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ちょっとくらいズレてる方が良いが、ズレすぎるとそれはそれでよくない
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(……ってアレ?)
ドラゴンドゥーマに向かって駆け出した直後、ユウは自身の胸部部分にあるクリスタルのような部品が明滅し始めたことに気が付く。
(……これって……)
(ユウ、この融合体を維持するためのエネルギーが尽きつつある。残り約一分が活動限界時間だ。このまま一気に畳みかけるぞ)
エクスに言われてユウは苦笑する。
(あー……お約束ってやつですね、お約束。はいはい……って勇者云々言うて結局特撮じゃねぇか!!)
(?)
ユウが何を言っているのか理解できずにエクスは困惑するが、それに構わずユウはドラゴンドゥーマへと向かって前進する。
(よっと!)
ドラゴンドゥーマは迫りくるエクスブレイザーにむかって噛みつき攻撃を繰り出す。しかし、エクスブレイザーは前転でそれをかわす。そしてそのまま立ち上がりドラゴンドゥーマの懐に入ると、エネルギー発振器官から生み出した光の刃を纏った手刀を水平に振り、相手に何度も攻撃を叩き込む。
(おりゃっ!おりゃっ!おりゃっ)
ラッシュを受けたドラゴンドゥーマは苦悶の悲鳴を上げる。そして、エクスブレイザーを追い払うように身体を回し、尻尾を鞭のように振り回す。
(甘い)
(よいしょっ!)
エクスブレイザーはユウの掛け声とともに前転をしながら空中へと飛びあがり、尻尾攻撃を交わす。
(そいやっ!)
そして回転の勢いと重力が乗った空中踵落としをドラゴンドゥーマの頭に叩き込む。
(そんでもってぇ!)
さらに踵落としの反動を利用して、エクスブレイザーは再び空中へと舞い上がる。それを見たドラゴンドゥーマは怒りの咆哮と共に熱線ブレスを空中のエクスブレイザーへと向けて吐き出す。しかし、エクスブレイザーは身体を空中でひねりかわす。そして、身体をひねる勢いを利用してブレイズショットを撃ちだす。カウンターで光弾を受けたドラゴンドゥーマは悲鳴を上げてよろける。
(だりゃあ!)
よろけたドラゴンドゥーマへの追撃として、着地したエクスブレイザーは再び跳躍し、フライングニールキックを相手に叩き込む。重たい一撃を受けたドラゴンドゥーマは咆哮を上げて仰向けに地面に倒れる。
(とどめだ)
(応っ!)
エクスの声にユウが応じる。
(待ってください!とどめには勇者らしくこれを使ってください!)
その時、歌のサビに入る直前のちょっとした間奏を利用してルティシアが声をかけてくる。
(これって……なんだろって、なんだアレ!?)
ユウが疑問を口にした直後、エクスブレイザーの眼前の空に魔法陣が現れる。そして、その魔法陣の中心から巨大な剣が現れ地面へと落ち、そして突き刺さる。それと同時に大地が揺れ、轟音が鳴り響く。
(なるほど……この剣で勇者ロボっぽい必殺技でとどめを刺せっていうことか)
ルティシアの意図を察したユウは呆れながら地面に刺さった剣を片手でつかみ、引き抜き、そしてそのままサンライズパースで構える。直後、空から雷が迸る。
(ユウ、そのまま剣のガードの部分にあるボタンを押すんだ)
(……は?)
ユウがそのまま構えた剣で必殺の一撃を放つ、と次の展開を期待していた矢先にエクスからの予想外の指示が飛んでくる。一体なぜ、このような剣にボタンが付いているのか、そしてそれを押すことに何の意味があるのかわからずユウは困惑する。しかし、そんなユウにためらっている時間はないとばかりにエクスが急かす。
(早く)
(は、はあ……しかし、なんでこの剣にボタンなんか……。つーかなんでそっちは普通に使い方知ってるんです?)
