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人生は大体自分がやるときに限ってうまくいかない
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げんなりとした顔でユウが述べた答えに、ルティシアは対照的な朗らかな笑顔で応じる。
「え?なんなの?アレでどうしろっていうの!?つーかなに?アレで死んだ俺に対する嫌がらせ!?」
(まあまあ、落ち着いてください。すぐに答えはわかりますから。ね、エクスさん)
(その通りだ)
ルティシアとエクスがわかり合っていることに疎外感からくる苛立ちが一瞬湧き上がる。直後、剣に仕込まれている発光ギミックが光だし、けたたましい効果音が鳴り響いたため、ユウの負の感情も一瞬で吹き飛ばされる。
(ユウ。再びトリガーを押してくれ)
冷静なエクスの言葉に促されるまま、ユウは改めて剣のトリガーを押し込む。
『エクス・フュージョン!』
直後、剣が音声を発し、さらに強い光を発する。想定外の音声にユウは一瞬身体を強張らせる。
(さあユウさん、トラックの方を見てください!)
しかし、そんなユウに構わずルティシアはユウに促す。ユウはルティシアの声に誘導されるがままに視線をトラックへ移す。
(――――!?)
直後、トラックはまばゆい光を発し、空中へと飛び出す。さらに変形をはじめ、巨大な日本の腕と脚、そして頭部が形成される。
「ロ、ロボットに変形したぁ!?」
驚くユウにロボットは近づいてくる。ロボットをよく観察してみると、どことなく前世で見たエクスの姿に似ているように思われた。ロボットの胸部には某特撮ヒーローの胸についているようなクリスタル状のパーツが存在していおり、そしてそのクリスタルからユウに向けて光線が発せられた。
「はい?」
ユウが驚いたのも束の間、彼の身体は宙に浮き、そのままクリスタルの方へと引き寄せられる。
「うおおおおおおおおおっ!?」
ユウ思わずは悲鳴を上げるが、そんなことはお構いなしにぐんぐんと吸い寄せられた彼の身体がクリスタルへと触れる。それと同時に、彼はクリスタルの中へと吸い込まれていく。その瞬間、ユウは自身の意識が一瞬遠のいていくのを感じた。
『エクスブレイザー!フリーランサー!!』
直後、先ほどの変身ツールのものと同じ音声が鳴り響き、ユウは失いかけた意識が一瞬にして戻るのを感じた。直後、手を伸ばして直立するような姿勢を取っている自身が空中へと勢いよくとびだしていることに気づく。その姿はまるで某特撮ヒーローの変身後のぐんぐんカットのようである。そして、その後重力に身体は引き寄せられ、地面へと着地する。
(おわっ!?)
直後、自身に発生した異変に気が付き、驚いたユウは素っ頓狂な声を上げる。自身の目線がやけに高い。先ほどまで自身が歩いていた帝都の街並みは、気が付けば市足元に広がっている。
(これは……)
ユウは子供の頃に見た巨大特撮ヒーローものの作品では、主人公が最初に変身した時は大体自身の目線の高さなどに驚いていたことを思い出す。これは自身にも同じようなことが起きたということだろうか?そんなことをぼんやり考えると、それを肯定するエクスの声が響く。
(そうだ。君が考えている通りだ)
(やっぱり……)
(今君は、私と一体化し巨大化している。共に力を合わせて戦えば、あのドゥーマの細胞に侵されたドラゴンを倒すこともできるだろう)
エクスの言葉にユウは自身の興奮が高まっていくのを感じる。
(こちらの世界に来る前から調子狂うような展開ばかりだったけど、やっとこさそれっぽい感じになってきたじゃないか!……特撮だけど)
ユウはエクスの言葉にそう答えて、力を込めて軽く拳を握る。
(……いいぜ、こうなったらとことんやって……)
そして、自身の手を一度見つめる……ところで、違和感に気が付く。
(どうした、ユウ?)
そんなユウの異常を感じとったエクスが声をかける。
(え、いや……これ、なんか違くね?)
そういってユウは視界に映った自身の手を何度も開いたり閉じたりする。その都度、装甲に包まれた内部機構が低くうなるような駆動音を発する。
(これ……)
ユウは当初、巨大特撮ヒーローのような存在に変身して戦うことを想定していた。しかし、現在自身がなっている姿はおそらく……どうみても……
(ロ、ロボだこれー!?)
