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末期は何処
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王族は、婚約を誓約の宮で行うことで初めて、その地位を確立させる。それまではいわば未成年者、保護者の監督下にあり行為や判断も制限がかかる。
逆に言えば、その誓約を成立させられなかった者は王族の地位を失う。誓約を成せばそれに伴う加護を得られるのだが、それも無効だ。
「とはいえ、もう何世代もそのような愚か者は出ていなかったのだがなぁ……」
「本当に人の話を聞かない方でしたからねえ」
溜め息を吐く神官長に、マデリーンはおっとりと微笑む。
「私もずいぶんお話させていただいたのですが、聞く耳を持ってくださらなくて。……これは駄目だな、と」
これもスチュワートの思い込みだが、『魔女』は神官の上位職に当たる。どちらも血統でなりやすい職業だが、女性の方が神殿の奇蹟に通じ易く、そうした者を『魔女』と呼ぶ。
スチュワートとの婚約も、些か問題の多い彼を優れた『魔女』のマデリーンに監督させたいという王家の意向あってのことだった。だが彼女としても面倒見きれないと早々に婚約の解消を望んでいた、そこにスチュワートが張り切って「ライラを苛めるとは何事だ、おまえなんかとは婚約破棄だ」とわめいたので、遠慮なく便乗させていただいた、というのが実のところ。
「結局お二方はどうなさったのですか」
「詳しくは存知ませんが、ライラ嬢にスチュワート様が婿入りなさったのでは? 王族の資格を失われたのですし、ライラ嬢もそもそも男爵家の跡取りがおらず引き取られた方ですから」
神官長の問いに返す言葉も冷めたものだ。
「……とはいえ、お二人とも誓約の言葉によれば、互いの愛情はおありのようでしたし。共に暮らされるのならば、よろしいのではございませんの?」
「ははぁ……いや、既に私どもにも関わりない方ですからな」
神官長が思い返すに、あの二人の誓約の言葉は互いに対する愛情というより執着とか我欲だったような気もするのだが。しかしそれで誓約が成立している以上、どうこう口を挟む筋合いでもない。
神官長は内心で、若い二人の先行きと、それ以上に平穏を祈った。
ある意味予想通りに、スチュワートとライラの婚姻はごく初期に破綻した。最初のうちスチュワートはライラを溺愛したが、ライラの方は王族でもない彼なんか何の魅力もないと大荒れ。その態度にスチュワートもキレて二人は大喧嘩を繰り返し、しかし正式な誓約を結んだ彼らは離婚もかなわずだからこそ大もめにもめていたという。
「……あの人たちは、それでいいのでしょうか」
スチュワートの年の離れた弟が疑問を呈するのに、彼の儀式のため王宮を訪ねていたマデリーンは苦笑した。
この第二王子は兄の反省を生かして教育されたのか、落ち着いて思慮深い。早くに決められた婚約者とも仲が良く、早めに誓約を立てることになった。
「あまり、良いわけではないでしょうが。彼らの選んだ道なのですから」
「……何故、そんな道を選んだのでしょう」
「さあ……スチュワート殿は、ちょっと変わった考えの方でしたから。思うところがあったのかも、しれませんわね」
実際には短絡的で思い込みが強かっただけに過ぎないのだが。そしてライラの方も虚栄心ばかりが強く実の伴わない、生涯を共にするには難の多い相手だった。それやこれやの巡り合わせが悪かった、とも言える。
「エリオット殿下は、シュザンヌ嬢と互いにわかり合い助け合っていかれそうですか?」
逆に問えば少年はちょっと考え込む。色彩も顔立ちの造形もどことなく兄に似てはいるがずっと大人しい様子の少年は、考えながらぽつぽつと言葉を継いだ。
「まだ、よくわかりません……でも、そうできたらいい、とは思います」
