちりちりと視線を感じた。
〈マップ〉と〈探知〉を使って調べながらそのまま適当に歩いていると、一〇〇メートル程離れた所から見られていることが判明。
「二人ともよく聞いてくれ。誰かが俺たちを追跡してきてる」
「そうなのです?」
「ルイルイが言うならきっと本当だよね。誰だろう?」
数秒後、エレノアが口を動かす。
「あっ! 匂いがするのです! 三人が私たちについてきているみたいなのです」
匂いか……さすが犬の獣人族。
それにしても相手にまったく心当たりがない。向こうは必要以上に近づかないようなので、とりあえず誰なのか確かめる必要があると思った俺は、人通りが少ない空き地に向かっていった。
周りに誰もいないのを確認した俺は、声を張り上げる。
「おい! こそこそしていないで出てきたらどうだ? それとも姿を現せない臆病者か?」
俺が言い終わると同時に、真っ黒なローブに身を包んだ三人組が現れた。
距離は三〇メートル。全員フードを深く被っているため顔は見えない。
「はんっ! 口だけは達者なようだ。ゴミめ!!」
「臆病者ねぇ、そんな生意気な口は潰しますよ?」
追跡者のうち、二人が声を出した。そこから判断するに、男女が一人ずつ。
しかし高圧的な態度だ。さらっとゴミとか言われたし。誰だこいつらは?
と思った瞬間、三人組はフードから顔を露出させた。
「全員エルフか、なんで俺たちの後を追ってきた?」
エルフらしく端整な顔立ちの全員が、俺たち――ではなく俺を憎悪のこもった眼で睨んでいる。
相手がエルフということで、マリアに聞いてみる。
「マリア、知ってる奴がいるか?」
「んー、誰も知らないね」
マリアも知らない奴らか、いったい誰だろう?
再び思考を始めようとしたとき、相手の一人が怒声を上げてきた。
「貴様!! マリア姫様を呼び捨てにするとは何事だ! 俺でさえ……くっ、今はそれより……」
呼び捨てにしただけでここまで激高するとは。後半は何を言いたかったのかわからなかったので訝しげに見ていると、再びそのエルフ男性が口を動かす。
「マリア姫様、私たちはランドルフ陛下の勅命を受けています。あなた様をフォール王国へお連れしなければなりません」
そういうことか、と俺は納得がいった。
マリアは驚いた表情の中に嫌悪感を滲ませている。
「やだよ! 僕は戻らない! 今後の人生は愛しのルイルイと歩んでいくんだ! もし子どもが生まれたら顔を見せに行こうかな?とは思ってたけど、こんなことしてくるならそれもなしかなぁ」
「子ども!? マ、マ、マリア姫様! まさか人族であるそいつと――すでにそのような関係というわけではありませんよね?」
「えぇ、それ聞いちゃう? 恥ずかしいなぁ」
俺は横でくねくねしているマリアに、恥ずかしいなら言うなよ?と念じる。しかし――
「まぁ、そういう関係だねぇ。ルイルイはいつも激しくて凄いんだー。気持ち良すぎて僕はいつもノックダウンされちゃう!」
そんな言葉に俺は眩暈がしてくる……
「おい、マリア!! 恥ずかしいからそんな話ばらすなよ!!」
「えー、いいじゃーん! 僕は大好きな人とのことだから恥ずかしくないよー? むしろ夜も強いとか誇らしいよ!」
「ご主人様は夜も最強なのです!」
「そうだ……マリアとエレノアはこういう奴だった……つっこむだけ無駄だな……」
「やだなー、こんな場所で『つっこむ』だなんて……さすがの僕も恥ずかしいよ? ルイルイは大胆なんだねっ!」
やばいやばい。このままマリアのペースだと話が進まないし、泥沼な気がする。
未だ腰をくねくねさせているこいつのことは放っておいて、改めて三人を見ると、全員愕然としていた。まさに真っ白に燃え尽きたような印象だ。
「な、な、なんだと……絶対にあいつを殺す、殺す、殺す、殺す……」
一人呪詛のように呟いている奴がいる。危ない人みたいだな。
このカオスな空間にどう収拾をつけるかと考えていると、マリアが急に毅然とした態度になって言う。
「ねぇ、君たちはもう帰っていいよ」
「いいえ、私たちは勅命を受けているのです。当然ながら勅命が最優先事項であり、これについてはマリア姫様のお願いや命令でも聞けません。失礼ながら、実力行使させていただきますね」
「そうですぜ、マリア姫様。獣人族のほうは見逃すが、男は両手足をぶった切って奴隷にして飼うつもりです。いずれ殺しますけどね。それが陛下の望みでもあります」
「は!? そんなの僕が許容するわけないだろ? 馬鹿なのかお前たちは!! あぁ、馬鹿じゃなくて脳みその発達が遅れているだけか? しかし本当にフォール王国はろくでもないな! 本当に腐ってる! お父様の脳みそもお前らの脳みそも腐ってる!」