ガビーン!と効果音が出そうな勢いでユウは叫ぶ。
(おお、セクシーでコマンドーなツッコミですね!)
そんなユウのリアクションにルティシアが乗っかる。
(ちゃうわ!)
(愛に気づいてくれたのかと思ってささやいてあげようと思ったのに~♪)
(作品世界が壊れてしまってるしバランスが崩れてるのにいうとる場合か!)
(大丈夫ですよ、目を閉じていればどこまでも行けますから!)
(ボスケテ……)
ロマンスなやり取りをしてるうちに気力がみるみるそがれていくユウはがっくりと肩を落とす。
(ど、どうしました、ユウさん!?)
ユウのリアクションが想定外だったのか、ルティシアが声をかける。そんな彼女にユウは思わず噛みつく。
(いや、どうしたもこうしたもあるか!?なんで巨大ロボットなんですか!?)
(それには私が答えよう)
ルティシアに吼えるユウをなだめるかのようにエクスが割って入る。
(私は融合した相手の肉体を変質させ、従来の姿になる能力を持っている。本来ならこの能力を用いて君を変身させ、戦闘するための実体を構築しようと思っていた。しかし、そうもいかない事情が出てきた)
(事情?)
(目の前のドラゴンを見ればわかると思うが、ドゥーマ細胞は有機生命体を汚染し、浸食する能力をもっている。それは私の従来の肉体も例外ではない。しかし、これを回避する方法がある。機械などの無機物になることだ)
(え、機械になるって……それじゃあまさか)
(ああ。私自身をエネルギー生命体に変換し、そして機械と融合・変質させ戦闘用のボディを形成する。これによりドゥーマ細胞の汚染を避けつつ戦うことが可能となる。しかし、そのような戦闘体を形成するための質量のある手ごろな物体が見当たらなかったのだ。そこで、君の死体の近くにあったこの乗り物を利用させてもらった)
(ぐぬぬ……もっともらしい理屈がありやがる……)
エクスの回答が思ったより真っ当だったため、ユウは怒りのぶつけ先を失い、一瞬冷静になる。そしてその瞬間にまた、別の事実が心に引っかかりを覚え始める。
(いや、それにしても……これ、俺の死因だったんですけど……。それと融合しろっていうのはちょっとデリカシーが無いような……)
(そうなのか?一応、あの時私の周辺にはもう二つ程トラックが落ちていたのだがそちらが良かっただろうか?ルティシアには止められたのだが)
エクスの言葉にユウは思わず反応する。
(はぁ!?止めたって……なんでですか!?どんなトラックでも俺の死因になった車体よりマシでしょうが!?)
(本当にそう思います?)
ルティシアはユウに問いかける。
(どういうことです?)
(だって、こんな車体ですよ?)
ユウの問いかけに応えてルティシアはイメージ映像をユウの脳内に送り込んでくる。
イメージ上のトラックはコンテナ部分に女性のイラストが描かれており『〇ーニラ バ〇ラ バーニ〇 求人、 〇ーニラ バ〇ラ 高収入』という歌をエンドレスで流している。
(……)
それを見たユウは思わず押し黙る。
(……これじゃなくて良かったでしょう?)
(……はい)
これにはユウも同意せざるを得なかった。
(で……でも、もう一台はもっとマシなのでは?)
それでも納得しきれないユウは、一縷の望みをかけてルティシアに反抗する。
(……ちなみにもう一台はこんな感じです)
再びルティシアはユウの脳内にイメージ映像を送り込む。今度のイメージ内のトラックは、コンテナが黒く塗られていた。その上に白文字で描かれた文句は『尊皇』や『護国』といった物々しいものばかりである。さらに今度の車は軍歌のような勇ましい歌を、これまたエンドレスで流している。
(思想が強い!!)
イメージを視聴させられたユウは、今度は思わず悲鳴を上げる。
(……このトラックが良かったですか?本当に?)
(……)
改めてルティシアに問われ、ユウは再び黙ってしまう。そしてそれから絞り出すように回答を漏らす。
(……このトラックで良いです……)
(わかっていただけましてなによりです)
釈然としないユウは同意しつつもため息を漏らす。そんなユウにエクスは素直な疑問をぶつける。
(何か問題があるのか、ユウ?)