疑問を口にしながらもユウは促されるまま、剣のガードの部分にあるボタンを押す。
『輝け!希望の光!』
疑問に対して何も言葉を発さないエクスと対照的に、剣からはけたたましい音声が発せられる。
(これって……)
このどこかのヒーローなりきり玩具から流れてきそうな音声を聞き、先の展開が予想できたユウは既にため息を漏らしている。
(さあ構えるんだ)
ユウはエクスに促されるままに剣を構える
『エクシウムブラスター!!』
剣から技名が叫ばれると同時、刀身からすさまじい勢いの光線が放たれる。倒れていたドラゴンドゥーマはその光線の直撃を受ける。ドラゴンドゥーマは光線を受けて悶絶し、悲鳴を上げる。それからドラゴンドゥーマの身体は青白く発光し、直後に爆発四散した。
エクスブレイザーは剣を構えたまま、その様子を眺める。
(や……)
(や?)
(やっぱり特撮じゃねーか!!)
ユウは思わず叫んでツッコミを入れる。そのタイミングを見計らったかのように、ルティシアはテーマソングを歌い終えた。
戦いを終えた直後、エクスブレイザーは飛び上がり、その場から姿を消す。そして、それから程なくして王都から少し離れた場所にどこからともなく現れたトラックが停車する。ユウはその停車したトラックの中から飛び降り、そして周囲を見回す。どうやら周囲にこちらを見ている人影はないようだ。
「さてと……修道院のみんなの様子を見に行きますか」
ユウの左腕は流血をしていたが、それに構うことなく帝都内部へと走り出す。
だが、この時ユウは気づいていなかった。ユウが降り立った場所から少し離れていたところから、物陰に隠れながら息を殺し、ユウを凝視している二人の女性がいたことを。
帝都の中に入り、ユウが最初に目にした光景は所々で崩れている建物や、各所から上がっている火の手だった。
(さっきの様子じゃみんなは守れたと思うけど……)
不安になりつつも、ユウはマヘリア達を探す。
「ユウ兄ちゃんっ!」
直後、ユウは声をかけられる。声の方に振り向くとマヘリアやリオといった修道院の面々がそこにいた。
「みなさん、無事だったんですね!」
ユウは修道院の面々のもとに駆け寄る。
「うん!巨人が僕たちを守ってくれたんだ!その後に兵士の人が僕たちを帝都の外へ一旦避難する様誘導してくれたんだ!」
「そうか、良かった……」
ユウは胸をなでおろす。そんなユウに不安そうな顔をしたマヘリアが問う。
「ユウさん、エミリアとティキは……」
ユウはマヘリアに笑顔を向ける。
「安心してください。二人は今街の外に避難しています」
ユウの言葉にマヘリアはほっと息を吐く。
「あぁ、良かった……彼女たちに何かあったらバルト―様になんと詫びようかと……」
「ユウ兄ちゃんっ!みんなっ!」
そんなやり取りをしていると、ユウは再び声をかけられる。
声の主の方へと振り向くと、そこにはティキとエミリアが立っていた。
「ティキ、無事だったんだね!」
リオをはじめとした子供たちがティキの方へと駆け寄る。エミリアは会釈をしてからマヘリアの方へと歩み寄る。
「マヘリア様。ご無事で良かったです」
「ええ、あの謎の巨人のおかげです。しかし……彼は何者なのでしょうか?」
マヘリアの疑問にエミリアも困惑する。
「分かりません。今まであのような存在は私も目にしたことがありません……彼は神の遣いなのでしょうか……」
(半分当たってて半分外れって感じなんだよなー……)
二人の会話を聞きながらユウはぼんやりとそんなことを考える。そんなことを考えていると、ユウの左手の負傷に気が付いたエミリアが声を上げる。
「まあ、ユウさん!このケガは!?」
唐突に声をかけられたことに驚きながらもユウは答える。
「あ、ああ……ここに来る途中で飛んできた瓦礫から身を守るときにちょっとね……」
「それはいけませんね……ユウさん、ケガを見せてください」
エミリアはそう言うと、ユウの怪我をした腕に手をそっとかざす。そして、目を閉じたエミリアが何やら呪文らしきものを唱え始める。すると、エミリアの手から現れた光がユウの腕を包み込む。そうすると、立ちどころに傷が治っていく。
(あぁ、この世界には回復魔法とかあるのか……)
その光景を見ながらユウは感心する。
(ふっふー!こういうのこそまさに異世界に来たって感じがするでしょう!)
