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彼の事情・1.5

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基本、来店する客は前にも言った通り街道を行く旅人が多い。だが最近はぽつぽつその街道沿いの住人が訪れることも増えてきた。
そしてやはり、見慣れない品に拒否反応が出るのは圧倒的に男性が多い。女性も不審がりはするものの、匂いを嗅いで美味しそうなら味見してくれるし、食べて美味しければ喜んでくれる。男性の場合は味を認めても、なかなか受け入れ難いのが端からも見てとれる。
リンティスはその点、鈴が出しているメニューや彼女自身が食べているものに興味を示すし、薦めて断られた試しがない。好奇心旺盛、というかいろいろ知らないものを求めているという印象だ。最初のうちはそうでもなかったから、この辺も彼の変化なのだろう。
 「まあ、私の場合はそれが必要でもあるからな。新しい物事を少しでも自分の世界に取り込めなくては、先の見透しが立たない」
 「あら」
 彼には彼なりの事情もあるらしい。
リンティスの世界には多くの神が存在し、それぞれの使徒達を護り導いているという。
 「まあ私はそれほどまめに世話をしてはいないが。面倒だし」
だがそうして導くことで人々の信仰心が高まれば神も力を得る。そのために利用されるのが、世界に満ちる魔力なのだという。
 「他所では、英雄譚とか恋愛劇とか、そういうのを展開して人間の感情を掻き立てるのが流行りだ。それが我々みたいな存在の栄養分になるんだな」
 「……はあ」
 良くわからないながらも頷いて鈴はお茶を淹れる。
 「他の、特に最近東側にいる連中とかはその辺熱心でな。いろいろ続けざまにその手の伝説作りに励んでたんだが……お陰で魔力を浪費し過ぎて、薄れてきたんだ」
 「……それは、大変なことなんじゃ?」
 言ってみれば資源の枯渇、エネルギー危機的な事態ではなかろうか。不安を覚えて問い質す鈴に、お茶を啜りながらリンティスは落ち着いたものだ。
 「元々うちは少ない魔力をやりくりして地味にやってるんで、そこまで影響もないんだが。さすがに格差が広がり過ぎた。彼奴等、ごっそり此方の魔力まで掠め盗ってやがるようだし」
 言って湯飲みを飲み干す。とん、とそれをカウンターに置いてリンティスは鈴を見る。
 「そこで、おまえを呼ぶことにした。外の世界から違うモノを呼び込むことは、世界の魔力循環を盛んにするには効率的だ。……それに鈴の飯は美味いから、うちの連中に食わせてやりたいんだ」
 「……そう言っていただくのは光栄ですけど……私は別に本職じゃないし、出来合いもずいぶん使ってますよ、いいんですか?」
 「構わんよ。向こうの世界、要は『違う』ものを流し込むことで反応を起こさせたいのだから。……それに鈴のご飯は出来合だろうと美味しい」
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