どうやら何がどう悪いのか分かっていないらしい。やはり自分のような人間とはかなり感性が異なっているらしい。
(いや、なんというか感情の問題なんですけど……)
(そうなのか、それは配慮が足りなかった。すまない)
ユウが不快感を感じていることを理解するなり、即座かつ素直に謝罪するエクスに彼が決して悪い人物でないことを改めて認識する。
(あーもう……)
怒りをぶつけることをあきらめたユウは内心でため息を漏らす。
(まあまあ、いいじゃないですか。あの時トラックに轢かれたユウさんは死んだんじゃないんですよ……。きっとトラックと合体することにより生まれ変わったんですよ!)
(そんなドラゴンと車の間で生まれた子供みたいな存在になりてえわけじゃないんだよ!つーか何ちゃっかりあんたもこの展開推してるんだ!異世界転生ものっぽくない要素増えないようにする努力をちったあしろよ!)
しかし、そんな彼の怒りに無神経な女神は再び着火をし、見事に燃え上がらせる。しかし、ルティシアはそんな吹き上がるユウのリアクションを気にも留めず呑気に返す。
(えー?異世界転生って言ったら勇者でしょう?勇者ってそちらの世界でいったら巨大な乗り物が変形する人型ロボットのことですよね?私、勉強しました!)
ルティシアの回答にユウは頭を抱える。
(ふ……)
(ふ……?)
(古いよ!!今時の若者があんまりわからなさそうなネタをバカスカやりやがって……!こんなところまでズレてなくたっていいだろー!?)
徹頭徹尾テンプレ通りな異世界転生的な流れも、お約束な特撮ヒーローものの展開にもならない事態の連続にユウは思わず叫んでしまう。
(えー、そんなにズレてますかね?私的にはまさに『私に良い考えがある!』という感じだったのですが)
(それ勇者とまたちょっと違う奴じゃねぇか!)
ユウは思わずツッコむ。
(何か問題があるのだろうか?)
(さぁ?)
しかし、そんなユウが落ち着くのをルティシアとエクスはのんびり待つだけであった。
(ところでユウ)
頭を抱えたまま一向に立ち直る気配のないユウにエクスは声をかける。
(……ん?あぁごめんごめんどうしました?)
声をかけられて正気に戻ったユウはエクスに反応し、謝罪する。
(敵がこっちに来ている)
――直後、尻にすさまじい勢いの衝撃と熱を感じて、巨大ロボと化したユウは悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。
「デュアァァァァァァッ!?」
(うわああああっちゃあああああああああああ!?)
悲鳴を上げつつ吹き飛ばされながら、ユウは視界の端でドラゴンが熱線を吐いている姿を捉える。心なしか、ドラゴンが今まで無視をしていたことに怒っていたように感じられた。そして、ユウは地面に勢いよく叩きつけられる。地面が轟音を上げ、下敷きになった樹木がユウの体重を受けきれずに飴細工のように崩れ、小さな丘が砂糖菓子のように崩れていく。
(俺、本当に巨大ロボになってるんだな……)
尻に感じる激しい熱さと痛みをどこか他人事のように感じつつ、冷静に自身の現状を受け入れていることに、ユウはどこかで驚きを感じていた。これがエクスと一体化し、人外の存在になったということなのだろうか。
(奴の追撃が来る、応戦を!)
しかし、そんなことを悠長に考えている時間はないことをエクスが伝える。我に返ったユウは勢いよく前方へと飛び跳ねる。直後、ドラゴンがユウの倒れていた空間に噛みつく。ユウはそのまま空中で回転しながら姿勢をと整え、ドラゴンと相対するように着地し、改めてドラゴンを正面から見据える。先ほど、自身を噛もうとした鋭利な牙が不気味な輝きを放っている。もしもアレに嚙まれていたらと想像し、ユウは身震いをする。
(あっぶねー……)
巨大ロボになったとはいえ、ドラゴンの方がまだまだ背は高い。
(あんなバカでかくて狂暴なやつを今から相手にしなくちゃならんのか……)
まるでヒグマに素手で立ち向かえと言われているかのような気分である。だが、ユウにもう迷いはない。
(そうだ。だが、奴はあくまでドゥーマ細胞の一部に寄生された原生生物に過ぎない。ドゥーマ本体と比べたら奴の戦闘力は格段に劣る。私と融合している今の君ならば倒せるはずだ)
(簡単に言ってくれちゃって……)
ユウは嘆息する。
(とりあえずこれからあいつのコードネームを『ドラゴンドゥーマ』とします。そして融合後のユウさんは『エクスブレイザー』とします。こちらでも極力サポートしますから、奴を撃破してください。勝利の栄光を君に!)
