上 下
14 / 19

私のお店・3

しおりを挟む
店は流行っている、と言える程ではないが鈴が一人で食べていける程度には客が入る。
「うーん、景気悪いねえ」
「まあ、新聞に書いてある限りじゃねえ」
新聞の紙面を睨んでしかつめらしく宣う近所のおばちゃんに鈴は苦笑する。
ブックカフェを名乗る以上、本棚いっぱいに本を並べてはいるが概ね鈴の個人的趣味なので、実際にそれらを手に取る人は少ない。マンガの棚を端から浚っていく中高生達がいるくらいで、彼等が来る放課後までは新聞や週刊誌などの雑誌に目を通す人がぽつぽついる程度だ。全国紙三紙と地域で発行される二紙を並べれば、手に取ってくれる人は一定数いる。新聞屋には微妙な顔もされたが、その辺の他の飲食店でも新聞は並べているので、勘弁してもらえた。
雑誌にしても本屋にいい顔はされなかったが、鈴が雑誌以外に毎月書籍をごっそり買い込むので目を瞑ることにしてくれたらしい。ちなみに古本屋も活用するが、巻数をまとめて揃えるには本屋に注文する方が早かった。
そうして経費で本を買える、のが鈴には一番嬉しいかもしれない。何しろ現状書籍購入費が店の維持費では一番比重が大きい。食材は近所にあるJAのグリーンセンターや通販で業務用を購入したりと抑制しているが、本に関しては全く自重していない。元々学生時代から本代だけは惜しまなかった。友人達のようにゲームやアニメにはさほど注ぎ込まなかったが、その分が本に向いた。小説、マンガを問わぬ『本読み』であったのだ。
店内の一画には趣味の本棚があるが、あまり気がつく人はいない。本を手に取る人もマンガや雑誌・新聞以外は話題になったベストセラーくらいが関の山だ。
客層に合わせて話題作や或いは名作の大活字版も置いているが、その辺自分でもお座なり感が否めない。ただリクエストで置いた写真集はそこそこ人気だ。写真集、と言ってもアイドルとか人物写真ではなく、風景や動物の写真が主。これが一定数の人気があって新作を購入すると早速皆で楽しそうに眺めている。
「可愛いわねえ」
「子猫はねー、あーふわふわー」
子猫や子犬の写真集はまず外れない。実際には飼えないけど眺めるのは好き、という層に安定した人気がある。
今も掘り炬燵席で額を寄せ合ってお喋りしている近所のおばあちゃん達は幸せそうだ。
「あらー、とよさん一人なんだし飼えばいいじゃない」
「やあねえ、一人だからこそよー。自分が倒れたら面倒見るのがいないからねー。みやちゃんこそお父さんいるんだから飼えばどうよ」
「自分の面倒自分で見れない亭主が、生き物の世話なんか出来る訳ないわよー」
きゃっきゃとなかなか楽しげだ。声量もかなり大きいが、平日午前中は他に客もないので多少は大目に見てしまう。それに案外にこの手のおばちゃん達は回りの空気を読んでいて、本を読みたい客がいる時はあまり騒がない。全員にそれが出来るとは言わないが、その辺を弁えないのは少数派だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

身分を隠して働いていた貧乏令嬢の職場で、王子もお忍びで働くそうです

安眠にどね
恋愛
 貴族として生まれながらも、実家が傾いてしまったがために身分を隠してカフェでこっそり働くことになった伯爵令嬢のシノリア・コンフィッター。しかし、彼女は一般人として生きた前世の記憶を持つため、平民に紛れて働くことを楽しんでいた。  『リノ』と偽名を使って働いていたシノリアの元へ、新しく雇われたという青年がやってくる。  『シル』と名乗る青年は、どうみても自国の第四王子、ソルヴェート・ステラムルにしか見えない男で……?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

婚約破棄された公爵令嬢のお嬢様がいい人すぎて悪女になれないようなので異世界から来た私が代わりにざまぁしていいですか?

すだもみぢ
ファンタジー
気が付いたら目の前で唐突に起きていた誰かの婚約破棄シーン。 私は誰!?ここはどこ!? どうやら現世で塾講師だった私は異世界に飛ばされて、リリアンヌというメイドの娘の体にのり移ったらしい。 婚約破棄をされていたのは、リリアンヌの乳姉妹のメリュジーヌお嬢様。先妻の娘のお嬢様はこの家では冷遇されているようで。 お嬢様の幼い頃からの婚約者はそんなお嬢様を見捨てて可愛がられている義理の姉の方に乗り換えた模様。 私のすべきことは、この家を破滅に導き、お嬢様の婚約者に復讐し、お嬢様を幸せにすることですね? ※成り上がりストーリーですが、恋愛要素多めです。ざまぁは最後の方です。 ※主人公はあまり性格よくありません。

蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜

二階堂まりい
ファンタジー
 メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ  超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。  同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

ヒビキとクロードの365日

あてきち
ファンタジー
小説『最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?』の主人公『ヒビキ』とその従者『クロード』が地球の365日の記念日についてゆるりと語り合うだけのお話。毎日更新(時間不定)。 本編を知っていることを前提に二人は会話をするので、本編を未読の方はぜひ一度本編へお立ち寄りください。 本編URL(https://www.alphapolis.co.jp/novel/706173588/625075049)

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

処理中です...