(いや、そういう気分が吹っ飛ぶような事態ばっかりさっきからあってるんだけどな……)
流石に初めての戦闘で肉体的にも精神的にも疲弊したのか、ユウのツッコミにもキレが無かった。それを察したのかルティシアもユウを優しく労う。
(お疲れ様です、ユウさん)
(……ありがとうございます。色々と)
唐突なテーマソングの件などを思い出し、複雑な心境になりつつもユウもルティシアに礼を述べた。
「はい、応急処置ですがひとまずはこれで大丈夫だと思います」
直後、エミリアが治療の完了を告げる。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ……これが私の務めですから」
エミリアはユウの感謝に笑顔で応えた。
「相変わらず大した回復魔法の腕だな、エミリア」
突如、エミリアに声がかけられる。
(今日は何かとみんながよく声をかけられる日だな)
ユウはぼんやりとそんなことを考えながら声の方へと振り向く。そこには、軽装の鎧を纏った青白い髪の女性が立っていた。
「アネッサさん!アルグランドに来ていらっしゃったんですね!」
アネッサと呼ばれた女性は笑顔でエミリアの問いに頷く。
「あぁ、こちらの様子を見に来たんだが、こんなことになってるなんてね。でもあんた達が無事で良かった」
アネッサの言葉にエミリアは笑顔で頷く。そんなエミリアの頭をアネッサは優しくなでると、ユウの方へと視線を向ける。
「君は……知らない顔だね。他所からきてエミリアのところの修道院で世話になってるのかい?」
アネッサに問われてユウは頷く。
「はい。ユウって言います」
「そう……。私はアネッサ・バートランド」
アネッサは名乗りながら、一瞬何かを探るような鋭い目線を自身に向けてきていたようにユウは感じられた。これは勘違いだろうかと、一瞬ユウは考える。だが、今のところどちらとも断言できるような確証はなかった。そんなことを考えているとアネッサはユウの前に軽く右手を差し出す。それを見たユウは一瞬戸惑うが、その後軽く頷き握手を交わす。そんな二人を見たエミリアはユウに説明をする。
「ユウさん。アネッサさんは元勇者パーティの一人だったんですよ」
それを聞いたユウは驚く。まさかこの世界の偉人とも呼ぶべき人物と接触することになるとは転生前から全く想定をしていなかった。
「なに、戦いも終わって今はただの戦士だよ、ただの……ね」
そう言うアネッサは、再び一瞬だけユウに鋭い視線を向ける。視線自体は感じたが、そこにどのような意図が込められているのかわからずユウは困惑する。
「アネッサさん!」
そんなユウとアネッサの間の空気感を察することなく、友人たちに囲まれて一しきり話し終わった後のティキが挨拶をしようとアネッサの方へと駆け寄ってくる。しかし、その途中で瓦礫に躓き、体勢を崩す。そして、そのままアネッサへとぶつかってしまう。
「あ、こら!ティキ!」
アネッサへとぶつかってしまったティキをエミリアは宥める。
「ごめんなさい、アネッサさん」
ティキも自身が悪いと思ったのか即座に謝罪をする。
「……」
しかし、アネッサはそんな二人の言葉に反応せず、ただ無言で佇んでいる。
「……?」
そんなアネッサの様子を眺め、ユウは首を傾げる。眺めているとアネッサの顔色がどんどん青白くなり、表情筋がプルプルと微細に振動し始める。
(……え、何事?)
情報源は表情からしかないが、それでもアネッサの様子はただことではないとユウに感じさせる。
直後、
「ぐはあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
すさまじい叫び声をあげ、アネッサは突如として大量に吐血する。
「きゃああああああああああああああああああっ!?」
「うわああああああああああああああああああっ!?」
突然の事態にエミリアやティキをはじめとした周辺にいた人物たちは思わず悲鳴を上げる。
「ふ……ふふっ……すまない……ちょっと古傷が痛んでね……。見ての通り私は大丈夫だ……」
そんな周囲の人間たちを、ふらつきつつもアネッサは落ち着かせようとする。
周囲はアネッサの突如の吐血に動揺し、ざわついている。しかし、その中で一人冷静にただ佇んでいる男がいた。それは全身にアネッサが吐いた血を浴びせかけられたユウであった。アネッサの吐き出した血で真っ赤になったユウはぽつりと漏らす。
「……もしかして、俺の周りにまた変な奴が増えた?」
(またってどういう意味でしょう?)