ルティシアの語りに思わずユウはさらに脱力する。初陣で、かつ相手が見るからに凶悪だというのにこの体たらくである。だが、もしかしたら彼女なりに初陣の自分を気遣ってくれているのかもしれない……そう考えることで、二人への呆れとか怒りなどがない交ぜになった複雑な感情を噛み殺しつつ、ユウはドラゴンドゥーマへと相対する。むしろ、このどこかしまらない感じが良いのかもしれないという気もしてくる。
(撃破って……なにか勇者ロボだっていうなら何か武器はないの?)
(無い)
エクスの回答はにべもない。
(うおおおおおおおおお!勇者ロボなのか特撮なのか結局どっちなんじゃーい!!場合によっちゃあ俺はトランスフォー〇ーじゃねえの!?)
そんなブチ切れるエクスブレイザーの眼前でドラゴンドゥーマは身体を振る。回転する身体に連動して長大な尻尾が鞭のようにしなりエクスブレイザーに襲い掛かる。
(うわっ!)
驚いたエクスブレイザーは思わず後方へと飛び退る。
(ってうわぁぁぁぁ!?)
反射的に全力で跳んだが、想定よりもはるかに高く後方へと飛び退ってしまい、その勢いにユウは思わず驚く。一体自身の身長の何倍飛んだであろうか。
(なるほど……これだけの身体能力があれば……やれるのか?)
着地をしながら自身の現状を把握し、ユウは冷静になる。
(言っただろう、私と君ならばやれると。行くぞ)
(おうっ!)
ユウは気合を入れて応じる。そしてエクスブレイザーは構えをとり、ドラゴンと対峙する。
(さあて、ここからが戦いの始まりだ!)
「え?なんなの?アレでどうしろっていうの!?つーかなに?アレで死んだ俺に対する嫌がらせ!?」
(まあまあ、落ち着いてください。すぐに答えはわかりますから。ね、エクスさん)
(その通りだ)
ルティシアとエクスがわかり合っていることに疎外感からくる苛立ちが一瞬湧き上がる。直後、剣に仕込まれている発光ギミックが光だし、けたたましい効果音が鳴り響いたため、ユウの負の感情も一瞬で吹き飛ばされる。
(ユウ。再びトリガーを押してくれ)
冷静なエクスの言葉に促されるまま、ユウは改めて剣のトリガーを押し込む。
『エクス・フュージョン!』
直後、剣が音声を発し、さらに強い光を発する。想定外の音声にユウは一瞬身体を強張らせる。
(さあユウさん、トラックの方を見てください!)
しかし、そんなユウに構わずルティシアはユウに促す。ユウはルティシアの声に誘導されるがままに視線をトラックへ移す。
(――――!?)
直後、トラックはまばゆい光を発し、空中へと飛び出す。さらに変形をはじめ、巨大な日本の腕と脚、そして頭部が形成される。
「ロ、ロボットに変形したぁ!?」
驚くユウにロボットは近づいてくる。ロボットをよく観察してみると、どことなく前世で見たエクスの姿に似ているように思われた。ロボットの胸部には某特撮ヒーローの胸についているようなクリスタル状のパーツが存在していおり、そしてそのクリスタルからユウに向けて光線が発せられた。
「はい?」
ユウが驚いたのも束の間、彼の身体は宙に浮き、そのままクリスタルの方へと引き寄せられる。
「うおおおおおおおおおっ!?」
ユウ思わずは悲鳴を上げるが、そんなことはお構いなしにぐんぐんと吸い寄せられた彼の身体がクリスタルへと触れる。それと同時に、彼はクリスタルの中へと吸い込まれていく。その瞬間、ユウは自身の意識が一瞬遠のいていくのを感じた。
『エクスブレイザー!フリーランサー!!』
直後、先ほどの変身ツールのものと同じ音声が鳴り響き、ユウは失いかけた意識が一瞬にして戻るのを感じた。直後、手を伸ばして直立するような姿勢を取っている自身が空中へと勢いよくとびだしていることに気づく。その姿はまるで某特撮ヒーローの変身後のぐんぐんカットのようである。そして、その後重力に身体は引き寄せられ、地面へと着地する。
(おわっ!?)
