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彼女達は王都に向かう

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元侯爵夫人エレーヌはそれなりに優秀だ。結婚前は他家に嫁ぐ令嬢と同程度しか教育を受けていなかったのに、殆ど独学で領地運営をこなしてきたのだから。
もちろん先代からの代官や執事もいたが、彼女は他の貴族に相談を持ちかけたりしながらも何とか侯爵家を維持してきた。
当のハーリット侯爵は国内の状勢に疎いからと社交に励んでいたが、貴族家の令息としては出来がいい方ではなく、他の貴族からは嘲笑されるくらい役にたたなかった。
侯爵家のやりくりは妻に任せっぱなし、『国母の魔女』を冠するこの国で魔女を蔑み、それを他者に咎められるとその場では謝罪しても同じことを繰り返す愚か者。
そう認識されていた侯爵の、実の娘ノリエッタも評判は良くなかった。
見た目は美しいが、見目よい若い男性にばかり愛想を振り撒く。貴族令嬢としての教育が不行き届きで、弁えているべき常識がない、特に他の令嬢のことを貶め、ありもしない悪口を並べるのが問題。注意されれば苛められたと訴え「皆さん嫉妬なさっているのね」と悲しむ反面影で優越感に浸っている、程度の低い悪女だと。
それが比較的早い段階で知れ渡っていたため、彼女の回りに集っていのは実家もあまり利用価値を認めない子息ばかりだった。ただし見た目は良く、実家もそれなりの家柄である。そのため、ノリエッタは自身の影響力を過大評価していた嫌いがある。
「エレーヌ夫人、本当にお世話になった」
フィリシウスは世間知らずで思い込みが激しいところはあるが、頭は悪くない。夫人の指導は基本、エドモンドともう一人の文官相手のものだったが、フィリシウスも必ず参加させられた。その間に、このおとなしやかな夫人が真面目な統治者であることは十分理解できたようだ。侯爵やノリエッタがいうような『身体が弱いのを言い訳にまともに義務を果たさない』人間ではないことも含めて。
しかし一方でノリエッタは与えられた部屋に閉じ籠り、滅多に出て来なかった。世話をする侍女にも難癖をつけ声を荒げてはフィリシウスに言いつける、と怒鳴るので嫌がられている。
だがさすがに今日は夫人とその侍女ニーナが王都へ向かう日、見送りに出るよう言い聞かせて何とか玄関ホールに引っ張り出した。
フィリシウスは彼女の背を宥めるように撫でて義母と実母に向き合わせる。
「ノリエッタ、ご挨拶を」
ここで別れれば二度と再び会うことはないだろう。フィリシウスも含め、彼女等が蟄居を解かれるのはかなり先になる……むしろそんな日が来るのかどうか。母親に二度と会えないのでは、と気遣ったフィリシウスを他所に、ノリエッタはぶすくれたまま彼女等を見やった。到底目上の人間に対する態度ではないが、今更言って直る性格ではない。



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