激昂したマリアは久しぶりに毒舌をかました。
しかしすぐに落ち着いて、悲しみを瞳の奥に隠したような表情になる。
「お父様にはずっと愛情を注いで育ててくれた恩を感じている。けどこれはもうダメだね。二人のお母様、お姉様、お兄様も結局はお父様と同様の考えだったなぁ。もういいや……こんな愛情はいらない!」
再びマリアの怒声が空き地に響く。
「今までは家出をしていたけど、それも今日で終わりだ! 僕は国を捨て、今この瞬間からただのマリアとして生きていく! マリア・フォン・フォールはもう死んだと思っていい!」
決意を宿した強い視線を突き刺しながら言ったマリアの言葉に、エルフ三人組は愕然としている。
「ルイルイ、ごめんね……僕の素性がルイルイにばれたとき、追っ手が来ても追い払うとか偉そうなこと言っちゃったけど、今の僕ではまだ実力が足りない。だから……力を借りてもいいかい?」
目を伏せながら遠慮がちにそう聞くマリア。
そんな彼女の額を指でこつんと軽くつついて、俺は言う。
「マリアが俺のことを嫌になったのならともかく、そうじゃないならこんな奴らに俺がマリアを渡すわけがないだろ? 俺が渡さないんだ。力を借りるも借りないもない」
少し頬を紅潮させたマリアを抱きしめたくなる衝動を抑え、俺は言葉を続ける。
「だが一つだけ確認だ。本当にフォール王国と……家族と縁を切っていいんだな?」
マリアは神妙な面持ちで頷く。
決断は下された。それならこれからする行動は決まっている。
俺は【アイテムボックス】からオリハルコンの大剣を取り出した。
前に使っていたミスリル製の物の後継として作った、縦二メートル、横幅三〇センチ、厚さ五センチの無骨な武器。あるダンジョンに行った際にオリハルコンを採掘できる場所を発見し、そこでなんとか剣二本分程度の量を採掘できたのだ。
あのときは歓喜したなぁと一瞬思いだす。って今はそんな場合じゃないな。
俺は大剣を構えながら、エルフ三人組に向かって言い放つ。
「で? 誰から死にたい?」
状況が逼迫しているので、〈高速並列思考〉〈鑑定〉を併用。
……んー、〈鑑定〉をしたときに違和感があるな。おそらく隠蔽系の効果が付与された魔道具でも装備しているんだろう。
しかし、俺の力のほうが上回っているようだ。その証拠にきちんと全員〈鑑定〉できた。
ステータスを見た感じ、三人とも俺には及ばない。とはいえ近接系能力と魔法系能力が相当高い数値を誇り、いい感じにバランスも取れている。
リューは耐性、コーネリアは魔力が特に高い。二人ともステータスの平均値は二〇〇〇程度。
それからタイラのステータスで最高値なのは敏捷で、三五〇〇程度。全体平均値は二五〇〇程度だから、こいつが一番強いな。
俺一人なら余裕なんだが、このレベルの相手だとエレノアとマリアが狙われるとやばい。それに俺もここまで強い奴を相手にした対人戦は初めてだ。油断しないように、かつ初手から本気でやる必要があるだろう。
MPストックは……六〇〇〇〇あるな。よし、あれを使おう。
「〈リミットブレイク改〉!」
瞬間――力が溢れ出し、俺の全能力が三〇分限定で三〇%アップする。
〈時空魔法〉の【ワープ】を使って一気に倒したいところだが……あちらも武器を構えて上手く陣形を作った。この配置だと一度に三人を攻撃できないし、数回【ワープ】を使っている間にエレノアたちを狙われるとまずい。
となると、相手の人数を減らすまでは俺はあまり動かずに攻撃していく必要があるな。
「エレノア、マリア、お前たちだとまだこいつらに対抗できない。二人は下がっていてくれ!」
「はいなのです! マリアのためにも頑張ってほしいのです!」
「ごめん……ありがとね。ルイルイに任せる!」
それからエルフ三人組をじっと見るが、まだ襲い掛かってくる気配はない。
「どうした? さっさと攻撃してきていいんだぞ?」
「ちっ、まったく隙を作らないくせに何言ってんだ! こんな化け物だったとは……」
「ちょっと相手をあなどっていたかしら? 冷静じゃなかったのは確かね。戦闘になるとここまで雰囲気が変わるなんて……最初のままだったら三人でなら勝てると思ってたけど……タイラ、どうする? これは到底敵いそうにないわ……」
今さら作戦会議か? 俺は隙を見せないようにしたまま相手の様子を窺う。
「マリア姫様を残して撤退するわけにはいかないし、あいつは奴隷にしていずれ殺す!!」