直後、自身に発生した異変に気が付き、驚いたユウは素っ頓狂な声を上げる。自身の目線がやけに高い。先ほどまで自身が歩いていた帝都の街並みは、気が付けば市足元に広がっている。
(これは……)
ユウは子供の頃に見た巨大特撮ヒーローものの作品では、主人公が最初に変身した時は大体自身の目線の高さなどに驚いていたことを思い出す。これは自身にも同じようなことが起きたということだろうか?そんなことをぼんやり考えると、それを肯定するエクスの声が響く。
(そうだ。君が考えている通りだ)
(やっぱり……)
(今君は、私と一体化し巨大化している。共に力を合わせて戦えば、あのドゥーマの細胞に侵されたドラゴンを倒すこともできるだろう)
エクスの言葉にユウは自身の興奮が高まっていくのを感じる。
(こちらの世界に来る前から調子狂うような展開ばかりだったけど、やっとこさそれっぽい感じになってきたじゃないか!……特撮だけど)
ユウはエクスの言葉にそう答えて、力を込めて軽く拳を握る。
(……いいぜ、こうなったらとことんやって……)
そして、自身の手を一度見つめる……ところで、違和感に気が付く。
(どうした、ユウ?)
そんなユウの異常を感じとったエクスが声をかける。
(え、いや……これ、なんか違くね?)
そういってユウは視界に映った自身の手を何度も開いたり閉じたりする。その都度、装甲に包まれた内部機構が低くうなるような駆動音を発する。
(これ……)
ユウは当初、巨大特撮ヒーローのような存在に変身して戦うことを想定していた。しかし、現在自身がなっている姿はおそらく……どうみても……
(ロ、ロボだこれー!?)
ガビーン!と効果音が出そうな勢いでユウは叫ぶ。
(おお、セクシーでコマンドーなツッコミですね!)
そんなユウのリアクションにルティシアが乗っかる。
(ちゃうわ!)
(愛に気づいてくれたのかと思ってささやいてあげようと思ったのに~♪)
(作品世界が壊れてしまってるしバランスが崩れてるのにいうとる場合か!)
(大丈夫ですよ、目を閉じていればどこまでも行けますから!)
(ボスケテ……)
ロマンスなやり取りをしてるうちに気力がみるみるそがれていくユウはがっくりと肩を落とす。
(ど、どうしました、ユウさん!?)
ユウのリアクションが想定外だったのか、ルティシアが声をかける。そんな彼女にユウは思わず噛みつく。
(いや、どうしたもこうしたもあるか!?なんで巨大ロボットなんですか!?)
(それには私が答えよう)
ルティシアに吼えるユウをなだめるかのようにエクスが割って入る。
(私は融合した相手の肉体を変質させ、従来の姿になる能力を持っている。本来ならこの能力を用いて君を変身させ、戦闘するための実体を構築しようと思っていた。しかし、そうもいかない事情が出てきた)
(事情?)
(目の前のドラゴンを見ればわかると思うが、ドゥーマ細胞は有機生命体を汚染し、浸食する能力をもっている。それは私の従来の肉体も例外ではない。しかし、これを回避する方法がある。機械などの無機物になることだ)
(え、機械になるって……それじゃあまさか)
(ああ。私自身をエネルギー生命体に変換し、そして機械と融合・変質させ戦闘用のボディを形成する。これによりドゥーマ細胞の汚染を避けつつ戦うことが可能となる。しかし、そのような戦闘体を形成するための質量のある手ごろな物体が見当たらなかったのだ。そこで、君の死体の近くにあったこの乗り物を利用させてもらった)
(ぐぬぬ……もっともらしい理屈がありやがる……)
エクスの回答が思ったより真っ当だったため、ユウは怒りのぶつけ先を失い、一瞬冷静になる。そしてその瞬間にまた、別の事実が心に引っかかりを覚え始める。
(いや、それにしても……これ、俺の死因だったんですけど……。それと融合しろっていうのはちょっとデリカシーが無いような……)
(そうなのか?一応、あの時私の周辺にはもう二つ程トラックが落ちていたのだがそちらが良かっただろうか?ルティシアには止められたのだが)
エクスの言葉にユウは思わず反応する。
(はぁ!?止めたって……なんでですか!?どんなトラックでも俺の死因になった車体よりマシでしょうが!?)