「でしたら、シュザンヌ嬢とそのことをお話しなさいな。ちゃんと自分の気持ちや考えを話して、相手のそれをも聞いて、そして考えてご覧なさい」
逆に言えば、その誓約を成立させられなかった者は王族の地位を失う。誓約を成せばそれに伴う加護を得られるのだが、それも無効だ。
「とはいえ、もう何世代もそのような愚か者は出ていなかったのだがなぁ……」
「本当に人の話を聞かない方でしたからねえ」
溜め息を吐く神官長に、マデリーンはおっとりと微笑む。
「私もずいぶんお話させていただいたのですが、聞く耳を持ってくださらなくて。……これは駄目だな、と」
これもスチュワートの思い込みだが、『魔女』は神官の上位職に当たる。どちらも血統でなりやすい職業だが、女性の方が神殿の奇蹟に通じ易く、そうした者を『魔女』と呼ぶ。
スチュワートとの婚約も、些か問題の多い彼を優れた『魔女』のマデリーンに監督させたいという王家の意向あってのことだった。だが彼女としても面倒見きれないと早々に婚約の解消を望んでいた、そこにスチュワートが張り切って「ライラを苛めるとは何事だ、おまえなんかとは婚約破棄だ」とわめいたので、遠慮なく便乗させていただいた、というのが実のところ。
「結局お二方はどうなさったのですか」
「詳しくは存知ませんが、ライラ嬢にスチュワート様が婿入りなさったのでは? 王族の資格を失われたのですし、ライラ嬢もそもそも男爵家の跡取りがおらず引き取られた方ですから」
神官長の問いに返す言葉も冷めたものだ。
「……とはいえ、お二人とも誓約の言葉によれば、互いの愛情はおありのようでしたし。共に暮らされるのならば、よろしいのではございませんの?」
「ははぁ……いや、既に私どもにも関わりない方ですからな」
神官長が思い返すに、あの二人の誓約の言葉は互いに対する愛情というより執着とか我欲だったような気もするのだが。しかしそれで誓約が成立している以上、どうこう口を挟む筋合いでもない。
神官長は内心で、若い二人の先行きと、それ以上に平穏を祈った。
ある意味予想通りに、スチュワートとライラの婚姻はごく初期に破綻した。最初のうちスチュワートはライラを溺愛したが、ライラの方は王族でもない彼なんか何の魅力もないと大荒れ。その態度にスチュワートもキレて二人は大喧嘩を繰り返し、しかし正式な誓約を結んだ彼らは離婚もかなわずだからこそ大もめにもめていたという。
「……あの人たちは、それでいいのでしょうか」
スチュワートの年の離れた弟が疑問を呈するのに、彼の儀式のため王宮を訪ねていたマデリーンは苦笑した。
この第二王子は兄の反省を生かして教育されたのか、落ち着いて思慮深い。早くに決められた婚約者とも仲が良く、早めに誓約を立てることになった。
「あまり、良いわけではないでしょうが。彼らの選んだ道なのですから」
「……何故、そんな道を選んだのでしょう」
「さあ……スチュワート殿は、ちょっと変わった考えの方でしたから。思うところがあったのかも、しれませんわね」
実際には短絡的で思い込みが強かっただけに過ぎないのだが。そしてライラの方も虚栄心ばかりが強く実の伴わない、生涯を共にするには難の多い相手だった。それやこれやの巡り合わせが悪かった、とも言える。
「エリオット殿下は、シュザンヌ嬢と互いにわかり合い助け合っていかれそうですか?」
逆に問えば少年はちょっと考え込む。色彩も顔立ちの造形もどことなく兄に似てはいるがずっと大人しい様子の少年は、考えながらぽつぽつと言葉を継いだ。
「まだ、よくわかりません……でも、そうできたらいい、とは思います」
「でしたら、シュザンヌ嬢とそのことをお話しなさいな。ちゃんと自分の気持ちや考えを話して、相手のそれをも聞いて、そして考えてご覧なさい」
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