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世界の事情・1
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くつろぎ庵ではアルコール類は出さない。元々酒飲みが来る類いの店ではないし、店員が鈴一人しかいなければ何かあった時に対処出来ない。たまに来る壮年から老齢の男達はそのことで愚痴ったりもするが、「お酒を出せるような店じゃないんで」と苦笑する鈴に無理強いはしない。
ただ近所の飲み屋が早い時間から開けるようになって彼等はそちらに流れた。建前上昼日中は出さないと言っているらしいが、実は日がな一日飲んだくれているらしいことは公然の秘密である。
基本的にくつろぎ庵の客は女性が多い。例外は何人かの中高生と、昼食をとりに来る人達くらい。中高生達のお目当ては漫画本で、ある意味実にブックカフェらしい客と言えよう。
そうでない男性はほんの少数、外食の店に入りそびれて流れてきたのだろう。味も量も大したことはないが、安いのでそれなりに利用しているようだ。
この人達は酒を要求したりはしない。飲まないの、と聞かれたことはあるが曖昧に誤魔化した。鈴自身飲めない訳ではないのだが、弱くなってあまり楽しめなくなったのだ。
反面、リンティスの世界では。
「な、なあ。この辛いの、少し売ってもらえないか?」
カークスが菓子皿に盛られた柿ピーを指して言い出すのに鈴は目を瞬かせる。
甘い菓子の一部は追加購入可能だが、柿ピー等あられ、おかきの類はぽりぽりと結構音がするので販売していない。しかし僅かな男性客には結構好評なお菓子であることも承知している。
「……うーん、じゃあ十ポンで一袋で如何ですか」
小袋六つで三百円程なので結構なぼったくりだ。一度につき一つ、と制限をつけてもカークスは買いたがった。その条件で売ってやって後で彼の妻スーに聞いてみたところ、酒飲みの彼はつまみとして柿ピーがとてもいいのでは、と思いついたら居ても立ってもいられなかったらしい。
それは鈴にもわかる。何てこともない家飲みにはとても合わせ易いつまみだ。この世界の酒は鈴も知らないが、あまり手の込んだものがあるようには見えない、多分その辺りにはちょうどいいだろう。
こちらの世界のことはまだ良くわからない。文明の発達度合いは中世くらいか、店を開いたこの場所はこの世界の中でも更に田舎だと言う。
本来なら領主が土地を治めているのだが、この辺りは開拓領と称される。領地貴族の所有地ではなく王国直轄地として開拓中だ。まだ村と言える程の集落もなく、住民の殆どが猟師等であり、一部は未開の土地を調査する仕事を請け負った冒険者達だ。
店に来る中ではカークス達が開拓民、リアンナとその連れが冒険者である。
冒険者は概ね事情があって生国を出た者だ。よほどの犯罪歴が無ければ受け入れられる、言わば救済策。
それは開拓民も同じだ。継ぐべき家が無く、身を立てる手段のない者が望みを託して流れ着く。
当たれば大きい分危険性も高い冒険者程ではなくとも、開拓民もその手の一か八かはある。無事に居留地が形成出来ればいいが、それに至らず消える集落も少なくない。
それでも街道の先にある彼等の開拓村は、どうにか安定しつつあるようだ。カークスやスーだけでなく、他の男達もたまに顔を覗かせるようになって何となくそれを感じる。
彼等の殆どはカークスと同じ猟師で、野山の獣を狩って生計を立てている。その中でようやくこの春から、畑を拡げて麦を増やそうと試みられるようになったという。まだ荒れ地でも育ち易い大麦だが、そのうちこの大陸では一般的な小麦も作れるようになるだろうと語る彼等の顔色は明るい。
ただ近所の飲み屋が早い時間から開けるようになって彼等はそちらに流れた。建前上昼日中は出さないと言っているらしいが、実は日がな一日飲んだくれているらしいことは公然の秘密である。
基本的にくつろぎ庵の客は女性が多い。例外は何人かの中高生と、昼食をとりに来る人達くらい。中高生達のお目当ては漫画本で、ある意味実にブックカフェらしい客と言えよう。
そうでない男性はほんの少数、外食の店に入りそびれて流れてきたのだろう。味も量も大したことはないが、安いのでそれなりに利用しているようだ。
この人達は酒を要求したりはしない。飲まないの、と聞かれたことはあるが曖昧に誤魔化した。鈴自身飲めない訳ではないのだが、弱くなってあまり楽しめなくなったのだ。
反面、リンティスの世界では。
「な、なあ。この辛いの、少し売ってもらえないか?」
カークスが菓子皿に盛られた柿ピーを指して言い出すのに鈴は目を瞬かせる。
甘い菓子の一部は追加購入可能だが、柿ピー等あられ、おかきの類はぽりぽりと結構音がするので販売していない。しかし僅かな男性客には結構好評なお菓子であることも承知している。
「……うーん、じゃあ十ポンで一袋で如何ですか」
小袋六つで三百円程なので結構なぼったくりだ。一度につき一つ、と制限をつけてもカークスは買いたがった。その条件で売ってやって後で彼の妻スーに聞いてみたところ、酒飲みの彼はつまみとして柿ピーがとてもいいのでは、と思いついたら居ても立ってもいられなかったらしい。
それは鈴にもわかる。何てこともない家飲みにはとても合わせ易いつまみだ。この世界の酒は鈴も知らないが、あまり手の込んだものがあるようには見えない、多分その辺りにはちょうどいいだろう。
こちらの世界のことはまだ良くわからない。文明の発達度合いは中世くらいか、店を開いたこの場所はこの世界の中でも更に田舎だと言う。
本来なら領主が土地を治めているのだが、この辺りは開拓領と称される。領地貴族の所有地ではなく王国直轄地として開拓中だ。まだ村と言える程の集落もなく、住民の殆どが猟師等であり、一部は未開の土地を調査する仕事を請け負った冒険者達だ。
店に来る中ではカークス達が開拓民、リアンナとその連れが冒険者である。
冒険者は概ね事情があって生国を出た者だ。よほどの犯罪歴が無ければ受け入れられる、言わば救済策。
それは開拓民も同じだ。継ぐべき家が無く、身を立てる手段のない者が望みを託して流れ着く。
当たれば大きい分危険性も高い冒険者程ではなくとも、開拓民もその手の一か八かはある。無事に居留地が形成出来ればいいが、それに至らず消える集落も少なくない。
それでも街道の先にある彼等の開拓村は、どうにか安定しつつあるようだ。カークスやスーだけでなく、他の男達もたまに顔を覗かせるようになって何となくそれを感じる。
彼等の殆どはカークスと同じ猟師で、野山の獣を狩って生計を立てている。その中でようやくこの春から、畑を拡げて麦を増やそうと試みられるようになったという。まだ荒れ地でも育ち易い大麦だが、そのうちこの大陸では一般的な小麦も作れるようになるだろうと語る彼等の顔色は明るい。
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