(本当にそう思います?)
ルティシアはユウに問いかける。
(どういうことです?)
(だって、こんな車体ですよ?)
ユウの問いかけに応えてルティシアはイメージ映像をユウの脳内に送り込んでくる。
イメージ上のトラックはコンテナ部分に女性のイラストが描かれており『〇ーニラ バ〇ラ バーニ〇 求人、 〇ーニラ バ〇ラ 高収入』という歌をエンドレスで流している。
(……)
それを見たユウは思わず押し黙る。
(……これじゃなくて良かったでしょう?)
(……はい)
これにはユウも同意せざるを得なかった。
(で……でも、もう一台はもっとマシなのでは?)
それでも納得しきれないユウは、一縷の望みをかけてルティシアに反抗する。
(……ちなみにもう一台はこんな感じです)
再びルティシアはユウの脳内にイメージ映像を送り込む。今度のイメージ内のトラックは、コンテナが黒く塗られていた。その上に白文字で描かれた文句は『尊皇』や『護国』といった物々しいものばかりである。さらに今度の車は軍歌のような勇ましい歌を、これまたエンドレスで流している。
(思想が強い!!)
イメージを視聴させられたユウは、今度は思わず悲鳴を上げる。
(……このトラックが良かったですか?本当に?)
(……)
改めてルティシアに問われ、ユウは再び黙ってしまう。そしてそれから絞り出すように回答を漏らす。
(……このトラックで良いです……)
(わかっていただけましてなによりです)
釈然としないユウは同意しつつもため息を漏らす。そんなユウにエクスは素直な疑問をぶつける。
(何か問題があるのか、ユウ?)
どうやら何がどう悪いのか分かっていないらしい。やはり自分のような人間とはかなり感性が異なっているらしい。
(いや、なんというか感情の問題なんですけど……)
(そうなのか、それは配慮が足りなかった。すまない)
ユウが不快感を感じていることを理解するなり、即座かつ素直に謝罪するエクスに彼が決して悪い人物でないことを改めて認識する。
(あーもう……)
怒りをぶつけることをあきらめたユウは内心でため息を漏らす。
(まあまあ、いいじゃないですか。あの時トラックに轢かれたユウさんは死んだんじゃないんですよ……。きっとトラックと合体することにより生まれ変わったんですよ!)
(そんなドラゴンと車の間で生まれた子供みたいな存在になりてえわけじゃないんだよ!つーか何ちゃっかりあんたもこの展開推してるんだ!異世界転生ものっぽくない要素増えないようにする努力をちったあしろよ!)
しかし、そんな彼の怒りに無神経な女神は再び着火をし、見事に燃え上がらせる。しかし、ルティシアはそんな吹き上がるユウのリアクションを気にも留めず呑気に返す。
(えー?異世界転生って言ったら勇者でしょう?勇者ってそちらの世界でいったら巨大な乗り物が変形する人型ロボットのことですよね?私、勉強しました!)
ルティシアの回答にユウは頭を抱える。
(ふ……)
(ふ……?)
(古いよ!!今時の若者があんまりわからなさそうなネタをバカスカやりやがって……!こんなところまでズレてなくたっていいだろー!?)
徹頭徹尾テンプレ通りな異世界転生的な流れも、お約束な特撮ヒーローものの展開にもならない事態の連続にユウは思わず叫んでしまう。
(えー、そんなにズレてますかね?私的にはまさに『私に良い考えがある!』という感じだったのですが)
(それ勇者とまたちょっと違う奴じゃねぇか!)
ユウは思わずツッコむ。
(何か問題があるのだろうか?)
(さぁ?)
しかし、そんなユウが落ち着くのをルティシアとエクスはのんびり待つだけであった。
(ところでユウ)
頭を抱えたまま一向に立ち直る気配のないユウにエクスは声をかける。
(……ん?あぁごめんごめんどうしました?)
声をかけられて正気に戻ったユウはエクスに反応し、謝罪する。
(敵がこっちに来ている)
――直後、尻にすさまじい勢いの衝撃と熱を感じて、巨大ロボと化したユウは悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。
「デュアァァァァァァッ!?」
(うわああああっちゃあああああああああああ!?)
