1 / 9
プロローグ
碧眼の魔術師
しおりを挟む
(あの子はいつ戻ってくるのだろうか……)
薄暗いダンジョンの中階層で、男は困った様子で佇んでいる。青い髪はだらしなく肩まで伸び、目を覆う前髪の隙間から除く碧眼は不安を滲ませている。
従魔に様子を見に行かせてから、大分時間が経過している。このダンジョンは罠が多いので、従魔のスキルが役に立つ。
男が様子を見に行こうか迷っていると、獣の悲痛な呻き声が聞こえてきた。
男は嫌な予感を感じて、走り出す。ダンジョンの狭い一本道を超えた先の広い場所に出ると男の従魔が罠にかかっていた。
モフモフの尻尾にトラばさみが食い込んでいる様に見えたが、幸い尻尾が小さい為凹凸にすっぽりと治まっていて大怪我はしていない様子だった。
男は従魔に即座に治癒魔法をかける。キャフンという鳴き声と共に従魔が気持ちよさそうに目を細める。
「いいか、ここはトラップの多いダンジョンだから慎重にな。いくらお前の鼻がいいからと言って……」
男は目を細める。さきほど従魔がかかった罠に、何かを擦り込んだ形跡を見つけた。
(……これは、人為的だな)
トラばさみに鼻を近づけると香辛料の様な匂いがした。人間にとってはあまり良い匂いではないが、従魔にとっては良い匂いなのだろうか。この匂いに騙されて、従魔が罠にはまってしまった可能性もある。
そもそも自然的なはずのダンジョンでは、罠に細工をしてある事は珍しい。実際、細工してある場合はこの様な姑息な細工ではなく、偶発的な細工だ。
最近、一部の悪質な冒険者が偶然を装って、罠に細工をするという話を聞いた事がある。
それはダンジョンを踏破されると細工をした、当人にとって都合が悪い場合と、お宝を独り占めしたいという私利私欲からくる場合がある。
男はしばらくの沈黙の後、従魔を抱き上げて慎重に歩み出した。
しばらく進んだ先で、男は驚き後ずさる。
ダンジョンの床が凹んだのだ。どうやら男は、設置型床トラップの発動スイッチを踏んでしまったようだった。
ガシャンッ、ガシャンッと前後の道が塞がれる音がする。その刹那、頭上に熱を感じ慌てて仰ぐと、激しい炎が男に降り注ぐ瞬間だった。
男は一瞬で防御壁を張る。星形の防御壁が男を炎から守る。抱えている従魔は何が起こったのか解らずプルプルと震えている。
炎は衰える事を知らずに勢いが増す一方だ。男は目を細め炎の先を見やる。そこには何体もの火炎竜がひしめき合っていた。設置型のトラップを踏む事で、隠れていた火炎竜が姿を現す罠だったのだ。
(くっ、逃げ場がない)
ヘタに動いては、他の罠を誘発してしまう。火炎竜達の炎に飲まれながら男は思案する。
防御壁に亀裂が入る。
(せめて、この子だけは守ってあげたい)
しかし、男の願い空しく、防御壁が砕け一人と一匹は激しい炎に包まれ、音もなく消え去ってしまう。
後に残るのは、火炎竜の不気味な鳴き声だけだった。
薄暗いダンジョンの中階層で、男は困った様子で佇んでいる。青い髪はだらしなく肩まで伸び、目を覆う前髪の隙間から除く碧眼は不安を滲ませている。
従魔に様子を見に行かせてから、大分時間が経過している。このダンジョンは罠が多いので、従魔のスキルが役に立つ。
男が様子を見に行こうか迷っていると、獣の悲痛な呻き声が聞こえてきた。
男は嫌な予感を感じて、走り出す。ダンジョンの狭い一本道を超えた先の広い場所に出ると男の従魔が罠にかかっていた。
モフモフの尻尾にトラばさみが食い込んでいる様に見えたが、幸い尻尾が小さい為凹凸にすっぽりと治まっていて大怪我はしていない様子だった。
男は従魔に即座に治癒魔法をかける。キャフンという鳴き声と共に従魔が気持ちよさそうに目を細める。
「いいか、ここはトラップの多いダンジョンだから慎重にな。いくらお前の鼻がいいからと言って……」
男は目を細める。さきほど従魔がかかった罠に、何かを擦り込んだ形跡を見つけた。
(……これは、人為的だな)
トラばさみに鼻を近づけると香辛料の様な匂いがした。人間にとってはあまり良い匂いではないが、従魔にとっては良い匂いなのだろうか。この匂いに騙されて、従魔が罠にはまってしまった可能性もある。
そもそも自然的なはずのダンジョンでは、罠に細工をしてある事は珍しい。実際、細工してある場合はこの様な姑息な細工ではなく、偶発的な細工だ。
最近、一部の悪質な冒険者が偶然を装って、罠に細工をするという話を聞いた事がある。
それはダンジョンを踏破されると細工をした、当人にとって都合が悪い場合と、お宝を独り占めしたいという私利私欲からくる場合がある。
男はしばらくの沈黙の後、従魔を抱き上げて慎重に歩み出した。
しばらく進んだ先で、男は驚き後ずさる。
ダンジョンの床が凹んだのだ。どうやら男は、設置型床トラップの発動スイッチを踏んでしまったようだった。
ガシャンッ、ガシャンッと前後の道が塞がれる音がする。その刹那、頭上に熱を感じ慌てて仰ぐと、激しい炎が男に降り注ぐ瞬間だった。
