スキル、訳あり品召喚でお店始めます!

猫 楊枝

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第一章 開店準備

八話 乗合馬車

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「ここが乗合馬車の乗り場なんだね」
「そうワン」

 森の中にある乗り場には老若男女が入り混じって並んでいた。その後方に木製の長椅子が並んでいて、その一つに私は腰を掛ける。

「凄い人だね。皆ラッセルに向かう人なのかな?」
「そうワンね。ラッセルはビジネスチャンスを生み出す町ワンから、チャンスを追い求める様々な年齢層の人達が集まるワンよ」
「そうなんだねー、でもカルちゃんは本当博識さんだね。色んな事に詳しいのね」
「そんな事ないワンよ。ワフッ」
 
 カルちゃんが照れたように笑う。

 乗合馬車が到着するまでの待ち時間を、カルちゃんとお話しながら潰していると、チラチラと周りの人の視線を感じる。私はその視線に気まずさを感じて押し黙る。

 (……なんなんだろう皆して) 

 しばらくすると、カルちゃんがすやすやと寝息を立ててポケットの中で寝てしまった。それからしばらくして、遠くの方からパカパカと馬の蹄の音が聞こえてくる。

 御者が馬の手綱を引くと、ヒヒーンと短く鳴いて馬が歩を止める。
 ベンチに座っていた人が一斉に立ち上がる。
 
「お待たせしました! 商業都市ラッセル行き到着しました」

 御者の威勢の良い声に吸い込まれる様にして、皆が乗合馬車の乗り込む。私もその後を追うようにして馬車に乗り込む。

 馬車の中は思ったよりも広く、2人掛けの席が左右に10席ずつ。馬車の後方には何もないスペースがあって、馬車に乗り込んだ人達は抱えきれない荷物をそこに置いていく。

 私は空いていそうな席を探してみたけれど、皆が我さきに座ってしまっている為、なかなか座れずにいた。

 その時、恰幅の良いおばさんが私に向って手招きしている事に気づく。私がそれに気づいて近づいていくと

「お嬢ちゃんここに座りな」

 と、自分が座っている隣の席を指さす。私は「すみません」と会釈をしてそのおばさんの隣の席に座った。

 しばらくすると、御者の掛け声と共に馬が走り出す。一定間隔で子気味の良い音を立てる蹄の音に耳を澄ましていると、おばさんから声をかけられた。

「お嬢ちゃんはラッセルに何の用事で行くんだい?」
「あ、えと……」

 急に声をかけられたので、何と答えればいいのかしどろもどろになっていると、おばさんは快活そうに笑って

「あははっ! ごめんよ、急に声をかけられたらびっくりしちゃうよね。嫌だわこれだからおばちゃんは」

 そう笑って、話を続ける。

「おばちゃんの名前はエバ・トリンプトン。お嬢ちゃんは?」
「私は、リコって言います」
「リコちゃんって珍しい名前ね。おばちゃんはね、ラッセルで古道具屋を経営してんのよ。隣町に安く仕入れられる中古問屋があって、商品の仕入れに行ってたの。で、今はその帰り」
「そうなんですか」

 見知らぬ人と話すのって緊張する。エバさんは恰幅が良くて何処となくうちのお祖母ちゃんに似ている。しばらくの沈黙の後エバさんが話しかけてくる。

「お嬢ちゃん何か困ってるんじゃない?」
「え?」
 
 私は全てを見透かしている様なエバさんの目に驚き、視線を逸らす。

「ど、どうしてそう思うんですか?」
「そりゃー、困った様な顔してたし一人でブツブツと何か喋ってたしねぇ。何か様子が変だった」

 私の表情を真似たのだろうか、眉をしかめて困った様な表情を作ると威勢の良い声で続ける。

「もし行く宛てがないのなら家に来ないかい? 丁度アルバイトを雇おうと思ってた所なのよ」
「……えっ、い、いいんですか!? こんな何処の馬の骨か解らない様な私で」
「あっはははっ、何処の馬の骨か解らなくちゃあ困るね。でもお嬢ちゃん、あんたが何処の馬の骨か解らなくても、おばちゃんには一つだけ解る事があるのよ」

 エバさんが私の鼻をちょこんと小突いてウインクする。

「お嬢ちゃんのそのキラキラとした目は、私の若い頃にそっくり。お嬢ちゃん、あんたは良い素質を持ってる」
「へ?」

 けなされる事は山ほどあったけど、人に褒められた事なんて片手で数えられる程もない私は、目を丸くしてきょとんとしてしまう。

 それを見てエバさんは大笑いしていたけど、その笑い声よりも自分の鼓動の方が大きく感じられるぐらい私は興奮していた。

 それは知らない土地で、見ず知らずの人と話す高揚感からではなく、自分の中で何かが始まった様な気がしたからだと思う。

 ずっと一人で母を待ち続けていたあの寂しさはもう、何処か遠い国のおとぎ話の様だと私は感じ始めていた。

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