悲鳴を上げつつ吹き飛ばされながら、ユウは視界の端でドラゴンが熱線を吐いている姿を捉える。心なしか、ドラゴンが今まで無視をしていたことに怒っていたように感じられた。そして、ユウは地面に勢いよく叩きつけられる。地面が轟音を上げ、下敷きになった樹木がユウの体重を受けきれずに飴細工のように崩れ、小さな丘が砂糖菓子のように崩れていく。
(俺、本当に巨大ロボになってるんだな……)
尻に感じる激しい熱さと痛みをどこか他人事のように感じつつ、冷静に自身の現状を受け入れていることに、ユウはどこかで驚きを感じていた。これがエクスと一体化し、人外の存在になったということなのだろうか。
(奴の追撃が来る、応戦を!)
しかし、そんなことを悠長に考えている時間はないことをエクスが伝える。我に返ったユウは勢いよく前方へと飛び跳ねる。直後、ドラゴンがユウの倒れていた空間に噛みつく。ユウはそのまま空中で回転しながら姿勢をと整え、ドラゴンと相対するように着地し、改めてドラゴンを正面から見据える。先ほど、自身を噛もうとした鋭利な牙が不気味な輝きを放っている。もしもアレに嚙まれていたらと想像し、ユウは身震いをする。
(あっぶねー……)
巨大ロボになったとはいえ、ドラゴンの方がまだまだ背は高い。
(あんなバカでかくて狂暴なやつを今から相手にしなくちゃならんのか……)
まるでヒグマに素手で立ち向かえと言われているかのような気分である。だが、ユウにもう迷いはない。
(そうだ。だが、奴はあくまでドゥーマ細胞の一部に寄生された原生生物に過ぎない。ドゥーマ本体と比べたら奴の戦闘力は格段に劣る。私と融合している今の君ならば倒せるはずだ)
(簡単に言ってくれちゃって……)
ユウは嘆息する。
(とりあえずこれからあいつのコードネームを『ドラゴンドゥーマ』とします。そして融合後のユウさんは『エクスブレイザー』とします。こちらでも極力サポートしますから、奴を撃破してください。勝利の栄光を君に!)
ルティシアの語りに思わずユウはさらに脱力する。初陣で、かつ相手が見るからに凶悪だというのにこの体たらくである。だが、もしかしたら彼女なりに初陣の自分を気遣ってくれているのかもしれない……そう考えることで、二人への呆れとか怒りなどがない交ぜになった複雑な感情を噛み殺しつつ、ユウはドラゴンドゥーマへと相対する。むしろ、このどこかしまらない感じが良いのかもしれないという気もしてくる。
(撃破って……なにか勇者ロボだっていうなら何か武器はないの?)
(無い)
エクスの回答はにべもない。
(うおおおおおおおおお!勇者ロボなのか特撮なのか結局どっちなんじゃーい!!場合によっちゃあ俺はトランスフォー〇ーじゃねえの!?)
そんなブチ切れるエクスブレイザーの眼前でドラゴンドゥーマは身体を振る。回転する身体に連動して長大な尻尾が鞭のようにしなりエクスブレイザーに襲い掛かる。
(うわっ!)
驚いたエクスブレイザーは思わず後方へと飛び退る。
(ってうわぁぁぁぁ!?)
反射的に全力で跳んだが、想定よりもはるかに高く後方へと飛び退ってしまい、その勢いにユウは思わず驚く。一体自身の身長の何倍飛んだであろうか。
(なるほど……これだけの身体能力があれば……やれるのか?)
着地をしながら自身の現状を把握し、ユウは冷静になる。
(言っただろう、私と君ならばやれると。行くぞ)
(おうっ!)
ユウは気合を入れて応じる。そしてエクスブレイザーは構えをとり、ドラゴンと対峙する。
(さあて、ここからが戦いの始まりだ!)
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
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ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
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【完結】先だった妻と再び巡り逢うために、異世界で第二の人生を幸せに過ごしたいと思います
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独自世界のゆるふわ設定です。
誤字脱字は再掲載時にチェックしていますけど、出てくるかもしれません、すみません。
毎日0時にアップしていきます。
タグに情報入れすぎで、逆に検索に引っかからないパターンなのでは?と思いつつ、ガッツリ書き込んでます。
よろしくお願いします。
※この話は小説家になろうさんでアップした話を掲載しております。
※なろうさんでは最後までアップしていますけど、こちらではハッピーエンド迄しか掲載しない予定です。
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