(分からない)
ユウは盛大にため息を漏らした。
ドラゴンドゥーマに向かって駆け出した直後、ユウは自身の胸部部分にあるクリスタルのような部品が明滅し始めたことに気が付く。
(……これって……)
(ユウ、この融合体を維持するためのエネルギーが尽きつつある。残り約一分が活動限界時間だ。このまま一気に畳みかけるぞ)
エクスに言われてユウは苦笑する。
(あー……お約束ってやつですね、お約束。はいはい……って勇者云々言うて結局特撮じゃねぇか!!)
(?)
ユウが何を言っているのか理解できずにエクスは困惑するが、それに構わずユウはドラゴンドゥーマへと向かって前進する。
(よっと!)
ドラゴンドゥーマは迫りくるエクスブレイザーにむかって噛みつき攻撃を繰り出す。しかし、エクスブレイザーは前転でそれをかわす。そしてそのまま立ち上がりドラゴンドゥーマの懐に入ると、エネルギー発振器官から生み出した光の刃を纏った手刀を水平に振り、相手に何度も攻撃を叩き込む。
(おりゃっ!おりゃっ!おりゃっ)
ラッシュを受けたドラゴンドゥーマは苦悶の悲鳴を上げる。そして、エクスブレイザーを追い払うように身体を回し、尻尾を鞭のように振り回す。
(甘い)
(よいしょっ!)
エクスブレイザーはユウの掛け声とともに前転をしながら空中へと飛びあがり、尻尾攻撃を交わす。
(そいやっ!)
そして回転の勢いと重力が乗った空中踵落としをドラゴンドゥーマの頭に叩き込む。
(そんでもってぇ!)
さらに踵落としの反動を利用して、エクスブレイザーは再び空中へと舞い上がる。それを見たドラゴンドゥーマは怒りの咆哮と共に熱線ブレスを空中のエクスブレイザーへと向けて吐き出す。しかし、エクスブレイザーは身体を空中でひねりかわす。そして、身体をひねる勢いを利用してブレイズショットを撃ちだす。カウンターで光弾を受けたドラゴンドゥーマは悲鳴を上げてよろける。
(だりゃあ!)
よろけたドラゴンドゥーマへの追撃として、着地したエクスブレイザーは再び跳躍し、フライングニールキックを相手に叩き込む。重たい一撃を受けたドラゴンドゥーマは咆哮を上げて仰向けに地面に倒れる。
(とどめだ)
(応っ!)
エクスの声にユウが応じる。
(待ってください!とどめには勇者らしくこれを使ってください!)
その時、歌のサビに入る直前のちょっとした間奏を利用してルティシアが声をかけてくる。
(これって……なんだろって、なんだアレ!?)
ユウが疑問を口にした直後、エクスブレイザーの眼前の空に魔法陣が現れる。そして、その魔法陣の中心から巨大な剣が現れ地面へと落ち、そして突き刺さる。それと同時に大地が揺れ、轟音が鳴り響く。
(なるほど……この剣で勇者ロボっぽい必殺技でとどめを刺せっていうことか)
ルティシアの意図を察したユウは呆れながら地面に刺さった剣を片手でつかみ、引き抜き、そしてそのままサンライズパースで構える。直後、空から雷が迸る。
(ユウ、そのまま剣のガードの部分にあるボタンを押すんだ)
(……は?)
ユウがそのまま構えた剣で必殺の一撃を放つ、と次の展開を期待していた矢先にエクスからの予想外の指示が飛んでくる。一体なぜ、このような剣にボタンが付いているのか、そしてそれを押すことに何の意味があるのかわからずユウは困惑する。しかし、そんなユウにためらっている時間はないとばかりにエクスが急かす。
(早く)
(は、はあ……しかし、なんでこの剣にボタンなんか……。つーかなんでそっちは普通に使い方知ってるんです?)