男は一瞬で防御壁を張る。星形の防御壁が男を炎から守る。抱えている従魔は何が起こったのか解らずプルプルと震えている。
炎は衰える事を知らずに勢いが増す一方だ。男は目を細め炎の先を見やる。そこには何体もの火炎竜がひしめき合っていた。設置型のトラップを踏む事で、隠れていた火炎竜が姿を現す罠だったのだ。
(くっ、逃げ場がない)
ヘタに動いては、他の罠を誘発してしまう。火炎竜達の炎に飲まれながら男は思案する。
防御壁に亀裂が入る。
(せめて、この子だけは守ってあげたい)
しかし、男の願い空しく、防御壁が砕け一人と一匹は激しい炎に包まれ、音もなく消え去ってしまう。
後に残るのは、火炎竜の不気味な鳴き声だけだった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。
前世で医学生だった私が、転生したら殺される直前でした。絶対に生きてみんなで幸せになります
mica
ファンタジー
ローヌ王国で、シャーロットは、幼馴染のアーサーと婚約間近で幸せな日々を送っていた。婚約式を行うために王都に向かう途中で、土砂崩れにあって、頭を強くぶつけてしまう。その時に、なんと、自分が転生しており、前世では、日本で医学生をしていたことを思い出す。そして、土砂崩れは、実は、事故ではなく、一家を皆殺しにしようとした叔父が仕組んだことであった。
殺されそうになるシャーロットは弟と河に飛び込む…
前世では、私は島の出身で泳ぎだって得意だった。絶対に生きて弟を守る!
弟ともに平民に身をやつし過ごすシャーロットは、前世の知識を使って周囲
から信頼を得ていく。一方、アーサーは、亡くなったシャーロットが忘れられないまま騎士として過ごして行く。
そんな二人が、ある日出会い….
小説家になろう様にも投稿しております。アルファポリス様先行です。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。
リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。
そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。
そして予告なしに転生。
ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。
そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、
赤い鳥を仲間にし、、、
冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!?
スキルが何でも料理に没頭します!
超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。
合成語多いかも
話の単位は「食」
3月18日 投稿(一食目、二食目)
3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!
さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~
みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。
生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。
夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。
なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。
きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。
お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。
やっと、私は『私』をやり直せる。
死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。
ハイエルフの幼女に転生しました。
レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは
神様に転生させてもらって新しい世界で
たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく
死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。
ゆっくり書いて行きます。
感想も待っています。
はげみになります。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる