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死ぬ死ぬ詐欺を何回やってよいかは作風による
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戦闘職どころか適職診断すら満足に受けることが出来なかった自身のこれまでの経緯を思い起こし、ユウは改めてため息を漏らしつつも端的に判明した事実を伝える。
「お……俺は残念ながら戦闘職に就くことは出来ない……と、いうか適職診断自体受けることが出来ない……」
「どうして?」
ユウの回答にティキは怪訝そうな顔をする。ユウはティキの視線を感じつつも、どう回答したものかと思案する。自身が異世界人であり、エクスと融合しているという大前提について話すことが出来ない限り伝えられる情報はかなり限られる。ここ数日世話になったこともあり、ユウとしては極力真摯に回答をしたいと考えはするのだが、彼が理解できるよう回答することはどうにも難しい。手詰まりとなったユウは絞り出すようにつぶやく。
「お、大人にはまあ、色々あるんだよ……」
ユウの要領を得ない返事にティキはますます訝しむ。
「なにそれ?」
それ以上は何も答える気配のないユウを見てティキは仕方なく話題を変える。
「じゃあユウ兄ちゃん、今何して生活費を稼いでるの?」
この話題なら問題なくこたえられると感じたユウは安堵のため息を漏らす。
「ああ、それならここのギルドが斡旋してくれている日雇いの荷物運搬の仕事をやってる」
「荷物運搬?」
「ああ、馬車への荷物の積み込みとか荷下ろし、街の中への荷物の配達なんかが主な仕事だな。やっぱり帝都は大都市だけあって荷物も多くてな……おかげで日当も結構もらえて懐はホクホクってワケよ」
「ふーん」
どうやら戦闘職につかなかったせいでティキとしては既に興味を失っているようで、どうにも反応が素っ気ない。
(子供ってそういうところあるよねー。なんつーかめっちゃ残酷)
ユウは内心苦笑する。
「ふ……わかってねぇな、坊主……」
そんなティキを突如としてたしなめる声がする。
「へ?」
「え?誰?どこ?」
一体誰なのかと驚いたティキとユウは声の主を探そうと周囲を見回すが、それらしい人物は見つからない。
「ここだよ、ここ。下を見てみろ」
声に導かれるままにユウとティキが床の方を見ると、そこには先日ユウのツッコミによって地面に埋まったモヒカンがそのままの姿でいた。
「おわっ!……あんたこの間からずっと埋まってたのか?」
モヒカンの予想外の状態に、思わずユウは悲鳴を上げてから問いかける。モヒカンはそんなユウの問いかけにどこか遠い目をする。
「ああ……あの日からずっと俺はここに埋まっている……」
「……それだったら誰かに助けてもらって引き揚げてもらえばいいのに……」
明朗快活なティキがいつになく困惑し、恐る恐る正直な所感を言う。
「いや……良いんだ……俺はこうして大地と一体になることで……今までわからなかったものが分かるようになってきたんだ……。そう、すべては大地とつながることで見えてくる……宇宙とは……真理とは……世界とは……」
つい先日あった時は近寄りがたい人程度だったが、気が付けば近寄ってはいけない人へとクラスチェンジを遂げている。一体彼の身に何が起きているのか、それを知りたいと思いつつも深入りしたくないという気持ちが勝る。そんなユウの気持ちを他所にモヒカンは話を続ける。
「そう、俺にはこの大地を通じて見えてきたんだ……ユウの兄貴が……この街で働き……どう受け入れられるのかを……」
「何言ってんの、この人。つーか人を急に勝手に兄貴呼びしないで……」
「俺を地面に埋めることで新たな境地に連れて行ってくれたのはあんただ……。俺にとってあったはリスペクトすべき存在……まさに兄貴だ……」
(なんか変なことになっていますねぇ)
ルティシアの他人事感丸出しな物言いにユウは若干の苛立ちを覚える。しかし、そもそもモヒカンが地面に埋まっている原因は自分にあるためユウは押し黙る。
「ユウの兄貴は……その超人的な身体能力で街の荷物を大量に運搬し、既にここ数日で様々な商人達から熱い信頼を得ている……。もはや街のカリスマ……」
流石に街のカリスマは盛りすぎだろうと思いつつも、地面に埋まったままなはずのこの男が何故自分のここ数日の具体的な動向を知っているのだろうかと、ユウは驚きを通り越した恐怖を感じていた。
「そっか、生活が安定してるみたいなら良かったよ……ところで」
幼いティキですら何か得体のしれない危険を感じたのか、愛想笑いをしつつ適当にモヒカンとの話を切り上げる。
「ユウ兄ちゃん今のままだと帝都の外に出られないんでしょ、大丈夫?」
ティキに聞かれてユウは改めてため息を漏らす。
「それなんだよなあ……なんとかどっかの承認に伝手でも作って隊商に潜り込ませてもらうとかしかないかな……時間はかかりそうだが……」
ユウは再びため息を漏らす。
「それなら、私と手を組まないか?」
突然声をかけられ、驚いたユウは声の主の方へと振り返る。
「アネッサさん……」
そこには軽装の鎧に身を包んだアネッサが立っていた。どうやらティキとのこれまでの会話を聞かれていたらしい。
(……)
エクスはティキに何かの意思を伝えようとするが、思いとどまる。
(どうしたんだろう)
そのことに違和感を感じつつも、ユウはアネッサの方へと向き合う。
「手を組む……と、言うのは?」
ユウに聞かれてアネッサは頷く。
「私は訳あって現在諸国を旅している。そこで、望むならば君を私の同行者としよう」
アネッサの言葉にユウとティキが驚く。
「そりゃあ有難いですけど……良いんですか?」
ユウの問いにアネッサは人差し指を立てて答える。
「ただし……1つ条件がある」
「条件?」
ユウの返事にアネッサは再び頷く。
「実は現在、旅に出る前に1つ探索したいダンジョンがある。そこへ荷物運びの人足として同行してもらうこと」
(うおおおお!ダンジョン探索ですよ、ユウさん!ちゃんと異世界転生感マシマシですね!)
ルティシアは場の空気を盛り上げようと煽ってくるが、話を真面目に聞くモードに入っているユウは、彼女のテンション高めの話を受け流しつつ、アネッサに質問をする。
「そりゃかまいませんけど……なんで俺なんです?」
アネッサは軽く笑う。
「今回の探索ではなるだけ多量の荷物を持ち込みたい事情があってね。ただ多量の荷物を運ぶのなら、なるだけ多くの人を雇う必要があるが……元々現在は魔族との戦争からの復興の真っただ中で今はどこも人手不足なんだ。さらに、今回の騒動で人々の往来が制限されている結果、一度に大量の荷物を運べるように大手の商人がまとめて大規模な隊商を組むようになっていてね。そんな状態だとなかなか個人で小さな対象を組むということが難しいんだ。そんなときに君の噂を聞いた。なんでもここ数日で、一人で大量の荷物を運ぶと随分と名を馳せているそうじゃないか。君ならば私の要求する分量の荷物を一人で運べるかもしれないと考えた。もし、今回の件がうまくいったなら、君には引き続き私の旅の荷物の運搬を依頼したいとも考えている」
「なるほど」
アネッサの説明にユウは納得する。評判は立ってきてるとはいえ、現在の自分はギルドや帝都内で人脈を構築できているわけではない。元勇者パーティとして、エミリア達も信頼をしている人物のようだし、この依頼に乗る分には問題が無いようにユウには思われた。
「それでしたら喜んで仕事をお受けします」
ユウは頭を下げる。
「助かる。礼を言う」
アネッサも軽く一礼をすると右手を差し出す。アネッサの意図を少し遅れてから察したユウは、その右手を握る。
(……そういや女性の手を握るって……何年ぶりだ?)
生前、まったく女性と縁がなかった記憶が脳裏を過る。
(ふ……私の転生による役得ですね……。神に感謝していいんですよ、人気投票3位って感じで)
(そんなハジケるような前振りじゃなかったですよね!?)
ユウはルティシアと漫才をしつつ、握った手を離さす。
「……」
ユウとの握手を終えたアネッサが自身の右手を見ながら押し黙る。その様子を見たユウは不審がる。
「あの……どうかしましたか?」
呼びかけられて我に返ったアネッサは首を左右に振る。
「いや、なんでもない。すまない」
「?」
アネッサの態度にユウの脳内にさらに疑問が浮かぶが、あまり深く考えず、さらに追及をしないことにした。
「ねえ、アネッサさん。ちなみにユウ兄ちゃんとどこのダンジョンに行くつもりなの?」
ダンジョン探索と聞いて興味がわいたのか、ユウの荷物運搬の話を聞いた時とは打って変わってティキは目を輝かせてアネッサに問う。
「ああ、そういえば行先についてもまだ説明をしていなかったな。私がこれから探索をするのは……『英雄の頂』だ」
「英雄の頂……?」
初めて聞く単語にユウは首を傾げる。一方、その単語を聞いたティキの顔色が若干変わる。その表情にはどこか真剣みのようなものが感じられる。
(……ティキ、どうしたんだ?)
一瞬脳に浮かんだ疑問はアネッサの説明ですぐに霧消する。
「英雄の頂とはアルグラントの東にある山のことだ。このヅォーイ帝国のために戦って死んだ戦士たちはその山で葬られる。死んだ戦士たちの魂は故郷を見渡しながら眠るため、必ず英雄の頂に返ると言い伝えられている」
(この国、ヅォーイ帝国って名前だったんだ……)
(そういえば帝都の名前は聞いてたけど、ここまで国の名前聞かないまんま話が進んでましたね)
ルティシアの回答に、ユウとしては『それはそれでどうなんだ』と思わなくもなかったが、話が進まなくなりそうな話題に思えたためスルーすることにした。
「なるほど、国を守るために戦って死んだ英雄たちを弔う場だからそういう名前ってわけですね」
述べられたユウなりの理解と予想を聞き、アネッサは頷く。
「しかし、そんなところがどうしてダンジョンになってるんですか?」
「いや、逆だ。元々ダンジョンだった山を墓にしたんだ。国のために戦った戦士の墓は副葬品として一緒に埋葬される武具等に貴重品等もそれなりにあってな……墓荒らしにあうことも多かったんだ。そこで、墓を生半可な人間では入り込めないような場所に作ろうという話になってね」
「はあ……すごい発想だなあ」
これが異世界での考え方かとユウは感心する。
「しかしまあ、それじゃあ親族は墓参りするのも大変そうだなあ」
そこまで言ったところでユウはあることに気が付く。
「じゃあ、ティキも……?」
ユウの疑問にティキは頷く。
「うん。父さんも英雄の頂にお墓があるんだ。でも、お葬式の後に父さんのところには一度も行けてない……。本当は冒険者の誰かを護衛につけてお墓参りに行きたいんだけど、今はどこも人手が足りなくて……」
ユウはティキの真剣な表情な理由をようやく理解する。
「そっか……」
ユウはティキに歩み寄ると、その肩を軽く叩く。
「代わりに行くってことに意味があるかと言われるとちょっと微妙だし、ついでってわけでもないんだけど……墓参りにも俺が行ってきてやるよ」
「ユウ兄ちゃん……」
そんな二人のやり取りを見ていたアネッサが軽く笑う。
「どうやら、話はまとまったようだな。出立日時は明日の早朝。仕事の段取りはギルドに伝えておく。時間になったらギルドに来て受付に話を聞いてくれ」
「分かりました」
「それじゃあ明日からよろしく頼む」
アネッサはそう言うと、軽く片手をあげ、そして立ち去ろうとする。
直後、アネッサの足が机の脚にぶつかる。
「……」
直後、アネッサは静止する。
「……?どうしました、アネッサさん?」
突如としてアネッサの挙動が止まったことに驚いたユウは首を傾げながらアネッサに声をかける。そんなユウの声に反応するように、アネッサが喉の奥から絞り出すような声を出す。
「ぐ……」
「ぐ……?」
アネッサは何を言わんとしているのか。それが分からないユウは困惑する。
「ぐああああああああああああああああああっ!!」
直後、アネッサはすさまじい絶叫を上げる。
「うわっ!?」
予想外の事態に驚いたユウは思わず身体を硬直させる。直後、アネッサの口から大量の血が噴き出す。
「またかよおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
再び全身に血を吹きかけられたユウは思わず絶叫する。
「なんなんだよ!なんなんだよ一体!?」
全身血まみれにされたユウはアネッサに思わず抗議の声を上げる。
「すまない……実は前の戦いの古傷が痛んでな……。なにかしらの衝撃を受けた時とかに全身に激痛が走り、思わずこのように吐血してしまうことがあるのだ」
「ええ……おいおい、そんなんでダンジョンなんて行って大丈夫なのかよ、あんた……」
戸惑いながら血をふき取っていたユウは思わず心配する。
(ユウさん、ユウさん!)
そんなユウにルティシアは声をかける。
(なんです、女神様)
怪訝に思えたが、ユウはルティシアに素直に問う。
(実はユウさんにはこの世界の様々なもののステータスを見ることが出来る能力を授けてあるのです。ちょっと見てみてください!あの人やばいですよ!)
(唐突な……そんな大事なもん授けてたんなら早よ言ってくださいよ!?)
ユウは思わずルティシアに文句を言う。しかし、その文句への対応はそこそこにルティシアはユウに促す。
(いいから今すぐ『ステータスオープン』と念じてみてください!)
(ええ……)
いつになく強引なルティシアの態度に困惑しつつ、ユウは(ステータスオープン)と念じた。すると、空中に受付嬢が投影したものとは意匠が異なる青地のウィンドウが表示される。
(……これは……)
(これはこの世界の魔法原理に基づいて私が独自に構築したステータス確認ウィンドウです。この世界の住人ではユウさん以外が目視することはできません)
(なるほど)
ルティシアの言葉にうなずきつつ、ユウはステータスウィンドウの中身をのぞき込む。そこにはアネッサのステータスが表示されていた。
『アネッサ・バートランド 戦士 レベル55 力:205 防御:215 すばやさ:190 かしこさ:115 うんのよさ:52』
などと記述されている。
(へー……これが高いのか低いのかわからないけど、なんかステータス的には強そう)
(そこじゃありません!下!もっと下を見てください!)
ルティシアの態度を不審に思いつつ、ユウはステータスウィンドウの下部を確認する。そして、それを見たユウも思わず絶句する。
ステータスウィンドウの下部には
『最大HP:1 最大MP:0』
と記述されていた。
(な、なんじゃこりゃー!?)
ユウが思わず絶叫すると同時、ステータスのアネッサの状態を示す項目の表記が『通常』から『戦闘不能』へと切り替わる。直後、アネッサはその場に倒れた。
「えぇ……」
想定外の事態の連続に、ユウは明日からのダンジョン対策に対する不安がすさまじい勢いで積もっていくのを感じていた。
「お……俺は残念ながら戦闘職に就くことは出来ない……と、いうか適職診断自体受けることが出来ない……」
「どうして?」
ユウの回答にティキは怪訝そうな顔をする。ユウはティキの視線を感じつつも、どう回答したものかと思案する。自身が異世界人であり、エクスと融合しているという大前提について話すことが出来ない限り伝えられる情報はかなり限られる。ここ数日世話になったこともあり、ユウとしては極力真摯に回答をしたいと考えはするのだが、彼が理解できるよう回答することはどうにも難しい。手詰まりとなったユウは絞り出すようにつぶやく。
「お、大人にはまあ、色々あるんだよ……」
ユウの要領を得ない返事にティキはますます訝しむ。
「なにそれ?」
それ以上は何も答える気配のないユウを見てティキは仕方なく話題を変える。
「じゃあユウ兄ちゃん、今何して生活費を稼いでるの?」
この話題なら問題なくこたえられると感じたユウは安堵のため息を漏らす。
「ああ、それならここのギルドが斡旋してくれている日雇いの荷物運搬の仕事をやってる」
「荷物運搬?」
「ああ、馬車への荷物の積み込みとか荷下ろし、街の中への荷物の配達なんかが主な仕事だな。やっぱり帝都は大都市だけあって荷物も多くてな……おかげで日当も結構もらえて懐はホクホクってワケよ」
「ふーん」
どうやら戦闘職につかなかったせいでティキとしては既に興味を失っているようで、どうにも反応が素っ気ない。
(子供ってそういうところあるよねー。なんつーかめっちゃ残酷)
ユウは内心苦笑する。
「ふ……わかってねぇな、坊主……」
そんなティキを突如としてたしなめる声がする。
「へ?」
「え?誰?どこ?」
一体誰なのかと驚いたティキとユウは声の主を探そうと周囲を見回すが、それらしい人物は見つからない。
「ここだよ、ここ。下を見てみろ」
声に導かれるままにユウとティキが床の方を見ると、そこには先日ユウのツッコミによって地面に埋まったモヒカンがそのままの姿でいた。
「おわっ!……あんたこの間からずっと埋まってたのか?」
モヒカンの予想外の状態に、思わずユウは悲鳴を上げてから問いかける。モヒカンはそんなユウの問いかけにどこか遠い目をする。
「ああ……あの日からずっと俺はここに埋まっている……」
「……それだったら誰かに助けてもらって引き揚げてもらえばいいのに……」
明朗快活なティキがいつになく困惑し、恐る恐る正直な所感を言う。
「いや……良いんだ……俺はこうして大地と一体になることで……今までわからなかったものが分かるようになってきたんだ……。そう、すべては大地とつながることで見えてくる……宇宙とは……真理とは……世界とは……」
つい先日あった時は近寄りがたい人程度だったが、気が付けば近寄ってはいけない人へとクラスチェンジを遂げている。一体彼の身に何が起きているのか、それを知りたいと思いつつも深入りしたくないという気持ちが勝る。そんなユウの気持ちを他所にモヒカンは話を続ける。
「そう、俺にはこの大地を通じて見えてきたんだ……ユウの兄貴が……この街で働き……どう受け入れられるのかを……」
「何言ってんの、この人。つーか人を急に勝手に兄貴呼びしないで……」
「俺を地面に埋めることで新たな境地に連れて行ってくれたのはあんただ……。俺にとってあったはリスペクトすべき存在……まさに兄貴だ……」
(なんか変なことになっていますねぇ)
ルティシアの他人事感丸出しな物言いにユウは若干の苛立ちを覚える。しかし、そもそもモヒカンが地面に埋まっている原因は自分にあるためユウは押し黙る。
「ユウの兄貴は……その超人的な身体能力で街の荷物を大量に運搬し、既にここ数日で様々な商人達から熱い信頼を得ている……。もはや街のカリスマ……」
流石に街のカリスマは盛りすぎだろうと思いつつも、地面に埋まったままなはずのこの男が何故自分のここ数日の具体的な動向を知っているのだろうかと、ユウは驚きを通り越した恐怖を感じていた。
「そっか、生活が安定してるみたいなら良かったよ……ところで」
幼いティキですら何か得体のしれない危険を感じたのか、愛想笑いをしつつ適当にモヒカンとの話を切り上げる。
「ユウ兄ちゃん今のままだと帝都の外に出られないんでしょ、大丈夫?」
ティキに聞かれてユウは改めてため息を漏らす。
「それなんだよなあ……なんとかどっかの承認に伝手でも作って隊商に潜り込ませてもらうとかしかないかな……時間はかかりそうだが……」
ユウは再びため息を漏らす。
「それなら、私と手を組まないか?」
突然声をかけられ、驚いたユウは声の主の方へと振り返る。
「アネッサさん……」
そこには軽装の鎧に身を包んだアネッサが立っていた。どうやらティキとのこれまでの会話を聞かれていたらしい。
(……)
エクスはティキに何かの意思を伝えようとするが、思いとどまる。
(どうしたんだろう)
そのことに違和感を感じつつも、ユウはアネッサの方へと向き合う。
「手を組む……と、言うのは?」
ユウに聞かれてアネッサは頷く。
「私は訳あって現在諸国を旅している。そこで、望むならば君を私の同行者としよう」
アネッサの言葉にユウとティキが驚く。
「そりゃあ有難いですけど……良いんですか?」
ユウの問いにアネッサは人差し指を立てて答える。
「ただし……1つ条件がある」
「条件?」
ユウの返事にアネッサは再び頷く。
「実は現在、旅に出る前に1つ探索したいダンジョンがある。そこへ荷物運びの人足として同行してもらうこと」
(うおおおお!ダンジョン探索ですよ、ユウさん!ちゃんと異世界転生感マシマシですね!)
ルティシアは場の空気を盛り上げようと煽ってくるが、話を真面目に聞くモードに入っているユウは、彼女のテンション高めの話を受け流しつつ、アネッサに質問をする。
「そりゃかまいませんけど……なんで俺なんです?」
アネッサは軽く笑う。
「今回の探索ではなるだけ多量の荷物を持ち込みたい事情があってね。ただ多量の荷物を運ぶのなら、なるだけ多くの人を雇う必要があるが……元々現在は魔族との戦争からの復興の真っただ中で今はどこも人手不足なんだ。さらに、今回の騒動で人々の往来が制限されている結果、一度に大量の荷物を運べるように大手の商人がまとめて大規模な隊商を組むようになっていてね。そんな状態だとなかなか個人で小さな対象を組むということが難しいんだ。そんなときに君の噂を聞いた。なんでもここ数日で、一人で大量の荷物を運ぶと随分と名を馳せているそうじゃないか。君ならば私の要求する分量の荷物を一人で運べるかもしれないと考えた。もし、今回の件がうまくいったなら、君には引き続き私の旅の荷物の運搬を依頼したいとも考えている」
「なるほど」
アネッサの説明にユウは納得する。評判は立ってきてるとはいえ、現在の自分はギルドや帝都内で人脈を構築できているわけではない。元勇者パーティとして、エミリア達も信頼をしている人物のようだし、この依頼に乗る分には問題が無いようにユウには思われた。
「それでしたら喜んで仕事をお受けします」
ユウは頭を下げる。
「助かる。礼を言う」
アネッサも軽く一礼をすると右手を差し出す。アネッサの意図を少し遅れてから察したユウは、その右手を握る。
(……そういや女性の手を握るって……何年ぶりだ?)
生前、まったく女性と縁がなかった記憶が脳裏を過る。
(ふ……私の転生による役得ですね……。神に感謝していいんですよ、人気投票3位って感じで)
(そんなハジケるような前振りじゃなかったですよね!?)
ユウはルティシアと漫才をしつつ、握った手を離さす。
「……」
ユウとの握手を終えたアネッサが自身の右手を見ながら押し黙る。その様子を見たユウは不審がる。
「あの……どうかしましたか?」
呼びかけられて我に返ったアネッサは首を左右に振る。
「いや、なんでもない。すまない」
「?」
アネッサの態度にユウの脳内にさらに疑問が浮かぶが、あまり深く考えず、さらに追及をしないことにした。
「ねえ、アネッサさん。ちなみにユウ兄ちゃんとどこのダンジョンに行くつもりなの?」
ダンジョン探索と聞いて興味がわいたのか、ユウの荷物運搬の話を聞いた時とは打って変わってティキは目を輝かせてアネッサに問う。
「ああ、そういえば行先についてもまだ説明をしていなかったな。私がこれから探索をするのは……『英雄の頂』だ」
「英雄の頂……?」
初めて聞く単語にユウは首を傾げる。一方、その単語を聞いたティキの顔色が若干変わる。その表情にはどこか真剣みのようなものが感じられる。
(……ティキ、どうしたんだ?)
一瞬脳に浮かんだ疑問はアネッサの説明ですぐに霧消する。
「英雄の頂とはアルグラントの東にある山のことだ。このヅォーイ帝国のために戦って死んだ戦士たちはその山で葬られる。死んだ戦士たちの魂は故郷を見渡しながら眠るため、必ず英雄の頂に返ると言い伝えられている」
(この国、ヅォーイ帝国って名前だったんだ……)
(そういえば帝都の名前は聞いてたけど、ここまで国の名前聞かないまんま話が進んでましたね)
ルティシアの回答に、ユウとしては『それはそれでどうなんだ』と思わなくもなかったが、話が進まなくなりそうな話題に思えたためスルーすることにした。
「なるほど、国を守るために戦って死んだ英雄たちを弔う場だからそういう名前ってわけですね」
述べられたユウなりの理解と予想を聞き、アネッサは頷く。
「しかし、そんなところがどうしてダンジョンになってるんですか?」
「いや、逆だ。元々ダンジョンだった山を墓にしたんだ。国のために戦った戦士の墓は副葬品として一緒に埋葬される武具等に貴重品等もそれなりにあってな……墓荒らしにあうことも多かったんだ。そこで、墓を生半可な人間では入り込めないような場所に作ろうという話になってね」
「はあ……すごい発想だなあ」
これが異世界での考え方かとユウは感心する。
「しかしまあ、それじゃあ親族は墓参りするのも大変そうだなあ」
そこまで言ったところでユウはあることに気が付く。
「じゃあ、ティキも……?」
ユウの疑問にティキは頷く。
「うん。父さんも英雄の頂にお墓があるんだ。でも、お葬式の後に父さんのところには一度も行けてない……。本当は冒険者の誰かを護衛につけてお墓参りに行きたいんだけど、今はどこも人手が足りなくて……」
ユウはティキの真剣な表情な理由をようやく理解する。
「そっか……」
ユウはティキに歩み寄ると、その肩を軽く叩く。
「代わりに行くってことに意味があるかと言われるとちょっと微妙だし、ついでってわけでもないんだけど……墓参りにも俺が行ってきてやるよ」
「ユウ兄ちゃん……」
そんな二人のやり取りを見ていたアネッサが軽く笑う。
「どうやら、話はまとまったようだな。出立日時は明日の早朝。仕事の段取りはギルドに伝えておく。時間になったらギルドに来て受付に話を聞いてくれ」
「分かりました」
「それじゃあ明日からよろしく頼む」
アネッサはそう言うと、軽く片手をあげ、そして立ち去ろうとする。
直後、アネッサの足が机の脚にぶつかる。
「……」
直後、アネッサは静止する。
「……?どうしました、アネッサさん?」
突如としてアネッサの挙動が止まったことに驚いたユウは首を傾げながらアネッサに声をかける。そんなユウの声に反応するように、アネッサが喉の奥から絞り出すような声を出す。
「ぐ……」
「ぐ……?」
アネッサは何を言わんとしているのか。それが分からないユウは困惑する。
「ぐああああああああああああああああああっ!!」
直後、アネッサはすさまじい絶叫を上げる。
「うわっ!?」
予想外の事態に驚いたユウは思わず身体を硬直させる。直後、アネッサの口から大量の血が噴き出す。
「またかよおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
再び全身に血を吹きかけられたユウは思わず絶叫する。
「なんなんだよ!なんなんだよ一体!?」
全身血まみれにされたユウはアネッサに思わず抗議の声を上げる。
「すまない……実は前の戦いの古傷が痛んでな……。なにかしらの衝撃を受けた時とかに全身に激痛が走り、思わずこのように吐血してしまうことがあるのだ」
「ええ……おいおい、そんなんでダンジョンなんて行って大丈夫なのかよ、あんた……」
戸惑いながら血をふき取っていたユウは思わず心配する。
(ユウさん、ユウさん!)
そんなユウにルティシアは声をかける。
(なんです、女神様)
怪訝に思えたが、ユウはルティシアに素直に問う。
(実はユウさんにはこの世界の様々なもののステータスを見ることが出来る能力を授けてあるのです。ちょっと見てみてください!あの人やばいですよ!)
(唐突な……そんな大事なもん授けてたんなら早よ言ってくださいよ!?)
ユウは思わずルティシアに文句を言う。しかし、その文句への対応はそこそこにルティシアはユウに促す。
(いいから今すぐ『ステータスオープン』と念じてみてください!)
(ええ……)
いつになく強引なルティシアの態度に困惑しつつ、ユウは(ステータスオープン)と念じた。すると、空中に受付嬢が投影したものとは意匠が異なる青地のウィンドウが表示される。
(……これは……)
(これはこの世界の魔法原理に基づいて私が独自に構築したステータス確認ウィンドウです。この世界の住人ではユウさん以外が目視することはできません)
(なるほど)
ルティシアの言葉にうなずきつつ、ユウはステータスウィンドウの中身をのぞき込む。そこにはアネッサのステータスが表示されていた。
『アネッサ・バートランド 戦士 レベル55 力:205 防御:215 すばやさ:190 かしこさ:115 うんのよさ:52』
などと記述されている。
(へー……これが高いのか低いのかわからないけど、なんかステータス的には強そう)
(そこじゃありません!下!もっと下を見てください!)
ルティシアの態度を不審に思いつつ、ユウはステータスウィンドウの下部を確認する。そして、それを見たユウも思わず絶句する。
ステータスウィンドウの下部には
『最大HP:1 最大MP:0』
と記述されていた。
(な、なんじゃこりゃー!?)
ユウが思わず絶叫すると同時、ステータスのアネッサの状態を示す項目の表記が『通常』から『戦闘不能』へと切り替わる。直後、アネッサはその場に倒れた。
「えぇ……」
想定外の事態の連続に、ユウは明日からのダンジョン対策に対する不安がすさまじい勢いで積もっていくのを感じていた。
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