疑問を口にしながらもユウは促されるまま、剣のガードの部分にあるボタンを押す。
『輝け!希望の光!』
疑問に対して何も言葉を発さないエクスと対照的に、剣からはけたたましい音声が発せられる。
(これって……)
このどこかのヒーローなりきり玩具から流れてきそうな音声を聞き、先の展開が予想できたユウは既にため息を漏らしている。
(さあ構えるんだ)
ユウはエクスに促されるままに剣を構える
『エクシウムブラスター!!』
剣から技名が叫ばれると同時、刀身からすさまじい勢いの光線が放たれる。倒れていたドラゴンドゥーマはその光線の直撃を受ける。ドラゴンドゥーマは光線を受けて悶絶し、悲鳴を上げる。それからドラゴンドゥーマの身体は青白く発光し、直後に爆発四散した。
エクスブレイザーは剣を構えたまま、その様子を眺める。
(や……)
(や?)
(やっぱり特撮じゃねーか!!)
ユウは思わず叫んでツッコミを入れる。そのタイミングを見計らったかのように、ルティシアはテーマソングを歌い終えた。
戦いを終えた直後、エクスブレイザーは飛び上がり、その場から姿を消す。そして、それから程なくして王都から少し離れた場所にどこからともなく現れたトラックが停車する。ユウはその停車したトラックの中から飛び降り、そして周囲を見回す。どうやら周囲にこちらを見ている人影はないようだ。
「さてと……修道院のみんなの様子を見に行きますか」
ユウの左腕は流血をしていたが、それに構うことなく帝都内部へと走り出す。
だが、この時ユウは気づいていなかった。ユウが降り立った場所から少し離れていたところから、物陰に隠れながら息を殺し、ユウを凝視している二人の女性がいたことを。
帝都の中に入り、ユウが最初に目にした光景は所々で崩れている建物や、各所から上がっている火の手だった。
(さっきの様子じゃみんなは守れたと思うけど……)
不安になりつつも、ユウはマヘリア達を探す。
「ユウ兄ちゃんっ!」
直後、ユウは声をかけられる。声の方に振り向くとマヘリアやリオといった修道院の面々がそこにいた。
「みなさん、無事だったんですね!」
ユウは修道院の面々のもとに駆け寄る。
「うん!巨人が僕たちを守ってくれたんだ!その後に兵士の人が僕たちを帝都の外へ一旦避難する様誘導してくれたんだ!」
「そうか、良かった……」
ユウは胸をなでおろす。そんなユウに不安そうな顔をしたマヘリアが問う。
「ユウさん、エミリアとティキは……」
ユウはマヘリアに笑顔を向ける。
「安心してください。二人は今街の外に避難しています」
ユウの言葉にマヘリアはほっと息を吐く。
「あぁ、良かった……彼女たちに何かあったらバルト―様になんと詫びようかと……」
「ユウ兄ちゃんっ!みんなっ!」
そんなやり取りをしていると、ユウは再び声をかけられる。
声の主の方へと振り向くと、そこにはティキとエミリアが立っていた。
「ティキ、無事だったんだね!」
リオをはじめとした子供たちがティキの方へと駆け寄る。エミリアは会釈をしてからマヘリアの方へと歩み寄る。
「マヘリア様。ご無事で良かったです」
「ええ、あの謎の巨人のおかげです。しかし……彼は何者なのでしょうか?」
マヘリアの疑問にエミリアも困惑する。
「分かりません。今まであのような存在は私も目にしたことがありません……彼は神の遣いなのでしょうか……」
(半分当たってて半分外れって感じなんだよなー……)
二人の会話を聞きながらユウはぼんやりとそんなことを考える。そんなことを考えていると、ユウの左手の負傷に気が付いたエミリアが声を上げる。
「まあ、ユウさん!このケガは!?」
唐突に声をかけられたことに驚きながらもユウは答える。
「あ、ああ……ここに来る途中で飛んできた瓦礫から身を守るときにちょっとね……」
「それはいけませんね……ユウさん、ケガを見せてください」
エミリアはそう言うと、ユウの怪我をした腕に手をそっとかざす。そして、目を閉じたエミリアが何やら呪文らしきものを唱え始める。すると、エミリアの手から現れた光がユウの腕を包み込む。そうすると、立ちどころに傷が治っていく。
(あぁ、この世界には回復魔法とかあるのか……)
その光景を見ながらユウは感心する。
(ふっふー!こういうのこそまさに異世界に来たって感じがするでしょう!)