「はぁ、タイラ……しっかりしてよね。あなたは私たちの隊長でしょ? 私は絶対に勝てない相手に向かっていくマゾヒストじゃないわ。何か作戦はないの?」
「お前ら二人が突っ込んで囮になれ! そこで俺が攻撃する! なんとしても隙を作らせろ!」
「さすがにそれは許容できないわね……それじゃあ私たち、ただの肉壁じゃない?」
「俺もそれは嫌だぜ? いくら耐久に自信があるといってもな」
えぇ……なんかびびって攻撃してこないんですが……
まぁ、こっちも名案を思い付いたし、それなら安全だから早速実行するか。
俺は【ワープ】を使って一瞬にしてタイラの背後へ回り込み、大剣を高速で振るう。
狙い通りのものを斬った俺は、再度転移して元いた場所へ戻る。
よし、上手くいった。ああやって言い合っている間ならエレノアたちを狙えないと思ったが、その通りだったな。
二秒後、タイラの絶叫が響きわたる。
「ぎゃああああああ、な、な、なんだ、これはあああ!!」
両手両足が消えてなくなり、四箇所から血を噴き出しながら地面へ倒れ込んだタイラを見て、リューとコーネリアが驚きを露わにする。
「なっ!? いつの間に!」
「え!? な、何が起きたの!? 斬られたの? 見えなかったわよ!?」
混乱し続けるリューとコーネリア。
「なぜタイラの手足がないの? 地面のどこにも落ちてないわ! このままじゃタイラが死んじゃう、回復しなきゃ……【グレイトヒール】!」
コーネリアが慌てて〈詠唱破棄〉を使いながら回復魔法をかける。
しかし、彼女の魔法では今のタイラを治せない。
コーネリアを〈鑑定〉したときに、〈光魔法〉のレベルが6っていうのは確認済みだ。部位欠損は切断された部位が無事なら【グレイトヒール】で治るんだけど、そうでなければレベル8の【エクストラヒール】が必要になる。
タイラの両手足は、切断した後細切れにした上で飛散させてあった。
まだ現状を把握できていないエルフ三人組に向かって、俺は口を開く。
「おい、このままお前らを殺してもいいんだが――投降するなら命を助けてやってもいいぞ?」
「なっ!? 陛下を裏切れというのか!」
「……私は陛下に忠誠を誓っているけど、無駄死にはしたくないわ」
「ぐうぅ、く、くそぉ……なぜ……俺がこんな目にいいぃぃ!」
「一〇分やるからその間に考えろ。投降するのなら、今回の件でフォール王国の国王にあからさまな報復をしないという条件もつけてやる。投降しないならば俺たちを狙った賊として処理するし、もしかしたら国王にも報復するかもな。マリアの手前、一回は見逃してやりたいところなんだが」
コーネリアたちは三人で話し始めたが、すぐには答えが出ないようだ。
とはいえ圧倒的な力の差を見せつけて、国王への報復についても伝えたんだ。まず投降してくるとみていい。それを前提に、俺は俺で彼らの決断を待つ間にある魔法を創っていく。
スキルとしても創れると思うが、これが俺のスキル欄に表示されるのはなんか嫌だっていう理由で魔法にした。本当は魔法で創るのも嫌だけど、今後のことを考えるとしょうがない。
目的は、三人を人形のようにさせること。複合魔法になるのでそれに見合う魔力、〈魔力操作〉の技術、MPが必要となるけど、俺なら問題ない。
使う属性は三種類。〈光魔法〉で魂に付与、〈闇魔法〉で精神拘束、〈土魔法〉で肉体拘束と、それぞれのイメージを固めていく。魔法名は【ドール】でいいだろう。
五分程度で目的の魔法が完成。それと同時に詠唱する呪文と効果が頭の中に流れ込んでくる。
【ドール】の効果は、かけた相手が『従う』と宣言すれば、使用者の命令に対して精神的にも肉体的にも反抗しなくなるというもの。魂に付与するため道具も必要ない。
最初は、簡単に隷属の首輪をつけることも考えた。しかしそうすると問題なのが、フォール王国は魔法を得意とするエルフが主体の国という点だ。〈闇魔法〉レベル8の【アンチスレイブ】があれば奴隷の主人でなくとも隷属の首輪は取り外し可能なので、あっさりと三人を解放されてしまうかもしれない。
かなり鬼畜仕様な魔法が完成してしまったが、むしろこれは慈悲の結果だと思ってもらいたい。問答無用で殺すほうが楽なんだからな。
早速エレノアとマリアに、【ドール】のことを含めて俺が思いついた名案を説明する。
二人に大体のことを話し終えたら、ちょうと時間になった。俺たちはエルフ三人組に近づいていき、答えを求める。
「投降と死、どちらを選ぶ?」
「ああ……不本意ではあるが、俺たちはフォール王国のことを想って投降することにした」
タイラは増悪に染まったような、リューは悔しそうな、コーネリアはやるせなさそうな表情だ。
予想通りの答えに満足した俺はすぐさま、エルフ三人組に聞かれない程度の声量で【ドール】の詠唱を始めた。〈詠唱破棄〉でもおそらく問題ないと思うけど、効果内容を考えて念のためだ。
「大いなる天空の光よ、忠誠を魂に刻め。深淵の闇よ、深く深く精神を縛れ。母なる大地よ、固く固く肉体を縛れ、【ドール】」
三人分の魔法を唱え、各々に「従う」という言葉を吐き出させる。
その結果、奴らの表情から感情の色が消えた。これで俺の言うことを聞く人形に変化したわけだ。
一応感情は残っているのだが、俺の命令は絶対と思い込み、反抗する気がなくなっている。
「さすがルイルイ! この魔法は凄いねー!」
「ご主人様はいつも凄いのです!」
【ドール】の効果は正直あまりいいものとは言えないが、それでもエレノアとマリアは心から俺を褒めてくれた。そんな二人のことが俺は本当に大好きだし、救われていると思う。
さて、エルフ三人組に命令を下すとするか。
「ではお前たちに命令だ。タイラ、リュー、コーネリアの三人は、ランドルフ・フォン・フォールの顔面をそれぞれ一〇発ずつ殴れ」
俺は命を狙われたのだし、これくらいならやり返してもいいだろう。
「あと、伝言を伝えてくれ。俺とマリアの二人分だ」
三人が聞き漏らさないように、俺は少しゆっくりめに言葉を発する。
「俺はルイという者だ。マリアは俺の恋人になった。当然この子は幸せにするから安心してくれ。マリアの父親ということを考慮して一回だけ赦してやるが、次はない。再びマリアを連れ戻そうとしたり、俺たちの命を狙ったり、邪魔したりするのなら相応の報いがあると思っておけよ。監視としてタイラ、リュー、コーネリアをそっちに残す」
次はマリアの番だ。彼女に視線で合図を送る。
「お父様、お母様方、お姉様、お兄様、今までありがとうございました! マリア・フォン・フォールの名を捨てた僕は、これからはただのマリアとして生きていくよー。ルイって名前の最愛の伴侶を得ることもできた! そのルイがエルフ族でないからといって命を狙うなんて、本当に最低! そんな勅命を下したお父様とフォール王国に愛想が尽きたし、絶対許せない! ルイが今回だけは赦してくれるそうだから、今後一切僕たちに構わないで!」
ランドルフが監視役の三人を排除したらしたでしょうがないが、『お前らを襲ってくる奴らは殺してもいい』との命令も追加してある。俺たちにまで手が伸びることはそうそうないと信じたい。
まぁ、次に何かあれば報復行動に出るけどな。
今回見逃したのは、仮にもマリアの父親が相手だったというのが一番大きい。
その他の理由として、あの国はマリアの故郷であること、結局俺たちに被害はなかったこと、フォール王国まで移動するのが面倒っていったところか。もし今回エレノアやマリアに何かあったなら当然乗り込んでいたけど。
それからタイラの両手足を【エクストラヒール】で治してやり、無表情のタイラ、リュー、コーネリアがフォール王国に向かっていくのを見送った。
その様子を寂しそうに見ていたマリアを、俺はそっと抱きしめて頭を撫でる。
そこへエレノアもやってきて、後ろからマリアに抱きつく。
俺たちに挟まれたマリアは、無言のまま――ただただ涙を流し続けた。
《3 召喚術と来客》
今日もエレノアとマリアの誘惑に勝てなかった俺は、朝からハッスルしてしまった。
先日家族と決別したマリアは、まだ完全に元気とは言えない状態だが……それでも誘惑してくる。
マリア、恐ろしい子!
結果、昼過ぎになってから冒険者ギルドに足を踏み入れると、今日も多数の視線が向けられる。
Bランクだったときもそうだったが、Aランクになってからはさらに桁違いになった。最近はそれだけでなく、女性にきゃーきゃー騒がれたり話しかけられたりすることが増えている。
同時に嫉妬の目で見てくる男も増えたんだけど、俺が目を合わせると下を向いてしまう。それなら最初から見るなよ、と内心毒づく。
こうなったのは、この前のAランク試験で相当目立った結果だった。
そもそもこれまでの俺たち三人の評価は、どこか謎に包まれた奴ら、というものだったみたいだ。
俺たちは他のパーティと合同で依頼を受けることがないので、他の冒険者からしたら俺たちの戦闘力がいまいちわからなかったらしい。そうはいっても依頼を達成するのが早いし、難易度の高い依頼を問題なくこなすから、能力に疑問を抱いてはいなかったと思うけど。
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