(いや、そういう気分が吹っ飛ぶような事態ばっかりさっきからあってるんだけどな……)
流石に初めての戦闘で肉体的にも精神的にも疲弊したのか、ユウのツッコミにもキレが無かった。それを察したのかルティシアもユウを優しく労う。
(お疲れ様です、ユウさん)
(……ありがとうございます。色々と)
唐突なテーマソングの件などを思い出し、複雑な心境になりつつもユウもルティシアに礼を述べた。
「はい、応急処置ですがひとまずはこれで大丈夫だと思います」
直後、エミリアが治療の完了を告げる。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ……これが私の務めですから」
エミリアはユウの感謝に笑顔で応えた。
「相変わらず大した回復魔法の腕だな、エミリア」
突如、エミリアに声がかけられる。
(今日は何かとみんながよく声をかけられる日だな)
ユウはぼんやりとそんなことを考えながら声の方へと振り向く。そこには、軽装の鎧を纏った青白い髪の女性が立っていた。
「アネッサさん!アルグランドに来ていらっしゃったんですね!」
アネッサと呼ばれた女性は笑顔でエミリアの問いに頷く。
「あぁ、こちらの様子を見に来たんだが、こんなことになってるなんてね。でもあんた達が無事で良かった」
アネッサの言葉にエミリアは笑顔で頷く。そんなエミリアの頭をアネッサは優しくなでると、ユウの方へと視線を向ける。
「君は……知らない顔だね。他所からきてエミリアのところの修道院で世話になってるのかい?」
アネッサに問われてユウは頷く。
「はい。ユウって言います」
「そう……。私はアネッサ・バートランド」
アネッサは名乗りながら、一瞬何かを探るような鋭い目線を自身に向けてきていたようにユウは感じられた。これは勘違いだろうかと、一瞬ユウは考える。だが、今のところどちらとも断言できるような確証はなかった。そんなことを考えているとアネッサはユウの前に軽く右手を差し出す。それを見たユウは一瞬戸惑うが、その後軽く頷き握手を交わす。そんな二人を見たエミリアはユウに説明をする。
「ユウさん。アネッサさんは元勇者パーティの一人だったんですよ」
それを聞いたユウは驚く。まさかこの世界の偉人とも呼ぶべき人物と接触することになるとは転生前から全く想定をしていなかった。
「なに、戦いも終わって今はただの戦士だよ、ただの……ね」
そう言うアネッサは、再び一瞬だけユウに鋭い視線を向ける。視線自体は感じたが、そこにどのような意図が込められているのかわからずユウは困惑する。
「アネッサさん!」
そんなユウとアネッサの間の空気感を察することなく、友人たちに囲まれて一しきり話し終わった後のティキが挨拶をしようとアネッサの方へと駆け寄ってくる。しかし、その途中で瓦礫に躓き、体勢を崩す。そして、そのままアネッサへとぶつかってしまう。
「あ、こら!ティキ!」
アネッサへとぶつかってしまったティキをエミリアは宥める。
「ごめんなさい、アネッサさん」
ティキも自身が悪いと思ったのか即座に謝罪をする。
「……」
しかし、アネッサはそんな二人の言葉に反応せず、ただ無言で佇んでいる。
「……?」
そんなアネッサの様子を眺め、ユウは首を傾げる。眺めているとアネッサの顔色がどんどん青白くなり、表情筋がプルプルと微細に振動し始める。
(……え、何事?)
情報源は表情からしかないが、それでもアネッサの様子はただことではないとユウに感じさせる。
直後、
「ぐはあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
すさまじい叫び声をあげ、アネッサは突如として大量に吐血する。
「きゃああああああああああああああああああっ!?」
「うわああああああああああああああああああっ!?」
突然の事態にエミリアやティキをはじめとした周辺にいた人物たちは思わず悲鳴を上げる。
「ふ……ふふっ……すまない……ちょっと古傷が痛んでね……。見ての通り私は大丈夫だ……」
そんな周囲の人間たちを、ふらつきつつもアネッサは落ち着かせようとする。
周囲はアネッサの突如の吐血に動揺し、ざわついている。しかし、その中で一人冷静にただ佇んでいる男がいた。それは全身にアネッサが吐いた血を浴びせかけられたユウであった。アネッサの吐き出した血で真っ赤になったユウはぽつりと漏らす。
「……もしかして、俺の周りにまた変な奴が増えた?」
(またってどういう意味でしょう?)
(分からない)
ユウは盛大にため息を漏らした。
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24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
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Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
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